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信州の雪

作者: 小城

 信濃の冬は寒い。信濃国の雪に埋もれた山村から少し離れたところに一軒の家屋が建っていた。ある夜の雪が深々と降る夜、月があたりを照らしていた。その雪を踏みわける音が聞こえた。男は蓑をかぶり、その家の軒下で雪を払った。

「いるかあ。」男の声が響いた。

「おう。」男が呼んだ人物は土間からすぐ見えるところで囲炉裏の火を燃やしながら縄をなっていた、かと思うとどっこいと立ち上がり、土間へ足を下ろす。馬臭い、馬が寒そうに白い息を吐き出していた。

「出陣じゃあ。」男が土間から見上げるように言った。

「そうかあ。」言われた男は立ったまま返答した。

「支度しておけよ。」男はそう言うとさっさとその家から去って行った。今夜の内に村中の者に伝えなければならないのだろう。

男が立ち去ると、家の主は囲炉裏の傍へ戻り、どっこいと座ると再び縄をない始めた。

「これから領主の城まで行く。」と村内に集まった者たちは言わなかった。分かりきったことであるからだった。それはもう幾度と戦の度に繰り返されてきたし、それは彼らの先祖たちからも変わらなかった行いであった。

30人ほどの男たちは馬を率いて歩いた。地面には雪が積もっていたが、その雪を踏み分けながら行軍は続いた。戦をやるなら雪のないときがいいが、乱世も終盤にさしかかったこの頃、そんなことは言ってられなかった。春には種蒔きも待っている。

領主の城へ着くと方々から国衆たちが集まっていた。期日になると、それらが集まって南下していく。その途次でさらに集う者たちは増えて行った。遠江との境に来る頃には狭い道を埋め尽くすほどになっていた。途中、甲斐の国衆たちと合流した。その後は武田直属の者の指図のもとに動いていくことになる。その頃には地面の雪は消えていた。

遠江国。今までに何度か来た。信濃国には海がない。遠江には海があるが、この武者共はまだ見たことがなかった。

「甲斐の殿様は海を見たことがあるらしい。」ここで言う殿様とは信玄のことではない。部隊長の山県昌景のことであった。

武田軍南下。その報せは遠江国衆にも伝わっている。

「あそこらでひと戦あるかもなあ。」ここ数日、魁の軍は止まっていた。軍会議が開かれている様子である。

「物見の報せではこの先に小勢が陣を敷いているようです。」

「押しつぶすのみ。」

「多勢に無勢然れども、小勢故に彼らは力闘するでしょう。」

「相手も物見ではないのか。」

「国境の連中でしょう。」

「押しつぶすのみ。」山県の一言で方針は決まった。明朝、信濃勢にて攻勢をかける。

朝靄が煙る中、ほら貝の音とともに大音声が響く。一陣、二陣。三陣まで出るまでもなかった。家屋は燃え敵は壊走していった。戦場を検分ののち、軍は南下していく。

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