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第1回

珍しく連載チャレンジ!!

 勤務先のスーパーで、昨今ポジティブナチュラルな健康志向への意識の高まりを感じている消費者の方々のためのオーガニックを取り入れたロハス?デトックス?な、僕にはよくわからない言葉が羅列された健康志向の高まりを意識した催し物(講演アンド即売会)を実施した。

 上司が言うにはコネをフル活用して人気講師に来てもらったらしい。

らしい。。。しかし、うちは特に高級スーパーでもなく、おしゃれでトレンドなアンテナショップでもなく、百貨店でもない。ごく平凡な庶民向け百選廉価のスーパーマーケットだ。

 だから、そんなお題目を掲げたところで集まってくるのは、ごく普通の人々で構築されている群衆のみである。ほどほどの健康と幸せを日々享受しながら過ごすのが当たり前で、人気講師の高説よりも無料でもらえる粗品だのティッシュなどの方に関心が高い。

僕としては、まぁそれが普通よねー。と思っている。

だいたい、日本の大部分をそういった層が占めているからこそ、平穏と安寧を享受できる世界でも稀有な平和な国家なんだと考えている。

が、そのコネで来てもらった人気講師はそれが不満らしい。

僕はまったく!知らないが、首都圏の方では有名人らしくファンも多いらしい。

でも、うちは先程から述べているような、ごく普通のスーパーなので人気講師が満足行くような反応はほとんどない。

まぁ、さもありなん。これから育ち行くより萎み行く人の方が多い地方だからな。

ま、午後にでもなれば育児中の若い奥様の来場が多少は見込めるだろうから、少しはご高説への反応が良くなるのではないだろうか。

講師の不満は別としてスーパー側としては、そこそこ来場者を招き入れ食品を含む関連グッズをそこそこに売り上げもらえば講師に来てもらった目的が果たせる。そこそこでいいんだと思う。うちは!である。

この、そこそこも講師にとっては不満っぽい。よほど他の会場ではもっと売れているのか、何度かチラチラと在庫を見ている。

講師としては直伝の書籍やDVDやグッズの売り上げが気になるのはもっとだ。

が、うちは講師目当てのお客様についてきたご家族!も含め狙っているので客寄せをしてくれれば充分だ。

今の所十分な役割を果たしてくれていると思う。もちろん、うちは!である。

この講師はそれも不満なのだろう。不満は理解しよう。

適材適所の言葉が示す通り、本来事物が有する魅力能力を遺憾無く発揮するには環境という要素は切ってもきれない関係だ。

少なくとも、このオバはんが光輝くのは、この郊外と名のつく片田舎ではないのだろう。

肩書きどころか高説も活かし切っているかも怪しいもんだ。

どんなに立派な高説でも、名誉ある肩書きでも、聴衆が聞かずに相手に通じるところがなければまったく全然無駄なのだ。お客に試食や試飲のマネキンさんと同じ扱いを受けたとしても、それはどうしようもないことだ。

このオバはん、いや講師のマダムも苦労と研鑽を重ねて今の地位を築いたのだろうが、そこのところをよく理解していただき会場整理という名の雑用パシリのボクに八つ当たりしないでほしい。

はっきり言ってこのおばはん、ナンタラカンタラアドバイザーとか英字の肩書きがなく、会社が招いた来賓でなければ店の階段から蹴り落としたい。しかし、それを思うのは僕だけだ。。。

このオバはんイヤ講師は、さすがに社会で年季を重ねているマダムなだけあって、どんなに無礼な腹の立つ客でもにこやかに対応し自らの立場や理論を説明する。

客へお理解が及ぶかどうかは別にして。。。。

上司とも普通の社会人として会話している。僕への対応が同一人物かと疑うほどに裏表がはっきりしているのだ。

例え、僕個人への対応が悪く嫌味や八つ当たりを受けたとしても、客前ではにこやかで明るく爽やかに微笑み、どんなくだらない質問にも嫌な顔をせず無礼を働かない!そうである以上!

来場者数などを考えると、社畜であり社会人である僕は!社会秩序の建前を持って苦虫を噛み潰したような笑顔で対応をしなければならない。


「どうせ出来合いのを出すなら、ミネラルウォーターとシリアルバーにして欲しかったわ。私、健康や食育なんかで講演してるのよ。いくら下っ端の社員さんでも、そのくらいは意識して働いてくれてるんだと思ってったわ」

