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私の中に突然現れた存在

私の中に突然現れた存在、だがそいつのおかげで私は手遅れにならずに済んだのかもしれない 第二弾

作者: 黒澤 白

 私の名はアルフレッド、この国の第一王子をしている。

 私は現在婚約者のセレンディーネと共に二人きりでのお茶会をしている。

 少し前までは彼女の無表情で淡々とした受け答えに嫌気がさしていたが、彼女が本心を隠している事を知り、そして私のために王妃教育を頑張り、私を愛してくれていると知った今、そんな彼女がかわいくて仕方ないのである。


「殿下、そろそろお開きの時間です」


「もうそんな時間か、楽しい時間ほど早く終わってしまうものだな」


 セレンディーネとの時間が終わってしまった。

 少し、いやかなり悲しいがそれも仕方ない事だ、彼女も王妃教育で頑張っている、私もそれくらい我慢しなければならない。

 それにあいつも言っていたしな、離れている時間が愛を育む事があると。


「楽しいお茶会だったよ、セレンディーネ、そうだ」


 私とした事が言い忘れるところだった。


「今日の君も美しくて素敵だよ」


「っ!!」


 私がそう言うと彼女は顔を真っ赤にさせて身体を震わせていたな。

 あのかわいい仕草が見たいからお茶会が楽しみなのかもしれないな。

 私は自分の部屋に戻りベッドに座る。


「ケイ、もう出て来て良いぞ」


『んー? 終わったのか?』


 私自身に呼びかけるとケイが声を出す。

 彼はケイ、熱で数日寝込み目が覚めたら私の中に突然現れた存在である。

 彼はこことは違う世界の人間でその世界で事故によって亡くなり、その後私の中に入ってしまったようだ。

 彼が言うには本来は私の記憶と魂が共有して転生するはずが何故か記憶だけが共有して魂がそのままになってしまったようだ。

 奇妙な共同生活だが彼のおかげで私は婚約者のセレンディーネとの仲が手遅れにならずに済んだ。

 

『それでどうだ? 今日も甘々なイチャイチャをしたのか?』


「話すわけないだろ」


『まあそうだよな、いくらお前との共同生活とはいえ、二人っきりのプライベートまで知るのはマズいしな』


「全くだ、お前がその力を持ってなかったら、どうしようかと悩んだものだ」


 そう、ケイとの共同生活で普通に過ごす分には構わないのだが、誰だって他人に知られたくない事だってある。

 だが私の精神に入っているため嫌でも彼とは見ているものや記憶は共有されてしまう。

 だからこそ、見られたくないものだってある。

 だが彼はこう言った。


『問題ないぞ』


 その理由はすぐにわかった。

 ケイが言うには私の精神の中に彼専用の部屋が存在しその部屋に入っている間は私の見ているものと記憶が共有されなくなるのだ。

 しかもその部屋は入る事はできるが自分からその部屋を勝手に出る事はできないようで私が呼ぶまではその部屋に居なければならないようだ。

 さらに不思議な事に彼が専用の部屋に入ったかどうかが私にはわかるようだ。

 自分の精神の中にあるものだからなのか、ケイが部屋に入ると私の中のケイの存在を感じなくなるのだ。

 だったらそのままずっと私が呼ばなければケイは一生出られないのかと思って何もせずにいたら勝手にケイが出て来ていた。

 ケイが言うには強制的に部屋を追い出されたらしい。

 どうやらずっと部屋にいられるわけではないようだ。

 試しにどれくらいで出て来るのか試したら大体一日で出てしまうようだ。

 ちなみにケイが言うには結構快適な部屋らしい。

 

