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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第三章 出会い篇 弐日目の夜間作業 前編
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第〇〇三四話 オフィサー(顧問職)叙位

 今度は、ラーゴもいっしょに沈黙のまま、歩いて地下坑道(ジェノモケイヴ)に戻り、そこで聖霊の代表らしき者に対して、ペスペクティーバが説明をする。ラーゴはたいそう肩身が狭かったものの、聖霊の長らしき者がペスペクティーバとともに近寄り、話しかけてきた。

「ラーゴどの。それに相応(ふさわ)しい資格を持たれ、初めてここ、坑道(ジェノモケイヴ)へお越しになった貴殿にたいへんな無理を依頼した。結末は残酷なものではあったが、すべては解明されたようだ。これらについて、坑道(ジェノモケイヴ)に生きる魂魄(こんぱく)を代表し、聖霊主(サンガスデイ)を預かるチーフゴースト、心より感謝の意を伝える。そして、そのうえで計り知れぬ力と智恵に包まれた、貴殿にお願いしたい。我らは聖泉(ホリフォンズ)を治める、ヒト種王盟(モナーシン)と盟約によって、脈の恩恵に(あずか)ってきた。今後この坑道(ジェノモケイヴ)に棲む聖霊は、貴殿にオフィサーの称を与え、アレサンドロの復活についての助力を得たいと欲する」

 文脈から王盟(モナーシン)というのが真王陛下、または王室を指すのは間違いないだろう。


「いえ、たしかに千里眼(プレビジオニス)が凄い生来固有能力(ネイチャー)というのは、自分でもビックリしてます。でもボク自身は、そんな大それた者でないんですけど」

 隣から口をはさむペスペクティーバから、オフィサーというのは彼らにとって名誉顧問のような肩書きである、と説明された。それほどなにか重い責任があるものではないから、お受けしてやったらと薦めてくる魔法使い。

 しかしどう考えても魔族(ディアボロス)のラーゴが、聖霊とそういう関係になるのはどうかと思う。なおも固辞していると、さらにチーフゴーストたちは悲痛な声を上げてきた。

諷喩(アレゴリー)でも、黙示(アポカリプス)でも構わない。王盟(モナーシン)は魔法使いに頼る禁忌を犯しても、アレサンドロの生命さえ助かればと。いや魂の如何(いかん)を問わずとさえ申されておる。あるいは信仰に背くことになろうとも、わが子となしたアレサンドロを救いたいという、王盟(モナーシン)の願いを何とぞ聞き届けてほしい。()の通り、この通りなのじゃ」

 聖霊の長、チーフゴーストがひれ伏すと、坑道(ジェノモケイヴ)にいるすべての聖霊が、同様にラーゴに向かって平身低頭に拝跪(はいき)する。遅れてペスペクティーバもひざを突いて最敬礼した。


「ちょ、ちょっと待って。それに、顔を上げてください。ボクなんか、ここに偶然迷い込んで少しお手伝いしただけです。たまたまボクの眼がお役に立つ能力を持ってたからって、そんなバカ丁寧な ── 。逆にそれを教えてもらって、助かったのはボクのほうですから ──」


 体格比から抱き起こすわけにいかず、ひれ伏すチーフゴーストの顔にスリスリしながらそう言うと、チーフゴーストは顔を上げてくれる。

 わらにもすがりたい気持ちは分かるが、彼らのぶら下がろうとする対象は、人間の忌み嫌う魔族(ディアボロス)。さらにはその内でも、先ほどまで美味しいだけしか取り()がない、と自覚していた珍獣トカゲだ。普段は四六時中檻の中で、出会える相手も限られており、期待されても何ほどのことができるとも思えない。

「聖霊には、十里眼(ボヤンス)と違う、生き物の智恵をはかる能に()けた者がおる。他にも、鉱物、とくに金属の智恵や、石の智恵、さまざまな植物の智恵を推し量る者、脈の調整を司る者もいるが。 ── これなるが長年、生き物の智恵をはかり、その片鱗(へんりん)を蓄えてきた聖霊、オンゴーストという」

 固辞することを止めて抱き起こし、顔にスリスリしたなど、いずれかの行動が許諾の意思表示ととられたのだろうか。チーフゴーストの声にルンルン感が漂い始め、そんなご機嫌状態で紹介を続ける彼の横に、ひとりの聖霊が歩み出る。

