藍原様のお屋敷へ
子ぇ・丑・寅・卯ぅ・辰・巳ぃ・・・
『この頃は2時間で一刻だよな… 辰巳って朝の9時くらいか? まぁ勝手に目は覚めるだろうけど、一応アラームを6時にセットしとこう』
と、明日に備えてスマホのアラームをセットする。
電波もWi-Fiも飛んでないが、通信以外のスマホの機能は使える。
挨拶まわりの出張中だった俺のスーツケースには、先述のサバイバルナイフの他にもこの時代ではチートなアイテムがいくつか入っていた。
ソーラーモバイルバッテリー (手回し充電機能付き)もそのうちのひとつだ。
これで充電できるので、今のところはスマホが使えている。
何気にLEDライトが付いているのも地味に便利。
〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜
そして、やはりアラームがなる前に目を覚ました俺は、顔を洗って、歯を磨いて、その他、朝のルーティンをこなしてから、リクルートスタイルで浜辺で石花様を待っていた。
藍原様のお屋敷は村から西へグルっと船で回り込まないと行けない。
石花様が乗ってきた船に乗せてもらって向かう。
船から降りて、さらに二時間ほど歩いた。
道すがら(船の上だが)俺は石花様に質問攻撃をくらわす。
石花様もカウンターばりに俺に質問を投げかけまくる。
「藍原のお殿様も本間様ですか?」俺。
「藍原様は本間を名乗っとらん。藍原様の上が河原田の本間様じゃ」石花様。
『おお! 河原田本間氏だ』
「おぬしの元おったところのお殿様はどなたじゃ?」石花様。
「天皇陛下はおられますが、お殿様はいない世界でした。河原田の本間様のさらに上のお殿様はおられますか?」俺。
「いや、河原田の本間様と雑太の本間様で惣領家を争っておるので、上はないのぉ。天皇陛下とは京におわすお上のことか?」石花様。
「お上のことですが、元の世界では京から東京に移られてました。河原田様は羽茂様とも争われてますか?」俺。
「羽茂様とは沢根様の方がきな臭いのう… とうきょうとはどこじゃ?」石花様。
「ぁ、東の京と書いて東京。関東の江戸です。越後のお殿様は長尾為景様ですか?」俺。
「越後は上杉様じゃが、そうじゃのぉ、実権は長尾様じゃな。じゃが、諱は知らんぞ」石花様。
そんなこんなで藍原様のお屋敷へとやってきました。
〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜
藍原様邸
「こちらで待つように」
と、石花様は俺を庭先へ連れて行き、自分は屋敷に入って行った。
俺は庭で立ったまま待っていた。
しばらくして縁側の廊下を石花様と後二人、いかにも悪代官と家来のようなお侍さんがやってきた。
俺はまた例のように名刺を渡そうと、その悪代官顔に近づこうとすると、悪代官顔の側にいた家来然とした三十がらみのお侍さんが、
「ひかえよ!」
と腰の刀に手を掛けて威嚇してきた。
家来然としたお侍さんが刀を抜くよりはやく、俺は名刺入れから名刺を取り出して差し出した。
「何じゃ、それは…」
家来然としたお侍さんは、刀から手を離して、俺の差し出した名刺を受け取った。
「菱田翔吾と申します。500年くらい未来から時をさかのぼって神隠しに遭ってやって来てしまったようです。かなり怪しい者ですが、役に立ちこそすれ害をなすようなことはないと思います」
俺は早口でまくしたてた。
「よいよい、茂三郎、どれ、見せてみろ」
シゲサブローと呼ばれた家来然としたお侍さんは、俺から受け取った名刺をその悪代官顔のお侍さんに渡す。
「これは角の立ったしっかりした紙じゃな。菱田、なんじゃと?」と悪代官顔。
「しょうごです。ひしだしょうごと申します」俺。
「種、何じゃ? まりか…?」悪代官顔。
「こうじです。種麹。神隠しにあう前の世界では種麹屋の後を継ぐ予定でした」俺。
この悪代官顔のお侍さんは見た目はかなり悪代官だが、どうやら結構いい人っぽい。
「頭が高い」とかは言わないで、
「構わんから上がって来い」と気を使って庭から部屋へと通してくれた。
「儂はこのあたりの領主をしとる藍原蔵人じゃ」
この悪代官顔のお侍さんが、来る途中に石花様からきいた藍原様のようだ。
船から降りて藍原様邸に向かう途中に牛がいたよ。
牛だよ、牛!
ガンガン繁殖させねば…




