第11話 作戦
魔法の使い方について、クラレスとルインには大きな差があった。
魔力の活用法である。
炎魔法を例に取ろう。
クラレスが炎魔法を使おうとした時、まず体内にある無色の魔力を炎の色付き魔力に変換する。
そうして出来た炎の魔力を魔法に変換する、つまり油に火を付けるイメージだ。
この発動法の場合、一度炎の魔力に変換してしまえば、それが空気中に溶け出すことはなくなるので余すことなく魔法として使える。
対してルインは、無色の魔力からイメージ力だけで炎を創造するのだ。
油に火を灯すとは対極に、無から火を生み出すのだ。
この場合、魔法を発動させるまでの時間が限りなく短くなるため、混戦に対して有利になるという一面と、無色の魔力が空気中に溶け出してしまうため想像した魔法ほど強くならないというデメリットも兼ね備えている。
……と、言語化することは可能であるが。
「ルインもそうだと思うが、こんなこと意識したことないだろ?」
「誰がそんな面倒くさいこと考えるんですか……なんならまだ、ただのこじつけでは? って疑ってます」
「そういうこと。だからこそ、俺も無色の魔力を使おうなんて考えたところで使えない。とはいえここが初級魔法を使えるかどうかのラインなんだろうなぁ……」
面倒くせぇ……、とだらける頭を珈琲で覚ます。
「まぁ俺のことはいいよ。ルインは炎の魔力を――別に炎じゃなくてもいいけど――生成する練習をしてみてくれ」
「してみてくれ、って……コツとかないんですか?」
「ない。基本技にコツなんて無い」
「そんなぁ……!」
「でも、魔法を使う時のイメージ力でなんとかなると思うぞ。あとは慣れだ」
事実かどうかもわからないことをルインに言って、しかしクラレスの予想に反してやる気になったルインは早速色付き魔力を使う練習を始めた。
それを横目に、クラレスとカールは話し始める。
「それで、ペシャワールが侵攻中って話は本当か?」
数刻前の戦闘中。
ペシャワールに応戦しながら、クラレスは魔力線をカールにつなぎ、念話として情報を伝えていた。
高密度の魔力操作が求められるため使える者は限られるが、カールは現在念話を魔道具化しようと考えているらしい。
ともかく。
「あぁ。とりあえずあの場では一度引いてくれたが、対して遠くもない場所に転移してたから侵攻はやめないと思うな」
カールは実際にペシャワールと交戦したことはない。
しかしその脅威についてはクラレスから聞いていた。
「勝てるのか?」
「……勝てるけど勝てない、ってのが正しい表現だろうな」
従魔の四天王、ペシャワール。
彼自体はかなり強い魔法使い、といったポテンシャルであり、クラレスなら簡単に勝てる相手なのである。しかし彼を従魔の四天王たらしめている理由は他にあった。
「今は何万体の魔物を従えてるか知らないが、少なく見積もっても一万はいるだろ」
「つまり、ペシャワールは今一万の命がある、ってことなんだな」
彼は、自身が従える魔物の命を自分の身代わりに使えるのだ。
死力を尽くして倒しても、そのへんの魔物一体の命を代償に生き返るということである。
別名――不死身のペシャワール。
「ま、一番確実なのはこっちから攻め続けて、いずれなくなる命を刈り取ることなんだが……」
「空間魔法の使い手と持久戦は、したくないなぁ……」
「そうなるわな」
数少ない使い手ゆえに、その脅威は一番知っている。
だからこそこうしてカールを呼び、対策を考えようとしているのだ。
人として、二度も逃がすというのはプライドが傷つけられる。
「しっかし討伐できないってなったらどうしようもないと思うんだけどな」
「そこをなんとか……こう、全世界魔法禁止領域とか、一回死んだら絶対生き返れないとか……」
「そんなんあったらどっかの国が世界征服してるだろうし、なんならクラレスのほうができそうだろ」
さすがに今のは冗談とはいえ、そのレベルのものがないと討伐は不可能だと、クラレスですら判断している。
「となると……封印か? アイツが素直に封印されてくれるとも思えないけど」
「いや、奴は従魔と自分の居場所を入れ替える【固有魔術】を持っている。封印したところで、後から入れ替えられるだけだ」
「はっ……さすが四天王、馬鹿げた能力だ」
固有魔術。
上位魔族にもなると、一般魔法とは別に、一体につき一つの専用魔術が与えられている。ペシャワールの固有魔術は、従魔。魔の者を従え、そして自らの所有物に変える魔法。
「殺しもせず、封印もせず、どこかに閉じ込めろってことか……」
「その上、魔法禁止領域内でな」
「不可能では?」
「いや、一つだけ俺はチャンスがあるのではないかと思っている。あいつは油断しやすい性格なのだ。何があっても従魔と入れ替えられるゆえな」
「油断、か……言い換えれば、最強ゆえの余裕だろうに」
「しかしこれを利用しない手はないだろう?」
「まそりゃそうだが……例えば、人の悲鳴を好む魔族の気質を生かして、みたいなことか」
諦めに近しい声色でそう言い放つカール。
しかしクラレスからの返事が無く前を見ると、カールをぼけっと見つめていた。
「な、なんだよ……」
「いや……そうか、たしかにそれは試す価値があるな……となると」
一人で何かに思い至ったクラレスはブツブツと呟くと、おもちゃを見つけた子供のようにニマーっと笑った。
「カール、お前に一つ作ってほしい魔道具がある」
「はいはい……なんでも作ってやりますよお兄さん」
こういう時のクラレスは実行に移すまで何も話してくれない。
しかし、毎度毎度最高に面白いことも――また、事実なのであった。




