終.人狼はすぐそこに
身体に走る衝撃。僕は、クロリアの言葉を聞いて、ただ、ただ、ポカンとしていたままだった。
「えっと……」
「是非、それで、私のことを撃ち殺してほしい」
「……冗談だよね?」
一応、そんな言葉を口にしてみる。けれども、クロリアは首を横に振った。
どうやら、クロリアは、本気で言っているようだ。
「僕が、クロリアのことを撃ち殺すって……なんで? どうして? どうして、そんなことをしなくちゃいけないの!?」
「それは……キミも薄々勘づいていたのだろう? 私に対しての、違和感を」
違和感……?
確かに、僕はクロリアから、違和感を感じていた。クロリアの行動、発言、意図。それらには、時々、不思議に思う部分がある。
クロリアは何故、僕に人狼を倒す手伝いをさせたのか。それは、前に、クロリアが説明していたが、信用の置ける人物に護衛として、いてほしいから、と聞いた。
だが、それは本当にそうなのだろうか? もし、何か、他の目的があるのだとしたら?
それだけではない。クロリアの目的。クロリアが、僕をあの世界へ連れ出した理由。それは、人狼を退治するためであったはず。クロリアや他の人たちの口振り的に、人狼はあの世界に数多く存在していると、考えることができるはず。だと言うのに、クロリアはあのホテル内に潜んでいた、たった二匹の人狼を退治し、さも、自分の仕事がすべて終わったかのような発言を残していた。
それは、おかしいことだ。
クロリアの発言から推測できること。推測できる目的。
それは、人狼を根絶すること。人狼への復讐。
クロリアの発言、表情、行動などから、クロリアにはそのような目的があったはずである。
だと言うのに、まだそれを成し遂げていない、今、この状況で、僕にピストルを渡し、「私を撃ち殺せ」と言ってきた。
これらから、考えられることは――。
「……クロリア。きみは、始めから、人狼を退治することが目的ではなかった」
クロリアは、僕に嘘をついていた。嘘と、嘘と、嘘と、嘘と、嘘を。
「きみは、始めから『自分自身が死ぬこと』を目的としていた……?」
明らかに不自然だった。それは、僕を護衛役として、あの世界に連れ出した理由や、僕にあの魔法を掛けた理由も、何もかも、不自然なのだ。
何も、僕自身にあの魔法を掛けなくても、クロリア自身に魔法を掛けて、人狼退治を行うこともできたはず。にも関わらず、右も左もわからない僕にその魔法を掛けて、『僕自身の手』で人狼を倒させようとした。
それは、いったい、何故? 何故、僕に、人狼を、倒させようとした……?
「きみは、最初から死のうとしていたんだ。僕に、嘘をついてまで」
最初から、最後まで。
「……その通りだよ」
「じゃ、じゃあ、やっぱり……」
「だが、少しちがう」
ちがう。その、言葉の意味にすがりたいのだが、死ぬこと自体は、否定されていないように感じる。
「私は――キミに殺されたかったんだ」
言っている意味がわからない。わからなさすぎて、わからない。
「人狼は狡猾に嘘をつき、人を騙す。それが人狼の特徴」
「…………」
「ただの人間とは比べ物にならないほどの能力を持っている」
クロリアは、淡々と話を続けていく。独り言を、呟くようにして。
「……さて。さてさてさて。そろそろ、キミも、知るべき時間だよ」
……知るべき、時間。何を? 何を、だ? 僕は、何を知らなければならない?