 挿絵(By みてみん)


「はじめましてラーゴどの、我はオンゴースト、ヒトの智恵をはかり、引き出す者じゃ」 見かけはチーフゴーストたちと変わらないが、女性の声だ。「ここに住む聖霊は、長いもので数万年のときを過ごす。我も一万年の時間を超えてここで暮らしてまいった。今まで貴殿のような、云われない知性を持つ獣、あるいは赤子を知っておる。その中で、我らの世界の(ことわり)でない知識を生まれつき備える者と会い、そうした智恵を分けてもらってきた。我には、このような智恵を持つ者の輝きが見えるのじゃ。貴殿にもあるのではないか? 己が生を受けてからは身に覚えのない、記憶や知識が」

「は、はい。たしかにあるので、 ── 不思議だと思っていたんです」

 ラーゴは驚く。今までなぜか持ちあわせる既成知識は、自分が魔族(ディアボロス)の血を受けたせいとばかり思っていた。だがどうやらそれは、生まれ出る前の知識というやつのようだ。もちろん、一部がオンゴーストの言う知識であり、残りは魔族(ディアボロス)の知恵であったりするかも知れないが。


「ふむ、そういう(ことわり)を理解して、なおその知識の源が思い出せぬとは、かなり生まれ落ちた後、欠落したものがあるのじゃろう。あるいは、何かの呪いかも知れん」

「なるほど、それゆえにか」

(─ あぁ、あの首輪のときの影響?)


 ペスペクティーバもなにか納得しているようだが、ラーゴとしては吸い取られるとしたら、それしかないと思える。

「何が原因かは分からんが、我の巡り遭いし智恵の持ち主は、様々な智慧(ちえ)を我等に授けてくれた。たとえば、ペスペクティーバが貴殿に話したであろう。あれは遥か昔、我と出会いし貴殿と同じ智慧を引き継いだ者、ゲカイノタマゴの巷説じゃ」

(─ 外科医だな、それ)


 そんな誤認をチェックしつつ、オンゴーストの云う説明より、既成知識のほとんどは別の人生から引き継いだものと確信するラーゴ。『生まれ変わり』と思ったが、どうやら別人がその人生で得た知識を、もらっただけの者らしい。


「貴殿のそれは、違う(ことわり)の世界、異なる神が創りたもうた世界にて、我らの認識でいう『タダの人間』の、寿命が尽きし者の智慧。貴殿らはそれをこの世界の生命に引き継ぐ相続者(インヘリター)、と我らは見ておる。中にはそもそも知性のない獣の姿で生まれ出る者もあるが、それらはときとともに智慧も消え、知性も失っていくようじゃ。たとえば草原(ゲバラゾーネ)に住むモンスターとして生まれ落ちた者で、元ジョシコーセと自称する者。それは出会ったとき、すでにその話しぶりすら知性を欠いており、特異な智恵といえばギャルゴーという特殊なことば程度であった。貴殿はパネーとか言った言葉はご存じないだろうか」

「あ、はい。なんとなくは‥‥」

 なるほど、自分のように別の世界に生きた人間の知識や経験をもらった者は、相続者(インヘリター)というらしい。

(─ ウーン。それって獣に生まれついたために、知性がどうとかいうんじゃないんだろうなぁ、多分。 ── いや、それは失礼か)

 もしそうなら、冷血獣(ヘテロサム)である自分も、いずれ知性が無くなってしまう。そんな未来を描きたくない気持ちからも、積極的に肯定したくはなかった。

「さもあろう。そして、そのすべての者には共通点がある。それらの者がジーペンという場所に生きた者の智慧を、こちらの世界に引き継がれていることだ。どうだ覚えはないか? この言葉に」

「 ── じーぺん? たしかに聞き覚えがあるような ── 無さそうな。いえ、すいません。なにか、ひっかかる気がするのですが」

「やはり、そこをつないだそのものが欠落しているようじゃ。では、記憶自体も断片的であろう。貴殿の元の姿がわかって、何か今の事態を改善するきっかけになれば、と思ったが ──」 オンゴーストは、顔をチーフゴーストのほうに向けて、残念そうに首を振った。「大した役には立たなかったようじゃな」

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