セミナーの間の昼飯に、うちのスーパーで人気のチキン南蛮弁当スペシャルとペットボトルのお茶を出したらため息をつかれた。

「あ、え、その。すいません。すぐにお取り換えを。。」

なんだこのババァ。テメー賄いでタダなんだから嫌なら食うなよ。。。。

いかん、怒りで脂汗が。。。

「自分で買いに行くわ。あなたに頼んだらドラッグストアの廉価品買ってきそうだもの」

ババァはすっと俺の横を横切ると、ため息をつきながらドウシテモチホウハネェ。。。。。。と言いながら部屋を出て行った。

「時間には戻るから心配しないでちょうだい」

という捨て台詞も忘れない。。。。。。。。


「鍬ラブベバァ!!!!!!!なんだあのババァ!!なんであんなの呼ぶんだよ!JAの磯崎さんのイングリシュガーデンで腹一杯収穫!でいいだろうがよ!!!」

その講演のせいで、磯崎さん税務署に目をつけられたって講演断ってきたんだけどな。。。。

褒められて調子に乗って、いかにして収益性の高いハーブなんかを趣味に見せかけてこっそり育てるかなんて言ってたもんな。。

やっぱり順調な 隠し事って喋りたくなるんだよなぁ。。。。

「チキなんスペシャル。うまいうまいって食べてくれんのにな磯崎さん。。。」


うちのチキなんスペシャルは、メインのチキン南蛮の鶏肉は近所の養鶏所が朝〆て持ってきてくれる。今日シメタ鶏の名前を言いながら、美味しく食ってくれと言い置くのを忘れない。

「なぁ、アンソニー」


野菜は1ブロック先の農家のご隠居さんが、家庭菜園(約3反分)と称する畑で朝収穫したものを税務署に目をつけられないようにこっそりと納品している。

「息子さん役所の税務課だからばれてるよ。課税対象の金額にならないからほっておかれてるんだよ」


調理は隣町の潰れかけの旅館の板さんがアルバイトで丁寧に下ごしらえする。

「渋いんだよなぁ。訳あり流れ板って感じで。大女将が鬼籍に入るまで、出戻り若女将(年季入り)と旅館経営頑張るって言ってたっけ。そういやぁ、あの二人には変なファンクラブがついてたな」


その後、仕上げやタルタルソースを近所の手練れのパートの奥さん方が素早く仕上げている。

タルタルソースの美味さや安全性は、パートの奥さんの5人の息子達が体現してくれている。全員、中高生のくせに俺よりも背が高くて体格がいい。運動部の脳筋いや健康優良児だ。

「チェーン店の弁当よりうまいのに」


確かに、カロリーは高いしヘルシーかと言われれば自信がない。でも、うまいには自信アリなんだけどなぁ。あのババァには通じないよな。。。。

仕方ないのでチキなんスペシャル自信作は僕の腹に収まった。


しかして、午後。バックヤードとは打って変わったきらびやかな笑顔で講師は接客対応をしている。食に関心の高い若い奥様方が講師をちやほやして話に聞き入っているからだろう。

マリアナ海溝からエベレストまで駆け上がるがごとくの表裏の差には感心すらするが、ふんとにロクでもないババァだ。

「なぁ、相棒」

僕は今、その聞き入ってる奥様方の1人の赤子の様子を見ている。託児所を開くつもりはないが、熱心な奥様にババァの機嫌をとってもらえるなら何時間でも赤子を見つめていられるさ。

泣き出したら、すぐ奥様呼ぼう。

「いいよな~。食っちゃ寝食っちゃね。寝るのが仕事だもんな~。羨ましいぜ。相棒」

そう同意を求めるように赤子の頬をつつくと、ブヘ~っと笑いながら赤子は僕の親指をつかんだ。

あ、可愛いなぁ。赤子は特に好きじゃないけど、笑う子は素直に可愛いと思える。

などと癒された気になっていた僕の耳に信じがたい音が響く。

「おメーよぉ~。何にも知んないからワシらのこと羨ましいだの寝るのが仕事だの、脳天お気楽なこと言ってけどよ~。わしこれからエライ目合うのよ。あん」

さっきまで無垢な愛らしい顔をしていた赤子が、急に豹変して下から睨めつけるような目線で僕を見上げている。結構顔の整った目の大きな赤子なので少し怖かった。

これなにストレスからくる心身症の幻覚。。。。。

「おい、にいちゃん聞いてっか?聞こえてんだろ?なんだキタねぇなぁ。顔から汁垂れてんぞ」

え、この赤子、生後1年経ってないくらいだよね。

1年未満でこんなベラんメェで喋るもんなの?最近の子って。

いや待て僕!深呼吸だ深呼吸。働きすぎか、あのババァのせいのストレスを感じているんだ。軽い幻聴を。。。。

「男のくせに肝が小せえなぁ。玉ついてんのかよ?気のせいじゃねーよ。深呼吸しても背伸びしてもなかったことにならねーよ」

赤子にビビらされ、さらに脂汗を流す僕、体の大きさは僕の方が確実に大きいにもかかわらずだ。。。。

なんか、脂汗がとまんない。

これって冷や汗?

