始まりの形
こんにちは。私の小説を見つけてくれたそこのあなた!ありがとうございます。私はあまり文章力などは無いですが、小説を書くことがとても好きです。なので、よければ見てください!
視界にいるあなた様は、溢れるほどの血が流れ、鉄の匂いが空気中から漂ってくる。私を敵が放った矢から庇い生死の境をさまようあなたを見下ろしながら、さがわしい戦場で両耳が聞き取る人々の泣き声、騒ぎ声、叫び声、残酷な声、助けを呼ぶ声、全てが聞こえて来る場で涙を流す。そしてあなた様を見ながら何も言えない、できない私はただ呆然とその場で立ち尽くすばかり、役に立たない。目からは溢れるほどの涙を流し、あなた様を見ている。この世界では魔法が実在するが、私はそれを使えない。だから、両親にも捨てられ奴隷として働いている。私などを庇い死に至るあなた様はなんと残酷なんだろと考えてしまう。もし、私に力があれば今助けられているだろう。もし力があったなら私は戦場に立てていただろう。だが、今の私はただの不用物。いや、お荷物だ。それを自覚しているからこそあなた様を今仮に応急処置をしたところで逆効果かもしれないと思い何もしていない。その選択が正解なのか、不正解なのかなど誰も分かりはしないことだと思う。思えば出会いは素敵でも感動でもロマンチックでもなく、ただ最悪だったことだけが私の脳に残っていることだ。この未来を変えられるならば変えたい。そして私は両手を繋ぎ天に祈りを捧げた。そこからは覚えていない。なぜなら目の前が真っ暗となったからだ。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。ただ、私の視界に何千人、何千万人の死体だけが積まれていた。吐き気を感じた私は後ろに一歩下がり何かを踏んだ感触がした。それを恐れることもなくただ無表情で見た先にはあなた様がいた。その瞬間呼吸が荒くなりそのままどこかすらわからない真っ暗な穴へと落下していくことが分かった。でも、風なども感じない。ただ、暗闇が回っていることだけが確信できる。そして今までの記憶が消え去っていく。奴隷の記憶。あなた様と出会った記憶。跡形もなく消え去る記憶。いや、記憶がなくなっているのではなく、私の脳がなくなっていっているのだ。それを気づいた頃にはもう体すらなくなっていた。
「申し訳ございません。お怪我はございませんか?何かお汚れになったところはございませんか?」
私は身知らずの人とぶつかってしまったようだ。私は地面に尻をつけている状態で、身知らずのあなたは私を見下ろしている。なのに私は謝る。謝ることしかできないのだ。この世界ではよくある強い者の方が偉いと言う国だ。そんな国で魔法を使えない私は下の下以上だ。私に力があれば違う未来もあったのかもしれない、と期待することさえももう止めることにした。夢を見ることは素敵と言うがそれは嘘だ。夢を見るだけ苦しくなる。生きるのが辛くなる。それが夢だ。そう考えているうちに街の人々の足音が聞こえてきた。それと共に声も聞こえてきた。
「こちらこそごめんね。俺も前を見ていなくて君の存在に気づかなかったから。」
今回の方はパターンが違うようだ。でもきっと後から手のひら返しをしてくるのだろう。優しくしておいて、後からイチャモンをつけてくる、そう思っていた。信じたところで良いことなど一つもない。そうとしか思えないのだ。
「ところで君の名前は?ここらで見ない顔だから」
「私は奴隷です。名前など不要です。」
不要。まず、名前など持っていない。私達奴隷は公爵様の所有物。だから、名前など一つ一つにつけられない。つけてもらえない。名前などいらない。さがわしい町で喋り合う私達はなんなんだろう。そう思った。
「ふーん、なら俺が名前を付けてやるよ」
一瞬あなたが何を言っているのか分からなかった。一瞬世界が止まった気がした。一瞬懐かしく感じた。
「ありがたき御言葉ですが、結構です。私に名前があったところで使うことなどありませんので。」
「そんなこと言わずに、ならね君の名前は、チャウ・アルムダウォヨだ。」
