第14話 大人の女を舐めるなよ
エリシアたちの村から帰宅し、数日が経った。
冒険者ギルドの貸し会議室の一室にて、俺たちはヴァイオレットが来るのを待つ。
諸々の手続きが終わり、今日は今回の仕事の報酬が支払われる日。この日が待ち遠しくて、昨日から全然眠れていない。
「500億ゴールド!! 500億ゴールド!! へへっ、うへへへ、何に使おうかなぁ!」
無限に妄想が広がって、ヨダレが止まらなかった。
500億ゴールドなんてバカみたいな金額、〈竜の宿り木〉にいた頃でももらったことがない。
これだけ一括で入るなら、せっかくだし貯金ってやつをやってみようかな……?
うん、そうしよう!
俺もそろそろ、老後のことを考えなくちゃいけない年齢だし!
「よーし、みんな集まっているな!」
バン、と扉を開いたヴァイオレット。
普段よりも圧倒的な上機嫌な彼女だが……あれ、おかしいな?
「おいヴァイオレット、金はどうした。手ぶらじゃないか」
「金額を考えろ、手で持って運べるわけがないだろうが。銀行で換金可能な小切手として受け取っているから、今からそれを渡すぞ」
「あぁ、そういうことか!」
はぁー、心配して損した。
俺の500億ゴールドを、どっかで落として来たのかと思ったぜ。
「では、まずレイデン殿。こちらが今回の仕事の報酬だ」
「はい! ありがとうございます!」
深々と頭を下げながら、小切手を受け取った。
「次、エリシア!」
「はーい!」
さーてさてさて、ご対面っと!
「次、ゼラ!」
「んっ!」
……え? あれ?
「そしてこれが、ワタシの分。いやまったく、すごい金額――」
「ヴァイオレット……お、おかしくないか?」
「ん? 何がだ?」
「いやだって、これ見てくれよ! 俺の小切手!」
と、受け取った紙を見せつけた。
それでも彼女は違和感に気づかないようで、「何か問題でも?」と首を傾げる。
「明らかに足りないだろ!? 500億ゴールドだって、500億!! でもここには、350億ゴールドって書いてあるじゃねえか!?」
「当たり前だろ。一体何を言っているんだ、あなたは」
「だ、だって、クロウの父親が500億払うって……!」
「それはあくまで、〈白雪花〉に対して、という話だ。〈白雪花〉が500億を受け取り、その70%の350億をレイデン殿が、残りは我々が平等に分ける。レイデン殿が言っているのは、クロウに一方的に吹っ掛けた話だろう?」
「そ、そんな……!? くそっ……俺、ちょっとあのクソガキ揺すってくる!!」
「やめてくれ!! ここまで払わせておいてそんなことをしたら、レイデン殿でも裁判沙汰になるぞ!?」
全力で腕に抱き着き、阻止してきたヴァイオレット。
あのクソガキ……今回はこいつのおっぱいの感触に免じて許してやるが、次顔見た時は覚えてろよ。ポコチンの毛までむしって金に換えてやる。
「元々クロウから、500億なんて大金はとれっこなかったんだ。それが350億ゴールドになっただけでもいいじゃないか」
ヴァイオレットの言い分はもっともだ。
正論だ。理解はできる。
……でも、500億丸々もらえると思っていたため、150億損した気がしてしまう。
あー、くそー!
そういう話なら、最初に言ってくれよー!
「じゃあ……あたしの取り分から、ちょっと分けてあげようか?」
「え、マジで!? いいの!?」
うな垂れる俺を見下ろし、ニッコリと笑うエリシア。
め、女神様が降臨なさったぞ!!
「エリシア、何を言っているんだ! ダメに決まってるだろ!」
「えー? でもレイデンさん、何か落ち込んでるし……」
「うんうん! 俺、ちょー落ち込んでる! 金くれないと立ち直れない!」
ゴンッ、とヴァイオレットが頭にゲンコツを入れてきた。
痛い。ちょっと泣きそう。
「ダメだダメだ!! 大金を受け取ったからといって、お金を粗末に扱うな!! レイデン殿に渡したところで、どうせロクな使い方はしないんだからな!!」
「か、勝手に決めつけるなよ! 俺だってなぁ――」
「何だ。何に使うのか言ってみろ」
「……チェルシーちゃん、とか? あっ、もういっそ娼館のオーナーになろう! オーナーなら、タダでヤリまくり勝ちまくりじゃん! 俺って天才か!?」
「死ね」
「酷くない!? 仲間にそれは酷くない!?」
女神様なら理解してくれるよな、と視線をやった。
だけど彼女は、冷え切った目で俺を見つめていた。
「…………やだ」
「えっ?」
「やっぱやだ! やらしーことに使うならあげない!」
「えーっ!! 何でだよー!!」
一応ゼラに目をやるが……あいつは既に、部屋にいなかった。
新しい武器を買うとか言ってたし、早速買い物に行ったのだろう。
俺が作ってやったやつ、あの吸血鬼に木っ端みじんにされたからなぁ。
「はぁ……まあいいや。明日は久々にチェルシーちゃんのとこ行って、細かいことはそれから考えるか……」
「「…………」」
「……ん?」
「「…………」」
「な、何だよ。まだ文句あるのか?」
「「……べ、別に……」」
俺を黙ったまま睨みつけて、声を揃えて同じことを言うヴァイオレットとエリシア。
訳がわからない二人を放置して、俺は部屋を出た。
◆
ワタシの取り分のいくらかは、クロウの被害に遭った元仲間への支援に当てた。
その手続きが終わり、一旦家に帰ってから諸々の準備をし、ワタシは再び家を出た。
「べ、別にこれは、嫉妬とかではないぞ……! ただワタシは、お金がもったいないなと思って……そ、それだけだからな……!」
ブツブツと独り言を呟きながら、夜道を早足で歩く。