周囲に助けを求めたいが、なんて言って助けてもらう?

赤ちゃんが睨むんです!!

ベラんメェで江戸前ジジィのような口を!!!


いやいや、待て、待て。

こんなの口に出しただけで、アウトなのは僕だ!

肩たたきの上に、ウェルカムトゥハローワーク!!

落ちつケェ、落ちつケェ、僕!

さっきも思ったように、どう考えても僕の方が体格的にも体力的にも上回っている。

睨まれたところで生命の危機を感じる方がおかしい。

この、親指を赤ちゃんに握られている構図だって、周囲には子供好きの好青年がお客さんの赤ちゃんと戯れているようにしか見えない。

それをいきなり睨まれて生命の危機を感じてるんですって。。。

赤ちゃん返りをした幼い兄姉でも言わないぞ。

「無駄だってにいちゃん。助けなんか求めらんねぇよ。コレ、にいちゃんにしか聞こえてないんだわ。」

赤子はニヤリと口角を上げ大きな目で睨めつける。

「あらかわいいわねぇ。お目目ぱっちりでちゅねー」

たまたま通りがかった婆さんが赤子に笑いかける。

いや、ばあさん、これコイツ睨んで、その。

僕はこれでもかと目を見開き赤子を見ると、婆さんに向けて愛らしく無垢な顔でキャキャッと笑っている。合いの手にアブ~などと赤ちゃん特有の仕草なども取り入れている。僕の親指を握ったまま。。。。

「だから言ったろ。コレ、にいちゃんにしか聞こえてないし見えてないのよ。」

脂汗が止まらない。。。。。メェダ~ム、レスキューミーシュブプエェ!!!

絞り出すような僕の心の叫びは全く通じず、婆さんは気に入られちゃったわね。と笑いながら去っていった。


「その、あの失言でした。尊厳を著しく傷つけるような配慮に欠けた発言を。。。」

「カァーーーーー。せっかく赤ん坊と話すなんざ滅多にない機会に、カンペ読んでる官僚みたいなこと言うんじゃねーよ。シラけちまうよ」

「重ねて申し訳。。。。。」

「まぁ、しかたねーよな。心の準備つーもんがいるわな。ワシも大人気なかったよ」

赤子に大人気を語られてしまった僕は、情けなくも脂汗継続中でヘドモドしている。

赤子にシロクノガマカヨと言われるくらいに垂れ流れているようだ。

「いえ、僕も安易に羨ましいなどと。。。。。はい」

赤子はまだ僕の親指をつかんで大きな目で睨め付けているはずだ。しかし、僕は赤子を見返すことができずにさっきから他所を向いてばかりいた。

「おい、にいちゃん。こっち向けよ。とって食いやしねーからよ。目も合わせねーなんて寂しいことすんじゃねーよ」

「すいません。その僕」

「どうせ、他人様の顔なんか後1、2年ほどしかまともに見られねーんだからよ」

「え」

赤子の意外な発言に僕はやっと赤子の顔を見ることができた。やはり、整った顔の目の大きな可愛い顔をしていた。睨め付けてるけど。。。。。

「やっとワシの顔みやがったな。肝の小せえにいちゃんだな」

赤子は僕と目が合うとニヤリと笑った。

「えーと、その。まさか何かご病気を。。。その妖怪病院へは。。。」

「変な言葉遣いだな。まぁ、安心しネイ。妖怪じゃねーし、死んじまうんじゃねーよ。」

なんだか少しホッとする。たとえ、この赤子が妖怪であったとしても幼い者が短命なのは痛ましい。

赤子の言う通り僕は肝が小さいのかもしれない。

「オメーによ。クッチャネクッチャネでうらやましーって言われてよ。ついな。ワシも大人気ねーわ」

赤子は妙にニヒルな顔で笑う。前世は粋な江戸前ジジィだったのかと思われた。

「ワシらが生まれたての頃には、誰でもこれからのてめーの人生を走馬灯のようにみられるのよ。未来の記憶ってやつだな。その記憶は大きくなるにつれ忘れちまうんだが、虫の知らせだとか勘がいいって言われるやつってのは未来の記憶を頭の片隅で覚えってんだろーよ」

「誰でもですか?」

「ああ、にいちゃんも見えてたと思うぜ。もののついでだ。にいちゃんが羨ましがる、わしの未来の記憶教えてやるよ」

赤子は深く口角にシワを作ってニヤリと笑うと、僕の親指に力を込めた。



続くんです。はい。


さてさて、どうなることやら。。。

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