疑問を頭に撒き散らした状態で、僕は思考する。そんなとき、ふと、脳裏に、過ってはいけないことが、過ってきてしまった。
『人狼は狡猾に嘘をつく』、『人に化ける』、『ただの人間とは比べ物にならないほどの能力を持つ』……それが、人狼の、特徴。
だと言うのならば、クロリアは……。
「……私は、クロリア。クロリア・シュプリエルノ。ただの――『人狼』だよ。それが、私の正体」
僕の嫌な予感は、当たってしまった。
「思い返してみてくれ。あんな芸当をやってのける人間、何処の世界にいる?」
「……僕を、あの世界に連れ出してくれた理由は?」
「私が人間ではないからだよ」
「……クロリアが、僕の手のひらに、魔法を掛けたのは?」
「それも私が人間ではないからできたことだ」
「……クロリアの占いは!? 占い師、のようなものって自分で言っていたよね!?」
「それも、自分が人狼だから、においで人か人狼かを判別しやすいってだけで、本当は占いなんて、何一つしていない」
信じられなかった。僕には、今、クロリアの言葉の、何もかもを、信じることができないでいる。
「……私は、ずっと。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、死にたかった。私のことを、殺してくれる者を待ち望んでいた」
「それが、僕、ってこと……?」
「ああ」
意味が、わからない。
「私は、ずっと独り。ずっと、孤独だった。人狼であるというのに、人間を殺すことが得意ではない。人狼が何故、人殺しをするのか。その習性も理解できない。バグのような存在。それが、私」
クロリアは懐にしまっていたステッキをまた取り出して、そのステッキで地面に図を描き始める。
「『人狼』……その枠組みに入れられたくはない、けれども、人間と、馴染めることもできない。居場所のない存在」
ヴェルも。ヴェルも、似たようなことを言っていた。似たような悩みを、抱えていたはずだ。
「……あるとき。此処に、キミが現れてくれた。私に『居場所』をつくってくれた……キミがね」
複雑な気持ちだ。
「救いだと思った。救いだと、思ってしまった。……だからね、私は一番の友であるキミに、私のことを殺してほしかったんだ。……終わらせて、ほしかったんだ」
理解できない。
「……つまり、僕は……きみの自殺に付き合わされた、という……こと?」
「悪いとは、思っている。キミを利用してしまったこと。何もかものことを」
理解が、追いつかない。
クロリアは、人狼で、人間ではなくて、元々、死のうとしていて、僕に殺されることを願っていて。
人狼を退治する。その言葉も嘘で、本当は死にたかった、だけ。
苦しくて、生きにくい世界から、ただ、退場したかっただけ。
その、苦しさから逃れるために、クロリアは、僕に、殺されたいと……願った。
……何故、僕は、クロリアを撃ち殺さなければならないんだ? 何故だ? 何故だ?
「キミに、人狼を退治させたのも、人狼がどれほど狡猾で醜くて酷い存在であるかを、理解させるため。キミが、私を撃ち殺すときに、躊躇うことのないように、人狼という存在が恐ろしいものであることを理解させるため」
「…………」
「私は、狡猾に嘘をつき、人を騙し、陥れる、恐ろしい存在、人狼だ。アキ。さあ、私を撃ち殺せ。頼む。撃ち殺してくれ……」
クロリアは、切実に、僕に訴えかけてくる。自分が。自分自身が、死ぬために、僕に訴えかけてくる。
「……遠慮はいらない。さあ、早く」
クロリアは、僕のことを急かしてくる。何度も、何度も、急かしてくる。
だけど、僕は――。
「……そんなこと、できないよ」
クロリアの頼みを、否定した。
クロリアのことを撃ち殺す……? そんなこと、できるわけがない。できない。そんなこと、絶対に、したくない。
「クロリア。ごめん。それは、できないよ……」
僕は、クロリアに頭を下げていた。
「人狼という存在は、確かに、恐ろしい存在なんだと思う。でも。クロリアは、恐ろしい存在なんかじゃ、全然ないし、僕の知っているクロリアは、優しいし、カッコ良いし、僕のことを想っていてくれる、素敵な存在だ。だから、僕には、できないよ」
僕は、頭を下げ続けた。
クロリアのことを撃ち殺したくなくて。クロリアに死んでほしくなくて。クロリアに生きていてほしくて。
クロリアと、また、いつものように、笑い合いながら、日常を送りたくて。
僕は、頭を下げ続ける。
嫌だ。嫌だ。そんなの、嫌だ。クロリアのいない、そんな世界は間違っている。
しかし、ここで、何処かから、良くない囁きが聞こえてくる。
「間違っているのは今だ。普通の人間しかいないはずのこの世界に、あり得ない存在が混じってしまっている今、この状態が、間違っているのだ」……なんて、囁きが、聞こえてくる。
