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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第10話 違い

 クラレスの魔法で二人はアスティール大森林に帰ってきた。


「さて、まだ元気はあるか?」


 先程の戦闘により、土で汚れた衣服を脱ぐ。

 突然上裸になったクラレスに、ルインは顔を赤くし、慌ててそっぽを向きながらも、最高峰の魔法の戦いを思い出して興奮する。

 まだ魔法の道を歩み始めて数ヶ月。彼女が魅了されるのには十分であった。


「もちろんですっ! むしろ『本物の魔法』を見せてもらった感じがして、もっと魔法を知りたくなりました!」


「すっかり俺みたいな魔法狂いになったな」


「えぇ……それは」


「おい……っと、そういえばカールを呼ばないといけないんだった。ちょっと待っててくれ」


 ふっ、と空気が切り裂かれる音とともに身体がブレ、瞬き一つすればカールを連れているクラレスがそこにいた。

 あんなにも魔法を見せることを渋っていた姿が、もはや懐かしいものだ。


 当たり前にクラレスが使う、地点間を一瞬で移動する空間転移魔法。

 使用難易度が最高峰というのは有名な話であり、また、現代人間社会において空間魔法の使い手が存在しない。

 そこには困難極まる使用感以外にも、何か他に理由があるとクラレスは踏んでいる。人類で初めて魔法を使用した四人の先人――彼らは皆、魔法を全種扱えたという話を知っていたからだ。


 対する魔族については、この頃初級魔法の使い手が現れ始めているらしい。人類のものと言われていた初級魔法も、その限りではなくなったのだ。

 これに、不信感を示す人類も存在する。

 だが、特に、クラレス自身が忌避感を示していた。


 これは、人魔戦争の前兆ではないのかと……。


「よっ嬢ちゃん。久しいな。元気にやってたか?」


「カールさん! お久しぶりですっ!」


 ルインの通う王立学院では寮生活が強要される。

 敷地内で普段の生活用品は整えることができるため、ルインは外に出ておらず、カールと関わることも無かったらしい。


 早速、三人は亜空間に入る。

 テーブルと椅子を準備し、クラレスとカールはそこに座る。


「すまんなカール。こいつに魔法を教えてやる約束なんだ」


「ほお? 嬢ちゃん魔法の道を進むのか」


 驚いたような顔を見せるカール。そして何かに気付いたように口角を上げる。


「クラレスの魔法に魅せられちゃったかぁー」


「男爵家とて、私も貴族として様々な戦士や魔法使いを見てきました。その上で、クラレスさんの魔法はお強いだけでなく……すごく、綺麗でした」


「……く、くはは! だとよクラレス! ほんと、お前が人間を見捨てない理由が分かってくるなぁ」


 うっせ、と悪態をつくクラレス。

 そしてルインに中級魔法を使うよう指示する。


 授業で習った通りにイメージを固め、式句を詠唱する。

 が、前に突き出した両手からは何も発生しない。


「やっぱりだめ、でした……」


「ふむ……式句に問題はなし。イメージ力も無詠唱初級魔法を見るに申し分ないと判断する」


「おいおい……今年から魔法を学び始めたのだろう? ……こりゃ、とんでもない化け物なのやもしれぬな……」


「ふっ、カールよ。魔法の知識はしっかりとつけているようだな」


「お前の指示なんだから、当たり前だろ」


 魔道具、正式名称は魔法付与式純正道具。

 魔法の知識があればあるほど、当然良き魔道具が作れるというものだ。

 カールは実践のための知識はないが、魔法の真髄に迫る者としては、クラレスに引けを取らない。


 ともかく。

 ルイスには中級魔法を扱うにたる実力がある、とクラレスは判断した。


 となれば……


「ルイン。学院で中級魔法以上を使える者はどの程度いる?」


「それが……」




 ――……椅子に座る二人は、珈琲を一口(あお)る。


「はぁ……」


「クラレス、これがお前が想像していた未来なのだな」


「へ……?」


 なにやら落胆するような意思のこもったため息をつくクラレスと、感嘆しつつ、クラレスと同じく落胆するカール。


 ルインが話した内容……それは、上級生でも中級魔法の使い手がほとんどいない、というものであった。

 現在の王立学院では、初級魔法の練度を向上させる、というのが主軸の教育らしく、中級魔法の取得は容易ではないようだ。


「ルインは、初級魔法は人間が開発したものというのは知っているか?」


「は、はい」


「ならば想像に容易いだろう。初級魔法以下は人間のために使用法が改められた。しかし、中級以上は魔族が使いやすいように開発されているのだ。つまり、用法が根本から異なる可能性がある」


 衝撃を受けるルインと、冷静に言い放ったクラレス。


 これは、クラレスが初級魔法を使えない理由を探っていた時に至った答えの一つであった。

 仕組みが違うのであれば、どれだけ魔法の扱いに長けていようと、それは逆効果的に初級魔法が使えなくなるという話には簡単につながる。


「ルイン。一番得意な魔法はなんだ」


「どの魔法も無詠唱で使えます!」


「素晴らしい。では、炎魔法を例にするか。炎の魔力を練り上げてみろ」


 魔法の練度――つまり火力の高さには、変換効率が求められる。

 真っ白のキャンバスを、どれだけ綺麗に色を塗れるか。

 大胆に魔法を使おうとすればするほど、より緻密な、そして繊細な魔力操作が必要というわけだ。


 なぜか。

 空気中に溶け込む魔力も、体内を巡る魔力も、すべて『無色の魔力』なのだ。

 それに水であったり炎であったり電気であったり……そういった属性を混ぜ込み、魔力に色を与えることで、それを魔法に変換できる。


 だからこその、変換効率なのだ。

 人間が持つ魔力には限りがある。魔族のそれよりも遥かに少ない。

 なのであったら、百の『無色の魔力』で百の『色付き魔力』を生成して、最高の魔法を放たればならない。

 一般に、強い魔法使いと弱い魔法使いの差は、この変換効率が顕著に現れる。

 強くこのことを意識しなければ、一介の魔法使いは百の無色の魔力で一の色付き魔力を創造できない。


 ――というのですら、クラレスの思い違いであった。


「すみません……炎の魔力、というのは何なのでしょうか?」


 冗談ではなく、本気で困惑の色を示すルインに、


 クラレスは目を見開き、楽しそうに口角を引き上げた。

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