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第3回 かざやん☆かきだしコンテスト!  作者: 秋原かざや
■チャレンジ部門 ●その他
16/28

鬼斬り蓮吾の旅日記

 江戸時代の日本。

 そこでは、徳川幕府の繁栄とともに、穏やかな時が流れようとしていた。

 まだ戦国時代の混乱は見えるが、それも徐々に沈静化してきている。

 しかし……。


 そんな時代に、闇の中で蠢く者達がいた。

 『穢れ』を宿したモノ。

 人のようなモノも居れば、化けモノもいる。

 そんな人の心を持たぬ彼らのことを人々は、『鬼』と呼んだ。


 だが、そんなモノ達から、人々を守るモノがいた。

 鬼の『穢れ』を斬るモノ。


 人はソレを――鬼斬り――と、呼んだ。



 雨が降っている。

 溢れんばかりの大雨。

 体を打ち付けるような雨は、ただただ、彼を叩いていた。

「どう……して……」

 血だらけの体は、ゆっくりと雨で流されていくようだった。

 腕も足も体も動かせない。

 さっき、俺を庇った母はあっという間に斬られた。

 戦いを挑んだ父も、あっという間に斬られた。

 そして……まだ幼い弟や妹達も、逃げる間も与えられることなく、斬られた。

 俺はそれを見届けされてから……斬られた。

「……たす……」

 その言葉は、全部言葉に出来なかった……。

 重い瞼が閉じようとしたとき、温かい何かが、俺の腹に舞い降りた。


「お主、何をしている?」

 その真っ赤な鳥は、喋った。

「…………」

 言葉にならない言葉が出る。

 悔しくて悔しくて悲しくて、絶望して。

 雨が俺の涙を覆い隠していた。

「……そうか、それは無念よのう。して、どうする? お主は何をしたい? ああ、刻を巻き戻すなんぞ、わしにはできんからな」

 だったら、何が出来るんだと、目で訴える。

「さてのう……だが、お主が今、願っていることならば、叶えられるかもしれん。こう見えて、わしは強者だからのう」

 鳥のくせに?

 そんな俺の瞳を読み取ったのか、鳥は面白そうに瞳を細めた。

「なら試してみるか? 後でやめてくれって言ってもやめんからな」

 その声を最後に、俺は意識を手放した。




 ――そして、数年後。



「ねえ、聞いた? 向こうの長屋の為五郎さん、やられちゃったって」

「川からあがったんでしょう? 今回は首を絞められてたって」

「怖い怖い。これで6人目よ」

「全部、男って聞いてるけど」

「いつになったら、この事件、収まるのかしら?」


 腹を満たすために蕎麦屋に入ったら、コレだった。

「いやあ、どこも男の殺人事件の話ばっかりでござるな」

「ああ……」

 ずるずると、音を立てながら蕎麦を食う。

 癖のある髪を一つに縛った露骨な雰囲気を纏い、棒状の何か――いやこれでも一応、鞘付きの刀なのだが――を抱えている。

 それが今の俺だった。

「蓮吾殿、蕎麦ばかりで、周りの声、聞いていたでござるか?」

「ちゃんと聞いてる、霧生」

 向かいに座るのは、俺の相棒の霧生。物腰柔らかな好青年といった風情を醸し出している。

 と、俺の頭がもぞもぞ動くと、ぴょこんと黄色い何かが顔を出した。

「霧生、コイツは刀を持つ鬼でないと、やる気がでないぴよ」

「師匠、あんまり顔出すと……すずめに食われますよ」

 思わず突っ込みを入れる。

「何を言ってるぴよ! すずめがわしを食うかぴよ! わしを狙うのは、カラスや鷹じゃぴよ!」 

「いやあ、今日も師匠殿のぴよぴよには癒されるでござるなぁ~」

「いいから、早く食え。時間が勿体ない」

「はいはい、蓮吾殿はせっかちでござるなぁ~」

 こうして、霧生も食べ始めた。

「おい蓮吾ぴよ! わしにも数本よこせぴよ!!」

 俺は面倒くさそうに、箸で数本、頭にいる師匠に差し出した。



 月明かりだけが、この道を照らしている。

 いや、それだけではない。

 提灯の明かりがゆらゆらと揺れていて。

「ういーっ! このままゆっくりぃ~寝れたら、極楽よぉ~」

 千鳥足で、酔っ払いがそこにやってきた。

 と、そこへ。

『ちょっとお前さん……』

「ん……??」

 そこには、美しい女性が手招きしているではないか。

 しかも、少し肩を見せて。

『ちょいとお時間があるなら……いいことしません?』

 ふふっと笑みを見せれば、酔っ払いはふらふらとそっちの方へ……。

「おっさん、死にたくなかったら、それ以上近寄るな」

「ほえっ!!」

 急に男に声かけられて、酔っ払いは目が覚めた。

 よく見れば、美しい女性と思っていたモノは……黒い靄を纏った、恐ろしい顔の女だった。

「うっひゃああああああ!!」

 酔っ払いはそのまま、一目散に家へと逃げていった。

『貴様……邪魔するな。代わりに……喰ろうてやるわっ!!』

 男に襲いかかる女は。

 ばしんっ!!