確かに、そうなのかもしれない。クロリアという存在は、非日常的存在だ。この世界にあるものでは説明のつかないような存在。それが、クロリアという存在だ。
それが、クロリアという存在なのだ。
故に、クロリアはこの世界にあるべき存在ではないのだろう。
けれども、僕は、どうしても、それを否定したくて、否定したくて、堪らないでいる。
クロリアには、この世界にいてほしいと、僕の傍にいてほしいと、願っている自分がいる。
だから、僕はピストルを地面に捨てた。
「クロリア……きみは、嘘をついているよ」
「あ、ああ。私は嘘をついていた」
「ちがうよ」
「……えっ?」
「……クロリア。きみは、本当は死にたくなんて、ないんじゃないかな?」
「……莫迦な。この、私が……?」
「うん。だって、手が震えているもの」
僕は、ゆっくりとクロリアの方に近づく。
「クロリアは、人狼という存在。人狼というものを放っておくことができなくて、人狼を退治しようとしていた。その気持ちは本物だと思う。だって、自分が、クロリア自身が、その人狼であるからこそ、その嫌忌している対象であるからこそ、クロリアは自殺しようと考えていたんでしょう? ほら、繋がった」
「……繋がった、か? 無理矢理ではないか」
「無理矢理なんかじゃないよ。クロリアは確かに人狼なのかもしれない。でも、クロリアは人を襲わないし、人狼という存在を絶とうとしている。その気持ちに嘘偽りはない」
そう、信じている。
「クロリア。きみは、ずっとずっと、ずっと思い詰めていたんだね。僕だって、そうだったよ。そう、だった。でもね、僕はきみと出会って、救われた気持ちになったんだ。思い詰めていたことが、一気になくなったような、そんな気持ちになれたんだ」
孤独。独り。何もない。誰もいない。
そうだったはずなのに、きみと出会えたおかげで、僕は――変われることができた。
……だから。
「……だから、クロリア。今度は、僕の番だよ」
「……聞きたくない」
「クロリア。僕のことを、もっと頼ってほしいんだ。苦しいと思ったら、是非、僕のことを呼んでほしい」
「……うるさい」
「僕は、クロリアに救われたんだ。だから、今度は、僕がクロリアのことを救いたい。もちろん、殺すだとか死なせるだとか、そういう方法ではなくて」
何か、他の方法で。
「これ以上……私に、優しくしないでくれ。……頼む。でなければ……生きたいと思って、しまう……」
クロリアの瞳から一粒の涙がスウッと落ちる。涙が一粒、二粒と溢れ出して、クロリアの顔を赤く腫らしていく。
「クロリア。僕といっしょに生きてほしい。もう、独りは……嫌なんだ。でも、クロリアと二人でなら、生きていける。そう、思っている。だから、僕の傍にいてほしい」
「……莫迦か」
そう言いつつも、クロリアはクスッと笑い返してくれた。また、僕の前で見せてくれたような、いつもの笑みで。
◇
廃校の屋上。そこに、いつも彼女はいる。
麗しい見た目。百年か二百年か。僕が生まれた遥か昔から存在していたかのような雰囲気。まるで、アンティークドールのよう。
肌は白く、髪は黄金色に輝き、その美しくて人間とは思えないような『モノ』を黒い衣が包む。
そして、その『モノ』がルビーのように真紅に輝く双眸で、僕のことを待っていたかのように見つめていた。
「……クロリア」
僕はその『モノ』の名を呼んだ。僕のその言葉に反応するように、その『モノ』……クロリアは僅かに瞬きをし、口許を緩ませた。
瞬間、花弁が辺りを舞い、漆黒に染まったカラスが此所を飛び立つ。
世界がクロリアに合わせて動いているかのようだ。クロリアのために、神は空気を創造する。
「……待ちくたびれた。アキ」
クロリアは、笑みを浮かべて、僕のことを見ていた。
「ごめん、ごめん。今日はちょっと、家を抜け出すのに時間が掛かっちゃって」
「まあ、良い。ふふっ。では、そろそろ、出掛けるとしようか」
クロリアはそれだけ言って、懐からステッキのようなものを取り出す。そして、そのステッキがクロリアの手から離れ、独りでに動き始める。
「出掛けるって……何処へ?」
「おや? 私の目的、キミはもう忘れてしまった、というのかな?」
「ええと……」
「あの日、大胆にもキミは私にプロポーズをしてきたではないか。もしかして、そのことも、忘れてしまったと?」
「プ、プ、プロポーズって……!」
僕はそのワードを聞いて、恥ずかしくなってきてしまったのか、クロリアの方から視線を逸らしてしまう。
プ、プロポーズ。確かに、解釈の仕方によっては、そのように捉えられてしまう可能性も……あるのかもしれない。
「うふふっ。まあ、そちらは本題ではない」
本題ではないみたいだけれど、冗談で言ったってわけでもないらしい。
