005 - かるとしゅうきょう? -
005 - かるとしゅうきょう? -
食事が終わった後、誠君や斗織さんは先に客間に戻り、僕は父親・・・当主様に話があると言われて別室に向かっている。
長くて薄暗い廊下の先に当主様の自室があるそうだ、僕の横では桜陵さんが手を引いてくれていて後ろからは押翼さんが無言でついて来ていてる。
かたんっ・・・
「入りなさい」
障子を開ける音がして当主様が僕に入れと言う、この時点で僕の目は前より更に良く見えるようになっている。
「失礼します?」
僕はお部屋の中に入り用意されていた座布団に座った。
「さて、何から話そうか・・・」
当主様が僕に牛鬼家についての歴史を語り始める、それによると僕の祖先は遠く離れた故郷を出て江戸時代初期にこの村がある場所に流れ着いたらしい。
何も無かった荒地の開拓は困難を極め、度重なる自然災害で共に旅をして来た一族の多くが命を失った・・・近隣の村や町との諍いもあり、次第にこの鬼牛村は地図から消え忘れられた存在になる。
「だが年号が昭和に変わる頃になると村の外に出る者も増えた、今は得体の知れぬ隠れ里ではなく正式に日本国内に存在する市町村の一つとして登録されておるぞ」
それから当主様は僕の母親についても話してくれた、お母さんは元々この村の近くに登山でやって来たようだ、運悪く遭難して死にかけていたところを村人に救われ当主様と恋に落ちた・・・。
「だが都会育ちの瑠花にとって娯楽の何も無いこの村は退屈過ぎたようでな・・・心を病み突然居なくなってしまったのだ」
「・・・」
「この村の血を受け継ぐ者が村の外・・・邪魔神様の守護が及ばぬ土地で長く生活しておると体調を崩すのだ、身体の一部が麻痺したり死んでしまう者も出た」
またスピリチュアルな事を言い始めたよ!。
「昴・・・儂はお前の目が見えぬのも村から離れた事が原因だと思っておる」
「え・・・でもお医者様の話だと・・・」
当主様が僕の言葉を最後まで聞かずに立ち上がりお部屋の奥から何かを持って来た。
「動くなよ」
何か光るものを僕の顔に近付けた・・・ちょっと待って!。
ぽおっ・・・
・・・
緑色の光が明るくなると同時に僕の目が見えるようになった・・・。
まだ少しぼやけていてお部屋の隅のものはよく見えないけど今までの状態と比べると目の前の曇りガラスが一枚取り除かれたみたいによく見える。
「どうだ、儂の顔が見えるか?」
そう言って僕の目の前で微笑む当主様、いかついお顔だけど優しそうな笑顔だ。
「・・・はい、まだ遠くの方はぼやけていますが、近くのものははっきり見えます」
ぽろぽろ・・・
思わず溢れてしまった涙を見て当主様が僕の頭を撫でる。
「これは邪魔神様の祠からお分け頂いた御神水晶と言う、巾着袋に入れておくから今後は肌身離さず持っておくようにの」
「御神水晶・・・」
「そうじゃ、この村の者は皆、邪魔神様に守られておる、雨が小降りになればこの屋敷の裏手にある邪魔神大明神へお礼参りに行くといい」
「・・・はい」
胡散臭い話だけど僕の目が見えるようになったのは確かだかし行かない理由は無いかな。
そう思いつつ、当主様のお部屋を見渡すと座卓に月刊ムゥが置いてあった、超常現象やオカルト、陰謀論を主に扱う怪しい雑誌だ・・・。
「・・・」
「旦那様の趣味です、この山奥だと1週間遅れになるのですがムゥの発売日を毎月楽しみにされているのですよ(ニコッ)」
本棚にずらりと並ぶムゥをガン見している僕に桜陵さんが言った、何故僕がこの雑誌を知っているのかといえば叔父さんが購読していたからだ。
少し時間が経ち、お部屋全体がはっきり見えるようになった、座卓や本棚のある当主様の自室・・・6畳の和室なのだけど一番奥に凄く目を引く立派な祭壇がある。
蝋燭や線香、謎の鈴、お札がたくさん貼っていて・・・まるで怪しいカルト宗教だ。
僕の表情を見て察したのか当主様が言った。
「儂は邪魔神様を深く信仰しておるが昴に強要するような事はせぬから安心せよ」
その後も僕は当主様と色々な事を話した、叔父さんに保護されてからの生活や学校での事・・・学校で広められた理不尽な噂の話になると当主様の顔が怒りで歪んだ。
「なんと・・・昴をそのような噂で貶めるとは・・・許せぬな」
こめかみに青筋を浮かべて押翼さんを見る・・・彼は頷いて「手配致します」と答えたけどちょっと待って!、何を手配するの?。
「学校の件は先生と相談して1年間留年させて貰おうと思っているので!」
「手配」の意味が不穏過ぎたから僕は慌てて当主様に言った。
「そうか、昴は優しい子だのぅ」
話しているうちに夜も遅くなって来たからお風呂に入って休む事になった。
このお屋敷には広い浴場があって少し離れた場所から温泉を引いて来ているらしい。
「斗織さんや誠君を待たせちゃったかな、誘ってお風呂に入ろう・・・」
僕が桜陵さんと一緒に客間に戻るとなんだか大変な事になっていた。
お部屋の中には怯える斗織さんとそれを眺める誠君、秋間さんという誠君を案内していた美少女メイドさん・・・他には男の人とお医者様っぽい白衣を着た20代後半くらいの女性・・・。
「何かあったの?」
僕は誠君に尋ねる。
「斗織の奴が猫に襲われたらしくてな、錯乱してるから医者を呼んでもらった」
誠君は白杖も持たずに部屋に入ってきた僕に驚いていた、あまりスピリチュアルな事は言いたくなかったから先程当主様の部屋で起きた事を適当に省略して伝えた。
「すげぇな・・・」
誠君は大雑把・・・細かな事は気にしない性格だから不審がられる事もなく納得してくれた。
「長い距離を移動して疲れが溜まっているのかもしれないわね、よく眠れるお薬を飲ませておいたから明日には少し落ち着くでしょう」
白衣の女性は村唯一のお医者様で浦霧さんというらしい。
「蒼ちゃん、夜遅くに呼び出してごめんね」
桜陵さんが浦霧さんに声をかける、なんでも2人は同い年で親友なのだとか。
「気にしないで、お仕事だしここの当主様からはそれなりに良い報酬を貰っているから」
浦霧さんが僕の方に目を向ける・・・挨拶した方がいいのかな?。
「あら、あなたが噂の牛鬼家のお嬢様ね、私はこの村で診療所を開いている浦霧蒼よ、宜しくね」
ちょっと待って・・・噂って何?
