機巧れないの恋
『恋とは何ぞや?
愛とは何ぞや?
誰か……それらについて教えてくれぬか?』
妾はこの世界に生を受けた時から天涯孤独の身であった。妾が目を覚ました時……妾は深い森の大きな木の根本に捨て置かれていた。従来であれば乳児がそのような危機的状況に置かれれば死を迎えるしかないのだが……妾の場合は常人とは異なっていた。
妾は産まれながらにして強大な魔力を有しており、近くの獣を操る事など造作もなかった。そこで妾を食べにやってきた獣を操り、逆にそれらの乳を吸って大きくなっていった。そして、ある程度の年齢まで育つと森の奥で朽ち果てた魔女の屋敷に入り込み、そこで魔法と人間としての知識を身に付けた。こうして自らに『イルネシア=フィヨルド=メイルシュトローム』という名前を授けると妾は人としての生を歩み始めた……
魔法を覚えてからは獣に頼らずとも食糧を得る事ができるようになり、近隣に住む人間共の村を襲っては食べ物や生活必需品等を貢がせた。そんな生活を続けていると何時しか王都から騎士達が妾の事を捕らえにやって来るようになった。当然の事だが、その騎士達は妾の強大な魔力の前には為す術がなく全て返り討ちにしてやった。そして、平穏な生活を手に入れる為、この国を統治する王を滅ぼす事にした。
妾は魔女の屋敷の魔法を全て覚えるとそれらの魔法を駆使して瞬く間に王都を攻め滅ぼした。どうやら、この国には妾に敵う者など誰も存在しないようであった。妾が一国を落とすとこの国の領土を手に入れようと隣国の王達は挙って兵士達を送り込んできた。それらの兵士達を魔法で洩れなく皆殺しにしてやった。妾が安息の地を手に入れる為には周辺の隣国もまとめて滅ぼす必要があるようであった。
妾は隣接する全ての国を滅ぼす為に更なる魔法を身に付けて妾に牙を剥く国を全て討ち滅ぼす事にした。そして、城の中に保管されていた大魔法を身に付けるとそれらの魔法を周辺の国々に向けて次々と放っていた。そんな殺伐とした日々を過ごしている内に妾は1つの大陸を手中に治めるようになっていた。
妾が1つの大陸を治めると周辺の大陸の人間達は我先にと妾の下に同盟を結びたいと申し出てきた。妾は世界を手中に治める事を目的としていなかった為、素直にそれらの和平交渉に応じる事にした。こうして妾はようやく安息の地を手に入れたのである。
その後はこの大陸で百年の時を過ごした。その間、治癒魔法と錬金魔法について研究を進め、遂に不老半死の身体を手に入れた。錬金魔法を用いて細胞の新陳代謝の活動を止め、従来必要になるであろう老廃物等の処理を治癒魔法で行うように肉体を改造した。そうする事で細胞の1つ1つを常に元の状態へと戻るように教え込ませたのである。
俗世な言葉で語るなれば
『自動的に身体を修復できるように不滅の肉体にした』
という事である。
最高の肉体を手に入れた妾は大陸中に散らばる魔道書や旧文明時代の資料を掻き集めて魔法の研究を行ったり、遺跡巡り等を行ったりして更に自らの見聞について深めた。妾はこの大陸に存在していた文明の知識を全て身に付けると新たな知識を求めて別の大陸へと旅する事にした。妾はまだ見ぬ大陸を冒険する事に心を踊らせていた。
新たな気持ちで訪れた新大陸は見るもの、触れるもの、全てが新鮮で暫くは退屈しなかったが、3日も経てば飽きてしまい、行く先を雪が阻めば炎魔法を使って白銀の世界を一瞬にして赤と黒の焦土と化した。妾は赤黒くなった大地を我がもの顔で歩いた。
服に水飛沫が跳ねれば風魔法を使って、その辺りの水を全て乾燥させて砂漠と化した。妾は砂漠化してしまった大地を我がもの顔で歩いた。
目の前に高い山が聳えていれば土魔法を使って平坦な道へと変化させた。他にも天より集めた雷を海に向かって放つと真っ二つに切り裂いたりもした。そして、悠然と海の底を渡り歩いた。
そんな風に各地を好き勝手に変貌させていると何時しか人々から『暴虐の覇王』と呼ばれ、畏れられるようになった。
その称号に恥じぬように妾は暴虐武人に立ち振る舞ったが、異を唱える者は誰一人として現れなかった。妾の機嫌を損ねる事を畏れた王達は挙って尻尾を振ると機嫌を窺う獣のように服従した。そんな恥じ知らずの王達ではあったが、お互いの領土を奪い合う野心までは損なっていなかった。王達は妾の目の届かぬ所で戦を繰り返しては無駄な血を流し続けていた。
静寂を好む妾は血気盛んに争いを続ける人間共のこの行為が気にくわなかった。故に最初の内は国の争いを仲裁しては鎮めてまわっていたが、愚かな王達は止めても止めても争う事を一向に止めようとしなかった。彼らは妾の目が届かなくなると再び戦争を繰り返した。
妾は人間共がどうすれば醜い争いを止めるのかと試行錯誤したが、こればかりは簡単に答えは見つからなかった。そして、1つの結論に至った。それは恐怖によって人間共の争う意志を奪い去る事であった。
