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第38話『絶対に負けられない戦前』

「お疲れ様です。どんな感じになっていますか?」


 かれこれ2時間、莉奈(りな)と訓練した後の休憩時間。

 僕だけ移動して場所は変わり、今は受付嬢と別室に。

 互いにソファへ腰を下ろして向き合っている。


「配信サイトには既に連絡済みで、謝罪文と共に録画データが提出されました。そして、それらデータは過去のものまで遡ってあり、到底言い逃れができるものではないようです」

「迅速な対応、ご苦労様です」

「新事実として、他にも仲間が居るようでした。ですが、2人以外の身柄は既に確保済みとなっております」

「あまりにも手が速いですね」

「ええ。お話を伺った当初は、再起不能程度が終着点だと思っていたのですが――内容を確認したところ、そうもいって至られる状況ではなかったので」


 落としどころとしては、それが妥当だろう。


 僕たちが経験してたことを、他の人が対応できるとは思えない。

 であれば、直接的に手を下していなくても……やっていることは快楽殺人鬼と一緒だ。

 しかも他にもメンバーが居たなんて、本当に救いようがない。


「今まで発見が遅れたのは、やはり探索者としての特性とでも言えてしまいますね」

「難しい問題ですが、その通りだと思います」


 探索者であるならば、ダンジョンでいつ命を落としてもおかしくはない。

 そして、帰る家があっても待っている人が居なければ捜索願も出されないし、そもそも帰宅するまで期間が空くというのも珍しくないはず。


「そして、あと1時間後には彼らが到着すると思います」

「わかりました。最後の打ち合わせをして、あとは待つだけですね」

「段取りとしましては、全探索者施設にて中継を行いたいと思います」


 そこで悪行の実態を晒上げ、彼らに追い打ちをかける。


「連絡した通り、莉奈(りな)が彼らと戦います」


 最後の仕上げで、まさか生きているとは思ってもみない人間の登場に、格下だと判断した人間に敗北する屈辱を味合わせる。

 ここまで探索者協会が居動いている時点で、ライセンスの剥奪は免れないだろう。

 法の裁きは、正直僕にはわからない。


「こちらとしましては、太陽(たいよう)様に動いていただきたいところなのですが……」

「言おうとしていることはわかります。そして、それが一番確実でしょう」

「どうしても、ここまで大掛かりになってくると失敗できないので」

「でも、僕は彼女を信じています。生きる活力と言うんですかね、彼女のプライドや人間としての底力というか。可能性を信じたいんです」

「いくら太陽(たいよう)様がご指導しているとはいえ、こんな短時間で格上しかも2人を相手するのは厳しいと思うのですが」


 本当にその通りでしかない。


 大金が動いている、と言う話ではなくても、大掛かりな仕込みではある。

 今回の失敗というのは、結果は変わらないとしても過程が崩れること。

 もしも莉奈が敗北してしまった場合、同情や協力の声は大きくなるだろうが結果が変わらないのであれば、そこまで意味はない。


 完全なる悪に対し、犠牲者を代表兼被害者として唯一生き残った莉奈がやり返すからこそ意味がある。


「それでも、僕は莉奈を信じます。ですが当然、相手が不正を働きそうになったら相応の痛みを味わってはもらいますが」

「わかりました。諸々の判断はお任せいたしますので、成功をお祈りしています」

「……犠牲者の特定はどれほど進んでいますか?」

「そうですね――」


 受付嬢はタブレットを操作し、僕に差し出した。


「彼らは、今回のような件は律儀に全て配信していたようです。ですので、ライセンス情報と照らし合わせるまで時間もかからず特定できました」

「……合計で20人……」


 ある程度は予想できていたけど、こうして正確な情報を出されると胸が苦しい。

 悪逆非道と揶揄するかたちで発言していたが、これほど多くの犠牲者を生んでいるんだ。

 どこまでやってもやりすぎとはならない。


 このような状況なら、催促されているように僕が痛めつけ続けた方がいいのかも……と思ってしまう。


「彼らは今後、文字通り人生が終了すると思われます」

「でしょうね」

「そして、我々も再発防止を行っていかなければなりません。もしも模倣犯が出てしまったり、表に出ていないだけで別件として行われている可能性も視野に入れて」

「なら、なおのこと彼女が今回の件を終わらせるべきだと思います。犠牲者の弔いも兼ねて、低レベル探索者たちへの注意喚起として」

「――たしかに、その通りですね」

「あ、あと。再発防止うんぬんという話は、僕が携わる必要はないですよね?」

「ええまあ」


 正直、こっちの世界に還ってきたばかりというのもあるけど、あまりにも世間を知らなすぎる。

 そんな僕がルール決めや規律とかを決めるなんて無理だし、誰が従ってくれるのか、という話もある。

 実力で従わせることはできるだろうけど、そんなの反発されるし反感を買うだけだ。


 つまり、僕は人の上に立つ資格も素質も持ち合わせていないし、それは異世界でも一緒だった。


「さて、そろそろ僕は戻ります」

「彼らには到着したら、予定通り木の武器と盾を渡します。そして、重要なことは伏せて別の演習場へ案内します」

「わかりました、よろしくお願いします」


 これから莉奈に情報共有をし、最終調整と準備をしてもらう。


 僕は直接手を出さなくても、手放しに莉奈を1人で戦わせはしない。

 出会ってしまったが運命とも思うし、彼らの所業に対してそれ相応の報いは受けさせる。

 莉奈が追った悲しみも、犠牲になってしまった人たちの無念も込めて。


 この戦い、絶対に負けられない。


「それでは、失礼します」


 僕は立ち上がり、部屋を後にした。

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