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演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ  作者: 渡里あずま


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劇場での驚きの数々

 以前のようにアーロンと二人で馬車で、前は通り過ぎただけの城下街へと向かった。

 旅芸人ということで、テントや屋外かと思っていたが──劇場があったのに、エレーヌは驚いた。そして驚いたまま、アーロンにエスコートされて中に入り、またしても驚いた。


(え、二階? 平屋じゃなくて? しかも、ホワイエがある……場所としてじゃなく、ちゃんと機能してる!)


 ホワイエとは劇場やホールなどの、入り口から観客席までの広いロビーのような空間のことを言う。同時にいくつも椅子が並び、幕間の休息や社交の場として使われる空間だが、アーロンのような貴族が芝居前に交流をしている。


「やあ、ベルトラン卿」

「これは、アルトワ伯……奥方様も。ご無沙汰しております」

「ごきげんよう。若奥様もね」

「ごきげんよう」


 その名前は確か、アーロンの亡き父親の友人のものだ。穏やかそうな夫妻に声をかけられ、エレーヌもアーロンにならってお辞儀をした。


(旅芸人って言うから、もっと庶民的なイメージだったけど……そうよね。貴族も来るのなら……だとしたら、今日の演目ってどんなものなのかしら?)


 他の貴族たちにも挨拶をしつつ、アーロンに二階の貴賓席へとエスコートされながら、エレーヌはふと引っかかった。知識として、聖書の話を民衆に伝える為の宗教劇だと思っていたが──そもそも、そういう内容に貴族が集まるだろうかと。

 そんなエレーヌの疑問は、すぐに思いがけない形で応えられることになる。



 物語自体は、神の子と呼ばれる男の言葉に従うように、四日前に死んだ青年が甦るというものだ。舞台だけではなく、絵画になっていたりもする。

 話自体はよくあるものだと思うが、目の前の舞台では本来、台詞にあたる部分がほとんど歌になっていた。つまりは、オペラである。


(まさかこの時代で、オペラが観られるなんて!)


 元々、美男美女の役者ばかりで目に楽しいし、歌もうまい。視力聴力が上がった気がする。

 周りの反応を見る限り、この時代でも珍しいものなのだろう。驚きながらも、うっとりと舞台に見惚れている。もっとも、それはエレーヌも同様だ。

 一方、琥珀色の瞳を輝かせながら魅入っている妻・エレーヌと舞台を、アーロンは何度も何度も忙しなく交互に見比べていた。

 妻の視線の先にいるのは、神の子を演じる男。そして彼の声に応え、生き返り墓石から出てきた青年がいる。どちらもタイプは違うが、騎士団長が言っていた通りの色男だ。


『役者は大抵、色男だから。そっちに見惚れちまうこともあるから、気をつけろなー』


 まさか、妻に限って──アーロンが芝居ではなく、エレーヌのことばかり気にしているうちに役者全員が正面を向いて歌って終わり、観客たちはアーロン以外、割れんばかりの拍手を送ったのだった。

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