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家族の肖像画 5

 王都で一番見晴らしの良いのは、時計塔。

 今日は点検で音のならない日だ。


 それこそが悲劇を広めた。そう彼は知っている。


 王都は一度だけ焼けたことがある。あれは二回目の死に戻りだった。子供たちを鍛えれば幸せを掴むだろうと思って、途中までは順調だったのだ。

 彼らは魔王が現れたとしても門を壊してしまえば出入りできなくなると知っていた。根本的解決にならず時間稼ぎにしかならなくても百年単位は時間が稼げる。その予定だった。

 だから、油断していた。


 ウェル。そう名乗る怪鳥は、王都を焼き払った。機動力のあるウェルはほどほどに火をばらまいて去っていった。

 そのときにフレアやヒルダは王都に不在だった。エイルも魔王討伐の命がありいない。

 亡くなったのはエイルの恋人だった。落ち着いたら結婚しようと思っていると照れたように報告されてからほどなくのことだった。そして、後にそのお腹には子供がいたことが判明した。困らせたくないから伝えないでと周囲に言っていたという。

 この出来事が原因かわからないが、以後、エイルは特別な誰かを作ることはなかった。ほかの死に戻りでも、ずっと。

 今回だけが違った。


「なにもなさそうだよ」


「そうね」


 おざなりに返事を返す妻に彼は困ったなと視線を向ける。

 魔女という生き物の特性として時間経過により強くなる。彼女はもう何度も人生を繰り返し、その繰り返し部分さえ時間経過とされていた。

 今の彼女はそこら辺の魔物どころか、四天王と言われる強者すら圧倒する。

 魔界では貴方様が魔王様と言われていたくらいだ。


 その彼女が王都の守護を重ね掛けしている。そして、かつて人型に変化させた魔物を使い魔におわせている。


「少しでも怪しかったら、葬ってやるわ」


「いやいや、今のウェル君は毒気の抜けた気のいい青年? 魔族? だよ。

 ヒルダのお世話もさせて申し訳ないなと思うくらいだ」


「ふふっ、牙を抜いたところで裏切るかもしれないじゃない?」


「……それくらいなら先に始末したほうが良かったのでは?」


「その人がいないと別の人がその役割を割り振られることはあるじゃない。

 それは避けておかないと。あと、めんどくさい」


「そうだけどな」


 彼はため息がこぼれた。言い出したら聞かないのは前からだ。


「まあ、気が済むまですればいいよ。

 でも、今日は何もない平穏な日だ」


「もちろん、そうなるわ」


 もはや何も言う気にならなかった。妻の隣で彼はぼんやりと王都を見るだけだった。


「そういえば、家に帰ったんだが面白いものがあったよ」


「ああ、忘れ物さがしに行ったわね。見つかったの?」


「隠し倉庫はまだ見つけてないみたいだったからね。この先もずっと隠しておくつもりだ。

 聖剣なんていらないだろ」


「素材にしてもいいけど」


「かわいそうだからやめて。

 そうじゃなくて、肖像画があった。子供たちの小さいころのものと結婚したあとのもの」


「それなら後で見に行こうかしら」


「それから、俺たちの肖像画」


 すごい勢いで、彼女は振り返った。


「ルードはいい画家になったよ。先見の明があった」


「ズルだけどね」


 そう言って何事もなかったように王都へ視線を向ける。

 そして、一言つぶやいて。


「そうだな」


 彼は同意した。



 結局、その日はなにもない普通の日として終わった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みな幸せそうでなにより [気になる点] 両親の呪いは解けたのかな?
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