状況把握ターン
時は享禄五年春。
まもなく天文に改元しようと言う時ですが、ベベン!
ま、もちろんこの時の俺はまだ、そんなこと知らなかったわけだが…
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芳吉宅
「おぅ、ヨシキチ、おるか〜? ちょいと客ばぁ連れてきた」
「なんねぇ、ジロべー、お客だぁ? めずらしかね」
芳吉さんは次郎兵衛さんに連れられてきた俺を見て、
「ど、どこぞの若様でございますか?」
と、かなり動揺した様子だった。
「ぁ、ぃゃいや、俺はこういう者で…」
俺はまたスーツの内ポケットから名刺入れをとり出し、芳吉さんに名刺を渡しながら、
「菱田翔吾です。どうやら神隠しの類のようなもので、先ほどそこの浜辺に急に転移してきたところです」
と、俺は今の自分の状況の説明を神隠しに依存した。
「ありゃまぁ、こりゃタマゲタ! 神隠しっちゃねぇ、どこから来んなさった? お武家さんかね?」
「いや、菱田という苗字は持っておりますが武士ではありません。全国で種麹を商っております、いや、商おうとしておりましたが、突然の神隠しで、今はただの彷徨い人です」
「ほんね、そうね、そりゃ難儀なこっちゃねぇ」
俺はジロべーさんと一緒にヨシキチさんの家に上がらせてもらって、二人にイロイロ話をきいた。
「今は何じゃったかな… 何年か前にかわったじゃけんど、キョウリョウじゃかキョウリューじゃか」
うんぬん
「わしが子供の頃に、越後の方から本間様じゃない殿様が来やって、また帰って行きやった」
かんぬん
「それからは本間様どおしの小競り合いばっかりしちょろうだちゃ」
とか
なんとか
『キョウリョウという元号はわからないけど、子供の頃、越後から殿様がきて帰って行ったってことは、あれかな、長尾為景が一度、佐渡に逃れて、その後本間氏の力を借りて越後に攻めこんでってやつかな… それとも花の慶次でおなじみの上杉景勝が佐渡侵攻してきたってやつかな… まだ本間氏どおしで小競り合いしてるってことは、為景説が有力だよな…』
俺は思いたってきいてみた。
「この辺は銀が有名ですか?」
「そうだね~、海べりにグルっと渡った先らへんで砂金がとれよるってきいたことはあるけんどね」
『う〜ん… これは西三川の方の砂金のことかな… もし鶴子銀山がもう見つかっていたら、砂金より銀のことを言うはずだよな…』
佐渡といえば金山で有名だけど、実は金山は江戸時代以降だ。
砂金はずっと採れていたが、戦国時代真っ盛りのときに銀が見つかって、しばらくは銀が主役だった時代がある。
えっ? なんでそんなこと知ってるかって?
それは、俺がラノベ読者だからだ(o( ̄^ ̄)oエッヘン)
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ジロべーさんとヨシキチさんのこの村は、夫婦ものの世帯が9軒、子供わんさか。お年寄り少なめ。後家さん世帯が7軒もあり、その内の3軒は10代のまぁまぁ働ける子供がいるが、4軒はまだ小さい子供を抱えていて、なんやかや村ぐるみで助けあってるみたいな村だった。
俺はその後家さんのうちの、おはまさんとおていさんの家に泊めてもらいながら、村の働き手として受け入れてもらうことができた。
亡くなったおはまさんとおていさんの旦那さんは、元、村の名主と言うのか肝煎と言うのか、まぁ村のまとめ役のような立場だったということだ。
普通ならこんな怪しい彷徨い人は思いっきり警戒されそうなもんだが、変わってはいるが小ぎれいな身なりと、この時代にしてはデカい図体、それに何より、俺が持ったまま逆行転移してきた荷物の物珍しさに、村のみんなは警戒心よりも好奇心の方が勝ったようだ。
ここは佐渡の北側の真ん中からちょっと西あたりの海岸沿いの村で、まわりの村もおんなじような規模の村だそうだ。
村と村との間は断崖絶壁で阻まれており、行き来するのは船でだそうだ。
『そう言えば佐渡ってたらい船があったなぁ… 村の船は、まぁ全部ボロボロではあるが、たらいよりは安定してそうな気もする』
その海岸沿いの飛び飛びの村を治めているのが石花の本間様だと言うことだ。
そうして俺は、とっととこの不慮の事故で逆行転移てのを受け入れて、ここでの生活を始めようとするのであった。
ジロべーさんとヨシキチさんは俺が渡した名刺を結構大事に飾ってくれていたりする。




