ゲーマー同士の終わらない戦争ごっこ
「よいしょっ。さぁ、参りますか」
そう言って私は椅子に座る。向かうはパソコン。握るはマウス。
今から始まるのはただのゲームじゃない。互いの気合いと気合い、想いや汗が入り混じった《戦争》だ。それも大将同士の殴り合い。
――起動した時から勝負は始まってんだ。
ヘッドフォンを付ける。汗が流れてもいい様に首元にはタオルをのせ、準備万端になった所でゲームも起動する。
さぁ、戦争の開幕だ。
「……対戦、よろしくお願いしますッ!!」
―――――
「へぇ~、ナナシさんも今度配信するゲームやるんだ~……」
ポテチを片手にスマホをいじる中、ネットの呟きでとある物を発見した。今度配信される新ゲーム。その話題の中でとある配信者もやるらしい。更には「最速で激レアキャラ引いてやんぜ!w」とか言っている。
……興味は無い。
無いのだけど、まあ、あの人がやるのなら――――。
【ツグナChさんが呟きました】
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ナナシさんがやるならナナシさんよりも <
> 上手くなって煽りまくろうと思います <
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「よっし」
そうして私の―――じゃなくて、私とナナシさん、そしてリスナーや一般プレイヤーとの、特に熱くも無く盛り上がる展開も無い《お遊び》が始まったのであった……。
ちなみに後でこんな事を言われた。
【ナナシChさんが呟きました】
_人人人人人人人人人_
> 煽っていいのは <
> 煽られる覚悟が <
> あるやつだけだ <
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私とナナシさんは配信者の同期だ。同じ日に初めて配信者を始めた事から知り合い、それから数々のゲームで旗を掲げた戦争を繰り返しながらも仲良くやって来た。
だから表じゃあんな事を呟きながらも案外温厚に会話できる。
【いや~、流れで凄い事になりましたね~】
【ホントホント。私達が争う度にリスナー達が仲良く戦争しますからね~】
【……まあ、勝つのは私ですけどね!】
【ナナシさんじゃなくて私です~私達です~!!】
無駄に意地を張りつつ考える。今回はどうやればナナシに勝てるのかを。今までの戦績は119勝119敗で互角の状態。つまり今回の勝者が120勝へと進むことが出来る――――。
――今回のゲームはRPG。だからどれだけキャラを育てるかによって勝敗が決まる。私もナナシさんも学生だから時間を考えると……やっぱり午後がベタか。となると、どっちが速く狩場を見付けてレア度の高いキャラをゲットできるか……。
「……よっし」
ある程度考え着いた所で拳を握る。
これでナナシに勝てる条件が絞り出せた。後はやる事やって終わらせた後にゲームを起動して実行するだけ。まあ、そうは言っても互いにリアル重視で動いてるからやっぱり時間は少なくなりがちな訳だけど。
速攻で紙を広げ書き起こす。まだゲーム内情報が定かじゃないから想定しか出来ない。だから今まで鍛えて来た五感でスタートを切るしかない。
そして壁に張った紙を見て声を上げた。
「打倒、ナナシさん!!」
……と威勢を張ったのはいい物の、その翌日。
ネット上でとんでもない言葉が発信された。
【ナナシChさんが呟きました】
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 0.2%のURキャラゲットしちゃった☆ <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
「……は? 何ってんだコイツ」
決戦の日まであと一週間もないと言うのにこの超展開。こっちは今やれば誰でもゲット出来る配布キャラ片手にステージ周回とかキャラ強化とかガチャ回してるのに。しかも石全部溶かしたのにSRしかゲット出来なかったんだが。なんだコイツ。
となると私が出来る手段は――――。
――SRキャラで勝つしかない!?
石は全部ガチャに回しきった。現段階で攻略できるステージも攻略しきった。キャラも限界突破的な物以外全部強化しきった。今からガチャの為の石を集めるのも絶望的……。
ならば残された手段として今持っているキャラだけで勝負するしかない。
というか仮にSSRになったとして現段階の最強角のURに勝てる訳ないでしょ。
だけど道はそれ以外にもうどこにもないのも確か。
「……やるしかない。SSRで、URに勝つ!!」
となれば今すぐにやらなきゃいけないのはキャラ厳選。そして厳選したキャラを如何にして強化するか。攻撃特化か防御特化か特殊特化か。
リアルを重視しながらするの結構難しいな……。
でもナナシには負けたくないという意地もあるし、何より互いの勢力の大将なのだから勝つために努力するのは当然の行動(なはず)だ。
……と威勢を張ったのはいい物の、その翌日(2回目)。
私は絶望する事となる。なにせ――――、
――よく考えたら強化素材もねぇ……!