『まあ、良かったじゃねえかよ、これで一番マズいのは見られる事も記憶を共有する事もないんだからよ』


「お前にも見られたらマズいものがあるんだな」


『いや、俺じゃなくてお前だよ』


「ん?」


『いや、よく考えろよ、俺がこれできなかったらお前と彼女が結婚した時に夜のお勤めとか俺に見られながらするって事になるところだったんだぞ?』


 言われてハッとした。

 そうだ、私と同じ景色を見てるって事は当然それも見る事になってしまう。

 仮に見なかったとしても記憶が共有されるんだから嫌でも見てしまうって事だ。

 本当に危なかったな。


『まあ、これで一番の問題は解決したし、そろそろ他の問題も解決した方が良いかもな』


「他の問題?」


『わかってんだろ? 後継者問題だよ』


「ああ、そうだな」


 婚約者との関係が良くなったのは良い事だが私にはまだ悩みがあった。

 それが後継者だ。

 一応私は第一王子だから普通に行けば私が次の国王だが、私には二つ下の弟がいる。

 弟は私より優秀なのだ、だから弟を後継者にと望む者も多くいる。

 例え言葉にしなくともわかってしまう。

 優秀な弟と劣っている兄。

 陰でそう言う者達も多くいる、現に私も何度か聞いてしまった。

 この事とセレンディーネとの仲が薄くなっている事で私自身不満になってしまい熱を出して倒れてしまった。

 そしてケイが私の中に現れた。

 今はセレンディーネとの仲は良くなっているからある程度精神は安定していると思うが、やはり悩みはまだある。


『なあ、弟についてだけどさ、お前の記憶を見る限り弟が優秀って皆言ってるけど、皆が言っているその優秀な理由って光魔法の使い手ってだけだよな?』


「ああ、光魔法の使い手は何百年ぶりだと言われていてな、その前の光魔法の使い手は我々王家の先祖で英雄と言われた王だったんだ、だから皆そんな弟を支持しようとしている者達も多くいるって事さ」


『それなんだけどさ、お前本当に弟より劣ってるのか?』


「何?」


『記憶を見る限りさ、光魔法が使えるってだけで優秀って言われてるけどさ、他の部分でお前が劣ってるとは思えないんだけど』


「そうなのか?」


『おう、少なくとも俺はお前が劣ってるとは思えないぞ』


 そうなのだろうか?

 周りが弟が優秀だとか言ってるから自分ではわからない。


『信じられないなら彼女に聞いてみたらどうだ? 今度のお茶会とかでさ』


「セレンディーネにか?」


『第三者の意見って大事だと思うぜ』


 確かにそうかもしれないな。

 ケイのアドバイスを受け私は今度のお茶会でセレンディーネに聞いてみる事にした。

 

「セレンディーネ」


「はい、何でしょうか、殿下?」


「その、私よりも弟のアルバートの方が王になった方が良いと言う声を聞いた事はあるか?」


「ええ、確かにそのような話を何度か聞いた事がありますし、私に対して殿下よりもアルバート様に婚約者を変えた方が良いとおっしゃった貴族もいました」


 何!? 私よりもアルバートに婚約者を変えた方が良いだと!?

 どこのどいつだ!! 見つけ次第ただじゃおかない!!


『おいアルフレッド、何か凄いピリピリしてるけど、本題を忘れるな』

  

 ケイに言われて私は冷静さを取り戻す。

 今回はケイにも出ていてもらって良かった。

 私は気持ちを整えて続きを話す事にした。 


「これは、私の知り合いから聞いたんだが、私の事を劣っている兄と言うが弟が光の魔法が使えるだけで、それ以外を見れば私は言うほど劣っているわけではないと言うのだが、私としてはどうしても信じられなくて、そこでセレンディーネ、第三者の君の意見を聞かせてもらいたいんだ、嘘偽りなく答えてほしい」


「わかりました」


「では、聞くが、私は弟と違って光以外の全属性の魔法適性があるんだ、それと勉強で弟は苦手な科目もあるが、私は全科目をほぼ全問正解している、それと剣の腕は弟はそれなりに腕のある騎士とやり合えて私は副騎士団長とやり合っている、後は・・・・・・」


 その後も私は自分の事を言い続けてセレンディーネの意見を聞こうとした。

 見るとセレンディーネは時間が止まったかのようにカップを持ったままの状態だった。

 そんな姿もかわいいと思えてしまう私は大丈夫なのかと思ってしまう。


「殿下、私個人から言わせていただきますと、殿下は優秀です」


 カップを置いて言うセレンディーネは何というか普段の彼女とは違った凛としたようなものを感じた。

 こう言った感じの彼女も良いなと思ってしまうが、それよりも私は彼女が私を優秀と言う理由を聞く事にした。


「私は優秀と言えるのか?」


「ええ、まず魔法についてですが、光以外の全属性の適性があるという点ですが、普通に考えてとんでもない事ですよ」


「そうなのか?」


「ええ、大抵の場合は一つがほとんどで二つあるだけでも珍しいのです、現に私も水と風二つの適性を持ってますが、殿下は光以外の全属性の適性がある、二つでも珍しいのですよ、それ以上だなんて、もう魔法を司る神に愛されたとしか言いようがありません」