妾は歪み合う国々を見つけると他の国々への見せしめとして徹底的に国を破壊した。そんな事を何度か繰り返している内に世界の人々は争う事をしなくなった。そして、静寂な世界を手に入れた。だが、それは同時に人々から生きる希望さえも奪い去っていた。彼らは妾が近くを通ると息をする事すら畏れて呼吸を止めた。そんな恐怖に支配された人々は妾の脅威から逃れようと『神』という存在にしがみつくようになっていった……
そんな人々の切実な思いを聞き届けた神は妾の下に使いを寄こしてきた。
「我が名は戦乙女『プロミネス』……我が主の命によりここへと参った」
プロミネスは妾の前にやって来ると懐に携えた剣先を突き付けてきた。
そんな神の使いが現れても妾は全く動じなかった。
それは各地の文献により抽象的ではあったが、神の存在が記されていたからである。そして、その存在が何時の日にか妾の前に立ちはだかるであろう事を予感していた。
「それで?その神の使いとやらが一体妾に何の用があるというのじゃ?」
妾は毅然とした態度でプロミネスに質問した。
「あなたのその有り余る魔力を封印し、人としての生を歩みなさい」
神は妾から膨大な魔力を奪い去ろうとしていた。この膨大な魔力がなければ妾がこの世界に対して好き勝手な振る舞いができなくなってしまう。それ故に彼女の申し出を断った。
「仕方がありませんね……」
プロミネスは和平交渉から武力行使へと切り替えると問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
「負けぬぞっ!」
妾は当然のようにプロミネスの抗戦に応じた。
プロミネスは神の使いを名乗るだけあってかなりの強敵であった。妾とプロミネスの実力はほぼ互角であり、戦いは拮抗していた。その為、妾達の戦いは七日七晩に及んだ……
妾達の戦いによって山は削れ、海の一部は蒸発し、空には無数の暗雲が立ち込めた。そして、幾つもの街や村が戦いに巻き込まれて消滅した。そんな激しい戦いを目の当たりにして人々はラグナロクやら終末戦争が始まった等と騒ぎ立てて混沌としていた。地上がそんな混沌とした惨状になっている事を知ると神はプロミネスを天界へと呼び戻した。
「さて、次なる一手はいかんせん……」
妾は神の次なる攻撃を予想して準備を始めた。
それは天空より落とされるであろう『インドラの矢』、『トールの雷』など妾の不滅の肉体を一瞬にして焼き尽くす特大魔法への対処である。
「妾の身体を媒体にしてこの世界諸とも滅ぼしてくれようぞ……」
妾は神の放つその特大魔法を利用して、この世界を道ずれにしてやるつもりであった。その為には妾の体内にできるだけ多くの魔力を蓄えなければならなかった。そして、神の攻撃に対して準備していると天空より一筋の光が差してきた。
妾はその降り注ぐ光に対して両手を広げて可能な限り身体に触れるようにした。そうする事で少しでも多くの神の力を体内に取り入れようとした。
「なんと温かい光か……」
妾はぢりぢりと体を燃やし尽くすものを想像していたのだが、その光は肌に優しくとても心地良かった。まるで神から祝福されているような感覚であった。攻撃の魔法がくるものだと思っていたが、まさか癒しの魔法がこの身に降り注ぐなど思ってもみなかった。
「一体何を考えているのじゃ?」
妾が困惑していると妾の胸に何やら紋章らしき物が浮かび上がった。
『その印は……愛の呪いだ』
突如天空より神の声が響いてきた。
「愛の呪いじゃと?」
『そうだ……その呪いはお主が愛を知った時に発動し、お主の命を奪うであろう……』
「愛だとっ!それは何なのじゃ?」
神は妾の質問に答える事はなかった。ずっと独りで生きてきた妾には『愛』というものを全く理解する事ができなかった。その後、愛について色々と研究してみたが、どの文献にも曖昧な事しか書かれておらず、やはり理解する事が叶わなかった。
「これでは埒があかぬな……」
妾は恋愛について見聞を広める為、恋愛を懐く人間と接触する事を決意した。そして、死の呪いを発動させない為に仮初めの身体を用意した。
「この自動人形の身体であれば神の呪いも発動すまい」
仮初めの身体には生身ではなく限りなく人肌に近い傀儡を用いた。生身を利用すれば魂が肉体に定着してしまった場合、それを引き剥がす事は困難でとてつもない痛みが生じる。つまり、言葉通り死ぬほど辛いのだ。
それに加えて生身で神の呪いを受けた場合、魂が消滅してしまう可能性もある。故に依代として無機質な自動人形を選択した。そして、全ての支度を済ませると人間の多い街へと赴いた。
『いざ行かん!
行ったことのない未踏の地へ……
まだ知らぬ恋の領域を解明せんがため
今、神の与えし呪縛を解き放つ冒険を始めようぞっ!』
■感想の辛口or甘口
厳しくお願いします! 「辛口」で!!




