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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

捨てられた聖女と捨てた魔女

作者: 伊藤@


「ごめん、塾があるから先に帰るけど、きりの良いところで終わらせなよ?」

「うん、ありがとう。美咲ちゃん」


 途中まで手伝ってくれた美咲ちゃんが帰っていった。今日も放課後、大量にある修学旅行のしおりの製本をしている。早く帰りたいのは皆同じ、要領が悪い私は今日も押し付けられて日が暮れるまで製本する。

 グラウンドからは野球部とサッカー部の掛け声や笛の音が聞こえてくる。

 

 突然、教室のドアが開いた。


「うわっ!」

「ひゃっ?」


 入ってきたのはクラスメイトの宇賀神君だ。


「御子柴まだいたの?」

「あ、うん」

「オマエ良い子ちゃんだもんな、まぁ程々に頑張れよー」


 彼は忘れ物を取りに来たのか、自分の机から何か取り出すとさっさと帰ってしまった。


 オマエイイ子チャンダモンナ。


 何気ない一言が胸をえぐる。溜息をつくと、手を止めて夕焼けに染まる窓の外を見た。

 バタバタと人の足音が聞こえて乱暴にドアが開いた。


「キイちゃん!まだやってたの?!」

「あ、うん」

「もう、帰るよ!うちも部活終わったし帰ろう」

「うん」


 幼馴染の愛ちゃんが私の手をとった瞬間、世界は爆音と光とそして闇に落ちていった。 



□□□□


 

「私が聖女です」

「おお!聖女様だ!」

「聖女様がいらしたぞ!」


 ゆっくりと愛ちゃんは私を振り返ると言った。


「こいつは端女、どこかに捨ててきて」

「あ、愛ちゃん?」

「馴れ馴れしく呼ばないでよ…田中君も宇賀神君もクラスの男子は殆どあんたが好きで、どれだけ皆があたしに辛くしてきたかわかる?」

「そんな…」


 愛ちゃんの言葉に慄える。


「御子柴を紹介しろだの、しなかったらブスが僻んでるのかだの、仕方ないから相手してやるなんて言われて無理やりやられて、全部あんたのせいよ!クラスの女子からも嫌味は言われるし散々だったわ!あんたも苦しめばいいんだ!」

「あ、愛ちゃん…そんな、言ってくれたら」

「言ったら何とかしてくれた?ねぇ、それ本気で言ってるの?」

「え、あの、そんな…」

「もういいよ、あんたの顔なんて見たくない、ねぇもういいよ、連れてって」


 兵士に殴られてボロボロにされて、気がつけば私は貧民街に捨てられていた。

 体が痛くて心も痛くて、全部悲鳴をあげていて。無茶苦茶にされた怒りで涙がでて、誰を恨めばいいのかわからない。

 私が悪いの?愛ちゃんが悪いの?召喚したこの国が悪いの?

 皆、死んじゃえばいい。


 臆病で、いつも人の顔色を伺って生きてきて、良い子にしてきて、誰からも好かれたくて…そうしたら、そうしたらお母さんがきっと迎えにきてくれる筈で。

 でも、私は捨てられた。向こうの世界と一緒かよ。

 殴られたせいか熱が出てきた、朦朧としてあっさり意識を手放した。

 最後に思ったのは、このまま永遠に眠りたい。

 


「おや、気がついたか」

「ここは?」

「奴隷商ベルゼーべの奴隷部屋だよ」


 意識が戻ると私は奴隷になっていた。


 あの時、瀕死の私を見つけた貧民街の住人は、私を奴隷商に渡して小銭を稼いだ。貧民街の住人が医者を呼べる訳もなく、きっとここに売り渡すのが1番の延命なんだろうと後で理解する。


「おかしい、もう治ったのか?」

「え?」


 鉄格子から私の様子をみた奴隷商は首をひねっている。闇医者に全治3ヶ月だと言われたのに、3日である程度治ってしまった。

 不審に思いわざわざ鑑定士を呼びつけて、鑑定されたら聖女だと言われた。

 まって私が聖女なら愛ちゃんは何?