 どうやら相当珍しい事らしい、何故なら彼女は声を上げこそはしないも明らかに尋常じゃない口調で話しているからだ。


「次に、勉強についてですが、全教科をほぼ全問正解だなんて普通に考えてこれを劣っていると言う人がいたらどんなのが優秀なのかと問いたいくらいです」


「う、うむ」


「さらに、副騎士団長と打ち合える剣の腕前、もちろん殿下達が相手なので手加減されてると思いますがそれでも副騎士団長が相手をするほど殿下は剣の腕があるという事にもなります」


「そ、そうなのか?」


 その後もセレンディーネの話を聞くとケイの言う通り第三者から見ても私は優秀らしい。


「これだけの才能がある殿下がアルバート様に劣ってるだなんて考えられません、そもそもどうして殿下は自分が優秀じゃないと思われているのですか?」


「そ、それは、父上が魔法の事は誰にも言うなと怖い顔で言われたからきっと王族として恥ずかしいのだなと思ったんだ、現に魔法を教えた教師も私がやってもあまり褒めてもらえた事がないし、勉強だって間違った部分を指摘される事がほとんどだったし、剣だって色々な技術を教えられるけど大して褒めてもらえた事だってないし、皆私に期待していないという事じゃないのか?」


『あ、これってもしかして』


 ケイが何かに気づいたようだが、おそらく私がダメだという事だろう。

 セレンディーネも手で頭を押さえているし、私のダメっぷりがわかって失望しているのだろう。


『アルフレッド、お前何か誤解してねえか?』


 誤解? 一体何が誤解だと言うんだ?


『多分だけどさ、お前の父親はお前がダメだから厳しくしてるんじゃなくて、逆だから厳しくしてたんじゃないのか?』


 逆だから? ますますわからん。


『だったら彼女に聞いてみたらどうだ? おそらく俺と同じ事考えてると思うぞ』 


 ケイに言われて私はセレンディーネを見る。

 するとセレンディーネは真剣な顔で私を見ていた。

 

「殿下、おそらくですが陛下があなたに厳しくしているのは、甘やかすと才能があってもダメになってしまうと思われたのではないでしょうか」


「ダメになる?」


「はい、光以外の属性の適性がある、それだけで魔法に関しては才能があると考えられた陛下はここで甘やかすと殿下が調子に乗って一つや二つの属性しか適性のない者を見下しバカにすると思われたのではないかと」


「な、なるほど」


「他の事でも厳しくされているのは、あなたが第一王子だからです、第一王子は将来国を背負う王位継承第一位ですから、陛下も甘やかさずに育てているのではないかと、だから第二王子のアルバート様とはどうしても扱いに差が出てしまうのです、甘やかされて育てられた子供はわがままで他人を見下し、気に入らない者を切り捨てたりして好き放題してしまいます、そんな者が王になって誰がついて行くのでしょう、革命でも起こされて王家は滅ぶ以外の未来が思いつきません」


「そうか」


 確かに甘やかされるとそんな風になってしまう可能性はあるな、でもなぁ。


「父上が私を思ってそんな事をしていると言われてもな」


「私には憶測で言う事しかできませんので、直接陛下に聞かれてはいかがかと」


「なるほど」


 お茶会が終わったその日に私はすぐに父上母上がいる部屋へと行くのだった。


『なあ、俺は部屋に入ってなくて良いのか?』


「ああ、一緒にいてくれ、正直私一人で父上に会うのは、結構勇気がいるんだ」


『あー、なるほどねぇ』


 私との記憶が共有しているからケイも私の言いたい事をわかってくれたようだ。

 私はノックをして部屋に入る。

 中では父上と母上そして弟のアルバートが一緒にいるのだった。


「珍しいな、お前から私に話があるとは」


 父上の顔を見るが相変わらず威厳たっぷりな顔をしていて私はいつも気圧されそうになる。


『大丈夫だ、お前は一人じゃないだろ?』


 ああ、そうだな。

 私には頼りになる相棒がいる、一人じゃない。


『ダメだったら、彼女に泣きついて慰めてもらえば良いだけだしよ』


 前言撤回、こいつは頼りになれる気がしない。

 そんな事よりも話しをしないとな。

 アルフレッド、今こそ男になる時だ!!