その名前に聞き覚えがあった。そして少しだが何かの記憶が流れ始めた。それを聞き分かったことが私の名前だと言うこと。そして目を大きく開き、身知らずの方の顔を見ると何か悲しそうで、なつかしそうな顔をしていた。この方、どこかで会ったことが?それを考えていても時間は過ぎて答えは出ない。だから、そんなことなど考えない。きっと私の勘違いだろ。それぐらいにしか受け止めていなかったのだ。そして、名前のことで気づいたことがあった。
「自由・美しい。チャウ・アルムダウォヨ。素敵なお名前ですね。でも、私は奴隷です。名前など使うことなどないのです。」
それははっきりと分かっていることだ。人が増えてきたのか足音の数も音も増えていた。
「なら、俺と会う時だけでも使ってくれよ。」
この方は何を言っているのか。私のこの頭では考えることさえも困難だ。
「もう二度と会いませんが?では、仕事があるのでこれで…」
そして私は歩き始めた。早くお屋敷に戻り仕事をしなければ殴られる。追い出される。そう考えているだけで冷や汗をかき頭からも汗が流れ落ちてくる。それを見たあの方はきっと驚いているだろう。醜いものを見るような目をしながら見ているのだろう。
「ねぇ、ちょっとまって。チャウ、足が痛いのか?」
生まれつき足の調子が悪くて仕方ない私は足を引きずっている。これだけはどうしようともできない。性格を変えろと言われたなら意識し変えれば良い。だが、見た目を変えろと言われてもそれは叶わない。生まれつきだからだ。私は生まれつき目がオッドアイだ。それを見た人達は私を気持ち悪いと言う。今回も何を言われるのだろうと涙目になりながら目を瞑りながら背をあなたの方に体を向けた。
「魔法で治さないの?」
「私は魔法が使えません。だから、今奴隷として働いているのです。」
魔法が使えない人間など人間では無い。それを言われることを恐れていた私はそれを隠してきた。何もかもが嫌になる。
「回復魔法。ハナニムの祈り」
その瞬間あなたの手は緑と輝いており、まるでエメラルドを埋め込んだかのような手でした。そして周りには風が吹き街中に響き渡ることが分かった。それともに私の足の痛みがひいた。そして、足が痛くなくなったのだ。上げられる。蹴られる。私は初めて魔法がこれほど素敵なものだと感じた。
「なんとお詫びを申し上げたら良いのか。本当にありがとうございます。」
感謝の言葉しか喉から出ない。まるで同じことを言い繰り返すオートマタのようになった。そして我慢していた涙が溢れて止まらない。それをあなたは優しい笑顔で見守っていてくれた。
「俺の元で働かない?」
「一体あなたは?」
「俺は魔法騎士団。団長、タル・チュダだ。」
その名前に聞き覚えがあった。魔法騎士団とは魔法が優れているものしか入れない。ものすごく強い騎士団だ。その団長だなんて、どれだけ強いのか。私の目の前は止まり脈だけがわかる。自分の脈が速くなることがわかる。徐々に速くなる。そしてはっと思った時、私はすでにタル様に手を引かれ歩いていた。
「チャウの主人とはすでに俺の部下が話をつけている。少しは悲しんでいたそうだ。」
「それは奴隷が減るからです。」
「少しチャウはポジティブに考えた方がいい。そうでないといつか限界がくるからな。俺もそれを体験しているからわかる。」
その言葉を少し信用してみようと思ったことはタル様は知ることもないだろ。誰かと手を繋いだことなどないから、とても新鮮だった。男の人の手はこんなに大きいんだ。そう思った。
「ご主人様がポジティブに考えろと申し上げるのであれば私は命令に従います。これより私の所有者はタル様でございますから。」
それから歩き続け着いた先はものすごく大きいお城であった。これがタル様なお屋敷。前のお屋敷とは比べ物にもならない。そう思った。そしてとても静かで大きな門をくぐり抜けるとどこかへと連れて行かれた。
「おぼっちゃま、その小娘はどなたでしょうか?人手は足りております。ご引き取りいただきなさい。」
「ダメだ、ここにいてもらう。チャウは俺のお世話がかりにでもなってもらう。」
「それは私が言い続けてきた女でしょうか?それにしてもそんな見窄らしい女などダメです。」
やっぱりそうなるんだ。私なんかがいるところなどこの世界には存在しない。それがこの世界の現実だと分かっていても、少は夢を見ていた。そんな自分に対して呆れるし何も学習しない私は何なんだろうと思う。
どうでしたか?面白かったと言ってくださると助かるのですが、次もよければ見てください