「こいつらを治せ」


 奴隷商に連れて行かれたのは薄暗い奥の部屋。

 部屋には、片足が無かったり、片手が無かったり、病なのか床に転がっている。


「ど、どうしたらいいの?」

「知らん、お前が聖女だろう。治すまで出てくるな」

「あっ…」


 鉄の扉を閉められた。

 どうして良いのかわからなかった。

 怯えた目、すがる目、暗い目、憎しみの目、諦めた目。震えて立っていると部屋の隅から声を掛けられた。


「ステータスって言ってみろ」

「は、はい。ステータス!うわ、なんか出た」

「スキルは何がある」

「え、えっと、スキャンとヒール、ケア、オールケア、コンプリートケアです」

「マジかあんた聖女かよ…魔力は?」

「なにか記号で数字じゃないです」

「…記号?あぁなる程なら余裕だな。もしかして魔素変換なんて書いてるか?」

「あ、書いてます」

「そうか、なら魔力が枯れることも無いな。片っ端からスキャンして出た個所にコンプリートケアしてけば問題ない。心配なら俺からやれよ」


 声の主は部屋に転がっていた。大きな体躯の半分はグズグズに溶けている。彼に手をかざして教えてもらった通りに唱える。


「スキャン」

『左肩より半身ヒュドラ毒にて壊死』

「コンプリートケア」

『欠損填補完治完了』

『352%魔素変換完了』

『ランクアップ1→2』


 固唾をのんで見ていた者達から、どよめきがあがった。みな動けなくて近寄れないが、自分を先にとその目が言っている。


「まじもんの聖女か。うけるぜ」


 ヒュドラの毒を浴び瀕死だった男は、首をならし軽く体を起こして私を見つめた。

 結局、部屋には8人の男女がいて、全て治すとタイミング良く奴隷商の男が鉄の扉を開けて部屋に入ってきた。


「死にぞこない共め、さっさと出ろ。風呂に行ってこい!綺麗に磨いて檻に入っとけ!」

「オッサンどうすんだコレ」

「カイル、お前まで治ったか…煩い!お前もさっさと行け」

「まぁ良いけどよぉ。悪い事は言わねぇ、こいつ捨てたほうがいいぞ」

「なんだと?」

「え?」


 毒や体を完治させたのに捨ててこい?なに言ってるのこの男。あ、でも奴隷で売られるよりは良いのかな?


「それはお前のいつもの先見か?」

「んー、まあな。こいつがいると厄介事に巻き込まれるぜ。あと俺、五体満足だよな?契約通りに奴隷解除してもらうぞ」

「クソッ、お前は先見でこうなるのがわかってたな?まぁいい契約だからな、ほら解除したぞ」

「お、解除完了っと。そうだ、オッサン。ついでにアイツ捨ててやろうか?」

「いつだ?」

「早くて明日の早朝、遅くても明日の夜くるぞ」

「くっ。折角の金のなる木が…仕方ない持っていけ。聖女あんたも解除しておくよ、こいつら治してもらった礼だ。おらっ!さっさと出て行け!」


 私はカイルという男と一緒に、あっさり追い出された。


「さ、行くか」

「え?何処に?」

「取りあえずギルドで金を前借りして風呂と飯だ」


 ギルドでカイルは人気者だった。カイルはギルドの受付に預けていた冒険者のタグを回収して、壁に貼ってある依頼を受けると前借りで支度を整え、今は宿屋の食堂で美味しいご飯を食べさせて貰っている。

 何故か私も冒険者登録をして、明日からカイルのパーティ仲間と言う事になっていた。

 何でもその時住んでいた土地の領主から娘婿の打診を断ったら、騙され奴隷にされた上に無理やりヒュドラ討伐に行かされたと。

 その時に、万が一にも討伐後に五体満足なら奴隷を解放してやると領主は言ったそうだ。


「俺は断片的だが、先が視える能力がある。それを上手く使って今迄生きてきた、流石に今回は死ぬかと思ったけどな」


 この人、ゲラゲラ笑ってるけど。

 あれ、私捨てられるはずじゃ?