「父上、私の話を聞いて答えてほしいのです」


「申してみよ」


 私は父上に今までの事を全て話した。

 あ、全てと言ってもケイの事以外だけどな。


「という事があったのですが、父上、私は周りから見て優秀なのでしょうか?」


「お前は何を言っているんだ? お前が優秀じゃなかったら今頃王位はアルバートにさせておるぞ」


「という事は、今だに王位継承権が私のままであるから、私は、優秀?」


「そう言ってるだろ」


「いや、わかりませんよ」


 自然と私は父上にそう言っていた。


「父上が申してたではないですか、魔法の事はあまり他人に話すなと」


「お前が光以外の全属性の適性があると知ったから、王になる者がおいそれと他人に自慢する事じゃないと思いそう言ったんだ」


「私はてっきり、王家の汚点なのかと思っていました」


 私がそう言うと父上も母上もアルバートも驚いていた。


「アルフレッド、お前は私の言葉をそう捉えたのか?」


「ええ、今までずっとそう思ってました」


「では、私が今までお前に言った言葉をお前はどのように捉えていたのだ?」


「今までの言葉ですか? そうですね」


 父上に聞かれたので私は今まで父上に言われた言葉を魔法と勉強と剣の教師達の言葉をどう捉えていたのかを全て父上達に話した。

 話し終えると父上もセレンディーネと同じように手で頭を押さえていた。


「まさか、そう捉えていたとは」


「何だか納得しました」


 母上も何かを察したのか父上と同じように手で頭を押さえている。


「兄上」


 弟のアルバートも何とも言えない顔をしていた。


「アルフレッド、私がお前に失望しているわけないだろ、まあ最近のお前の態度とか行動が悪いという話を聞いていたが、そういう事だったのか」


「あの、もしかして、私は期待されているから厳しくされていたのですか?」


「そうだ、この国を背負う王になる男だ、お前に期待しているからこそ厳しくするように他の者達にも言ったのだ、まさかそれが悪い方に捉えらえていたとは」


「いや、そうなりますよ、だって父上いつも私に対して怖い顔してましたから」


「何?」


 しまった、うっかり言ってしまった。

 出した言葉はもう引っ込められないぞ。


『怖がる必要ないだろ? 立場は王と王子かもしれないけど、それ以前に父と子だろ? ここには家族しかいないんだ、家族に対して何を遠慮する必要がある? 思い切りいけば良いさ』


 ケイの言う通りだ、何故家族同士で遠慮する必要がある。

 私は意を決して言うのだった。


「父上は、いつも私に対してその睨みつけるような怖い顔でずっと私を見て言ってきたじゃないですか、なのに弟であるアルバートには笑った顔をして頑張ったら褒めたりとかして、なのに私には厳しい事ばかり言って褒めてもらった事など一度もありませんよ、教師達も私がどれだけ頑張っても何も褒めてくれないし、なのにアルバートは皆して褒めるし、それって私がダメだからだとずっと思ってたんですから、だから頑張るのもバカらしいって思うようになったのですよ」


「そんなに私は怖い顔でお前にいつも言ってたのか?」


「この際だからハッキリ言いますけど、滅茶苦茶怖いです、到底自分の子供に向ける顔じゃないくらいに、正直今日も父上にこの話をしに行くのも憂鬱なくらいでした」


「そうだったのか・・・・・・すまん」


「え?」

 