「クロリアの目的……それは、人狼を退治し、根絶すること、だったよね?」
「ああ。そうだ。正確には、私の目的ではなく、キミが私に示してくれた目的、とでも言うべきか」
あの日。あのとき。クロリアのひょんな頼みから始まった、人狼退治。
僕は最初、それがクロリアの目的なのだと勘違いしていた。それがクロリアの目的なのだと思い込んでしまっていた。
しかし、本当はそれはクロリア自身が死ぬための、準備段階にしかすぎなかった。
そうではあるけれど。でも。内心は、クロリアは死にたいと思っていなくて、その上、人狼を退治して、人間たちを自らの手で守ろうと思っていたのだ。そう、思っていたのだ。
まだ、僕たちはそれを成し遂げることができていない。
だから、その目的を果たしに行こう。二人で。
「さあ、共に行こうか。異世界へ」
そう言って、クロリアは、優しく僕の手を取る。
そして、僕のことをまた異世界に誘った。
〈了〉
(あらすじ)
ただの人間である主人公と謎の少女が手を取り合って人狼を退治する、ダークファンタジー。
現実世界。ある廃校の屋上。主人公の天道アキ(てんどうあき)は、ある者と出会うために、今日もそこへ訪れる。
そんなアキを待ち受けていたのは、真紅の双眸、金色に輝く髪、つくりもののように白い肌、異質な雰囲気、まるで、お伽噺の世界からやってきたのではないかと見紛うほどの見た目をした謎の少女、クロリア・シュプリエルノだった。
その日、唐突に、クロリアはアキにこのようなことを言う。
「キミのことを誘拐しても構わないだろうか」と。
これに了承したアキ。そんなアキは、信じられないような光景を目の当たりにすることになる。
クロリアがステッキを取り出して、そのステッキが独りでに動き出し、この世界を切り裂いて、異世界へと繋がる空間をつくり出したのである。
状況をよく呑み込むことができないまま異世界に連れ出されたアキなのだが、そこで、またしてもアキは信じられないようなことをクロリアから聞くことになる。
クロリアが言うには、この異世界には人狼というものが存在して、人狼は嘘を巧みに操り、人に化け、人を騙し、人の血肉を喰らうという。その人狼を退治するために、クロリアの護衛役、所謂、『騎士』、になってほしいという。
クロリアは人狼ゲームにおいて、所謂、『占い師』、という存在であり、占い師は誰が人狼であるのか、誰が人狼ではないのかを判別できる存在であるのだと語る。その占い師であるクロリアを護衛してくれる存在がほしくて、『騎士』になってほしいとアキに頼み込んできた。
アキはこれも了承し、クロリアの『騎士』になることを誓う。
そうして、アキとクロリアは、人狼を探し始めた。クロリアは、人狼が潜んでいる場所の目星がついているらしく、二人はその場所へと向かった。
二人が辿り着いたのはとあるホテル。クロリア曰く、そのホテルに人狼が襲撃しにやって来るのだという。二人は、そのホテルの五階に泊まることになる。
ホテルの自身の宿泊部屋を確認するために部屋に向かうのだが、そこで、アキやクロリアと同じく、その世界にいるには似つかわしくないような見た目をしたお姉さん、ヴェル・クローネルと出会う。快活そうな笑顔を見せるが、何処か抜けている感じのヴェルと、アキは意気投合した。
談話室に移動し、ヴェルとアキは話していたのだが、そこに、一人の男が乱入してくる。その男、アーノルド・ガスターはこの異世界の警察官であり、クロリアのことを追いかけていた者であった。
アーノルドも加わり、全員で雑談をしていたのだが、突如としてクロリアはこんなことを言い始める。
「どうやら幕開けみたいだ」
その言葉と同時に、ホテル内に異変が起き始め出した。
どうやら、ホテルの外に出ることができなくなり、電話も通じない、ホテルの中も何故か一階と五階のみしか移動ができなくなっていた。クロリア曰く、こうなってしまった原因は、人狼に味方する悪い人間、『魔術師』の魔術の仕業であるという。
そして、遂に、始まってしまった。人狼による、襲撃が。
ホテル内に悲鳴が響き渡る。アキとクロリアは、一刻も早く人狼の正体を突き止めて人狼を退治するために、情報を集めることにする。聞き込みをし、様々な情報を集めていく。
聞き込みを終えた後、クロリアはアキに問う。誰が怪しそうで、誰をどのように感じたのか、と。
それを盗み聞きするようにヴェルがやってくるのだが、突然、ヴェルの顔色が悪くなり、アキとクロリアの二人から離れていってしまう。
それ以来、ヴェルの顔を見なくなってしまうアキだったのだが、暫くして、ヴェルと再会する。
しかし、再会したのも束の間、アキ、クロリア、ヴェル、アーノルドの四人でいたのだが、何故か突如として見えない壁が発生し、アキとヴェル、クロリアとアーノルドの二対二の状態に分断されてしまう。