「命の恩人だ、捨てるわけないだろ」

「はあ」

「取りあえず1人前になるまでは面倒みてやるよ」

「あ、ありがとうございます?」

「今更だけど俺はカイル、お前は?」

「御子柴桐花です」

「ミコなんだって?」

「ミコシバキリカです」

「呼びにくいな…ミコでいいか」

「はあ」


 愛ちゃん、貴女に捨てられた私は異世界で変な男に拾われたよ。変な男はSSクラスの冒険者だったけど。


「おら!ミコ何してんだ!ヒールが遅えぞ手がもげたじゃねーか!」

「てめえ!隠れてばっかで霊属性にはターンアンデットって教えただろうが!はぁ?おばけが怖いだ?ふざけんな」

「いい加減にしろよ、そいつは死んでるだろ。いくら聖女でもそれは無理なんだよ!仕方ねぇなぁ墓作ってやるぞ、てめーも働けおら」


 カイルにしごかれてながら、ようやくCクラスの冒険者になったのは、この世界にきて1年も経った頃。

 気がつけばカイルにしっかりと囲いこまれ、来週結婚式を挙げる。

 カイルは口も悪いし怒りっぽいけど、カイルといると物凄く幸せだ。



 そして、この街にも魔王討伐失敗と勇者の死亡。勇者が死ぬ原因となった偽聖女が行方不明になったと風の噂が聞こえてきた。




□□□□




「どういう事だ?アイナ。何故、俺達が…こんな所で」


 それが勇者の最後の言葉。

 胴体を真っ二つにされた勇者はやっと事切れた。

 魔王城の奥の大広間には魔王と私しか立っていない。

 倒れ伏す白いローブを血に染めた賢者、己の血と毒でどす黒く変色してしまった戦士、焼け焦げ炭になった魔法使い。


 息があるのは辛うじて二人。


「記録水晶は…あったあった、賢者が持っていたんだ」


 賢者の懐にはこの旅の全てを収めている記録水晶があった。私はそれを取り出すと叩き割る、賢者が唸り声を出した。根性あるなあ、まだ生きてる。

 叩き割った記録水晶の代わりに偽物を持たせ。


「転移」


 あいつらをあの国へ飛ばしてやった。運が良かったら助かるかな。


「良かったのか?」

「勿論だよ。さぁ、約束通りに私を殺して」

「…了承した」


『滅』


 私の意識はそこで消えた。



□□□□


「ステータス」


『魔法/ファイヤ・アイスランス・属性付与・チャーム』

『魔力/50・50』

『クラス/魔女』


「この者は聖女ではありません!」

「もしや、もう一人の娘か!」

「いかん!何としても見つけ出すのだ」

「こんな事が王に知られたら…」


 キイちゃん、いや桐花を追い出してから、5日目にいきなり神殿から大勢の神官がやってきた。

 部屋に見たことも無い人間が押しかけ、知らない神官がステータスと唱えると私の嘘がバレてしまった。


 聖女を騙ったことに特に何か考えていた訳もなく、ただただ桐花を私と同じ様に絶望させたかっただけだ。

 両親の離婚で捨てられた桐花は、父方の祖父母に引き取られた。私の隣にいきなり現れた美しい子供。


 私の両親は、可哀想な桐花ちゃんに優しくしてあげなさいねと言った。人の顔色や空気を読むのが上手い桐花は良い子ちゃんで皆に愛された。

 うちの両親も兄も弟も学校の先生も従兄弟のけん君もクラスの悟くんも。


「お隣のキイちゃんはお手伝いするそうよ、愛奈も見習いなさい」


