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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1抜けたら……

作者: こうじ

 クレイヤ王国の王都に小さなパン屋がある。


 味も評判だが店主が20代の若き青年、しかもイケメンという事でも客の間で話題になっていた。


 礼儀正しく身なりも良い、『もしかしたら貴族なのではないか?』という声もある。


 その声はあながち嘘ではなく店主ジョンは元貴族、しかも公爵家の次男坊だった。


 何故、公爵家の次男がパン屋をやっているのか?


 ジョンが生まれたケートハルト家はクレイヤ王国が立国してから存在している歴史ある公爵家である。


 両親と姉と兄、メイドや執事、使用人等に囲まれてジョンは過ごしてきたがある時から疎外感を感じる様になっていた。


 姉は王太子と婚約しており将来の王妃、兄は次期公爵が約束されており頭脳明晰、成績優秀。


 そんな2人と何かと比べられる事があるジョンは常に『普通』と評価されていた。


 ジョンとて公爵家の一員として家の名に恥をかけない様に勉強や武術を頑張ってきたつもりだ。


 しかし、どんなに努力しても優秀な兄姉には勝てない、2人と比べると周囲はジョンは凡人と評価してしまうのだ。


 そんな評価と戦ってきたジョンだがやはり限界がある。


 いつまで兄姉と比べられて行きていかなければいけないのか、このままでは思考が悪い方へとどんどん陥ってしまう。


 家族仲は悪い訳ではないけどどうも自分だけポツンとなっている様な気がする、この家に必要無いのではないか、というか貴族社会でやっていけるのか。


 このままではマズい!と思ったジョンは15歳で人生の決断をする事にした。


 家から籍を抜いて独立する、そう決めたのだ。


 両親にその事を話すと『何事も挑戦だからやってみなさい』と賛成してくれた。


 反対されるか、と思っていたジョンだったが余りにもあっさりと受け入れたので『やっぱりこの家に居場所は無かったんだな』とちょっと寂しさを感じつつも未練は捨てる事が出来た。


 家を出たジョンがお世話になったのが例のパン屋さんだ。


 このパン屋は元々老夫婦が営んでいて公爵家にもパンを配達している。


 ジョンはここのパンが好きで惚れ込んで老夫婦に頭を下げて住み込みで働く事になった。


 最初は店の清掃、材料の仕入れ等の雑用から始まり徐々にパンの作り方を覚えていった。


 そして5年後に合格を貰いこの店を引き継ぐ事になった。


 努力して手に入れた自分が自分でいられる居場所、ジョンはパン作りに没頭した。


 その間、貴族社会の事などは頭に入れていなかった。


 だから、この5年で実家がとんでもない事になっていたを知らなかった。


 ジョンが実家の現状を知ったのは貴族時代の友人が遊びにやって来て話をしていた時だった。


「そういえば実家のみんなは元気でやってるか?」


「……お前、知らないの?」


「は? 何が?」


「ケートハルト公爵家は取り潰しになったんだよ」


「はぁっ!?」


 余りにも衝撃的な発言にジョンは驚きの声をあげた。


「え、両親は? 姉さんや兄さんはどうなったんだっ!?」


「全員処刑されたよ、良かったな籍を抜いて。 下手したらお前まで処刑されていたぞ」


「処刑っ!?」


 実家が潰れた事さえ衝撃的だったのに一族郎党既にこの世にいなかった。


 頭が混乱する。


「え、処刑という事は何かやらかしたんだよな? 何をやったんだ?」


「始まりは貴族学院の卒業記念パーティーなんだけど、王太子が婚約破棄を宣言したんだよ」


「婚約破棄ぃっ!?」


「当時、平民上がりの男爵令嬢に王太子が唆されちゃってさ、『真実の愛に目覚めた!』とかでお前の姉さんに冤罪被せて断罪しようとしたんだ、で王太子の取り巻きの中にお前の兄さんがいたんだよ」


「兄姉の間で何やってんだよ……、いや元々余り仲は良くなかったけど」


 それだけでも十分醜態を晒していてジョンは頭を抱えていた。


「当然だけど断罪は失敗して王太子は王位継承権を剥奪されて幽閉された。 断罪に参加した奴らも処分を受けた、でその際に公爵家にも捜査が入ったんだけどそこで衝撃的な事実が出てきて取り潰される事になったんだ」


「なんだよ、その衝撃的な事実て……」


 凄く嫌な予感がする、ジョンは背中に嫌な汗をかいていた。


「お前の両親、それぞれ浮気していたんだ。そして、それぞれ子供を作っていた。 それがお前の兄さんと姉さんだ」


「1番最悪なんだけどっ!? なに、そのドロドロ感っ!?」


「正確に言うと公爵と浮気相手の子がお前の兄さん、夫人と浮気相手の子がお前の姉さんだ」


「詳細言ってくれてありがとうっ! 知りたくなかったけどさっ!!」


 本当に知りたくなかった、自分以外は仲は良かったけどまさか両親揃って不倫していたとは。


 ジョンは頭を抱えていた。


「え、じゃあ俺は……?」


「安心しろ、お前は正真正銘公爵夫妻の子だ。 数少ない性行為の時に出来たそうだ」


「それ、喜んでいいのか悪いのか複雑なんだが……、あれ? 確か不倫て極刑だよな」


「あぁ、前国王が不倫されて痛い目にあってそれ以来不倫は厳罰化されている、だから公爵一家全員断頭台行きとなった」


 なんという事だろうか、まぁ自業自得と言えばそれまでだが。


 結果としてジョンは籍を抜いて正解だった、あのまま家にいたら関係無いのに断頭台の餌食になっていた。


「……俺、この道を選んで正解だったわ」


「そうだな、結果的に優秀だった公爵家はいなくなっちまったし」


「人間、やっぱり真面目に生きるのが1番だな」


 その後のジョンは結婚し子供も出来た。


 店も長く続き幸せな日々を過ごした。 

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