 意外だった。

 父上が素直に謝ったのだ。

 謝った後の父上の顔はいつもの威厳ある気迫など完全になりを潜めている弱々しいものだった。


「あなた、だから申したじゃないですか、少しアルフレッドに厳し過ぎるのではと」


「ああ、アルフレッドに言われるまで全く気づかなかった、まさか二人にここまでの差があったなんて」


「父上にも言いましたし、ついでに母上にも言いたい事があります」


「私に?」


「母上、王妃教育の内容を少し変えて欲しいのです、セレンディーネが私のために頑張っている事はわかりましたが、本心を隠して表情も変わらず淡々とした口調で話していてしかも口を開けば王太子としてだとか国のためだとかそんな話ばかりが出て来るから、私は彼女が私との婚約を本当は望んでおらず、国のために貴族としての役目を果たすためだけに私と結婚するのかとずっと思ってました、それなら私じゃなくても良いと思って彼女に対する愛がどんどん薄れて危うく婚約破棄したいと本気で思い始めてましたよ」


「あなたとセレンディーネとの仲が良くないとは聞いていましたが、まさか王妃教育の結果が原因だったなんて」


「王妃になれば他国との外交とかもありますし、その時に相手に隙を見せないように表情を表に出さないとか本心をむやみに出さないとかはわかりますけど、私は愛もなくただ仕事をするように結婚するなら絶対に長続きしない自信がありますよ、だからせめて公の場ではそのようにしても良いから、婚約者の前では自分の本心を出しても良いという教育方法を考えていただきたいのです」


「あの子はとても優秀で貴族としての責任も強かったから、それにあなた自身が婚約者にしたいと言っていたから良いと思ったけど、真面目過ぎるのも危険だったようね、アルフレッド、ごめんなさい」


 母上からも謝られたよ。

 何か悪い事したみたいだ。


『気にするな、家族同士それくらい言い合えなければやってけねえぞ』


 確かにそうかもしれないが、やはり言った後の二人の悲しむ顔はあまり見たくなかったのかもしれない。

 だがこれで私は次も言いたい事が言えるようになったから良いのかもしれないな。


「ずっとそう思っていたから、周りからも優秀な弟と劣っている兄と陰で言っているのを何度か目撃してしまいました、おまけにセレンディーネにアルバートに婚約者を変えた方が良いと言う者もいたくらいですから」


「何だと? そんな風に言われてるのか?」


 父上はまた驚いた顔をしていた。

 まさか私がどのように言われているのかも知らなかったのか?


『一国の王だからな、普段からやる事も多いし、そこまで気が回らなかったんじゃね? 婚約者との仲が悪いとか態度が悪いとか、そんな断片的な部分しか報告されてなくて、どこまで悪化してるのか把握しきれていないとか』


 なるほど、それなら父上の反応にも納得がいく。


「アルフレッド、お前は劣っていると言われているのか?」


「はい、さっきも言いましたが、今まで父上達の言葉を悪い方に捉えさらに周りがアルバートが優秀で私が劣っていると言うから、それもあって私は自分が優秀でもないと思っていましたので」


「そんなバカな事が」


「父上、兄上の言っている事は間違いないと思います」


 今まで黙っていた弟のアルバートが口を開いて言う。


「私も何度も城にいる多くの貴族から兄上は劣っているとか私が優秀だとかセレンディーネ嬢の婚約者は私がなるべきだとか、次代の王は私がなるべきだとかうんざりするほど聞かされています」


「そうなのか?」


「はい、私が兄上より優秀だなんてあり得ないので、その度に私は兄上は劣っていないと言っているのですが、兄上を思って立派だとか言われて全く信じてもらえません」


「何故だ? アルフレッドは優秀だから後継者のままにしていると言うのに、宰相もアルフレッドの教育係の者達も皆優秀だと言っているんだぞ? 何故アルバートより劣っていると言われる?」


