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第三話~悩む俺と見つけた僕~


 ……困った。

 陽に何か用事があるって書かれてたんで屋上に行ってみたら、女の子に告白された。

 

 非常に、困った。


 「……どうしたんすか、おんさん」

 「なんでもねえ」


 俺の取り巻きの一人にぶっきらぼうに返事をして、今日の俺の機嫌をみんなに知らせる。

 

 ここはどっかの廃工場跡。壁や床にはラッカースプレーで渾身のアートがいくつも描かれ、俺の最高の居場所を演出している。鉄パイプの椅子やらテーブルやらが無造作に置いてあり、その全席でトランプゲームや腕相撲など、自分がしたいことをここでの決まりに則って自由にやっている。


 んで、俺はこの中でも一番偉そうな椅子に座って、その様子を眺めている。

 ここは俺の城、『キャッスル』。

 ただの廃工場跡だが、俺達『グループ』はそう呼んでいる。


 普段俺は陽と呼ばれ、まるで他人の体の中にいるみたいな錯覚を受けるけど、ここでは違う。俺が一から作り上げて、俺がまとめ上げた『グループ』だ。絶対に、俺には陰以外の呼び名は許さない。


 リーダーでも、キングでもダメだ。俺の名前は陰。陰以外には認めねえ。


 

 「……どうしたんすか、陰さん。今日はなんかあったんすか?」

 「なんでもねえ」


 こいつらは無法者だ。正直、俺が束ねてなきゃすぐにでも犯罪に手を染める、ってか気が付いたら犯罪に手を染めているような奴らばっかりだ。


 そんな奴らに、『今日かわいらしくておどおどしてる女の子から告白されたんだけど』なんて相談してみろ。


 すぐさま『連れてきてくださいよ!』とか、なんとか言って、そのこをマワす算段がこいつらの周りでつくだろう。

 

 まあ、陽ってのが誰だかは知らねえが、せっかく恋人になれそうなんだ、いい返事はしてやろうとは思ってる。思ってるが、こいつらがなあ……。


 「……おい、今日は解散だ。……気分が乗らねえ」

 「はいっす!」


 誰か一人でも気分が乗らなきゃその日はなし。

 それが、『グループ』の数少ないルールの中の一つだった。


 俺の言葉じゃなくても、誰でも『今日は無理っす』と言えば解散。いつ解散させても、何度解散させようと文句は言わない。それがルール。


 今日解散したのはもちろん、あの告白してきた女の子のことを考えるためだった。

 同じクラスの、確か迫水さこみず渚、とか言ったか。


 あいつのことが、今は頭から離れねえのに、こいつらとは、遊べねえ。













 「ただいま」

 家の扉を開ける。

 「……お、お帰り」


 そう親父は言うけど、その声にはどっか怯えがある。

 「おい、怯えんなよ。……何にもしねえから」

 そう言ってやっと警戒を解く、って子供を警戒してる親なんているんだろうか。


 ……ったく、なんでかなあ。俺のこと十六年かそこら見てんだろ、なんで怯えんだよ。

 それが疑問でならなかったが、いちいち詰め寄ったらまた怯えるんで、今はほっといてる。


 「……夕飯なったら呼んでくれ」

 「あ、ああ……」


 俺はそう言うと、二階に上がる。二階には、自分の部屋があるからだ。


 あんな親とは、あまり話がしたくない。







 「……だあっ!」

 ダメだ、なーんも思いつかねえ。

 俺の部屋は、本当に俺の部屋かどうか疑わしいぐらいに整頓され、本やゲームの趣味などもまた、普通だった。


 あいつのことを考えていたんだが、なんにもいい考えが思い浮かばん。

 ……寝るか。

 そうだ、寝りゃいい。寝りゃきっといい文句が浮かぶ。

 よし、寝るか。


 あ、そうそう。大切なことなんかねえけど、一応。

 俺は簡単にメモを書くと、ベッドに飛び込んだ。

 

 俺は寝つきがいい。

 今日も例にもれず、すぐに眠れた。














 ……ん……。


 僕は、窓からの日差しで目が覚めた。

 ………あ、昨日朝に不良に絡まれて、……どうなったんだっけ?

 ああ、また思い出せないや。きっとまたお父さんやお母さんに迷惑かけたんだろうなあ……


 とか思いつつ、僕は起き上がる。

 


 ……?


 ふと、不思議なことがあった。

 机の上に、見たこともない筆跡で、メモがあったのだ。


 『迫水渚』

 『俺が告白される』

 『一週間後、返事』

 『基本的にはいい返事を。なんか考えねえと……』

 

 という内容のメモだった。


 ……ええと、確か迫水さんっていつもクラスの中心になってる人、だったよね?

 その子が僕に告白?

 まさか。


 ……でも今は正直、そんなことはどうでもいい。

 今、一番僕が気がかりなのは。


 このメモを書いたのは、誰だ?


 一人称は俺。筆跡からすると、けっこう乱暴そう。

 ……そんな人が、僕の部屋に入ってきて、自分のメモを残した?


 ありえない想像、というのはこのことだった。

 なんのために、誰がこんなことをするんだろう。

 意味がない。


 ……ああ、わからないな。

 なんかの事件の前触れかも知れないな。……ううん、どうにかして誰かに相談しないと……。


 両親はダメ。僕のことを嫌ってる。

 担任の先生もダメ。僕のことを嫌ってる。

 友達も、同じ理由でダメ。


 ……あとは、……ううん、どこだろう?


 まあ、いいや、すぐに危険なことが起こるわけじゃないし。

 とりあえず、僕はいつも通り登校することにした。 


 


 

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