コウノトリの恩返し
昔々、働き者の青年が山へ向かうと、罠にコウノトリがかかっておりました。
「私は酉年生まれ故、逃がしてやろう」
青年が罠を外すと、コウノトリは東の空へ飛び去ってしまいました。
「良いことをした。今日の夜はご褒美ご飯といくか」
──その夜、青年がチキン南蛮を頬張っていると、誰かが戸を叩いて訪ねてきました。
「どちら様でしょうか?」
「昼間助けて頂いたコウノトリで御座います」
青年が戸を開けると、そこには白髪の薄幸たる美女が立っておりました。
「どうかあなた様のお役に立ちたいのです。お側に置いて頂けませんか?」
「それはありがたい。私は子どもが欲しかったのだ。運んで来ては頂けないだろうか?」
美女はしばし固まってしまいました。
未だにそのような事を信じている人が居るとは露程にも思って居なかったのです。
「どうしたのだ? 子どもは何処から運んでくるのだ?」
「……子どもは、私の体から産まれまする」
美女はその頬を赤に染め、照れながらこたえました。
そのこたえに青年は酷く驚き、思わず二歩ほど後ずさりしてしまいました。
「まさか……! 田子作のとこの赤子も、源兵衛のとこの赤子も、全部お前さんの子なのか!?」
「ち、違います……!」
「他のコウノトリか! この野郎、人間の村を乗っ取る気だな!? 出て行け! さもないと猟銃で殴るぞ!!」
「わ、わわ分かりました! 出て行きます!」
美女は泡を食ったように、慌てて出て行きました。
青年はしっかりと戸締まりをし、チキン南蛮に箸を付けました。
それから数年して青年も結婚し、やがてその妻が妊娠致しました。
「あなた……私、妊娠したみたいなの」
「……」
青年の口からチキン南蛮がこぼれ落ちました。
そして、青年は無言で猟銃を握りしめました。
「その子はコウノトリだな!? オラ、まだ嫁と一度もチョメチョメしてねぇだよ!!」
青年が猟銃の持ち手でお腹を殴ろうとしてので、妻は咄嗟に体を丸めて背中でそれを受けました。骨が軋むような音が鳴り、妻は息をするのも辛そうにお腹を摩り、涙ながらに「ごめんなさいごめんなさい」と謝りました。
「おめえさんは悪くねぇ。悪いのはコウノトリだ……殴ってすまね、カッとなっちまっただ」
青年は猟銃を壁にかけ、妻を医者の所へと連れて行きました。
それから数ヶ月後、青年の妻は元気な赤ちゃんを産みました。
3068gの田子作によく似た男の子です。
「やっぱりコウノトリの子だ。田子作の息子にそっくりだべ」
「…………」
青年の妻はグッと目頭を押さえ、心の中で微笑みました。