 父上も母上も理解できないというような顔をしている。

 私も正直わからないな。


『いやいや、普通にわからないのか?』


 どうやらケイだけは理解しているようだ。


『アルフレッド、俺の考えを言う、賢いお前ならそれで納得すると思うぞ』


 私はケイの話しを聞く。

 そしてケイの話しに私は納得した。

 確かにそれなら弟より劣っていると言う理由がしっくり来た。


『じゃあ後は、お前の仕事だな』


 ああ、わかっている。

 私は父上に話すのだった。


「父上」


「何だ?」


「私がアルバートより劣っていると他の貴族達が言っているのは私とアルバートとの教育の差を見たからではないでしょうか?」


「どういう事だ?」


「例えばですが、二人の人間がいたとして、片方は何をしても褒めてもらえず、もう片方は何をしても褒めてもらえたとしましょう」


「正にお前が言った私が二人に対しての態度だな」


「褒めてもらえない方は期待されているから厳しくしていると言いますが、もし周りの者達がその意図を知らないとしたら、自分達の目に見えているのは褒めて評価される人間と褒めずに評価されない人間という事になります、そんな二人のどちらかを後継者に選ぼうとした時、周りの者達が何を基準に後継者に相応しいかを判断するとしたら」


「目に見えて評価されている方が優秀だと思われる」


 アルバートの言葉で父上も母上もハッとするのだった。


「アルフレッドと同じで他の者達もそう捉えていたのか、だから皆アルバートの方が優秀だと言っているのか」


「周りの者達も同じように捉えていてアルフレッドも同じように捉えていた、おまけにセレンディーネにそんな対応をされたら」


「そりゃ、何もかも嫌になって最近の態度が悪くなるのも当然か」


 父上も母上もどっと疲れたかのような顔をしている。


「私は、アルフレッドには期待しているからこそ厳しくするようにと教育係の者達にも言ったが、まさかこのような事になっていたとは、厳しくし過ぎてはダメという事か」


「私も今回の事で王妃教育を少し考え直した方が良いのかもしれませんね、二人きりの時までそうなっているのでは、いずれ疲れてしまいますし、何よりアルフレッドがセレンディーネにそのように感じてしまうなんて」


『アルフレッド、言って良かっただろ?』


 確かに良かったのかもしれないな、このままだったらきっと取り返しがつかないほど手遅れになっていたと思う。


「しかし、兄上どうしたのですか? 少し前の兄上ならこんな考えは思いつかなかったと思うのですが」


 弟の言葉で父上も母上もそう言えばとでも言いそうな顔をしている。

 ケイの事を話すわけにもいかないし。


「熱で寝込んだ事であらゆる可能性を考えられるようになったのではないかと」


 別に嘘ではない、熱で寝込んだ事でケイが現れ、ケイの意見も聞いて今があるからな。


「そうか、熱で寝込んだ事でかえって頭が冴えたのかもしれないな」


 父上達は納得している。

 これで納得して良いのかと思ったが、これ以上ごまかす必要がなさそうで良しとしよう。

 それから父上達の行動は早かった。

 私に厳しくしている意図を知っている者達に話しをし、その者達が少しずつだが私が優秀だという事を親しい者達に話し、その親しい者達がまた別の者に話していき、それが広がっていった事により、いつの間にか私が弟のアルバートに劣っているという話は聞かなくなった。

 逆に私の事をずっと劣っている兄だと言っていた者達が私に対して申し訳なさそうな者、報復を恐れて蒼褪めている者などたくさんの表情を見る事が多くなった。

 まあ、結果的に私が次代の王だと言う事に反対する者がほとんどいなくなった事で私もいくらか安心するようになった。

 安心したおかげなのかお茶会であったセレンディーネがいつもよりもかわいく愛おしく感じるようになっていた。

 

『なあ、思ったんだけどさ』


「何だ?」


『お前さ、いつも彼女に去り際あんな事言ってるのか?』


 あんな事とは私が彼女を綺麗だと言っている事か? 


「ああ、そうだ、彼女が美しいのは事実だからな」


『うわー、お前あんな恥ずかしい事よく言えるな、ホントにもう、このバカップルが!! 滅べ!!』


「いきなりなんだ!?」


 こいつの事が時々わかなくなるが、それでもこいつのおかげでまた私は手遅れにならずに済んだのかもしれない。

 

『もういい!! 実家に帰らせていただきます!!』


 実家って精神の専用部屋に入っただけじゃないか。

 よくわからないが、私が呼びかけても数時間は出て来ないのだった。

 あいつも疲れているのか?

 



 

読んでいただきありがとうございます。


前作の第二弾でした。

楽しめていただけたら何よりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前作が面白かったので、こちらにもお邪魔しました。 最後の「実家に〜」のくだりが最高でした。
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