「よろしくです・・・あの、噂って?」
僕は気になり過ぎたので思わず聞いてしまった。
「もう村中ですごい話題になっているわ、今の当主様の代で途絶えるかと思われてた牛鬼の後継が遂に見つかったーって、雨がこんなに降っていなければ今夜は屋台が出て村を挙げてのお祭りになっていたでしょうね」
雨が降ってて良かった・・・僕は心の底からそう思った。
「昴が見つかったのってそんなにすげー事なのか?」
誠君の呟きに浦霧さんが答えた。
「そりゃそうよ、最高権力者として昔から村を纏めていた牛鬼家、それが絶えちゃうと2番手や3番手の家が権力を手に入れようと壮絶な争いが起きるわ、悪くすれば血を見るでしょうね」
浦霧さんがとてつもなく物騒な事を言い出したので僕は聞かなかった事にした。
・・・
かぽーん
・・・
「ふぅ、気持ちいい・・・疲れてたから余計に沁みるなぁ」
あの後僕は桜陵さんの勧めでお屋敷の温泉に浸かってる、ここはちょっとした銭湯くらいの大きさがあって男女も別になっている。
当主様はもちろんお屋敷で働く使用人の人達、それから有料になるけど事前に予約すれば村の人も自由に入っていいらしい。
一緒に案内されたから今頃は誠君も男湯に入っているだろう、斗織さんはお薬が効いてきたようでぐっすり眠っている。
それにしても目が見えるのは本当に素晴らしい、初めての場所でも怖くないし手探りで熱いものや危ないものにうっかり触れないよう注意しなくて済むから気が楽だ。
でもまだ視界の鮮明さに脳の処理が追いついていないようで頭痛や立ちくらみがする。
からからっ
入口の引き戸が開いて誰か入ってきた。
「お嬢様、お背中を流しましょう」
「戸内さん・・・」
僕と斗織さんを担当してくれている戸内さんが笑顔で近付いてきた。
「お嬢様呼びはまだ慣れてないから照れるなぁ」
「でもお嬢様はお嬢様です、どうぞこちらにお座りくださいませっ」
僕は立ち上がり洗い場に嵌め込まれている鏡の前に座った。
「では始めさせていただきますねー」
ざぱぁ・・・
ごしごし・・・
わしゃわしゃ
ざぱぱぁ
僕は何気なく鏡に映る戸内さんの身体を見た。
僕よりは大きいものの十分に慎ましやかな胸、その中央をお腹まで一直線に走る大きな傷跡。
これは聞いちゃいけないやつかも・・・
そう思った僕は傷には触れず黙って洗われる事にした。
「うーん」
「な・・・何?」
洗い終わって戸内さんと湯船に浸かっているとチラチラ僕を見ながら首を傾げている。
「お嬢様はまだ成長の余地を残しておりますので・・・」
「いや成長の余地って何?、もしかして僕の胸の事?」
「あ、失礼しましたぁ、ついうっかり思った事が言葉に」
「べ・・・別に小さいのは気にして無いからいいけど、それに戸内さんも人のこと言えるような大きさじゃないよね!」
「確かにそうでございましたぁー」
「ふふっ」
今の会話で戸内さんとの距離が縮まったような気がする、仲良くなれるといいな・・・。
「旦那様が明日には雨が小降りになるとおっしゃっていましたので朝食の後、邪魔神大明神までお散歩いたしましょうか」
「まだこんなに降ってるのに?」
今も外から雨音が盛大に聞こえてるのに戸内さんは自信満々に断言する。
「旦那様が邪魔神様に明日の午前中は雨を降らせないようにと祈祷を行なっておられましたので!」
「わぁ・・・」
「まぁ、この土地は一年の大半が雨でございますので快晴にはなりませんが、普通にお散歩できるくらいの雨ですよ」
読んでいただきありがとうございます。
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