第20話『生き残るため、抗おう』
「……」
光が薄れていくのを確認し、辺りを確認する。
幸いにもモンスターの集団中央にワープしたわけではない。
だけどそれだけしか望みはなく、僕の記憶にある通り第12階層まで来てしまったようだ。
壁に階数が書いてあるわけではないけど、視界に入っているモンスターで判断できる。
ここから10メートルぐらい先に居る【ダイウルフ】と【ゴウウルフ】は、第12階層から出現するモンスターだからだ。
上の階層に居る【ショーウルフ】より大きく、腰ぐらいまでの身長があって攻撃方法も牙を使うようになる。
その付近に居る【ゴウウルフ】は完全二足歩行で主に拳で攻撃を仕掛けてくるモンスター。
どちらも好戦的で、一撃の威力は第10階層までのモンスターとは桁が違う。
「莉奈、大丈夫?」
「ごめん、まだちょっと体がいつも通りに動かせない」
僕だけだったら、この階層もボス部屋も簡単に突破できる。
だけど今は莉奈と一緒だ。
自由に思いのまま行動する事はできない。
さすがに背負ったまま戦闘するわけにはいかないし、二次被害が起きてしまう可能性だってある。
「私たち、本当に12階層へ移動しちゃったのかな」
「……うん」
「もう地上に戻ることができないのかな、ここで死ぬしかないのかな」
莉奈はそう言葉にしながら、目に涙を浮かばせている。
未知の階層へ強制ワープさせられ、未知のモンスターと戦わなければならない。
安易に生きることを諦める必要はないけど、それは僕が知識も経験も装備もあるから。
普通の探索者にとっては、今は絶望的な状況でしかない。
それに加え、まだ体が自由に動かすことができないのも相まって。
「莉奈、見て」
莉奈の前に手を出し、手を握っては開きを繰り返し、飛び跳ねたりする。
「え……? 何をして――え、どうして動けるの」
「僕は最初から嘘を言っていなかったことを証明する」
「え、待ってどこに行っちゃうの? 置いていかないで……」
「今からあそこに居るモンスターを倒してくる」
「ダメだよ、危ないって。どんなモンスターかもわからないのに」
「だからだよ。僕は今から自分の力を証明する」
「でも……」
言葉だけでは莉奈を信用させることはできない。
それは今の今までそうだったし、力を示しても対峙していたモンスターが弱かったから証明しきれなかった。
だからこそ、今がチャンスなんだ。
「そこで観ていて」
心配そうな目線を送られているのを感じつつ、漆黒の直剣と短剣を抜刀――標的を定めて歩き出す。
今からやるのは、知識を元に行う力の行使。
オーバーステータスと武器で、一方的にモンスターを蹂躙する。
『グゥ』
『グルル』
まずは短剣を飛ばし、弱点である頭部へ突き刺し――1体。
『グルッ』
短剣に括りつけてある紐を引き、手元へ戻し、すぐに投げ飛ばして頭部へ突き刺し――2体。
そのまま足を進め、次の標的を観測。
次は【ダイウルフ】3体。
再び短剣を手元に戻し、駆け出す。
速度を落とさないまま進み、反応される前に1体の胸部へ剣を突き刺し、短剣で付近に居るもう1体を葬る。
最後の1体は、突き刺した2本の剣を横に薙いで体を引き裂き、体を前に出して斬り裂く。
「……まだいける」
次、次、次――と、モンスターを討伐。
体は軽く、思い通りに動く。
無駄のない動きを繰り返し、行動パターンを元に回避するもそれすらも攻撃の手段として活かす。
さて、ここまでやったら大丈夫だろう。
「――」
莉奈のところへ戻り、2本を納刀する。
「こんな感じだけど、そろそろ信じてもらえたかな」
「……夢でも見ている気分だった。待っている間、レベルアップしちゃったから……本当なんだね」
「信じてもらえてよかった」
「で、でもこれからどうするの? 太陽が強くても、私は全然そんなことはない。やっと体が動かせるようになったけど、絶対に足手まといになっちゃう」
「先に謝っておく。僕はここから気の利いた言葉は何も言えない」
「うん、いいよ」
「ここから地上へ向かうには、莉奈がどうしたいかにかかっている。僕たちが居るここは第12階層で、11階層に向かうより13階層へ行く方が近い場所なんだ」
「……」
「絶望的な状況だけど、僕は莉奈を見捨てたりはしない。だからこそ、莉奈には奮い立ってもらわないといけない」
ここで重要なのは、莉奈の強い意志。
根性論でしかない話だけど、強くいきたいという気持ちが生存率を格段と上げる。
ただ僕だけが戦い続けるだけじゃ、もしも莉奈が戦わないといけなくなったときにどうしようもできなくなってしまうから。
「こんなときに言うのは違うかもだけど」
「うん、いいよ」
「私、いつもお金お金って言ってるでしょ? あれ、実はお母さんの入院費とか治療費を稼ぐためなの」
「うん」
「お母さんが大好きなの。私が学校に行っていないのは、お金を稼ぐため。普通に学校に行ける人たちが羨ましいとは思うけど、それでお母さんを嫌いになったりなんかしない」
家族との絆、想い――それが生きる活力となる。
「だから私、まだこんなところで死になくない。まだまだお母さんのためにお金を稼ぎたいし――またお母さんの笑っている姿を見たい」
「ああ、莉奈ならきっとできる」
「私、こんなところで死にたくない。太陽、私も頑張る。闘う!」
「生き残るために抗おう」
「うん!」
僕は手を指し伸ばし、莉奈は握り返して意思を示した。
「時間がかかるかもしれない。でも、絶対に地上へ戻ろう」
「私、やる!」
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