一番美しい君に
つるっとした王様の小話。
「おお息子よ、噂になっておるぞ。
なんでもヒルダ嬢に求婚したそうではないか」
「していませんよ。試練です」
「ふむ。
そのわりには、贈り物の準備はしていたそうだが。結婚祝いか?」
「けっこん?」
「そうですよ。嬉しそうに報告してきましたわ。とても紳士的で、やさしくしてもらっていると」
「儂も聞いたのぅ。頬を染めて素敵な方なのですと。あのように思われるのは妬まし……いや、君もあんな時期があったなと思い出してだな」
「そうでございますか。国王陛下と妃殿下のように仲睦まじい夫婦になるんですのと言ってましたよ」
「むむっ、では今度お忍びで観劇を」
「まあ、嬉しい。早速日程を」
「あー、もう行っていいですかね? 父上、母上」
「お前も妻を大事にするといい。祖国を離れてやってきたのだ。頼るのはおまえだけなのだぞ。
それから、報復とかみみっちいことするなよ? 振られた男がみっともない以下になるぞ」
「今ある幸せを再認識しなさいな。
いつまで平和であるか、などというのはわからないのですから」
「承知しました」
「不満顔で行きおって。響くと良いのだがな。ランファ嬢もいつまでまってくれるやら、だ」
「いつまでも浮ついているのはあなた譲りでは?」
「美しい花が多いのが問題ではある。
もちろん、一番美しいのは君だが」
「調子のいい。もうおばさんですのに」
「若いころも今も美しいぞ」
「……では、今度、皆の前で言ってくださる?」
「うむ」
そして、王家の主催の宴で一番美しい君にと花束を捧げられるのはまた別の話である。