目指すのは、レイデン殿の家。
クロウの救出へ出発してからというもの、色々と忙しく彼とは一度も夜を過ごしていない。
レイデン殿も溜まっていることだろう。だから、娼館へ行くと言い出したに違いない。
「…………ん?」
レイデン殿の家は、中心街の路地裏にある。
狭く薄暗い道を通った先の、こじんまりとした一軒家。Sランク冒険者が住んでいるとは思えないような家の前に、見知ったひとがいた。
「エリシア……?」
「っ!? え、ヴァイオレットさん!?」
扉の前でそわそわとしていたエリシア。
彼女はワタシを見るなり、大きく目を剥いて激しく動揺する。
「こんなところで何をやっているんだ。もう遅い時間だぞっ」
「ヴァイオレットさんこそ、こ、こんなところでどうしたの? ここらへん、お店とかないよ?」
「ワタシは、その……レイデン殿に、用事があって……!」
嘘は言っていない。何も、嘘は……。
しかし、用事というにはあまりにもな内容なため、緊張で背中に汗がにじむ。心臓が爆発しそうなくらい脈打つ。
「ふーん……用事、ねえ……」
「そ、そうだ! パーティーを運営する者として、色々とやるべきことが――」
「えっちなこと、しにきたくせに」
「っ!? な、なななっ! なな、何のことだ!?」
「顔に書いてあるよ。てかヴァイオレットさん、すごくわかりやすいもん。レイデンさんといいことした次の日、ちょーツヤツヤしてるし……!」
まさかバレているとは思わず、顔が溶けそうなくらい熱くなった。
というか……まさか、ゼラにもバレているのか!? 嘘だろ……!?
「〈白雪花〉のためにしてくれてるんでしょ? それはわかってるよ」
「えっ? ……あ、あぁそうだ! ワタシはこのパーティーのことを思ってだなぁ! べ、別に、自分がシたいからシしているわけじゃないぞ! むしろ、全然嫌だしっ!」
「うんうん。だから、今日から代わってあげる」
「…………ん?」
代わって、あげる……?
モジモジと内股を擦りながら、視線を泳がせながら、エリシアは綴る。その姿は、同性から見ても可愛らしく艶っぽい。
「ヴァイオレットさんのためとか、そういうのじゃないよ! あたしはあたしのために……こ、ここにいるの! レイデンさんとシたいから、ここにいるんだよ! だから、心配とか大丈夫だから!」
頬を染めながら、ドンと胸を張り……。
真っすぐな瞳で、ワタシを見つめた。淀みのない、綺麗な瞳で。
「ヴァイオレットさんは帰っていいよ。これからは、あたしに任せてね!」
帰っていい? 任せて……?
何がどうしてこうなった!?
訳のわからない状況に、この役割から解放されそうな危機感に、体温が下がった。
だ、だって、ワタシ……レイデン殿のこと好きだもん!!
本当は好きだもん!!
全然ノリノリで抱かれてるもん!!
でもそんなこと、言えるわけがない。
ワタシのプライドが許さない。あんなクズのことが好きとか、口が裂けても言えない。絶対にイメージが崩れる……!
どうする、どうすればいい。
この状況を乗り切る手段が、きっとあるはず。
――……はっ!?
こ、これだ!!
「エリシアは、何もわかっていないな」
「……どういうこと?」
「これは、レイデン殿をパーティーに繋ぎ止めるための重要な仕事だ。ただ抱かれるのではなく、彼を完璧に満足させなければならない。……そのためには、こういう屈辱にすら耐えなければならない」
真面目な声音でいいながら、コートの前を開いた。
それを見たエリシアは、カッと目を見開く。
「スケスケの、下着……!!」
「そうだ」
「しかも、コートの上から!? 直で……!?」
「そうだ! こういうのも興奮するかなという、ワタシなりの配慮だ! どうだ、参ったか!」
勝ったな、これは。
ふはは、大人の女を舐めるなよ。
「あ、あたしだって……! 一応、が、頑張ってみたし……!」
羞恥に震えながら、おずおずとスカートをたくし上げた。
そこにあったものに、ワタシは唾を飲んで驚愕する。
◆
「誰だよ、うるせぇな……」
チェルシーちゃんの店を予約し、寝不足だった俺は早々に床についた。
そろそろ眠れそうだな、という具合になったところで、やけに家の外が騒がしく眼が冴える。苛立ちたっぷりに息をついて、怒鳴りつけてやろうと玄関の扉を開く。
「おい、こっちは今寝ようと――」
と言いかけて、続く言葉を飲み込む。
「穴あき……だと……!? くそ、Sランク級のえっち度だ……!」
「ふふん! すごいでしょ!」
「初めてでそれを選ぶとは、凄まじいポテンシャルの高さ……! まさか、ワタシの負けか!?」
コートをおっぴろげて下着を見せつけるヴァイオレットと、スカートをたくし上げて下着を見せつけるエリシア。
あまりのわけの分からなさに、俺の頭の中は真っ白になった。
大概のことには動じない自信はあるが、今この時ばかりは例外だった。
沈黙の中、ふっと二人がこちらを見た。
二人は下着を見せつけ合ったまま硬直し、次第にその顔は赤く染まってゆく。
「あ、あの、えっと……」
ようやく活動を再開した、俺の脳細胞。
一周回って冷静になり、二人を刺激しないよう優しい声音で言う。
「露出癖は……うん、いいと思う。ゼラには黙っといてやるから、ここじゃないどっかで存分にやってくれ。……じゃ、じゃあな」
「「違う違う違う!! 違うーーー!!!!」」
二人は閉めかけた玄関の扉をこじ開けて、無理やり中に入って来た。
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