衆道騎士団の最期
スカトロシリアナ半島戦記
第7章 イチジクの秘蹟
第9節 衆道騎士団の最期
ジャニーのアダマンタイト製のアクスが袈裟斬りに振られる。当たれば裸のスカトロニアスの胴体など挽肉になるだろう。
極限の集中状態の中、スカトロニアスは前方へローリングして足の間に潜り込んだ。そう、ジャニーは男が足の間に入り込む事に慣れ過ぎている。激戦で磨かれたスカトロニアスの戦闘勘は致命的な隙を見出していた。
狙うのは窄まった穴である。プレートアーマーの構造上、可動部位のそこは守られてはいない。メイスを激しく突き上げる。
「オイドンのグレートメイスを喰らえ!」
起死回生の一撃。メイスは雄穴に根元近くまで埋まった。皮のズボン越しに血とそれ以外の物が垂れて、メイスの柄を握り締めたアストロニアの手にも伝って行く。どちらが勝ってもおかしくはなかった。激戦を制したのはお互いの技量ではない。明暗を分けたのは業と言っても良いかもしれない。
ジャニーは臓腑を貫く冷たい鋼鉄の塊の感触に、自分が手塩にかけて来た騎士団員たちの気持ちを理解した。メイスは直腸を破壊して胃まで届いている。決して、もう長くはない。だが、騎士として活躍した最期の瞬間に深く満足していた。
「おぉ、スカトロニアス、なんと強い男よ、おぉ、スカトロニアス、美しい男よ。私は愛を与えるばかりで、この歳まで与えられる事を知らなかった。Youに教えられるとは。」
大騎士団の団長として半世紀余りも君臨したジャニーの命がスカトロシリアナの大地に流れて行く。最期の息が漏れる。もう言葉はない。しかし、彼の逸物はそびえ立っていた。まるで騎士団の矜持を示す様に。
西方暦925年に刊行されたウッフーン・チョロマカス『スカトロニアスの騎士団領接収とその統治』ではジャニーについて、次の様に伝えている。
その生前、彼の権勢に逆らう者は皆無であった。教皇庁の介入の形跡が見つからない事からも、彼の力が伺える。彼の騎士としての実力は、ゴンザレス卿との決闘の逸話からも知られるが、彼は何よりも優れた統治者であった。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、という諺はジャニーとの闘いの経験をスカトロニアスが語った言葉として伝えられる。