アキとヴェルはクロリアたちと合流するために抜け道を探そうとするのだが、その道中で怪しい人物の候補として挙げていた、アントレ・アルバスとイシュ・ザフィーナのカップルに遭遇した。
しかし、次の瞬間、アントレが驚く行動を取り始めた。
散弾銃を取り出し、アントレの彼女であるはずのイシュを、その銃で撃ち抜いたのである。
アントレのことを警戒したアキなのだが、撃ち抜かれてしまったイシュの死体をよく見てみると、あり得ない色の液体が死体から溢れ出していることに気がつく。そこでアントレは語る。イシュが人狼であり、アントレとイシュの二人は複雑な事情を抱えていたということを。
アキは警戒を解き、再び抜け道を探していると、また、いつの間にかヴェルとはぐれてしまう。
そのかわりに、アダン・ボースターという謎の少年と共に行動をしていたのだが、突然、アキとアダンの二人は危険な気配を察知する。それは、人狼が二人のすぐ近くに迫り寄ってきている気配であった。
二人は合図を決め、二方向に別れ、逃げ始める。
しかし、どれだけ走っても、端に着くことができない。それは、『魔術師』の魔術によって、廊下などの空間が無限に続いてしまうようになってしまっていたのだった。
アキは逃げるために走っていたのだが、そこでヴェルとまたばったりと遭遇する。
アキは違和感を感じた。そして、アキはここで違和感の正体に気がついてしまう。
何故か五階には移動できる謎。いきなり顔色を悪くし始めたヴェル。タイミング良くできた謎の見えない壁。
これらの要素から、アキはヴェルが『魔術師』であることを見抜いてしまうのだった。
そんな人狼の味方をする『魔術師』であるヴェルを、突如として二人の前に現れた人狼が襲い掛かる。
アキは無理でも人狼に殴り掛かるのだが、ここで、異世界に来るときにクロリアに魔法を掛けられており、その魔法が発動し、アキ自身の拳で人狼にダメージを負わせることに成功する。
人狼が気絶している間にアキはヴェルのことを背負い、アダンと決めた合図を行い、助けを呼びながら、人狼から逃げ始める。
気絶した人狼が復活し、アキのすぐ後ろにまで迫ったそのとき、後ろから見知った声がする。それは、アダンとクロリアの声であった。
アキはクロリアと手を取り合って、拳を握り締める。そして、二人の眼前にまで迫っていた人狼にその拳をぶつけた。
その拳によって人狼を見事退治することができ、この人狼をもって、このホテル内にいた人狼をすべて退治することに成功した。
クロリアは異世界に滞在できる時間にも限りがあることをアキに伝えると、二人は異世界から現実世界にまた帰ってくる。
そして、突然、アキはクロリアからピストルを手渡されるのであった。
クロリアから伝えられる、衝撃の事実。クロリアの正体は人狼であり、クロリアの目的は『人狼を退治すること』ではなく、『人狼であるクロリア自身をアキの手によって殺してもらうこと』だったのである。
クロリアの頼みを断ったことのないアキだったのだが、アキは初めてクロリアの頼みを断ってしまうのであった。
『私を撃ち殺してくれ』と何度も懇願するクロリアなのだが、アキは手渡されたピストルを捨て、やはりクロリアの頼みを断ってしまう。
アキはそして言う。クロリアは本当は死にたくなんてないのではないか、と。
クロリアのことを殺したくはない。クロリアといっしょにいたい。その気持ちはアキだけでなくクロリアも同じであった。
クロリアはアキに励まされたことによって生きることを決意し、二人は再び手を取り合う。
そして、また、人狼退治をするために、異世界へ向かうのであった。
【描いた絵を貼りつけていくコーナー】
※作者が描いた絵です。苦手な方は表示設定で挿絵の表示をオフに変更することを推奨します。
クロリアを描きました。クロアリじゃないです。クロリアです。バニーの格好をさせようとしたのですが、やめました。あと、疑問符や感嘆符のあとに文章が続く場合は全角スペースを挿入するという暗黙のルール的なやつを知っていたのに、半角スペースになる設定にしていたことを忘れて、この絵を描く一ヶ月前にようやく疑問符や感嘆符のあとのスペースが半角スペースになっていたことに気がつきました(えぇ……?)。気が向いたら、修正します。
プロのイラストレーターさんが描いたクロリアとか誰かが描いたクロリアとか見たいし、絵について語り合いたいんですけど、そういう機会が訪れなくて悲しく思っていたりします。まあ、0ptとか5ptとか10ptとか本当に深淵の底にある小説とも言えない何かをいくつか書いている者なので、むしろ、そういう機会が訪れたらびっくり、ですかね。
(2023年8月30日追記)