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演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ  作者: 渡里あずま


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13/24

現実は戯曲より面白い

 ブランシェの治療の為に、エレーヌは国王とアーロンに頼んで伯爵家に長期滞在出来るよう手配して貰った。

 今この時代に出来るのは、水銀が蓄積する腸を綺麗にすることと、水銀中毒によって失われるミネラル分を積極的に摂らせることである。実際、ブランシェに問診した際、通じが悪いと言っていたので、その辺りも女性同士でなければ、対処が難しいと思ったからだ。


「私はあなたに、あんなに失礼なことを言ったのに……」

「全部、毒のせいです。今はゆっくり養生して、皆様にも伝えて下さいね?」


 そう言って、エレーヌはバルバドスチェリーを盛った器を差し出した。

 久美の時代では『アセロラ』と呼ばれている果実である。

 王城での事件の後、エレーヌは少しでもブランシェの水銀を抜く為に、短期間の断食と下剤代わりのアキレアの薬湯を飲ませた。そして、演劇部時代に読んだ論文に書かれていたビタミンCの摂取を試みていた。


 化学は苦手なので、詳しい仕組みは理解出来なかったが、解毒剤(エレーヌの時代には存在しない)を点滴するのと、似たような効果が得られるらしい。

 なので、少しでもビタミンCを多く含むものをと、エレーヌはアセロラとパプリカをブランシェに毎日食べて貰うようにしていたのだ。


「ありがとう。これは言い訳だけど、一度あの美しさを体験すると、やめられなくて……馬鹿よね?」

「とんでもないです」


 さりげなく、けれど確かにお礼を言ったブランシェは、すっかり宴の席での気の強さが鳴りを潜めていた。元々が美少女なので、こうしてしおらしくしているとただただ可愛らしい。

 微笑ましいと思うと同時に、こんな美少女があんなに荒ぶるなんて──知識としてだけ知っていた水銀中毒を、本当に恐ろしいと思うエレーヌだった。

 そして、ブランシェの療養に専念していた為、宴の席で想いを吐露したアーロンのことなど、すっかり忘れてしまっていた──。



 一か月後、水銀の毒が抜けて頭痛や吐き気が治まったブランシェはバルト国へと戻った。あの毒性口紅は使わなくなったが、ビタミンC効果でむしろ肌艶が良くなり、更に美白効果で健康的な透明感を得て美しさを増したのは、皮肉な余談である。

 そしてブランシェを見送ったエレーヌの元に、彼女の母であるバルト国の王妃から手紙が届いた。


『娘だけではなく、我が国の女性たちと役者たちが救われました。伯爵夫人の英知に、感謝します』


 王妃から『伯爵夫人』と呼ばれたことで、ブランシェとの結婚話が完全に無しになり、エレーヌがアーロンの妻として認められたと解ってホッとした。安心したあまり、つい王妃からの手紙を抱き締めてしまったくらいだ。

 ……そこで、エレーヌはずっとアーロンの本心について、ずっと話していなかったことをようやく思い出した。

 ブランシェの帰国後、しばらくのんびりするよう言われていた為、自分の部屋で過ごしていたエレーヌのもとにアーロンが訪れ、シルリーが気を利かせて部屋を後にしたので、今は二人きりである。そう、以前のエレーヌとシルリーのように、寝台に自分が腰掛け、アーロンが近くで椅子に座っている。

 ちょうど良い。そう思ったエレーヌは、アーロンへと尋ねた。


「あなたが私との結婚を拒んだ理由とは、まさか……」

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