★結論から言えば我輩はここから凡てをヒックリ返し世界を手に入れる事になるだろう
※こちらはR15の作品となります。
苦手な方はご注意ください。
「ぬおわああ!」
記憶には残らないが、なにやらとてもバイオレンスな夢をみていた。
我輩わがはいは夢現ゆめうつつに叫んでいたらしく、自分のその切迫した声に驚いて目を覚ました『ようだ』。
『ようだ』などと謂わねばならないのには訳がある。
覚醒し、目を開いたはずなのに真っ暗。
試しに目を閉じてみてもやっぱり真っ暗。
目を開いても閉じても、全く変化が判らないくらい真っ暗で、なにも見えないからだ。
まぶたがちゃんと機能しているのかも含めて、確める術がなかった。
「……」
長い眠りから覚めたとき特有の、自身を見失ったような感覚が未だ続いている。
我輩はどこの誰で、何故なにゆえ、こんな寝ても覚めても前後不覚の暗闇に居るのか。
「……」
自身を見失った感覚が、長過ぎやしないか?
体の右側を下にして寝ているらしい。と、いうのは大体わかる。
下側の半身は痺れているのかあまり感覚はないが、上側の右手はなんとか動かせるようだ。
ふかふかの、かなり寝心地の良いベッドのようなものに体をあずけている。
我輩は、今のところ唯一自由の利く右手で、更にその辺りを探ってみた。
『フカフカ……』
下はフカフカ。これは、先程から認識している。
緩衝材クッションなのか布団なのか、とにかく柔らかい。
『ペタペタ……』
上はビロードの手触だが、木材か石材がその背後にあるようで、弾力は無い。天井はかなり近く、寝ながら手を伸ばして届くのだから、座ったら頭が支つっかえる位の高さしかないはずだ。
『……』
そして、前面に手を伸ばす。
『フニフニ』
「お?」
これは。
今までに無い感触だ。
『フニフニフニ』
ファーストコンタクトは、吸い込まれるような包まれるような、液体を包んだ滑らかな皮袋を弄ぶような、とにかく素敵な手触りである。
更に手を進めていくと弾力に富んだ抵抗があり、例えるならばそう、みずみずしい熟れた果実を禁忌と知りつつ鷲掴みにしたような……。
『フニフニフニ、』
うん。
クセになる。
一切飽きる気がしない!
「フニフニフーニ、フニフーニー」
「フーニフーニ、フニフーニー」
即興の『フニフニ讃歌』を唱えながら、我輩は暫しばし、その感触を堪能する。
「あ、あのぅ。魔王様ぁ。それは、私の、お尻なのですぅ~」
「フニフーニ……っえ?」
意外に至近距離から声がする。
「魔王様ぁ! やっとお目覚めになられたのですねぇ! わたくしわぁ、わたくしわぁ! 感激でたまりませんわ!」
上。
この場合天井ではなくて、我輩の頭頂方面から、何とも堪らない色っぽさの、何とも堪らない女姓の声が聞こえてくる。
「どちら様? 此方こなたのソナタはドナタ?」
まさか、この暗闇に我輩以外に誰か居ようとは。
想定外の事態に我輩は狼狽え、何とも上ずった甲高い声で闇に向かって誰何すいかした。
「わたくしの事をお忘れなのですかぁ?」
ひどく落胆した声が返ってきた。
こんな色っぽい声の女を悲しませるのは本意ではない。
そこでひとつ言い訳をしてみた。
「イヤ、なんだ。なにも気に病むことは無いぞ。我輩は我輩自身の事も何者であるか思い出せん有り様なのだから」
「ええー?! ……、あうう」
しかし、この我輩の言葉は、闇の先の見えない色っぽ姉さんの気休めにはならなかったらしく、絶句チックな沈黙が暫しあって、その後、しくしくとすすり泣く声が流れだした。
「うう、再生は、失敗だったのだわ」
「ううー、あんまりですわ、たまりませんわぁー」
「よよよ、おろろん、おろろーん」
一向に止まぬ、しかも何だかふざけた感じの女の嗚咽に、だんだん我輩はイライラし始め、終いには、
「カッ! いつまで泣くか! 我輩の前でそれ以上泣き言をいってみろ! 目の前の無礼な尻に噛みつくぞ!」
一喝してしまった。
「はう!」
イロッペが息を飲む。
我輩は己の短慮に後悔し、更なる泣き言が始まる覚悟をした。
「その物言いは魔王様っぽいですわぁ! デュフフ、ハフハフ」
意外とご好評のご様子。
それにつけても、この短い邂逅で感じられるのは、この色ッペちゃんの何だかアブナイ嗜好と言動。
危険信号である。
緊急脱出案件か?