今一番強いキャラの強化素材がゲットできる日はまさかの決戦の日。こんなん無理やん無理ゲーやん! という気持ちを精一杯押さえもせず心で思った事をのべつ幕なしに愚痴りまくる。いやこれ本当にうn(自主規制)みたいな展開なんですけど。
このままではナナシが圧勝で終わってしまう。120勝目が向こうへ行ってしまう……!
その時、私の中で稲妻の如き勢いで豆電球が付いた。
――そうだ。デバフ特攻にしよう(?)
―――――
そうして時は巡り今に至る。
ナナシ対策は十分に練った。後は実戦で如何なくその実力を発揮するだけ。既に配信は始まり、視聴者は大いに盛り上がっている。私のキャラのHPはMAX1400ちょいだから、攻撃特攻の大技さえ食らわなければ勝てるはず。
さぁ、闇のゲームの始まりだ――、
【ナナシの『ブラスト・インフェルノ』! ツグナは1300ダメージを受けた】
「Go Go!!」
「WTF!?」
まさかの攻撃特化な上に初手大技である。
しかも先行手に入れる為に素早さも上げていると見た。なんだコイツ……。
だ、だけどこっちの攻撃が当たればまだまだ立て直せる。さぁ、害悪プレイヤーの恒例行事、麻痺・毒・眠り・やけど祭りの始まりだ!
【ナナシは痺れて動けない】
「ふぁっ!?」
「よぉッし効いたァ!! ここからずっと私のターン!」
「馬鹿野郎お前私は勝つぞお前!!」
作戦通り麻痺で動けなくした。ならば後は麻痺と眠りの交互で動きを止めつつ毒ややけどでHPを減らすという他のプレイヤーなら絶対報告されるような害悪戦法(自覚)で勝つのみ。
というかここまで決まれば既に5、4……3割くらいは勝ってるんだ。控えめなのは目を瞑ろう。
次々と来るクールタイムの嵐。使えるスキルから当てずっぽうにやるんじゃ意味がない。だから今の戦況を全て見極め、先読みし、効果時間に気を付け、デバフを重ねがけしていくしかない。っていうかそこまでしないと勝ちが見えないってどんな展開してるんだよ(今更)
【ナナシは毒で300ダメージを受けた。体が痺れて動けない】
「貴様卑怯だぞ!?」
「へっ! ナナシさんがUR引いた時から考えてた作戦だかんね~だっ」
そっと意地を張りつつ目まぐるしく回る戦況に対応する。隙さえあれば攻撃UPのバフを積みまくって最後の一撃を狙う。声だけだけどナナシも相当焦っている様子。
バフを積んで、積んで、積みまくって、デバフを重ねがけして。
――行ける! ナナシさんに勝って、煽れる!
最早勝敗というか煽る事しか見てない。「さっさと最後の一撃決めるんだよ! あくしろよ!」と言わんばかりにリスナーや視聴者が急かすけどまだその時じゃない。そもそもの話、攻撃には全く振ってないんだから滅茶苦茶バフを積んでようやくまともな一撃が入る程度だ。
「お前、研究を重ねて来たな!?」
「あたぼーよ。この時の為に麻痺や眠りの基本解除時間とか毒の威力とかしか研究してこなかったんだから!」
「暇人かッ!」
「アンタが言うなッ!」
そこそこの会話をしながらも着実とダメージを稼ぐ。
あと少し。あと少しで一撃入れればHPがゼロになって……。
【麻痺が解けた】
「は?」
「あっ」
【ナナシの『ロード・フェニックス』! ツグナは倒れた!】
「……なんか、倒せちゃった」
「ファ――――ッ!!」
まさかこんな所で最速解毒なんて誰が予想できただろうか。っていうかそういうのあるなら攻略サイトに書いておいてくれよ! っていう文句を呑み込まず口に出す。
そしてコメントを見てみると……。
_人人人人人人人人人_
> 煽っていいのは <
> 煽られる覚悟が <
> あるやつだけだ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
因果応報とはまさにこの事なんだなぁと、素直にそう思った。
結果的に120勝目は向こうへ行ってしまい、こっちには負けの回数が1つ増やされてしまう結果となった。あれだけの努力が一瞬で……っていう思いもあったし、まぁこっちが仕掛けた喧嘩だし、という思いもある。でもまぁ、最終的には、
「あ~あっ! 負けたけど楽しかった!! ……さてと」
十分に楽しめたので文句は無い。でもこれだけで終わりじゃない。
私はキーボードを操作して、堂々と言い放った。
【ツグナChさんが呟きました】
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> 20連勝するまで配信します! <
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■感想の辛口or甘口
厳しくお願いします! 「辛口」で!!