 強い力で打ち付けられた、棒のようなもので、跳ね返された。

「はあ……面倒くさい。お前のようなもんがいるから、人が安らかに寝られないんだよ」

『五月蠅い、黙れ小童!! 今度こそ……』

 棒のようなものを操ったのは、あの蕎麦屋で食べていた蓮吾だった。


「さっさと終わらせるぞ。準備はいいか、霧生」

「はいよ! いつでも準備万端でござるよっ!」

 俺は一気に女……いや、『鬼』と対峙していた。鬼は、人を殺し、その魂を吸う。そして、その魂の力で己を強化していく。

「確か6人だったな」

『それがどうしたっ!!』

 女の爪が、俺の髪を凪いだ。ちょっとだけ持って行かれてしまったが、問題ない。

「目覚めよ、我が式神よ! 罪深き者に裁きを与えたまえ!!」

 霧生の放った式神の炎を纏った獅子が、女を押さえ込む。

「はああっ!!!」

 続いて俺も獅子の後を追うように、手に持っていた鞘付きの愛刀を振るった。

 よし、行ける……そう思った瞬間。

 ざしゅっという音共に、炎の獅子が……消えた。

 すかさず、足を止めたから巻き込まれなかったものの、もしそのまま行っていたら。

『油断しすぎだぞ。醜女』

『そんな名で呼ばないでくださいまし、斬裟さま』

「……!! 斬裟、だと……っ!?」

 そこに現れたのは、刀を持った男だった。

「落ち着け、蓮吾ぴよ!」

 ぴょこんと俺の頭から師匠が飛び出した。

「で、でも師匠!!」

「あそこにいるのは、本物ではないぴよ! よく見よぴよ!」

 師匠に言われて、もう一度、心眼を開いて見た。

 影だ。

 本物ではない。

 だが、そんな影でも……あんな力があるのかと、思わず身震いしてしまう。

『……ですが、せめて……あの小童達を仕留めてから行きとうございます』

『わかった。健闘を祈る』

 と、先ほどまでの殺気がすっと消えた。恐らく影が消えたからだ。

『というわけだから……二人とも、死んで私の糧となりな!』

 長い髪が俺と霧生の元へ、勢いよく伸びてきた。

「くっ!!」

 鞘付きのままの刀を振るい、襲ってくる髪をいなしていく。

「式神よ、切れ!!」

 霧生がかまいたちを放ち、女の髪を切り裂いた。

 ちょっとホッとする。

「まだぴよ!」

 数秒遅かったら、女の手が俺の首を捕まえていただろう。

 鞘付きの刀を割り込ませて、一気にはね除ける。

『……やるねぇ……』

 よろよろと立ち上がり、女も俺達を見据えていた。

『けど……これならどうだ!!』

「うわっ!!」

「!? 霧生!!」

 女のデカい手が霧生を跳ね飛ばした。近くの大木にぶつかり、霧生がぐったりと倒れ込む。

「貴様……!!」

『はははは、弱いねぇ……そんなんで、アタシらを倒そうっていうのかい? そういや、昔、恐ろしい剣を持った男がいるって聞いたけど、ソイツの爪を煎じてもらったらどうだい? はは、もうダメか!!』

 女はまだ嗤っている。

『アンタもここで、死ぬんだからね!!』

「……黙って聞いていれば、勝手なことばかり言いやがって……」

 さっきまで引き抜けなかった鞘が、するりと抜けた。

『え? な、なんだい……それ……』

「知らねえのかよ……なら教えてやるぜ」

 ざっと女の前に飛び込むように懐に入ると。

「これが、妖刀鳳凰だっ!!」

 炎を帯びた長い刀が、一気に女を切り裂いた。

『ほ、ほう……おう……ま、さか……』

 そう告げると女は、ぼっと音を立てて燃え尽きてしまった。

 残ったのは、何かが燃えた黒い跡と。

「ん……蓮吾殿……? ご無事で、ござるか……」

「生きてたのか!! 霧生!!」

 俺が霧生の元へ駆けつけると。

「……ああ、ちょっと肋骨数本持ってかれたが、一応、生きてるでござるよ」

「よく耐えた霧生ぴよ!」

 ぴよっと黄色いひよこ、もとい師匠が蓮吾の頭から離れると。

 ぶわりと炎を纏った鳥へと変化する。

「肋骨くらい、わしがいくらでもつなげてやる。だから……」

 暑い熱風が霧生の体を渦巻く。

「後で草餅一つ、もってこいぴよ。あ、小さく切るのも忘れるなぴよ」

 あっという間にひよこに戻った。

「かたじけない、師匠殿。とても助かったでござる」

 霧生は師匠の癒やしの力で、元気に立ち上がると、いつもの笑顔を見せてくれた。


 俺達は鬼斬り。

 家族の敵である『斬裟』の息を止めるまで、俺はこの旅を続ける。

 師匠と霧生という、仲間と共に……。


「霧生!! 草餅忘れてるぴよ!!」

「師匠殿、しばし待ってくだされ!! 今、品切れみたいでござるよ」

 背後でそんな珍道中を見せているが、まあいい。

「今日も良い天気だな……」

 ここでの事件を一つ、終わらせたのだから。


挿絵(By みてみん)

■感想の辛口or甘口

優しく甘やかす感じの「甘口」で!


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[一言] 『鬼斬り蓮吾の旅日記』 ぴよ可愛い!あざと可愛い!(笑) 登場人物の役割分担がはっきりしていて良かった。戦闘シーンの描写はもう少し欲しい。人のことは言えないんだけど、せっかくなので言っちゃ…
[一言] ・鬼斬り蓮吾の旅日記 なるほど、これは上手く纏まったお話だと思いました。意外にもファンシーな姿になりながら締める所は締める師匠の活躍をもっと見たいです。 難しいとは思いますが、もう少し当…
[良い点] まったりとした日常感と緊迫する活劇が程よく、とても面白かったです。 イラストの感じがストーリー的にもマッチしており、お気楽さと生き生きとした感じが伝わってきました。 キャラの作りもとて…
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