 お母さん私も手伝いしてるけど?なんで褒めてくれないの?足りないの?なんで?満足してくれないの。


「お隣のキイちゃん、この間お年寄りに道を案内してあげたんだって優しいって評判だぞ。愛奈もあのくらい優しくなりなさい」


 お父さん、桐花は結局その年寄りと一緒に道に迷って学校に遅刻してきてたんだけど?私が学校に遅刻したら怒るのになんで桐花はいいの?よくわからない。


「お前がキイちゃんだったらなあ、自慢の妹だったのにな、なんで愛奈が妹なんだろ」


 私もお兄ちゃんで残念で堪らないよ。

 もっと格好いいお兄ちゃんが良かったわ。


「ねぇ!愛奈お姉ちゃん。なんでキイちゃんは可愛いのに愛奈お姉ちゃんはブスなの?」


 お前も不細工だけどな。

 こいつ、まじうざい。弟なんて最悪だわ。


 ある程度仲良くしてたけど、本音は桐花が大嫌いだった。中学になるともっとまわりが煩くなった。

 誰にでも良い子ちゃんなのに、鈍臭くて要領が悪いから、よく桐花の尻拭いやしわ寄せが私にきて、くっそ迷惑だった。


「愛ちゃんいつも大変だね」


 中学は分かってくれる女子が居てくれたお陰でなんとか私のプライドは保てた。可愛いのに要領の悪い幼馴染の面倒をみてあげてる私という立ち位置だ。


 そんな私も初恋をした。

 クラスメイトの中里君は親切で私と桐花を比べる事もしなかった。中学2年の夏休み、偶然市民プールで会った時に中里君が言った。


「あれ?御子柴さんと一緒じゃないんだ。なんだ会いたかったのに残念だなぁ」


 あ、そう。

 桐花がいたから親切なだけだと理解した。高校は桐花と別にしようとすると、桐花の祖父母から頼まれた両親が私に言ってきた。


「高校はキイちゃんと一緒のところにしなさい」


 将来の夢があった。夢を叶えるには桐花の希望する高校にその専攻はない。泣いて土下座しても駄目だった。

 

 絶望した。


「本気で叶えるなら高校くらい関係ない」


 と、まで言われた。死ねばいいのに。


 抜け殻のような高校生活、桐花を紹介してくれと男子が近寄ってきた。紹介してやると桐花を好きな兄と弟から怒られた。なんで?桐花に直接言えばいいじゃん面倒くさい。そのうち適当に紹介なんかも流していたら、桐花から振られて逆恨みした先輩にやられた。


 本気で死のうと思った。


 色々死ぬ準備をしていたら、ふと、なんで桐花のせいでこんなに苦しんで汚されて死ななければならないのかと思った。だったら桐花に復讐して絶望した顔をみてからでも遅くないと。

 それからは表面上は今迄通りに、心の底はいつもマグマのように煮えたぎっていた。


 偽りの聖女として断罪されたとしても、あの時の桐花の絶望の表情をみれたから後悔はない。

 むしろボコボコに殴られ無茶苦茶にされる桐花を見ることが出来て満足だ。




 結局、桐花は見つからなかった。



 聖女降臨はこの国のみならず、世界に発表されていた。すでに1ヶ月が過ぎて、魔王討伐はどうなったのだと諸外国からの突き上げで旅立つ事になった。

 偽聖女と知っているのは神殿と一部の偉い貴族。黙っていたらわからないと偽聖女でお飾りの私と、一緒に聖女の代わりとなる賢者をつけ、旅立たせたら良いだろうという事だった。

 