「それでこそ世界の災厄ですぅ。魔王様ぁ」
この後、我輩がいかに邪悪で、『魔王国』なる救いようもない名前のワガママキングタムに君臨し、人類世界を絶望のズンドコに陥れ、世界征服完遂までもう一歩というところで、ボウフラの如く現れた勇者パーティーに討伐されるまでの、迷惑男一代記をこの色ッペちゃんから聞かされた。
語尾が『のぉ』とか『すぅ』とか間延びした、かなりイライラする、そして何より長ったらしい語り口だった。
「そうかー。そして我輩は勇者に討伐されて現在に至るのか……。うむ! 訳が判らん!」
自分が何者でどういう末路を辿ったのかはわかった。
しかし、それと今の状況になんの因果があるのか?
「討伐された? ここは死後の世界なのか? そして、先程から、……起き上がろうと、体を動かしているのだが、まぶたと右手以外全然動かんのだ。そもそも何故このような狭っ苦しい所に二人しているのだ? さらに言及すると、我が眼前のそなたの尻だが、我輩のお尻サーチよると」
『ε』
「こうなっている。つまり、足が我輩の頭上方面にあるんだから、そなたの頭は我輩の足の方にあるはずなのに、そなたの声は」
『←』
「こっちから聞こえる。尻が『ε』なら声は『→』こっちからしないと、身体の構造上変だろう? そして、尻がここでこっちを向いているならば、そなたの全身は我輩と上下が逆で、背中を向けているはずなのに、やけにはっきり声が聞こえる。頭はこっちを向いているのか? 捻りが加わっているか? それとも折れ曲がって脚と脚の間から顔がコンニチワしているのか?」
今まで積み上がった数々の疑問をぶつけてみた。(横書きで読んでね)
「どうやら色々問題が有るみたいですねぇ」
「うむ。と、謂うか、問題しかない。この状況を説明せよ。そしてそなたが……。えーっと。名前は?」
未だ、目の前のお尻の持ち主の、面倒臭そうな女の名前を、知り得ない事実に気付いた。
「魔王様ぁ。まだ判らないのですかぁ。わたくし魔王様一番の側近なのにぃ」
再び泣き始めたイロッペに、もう我輩、怒りマックス。
「かー!! もう良い!! 貴様は今から『シリポチャ・シミッタレーノ』だ!!」
「惜しい、私の名は『プル・ライスフィールド・ヘブン・サクセス』ですぅ。長いのでぇ、魔王様には『ライスちゃん』と呼ばれていましたぁ」
「そうか。……ん? んん?! どこが惜しいんじゃ! 掠かすりもしとらんではないか!!」
「言霊的にニアビンゴ?」
「なにが言霊だ! 言霊に謝れ! きさま、脳ミソ以外に栄養が偏ったな! 尻の肉を絞って頭蓋に詰め込んでおけ!!」
「そのボーギャクブジンさ。やっぱり魔王様は魔王様ですぅ」
ライスは、何やら我輩の言葉に満足したようだ。
「それでライスよ」
「クフフ。何でしょうか? マ・オ・ウ様ぁ」
「いや、だから、この状況を説明せよって……、まあ、せめて周りが見えるように、明かりなんぞ灯せないのか?」
至極当然の疑問かつ提案だろう。
しかし、ライスの答えは、
「嫌ですぅ」
「は?」
「嫌ですわぁ」
「出来ないならまだしも嫌だ? おいおい! 確か我輩おいおい、魔王おいおいだよね。そいでもって君おいおい、何だったっけ? 『一番の側近おいおい』とか言ってませんでしたか? おい! おい! おい!!」
ライスの顔の位置が不明なので、仕方なく手の届く範囲にあるお尻のほっぺを『おいおい』言いながら指てツンツンする。
「あうあう、でもぉ。見ての通り」
「見えんわ」
「あう、そのぉ、ツンツンの通り、わたくしのお尻がですねえ、魔王様の目の前にありましてぇ、このままで明るくなると、わたくし恥ずかしくってお嫁に行けなくなりますぅ」
「え? このお尻むき出しなの? ……って、知らんしどうでも良いわ! こんな所で転がったままなら、嫁入りどころか、棺桶入りしか出来んだろう!」
「あは!」
「何が『あは!』だ?」
「あは! 言い当てましたね魔王様ぁ。正解ですぅ」
「え?」
「だからぁ魔王様、正解ですぅ」
『ぱちぱちぱち~』と口拍手で我輩を祝福するライス。
「なにが『正解です』だ。脳ミソにも捻りが加わって故障したか?」
「ですからぁ、私達わぁ、勇者一行と最後の一兵まで正々堂々闘い切りぃ、勇者一行にプッチ殺されましてぇ、ご丁寧に石棺に詰め込まれて埋葬されぇ、おまけに『女神の封印』だかなんだかと云う全然突破できない結界で閉じ込められてしまったのですよ?」
「え? ここ棺桶の中なの?」
「はぃ」
「我輩死んだの?」
「魔王様は、勇者の『神速ナマス切り』で大体八等分位にされてぇ、私も勇者の仲間の魔法使いが操るオリハルコンゴーレムにぃ、ペッシャンコにされてぇ、多分もう魔王様の死体なんだかわたくしの死体なんだか判別できなかったんでしょうねぇ、色々ゴタ混ぜで石棺に詰め込まれたみたいですぅ」
■感想の辛口or甘口
優しく甘やかす感じの「甘口」で!