薩摩屋さんが来た
藍原様邸
「藍原様、これを一口お飲みください」
俺は持ってきた徳利からコップに、チョロチョロっと少しだけ作った清み酒を入れて藍原様に渡した。
中村様もいたので別のコップにもチョロチョロ。
石花様にもチョロチョロ。
そんなに量がないので本当に少しづつ試飲してもらった。
「むっ、これは水のようだが、酒か?!」とゴローザ。
「随分と口あたりがいいのぉ」とクロード。
「ほお〜ぉ、美味い」とトーロク。
「川舟屋さんが持ってきた酒(にごり酒)に、これ(持ってきた灰)を入れて一晩置いたものです。にごり酒に灰を入れておくと、このような透きとおった酒ができます」と俺。
「なんと、灰を入れるのか? 黒くならずに透きとおるとな?」と、クロードが驚いた。
「その昔、あ、ぃゃ、昔と言ってもこれから未来に起こることなのですが、どこやらの造り酒屋で使用人が間違ってだか、何やら逆恨みしてだか、蔵の酒の樽に灰を入れたそうです。そうすると、樽の酒は飲めなくなるどころか、澄んだ酒になっていて、しかも味も良くなったと。その造り酒屋は、以来その製法で造った酒で大儲けをしたとの逸話がございます」
「それはまた…」とゴローザ。
「おぬしは次から次へと、よういろいろやりよるのぉ」とクロード。
「もうないのか?」とトーロク。
「俺が実験用にもらった酒で作ったものは、もうこれだけです」と言って、俺は徳利を振ってちゃぷちゃぷいわせてみせた。
「藍原様、中村様殿、佐渡中の酒を集めて、灰を入れて、清み酒を作らせてください。灰を入れる量が少ないと清み切りません。また、入れすぎると味がなくなります。いい塩梅のところをさがして作ってください。作れば作っただけ高値で売れるでしょう」
俺は、くれぐれも作り方は極秘でと言って清み酒作りも丸投げしてきた。
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次に米俵を持って来たのは越後の薩摩屋さんだった。
「菱田様、お待たせしました」と薩摩屋さん。
「値は付きましたか?」と俺。
「ええ、美濃で銀鉱石二十貫で米俵一俵、堅田まで持って行ったら銀鉱石十貫で米俵一俵てとこですな」と薩摩屋さん。
「それで薩摩屋さんの儲けはでますか?」と俺。
「いや、うちは儲けどがえしです」と薩摩屋さん。
「それでは商売あがったりですね。薩摩屋さんにもちゃんと儲けてもらわないと。半分で考えておきましょう」と俺。
「はは、菱田様はやはりえらい面白い、いや、聡い方ですな。それで、もう少し持って周りまして、京ではどうにもダメですから…」と薩摩屋さんが言ったのを、
「京はダメですか?」と俺が聞いた。
「ええ、京はどうにもダメです。お公家方も食うや食わずの有様で、商人もあちこちに店を出してるところはしのげてますが、京だけで構えてられるところは厳しいですね」と薩摩屋さん。
「川舟屋さんもおんなじようなことを仰ってました」と俺。
「川舟屋さんはいくら付けられましたか?)と薩摩屋さん。
「堺まで行って、銀鉱石十貫で米俵一俵つけてもらって、それで川舟屋さんもちゃんと儲かると仰ってました」と俺。
「うちは京、浪速までで、堺は川舟屋さんの方が強いですから…」と薩摩屋さん。
「そうなんですね」と俺。
「それで、浪速に自分とこで銭を私鋳しているところがありまして、そこであの銀鉱石なら同じ重さの鐚銭と交換すると言われまして、これがそれです」
と、薩摩屋さんはドカッと布袋を置いて中身を見せた。
中には鐚銭が入っていた。
(鐚銭は欠けたり潰れたりした貨幣のことだ)
「お渡ししたのは500匁くらいでしたか?」と俺。
「600はございました。それでこちらが交換してきた鐚銭600匁です」と薩摩屋さん。
「なるほど、、、」
と俺は鐚銭を袋から出して広げると、だいたい半分くらいにわけて、
「半分を薩摩屋さんの手間として、残りのこれで米俵何俵になりますかね?」
と、俺は薩摩屋さんを上目使いに見た。
「びた一文」の「びた」(^^)