 討伐に旅立つ前日の夜に私は出会ってしまった。

 明日旅立つと思うと、流石の私も眠れない。

 王宮の部屋から中庭に出て大きな噴水の前で夜空を見上げた。

 その夜空に黒い点があるなあと思ったら、それはどんどん近寄ってきて、あっと言う間にふんわりと着地した。


「なんで、ここにいるの?」

「中々こないので偽聖女を見に来た」

「随分呑気ねぇ…」


 目の前には黒くドロドロとした泥の塊が立っている。魔王だそうだ、なんか弱そう。


「王宮の警備とか、どうなってるんだか…」

「警備は万全だと思うぞ、ただ少し時を止めただけだ」

「あっそう。で、私を殺すの?」

「何故そうなる。異世界の人間は物騒だな」

「じゃ他に目的でも?」

「そうだな、契約をしないかと思ってな。見物がてら商談しにきた」

「商談?」

「なに悪い話ではないぞ。勇者共を裏切ったら、お前の願いを1つ叶える、なんていうのはどうだ?」

「素敵な話だね。その話乗るよ」

「よし決まりだ」


 泥の塊から浅黒い腕が伸び、体が現れ、背の高いしなやかな男が現れた。男は私の顔を両手で挟むと、そっと私に口づけを落とす。


「これで、契約成立だ」

「…随分、可愛い真似するんだね」

「魔王だからな。痛いよりはいいだろ?」

「まあ、そりゃね」

「それでは、魔王城で待ってるよ。またな偽聖女」


□□□□


 魔王城までは穏やかな旅だった。

 こいつらのレベルを上げない為に、魔王が手を回したのだろう。獣すら出てこなかった。


 街に入れば女を買い、いく晩も帰ってこない勇者、戦士は賭博場で金を巻き上げられ、魔術師は酒場で酒を浴びるように呑み、賢者は幻覚薬で夢の世界へ行っていまう。はっきり言ってこいつらはクズだ。

 私に興味がないのが幸いだった。

 勇者としての旅の支度金を使い果たし、街については土地の領主に金の無心をしてはまた旅立つ始末。


「これだけ酷いと良心が傷まないから逆にいいか」


 戦闘のない旅など物見遊山と変わらない、半年も経つと魔王城に辿り着いた。城の中は、なんの気配もしない。


「なあ、もう魔王いないんじゃないか?」

「いや、強烈な魔素を感じる」

「しっかし、誰も居ないぜ」

「あれ大広間の扉じゃないか、結局何も出なかったなぁ」


 勇者が扉をあけて、戦士、魔術師、賢者と入っていった、私は中に入らずそのまま外から扉を閉める。

 さよなら、勇者さん達。



□□□□



 目を開けた、なんで私生きてるんだろう。

 隣には、しなやかで黒豹みたいな魔王が呑気に寝ていた。腹がたったので鼻を摘んでやると、すぐに深い闇を煮詰めた色をした瞳が開いて私を見つめる。


「ククッ」

「ちょっと、どういう事よ?」


 そのまま長い腕が私の体に巻きつく。


「何も?約束通りに人間としての生は終わらせて、魔族にしただけだ」

「…えぁ?」

「なんだ、嫌か?」

「いや、想定外っていうか、なんていうか」

「お前の長年の恨み辛みの情念は心地良くてな、それにお前は美しい」

「はぁ?」

「なんだ言われた事が無かったのか?」


 ど?どこが?


「背が高く凛とした立ち姿、すんなり伸びた手足、はりのある腰に豊かな胸、何より暗く怨念のこもったドロドロとした魂。俺のものにして何が悪い」

「…目、悪いんじゃないの…魔王様」

「まあ、嫌だと言ってもお前を魔族にしたし。時間は沢山ある。ところで名前は?俺はグラフエラダウト、グラフと呼んでもいいぞ」

「…折角、魔族になったんだしグラフが名前つけて。人間の私は死んだんだから」

「そうだな、ならお前は……」




 千年もの長い間、独りきりだった魔王にようやく半身の番が見つかった。魔王が番を獲て魔族は歓喜に湧いたという。

 不思議な事にこの番、目新しい遊びや魔導具を作っては永い命をもつ同族を楽しませた。


 半身である番を獲て、力を取り戻した魔王は魔族の住む地と人の暮らす地を完全に切り離し、魔族の平和を手に入れた。

 なんでも、魔王の番が人間だった頃の知り合いを気にするのが気に入らず、俺だけを見ておけと叫び地を割った。

 これは今でも魔族の定番のプロポーズになっているとか。


 そんな魔王夫妻は今も幸せに暮らしている。




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