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第8話 魔道具作成

9月10日 13:00に加筆致しました。

 次の目的地に向かうとしても事前準備は必要だ。


 洞窟の奥にあった一室を開けると無造作に積み上げられた盗品と思しき品物の山があった。

 一般的な馬車十台分はありそうな量だ。


「随分と羽振りのいい盗賊だな」


「街道沿いだし、隊商や行商人が頻繁(ひんぱん)に往来していたんでしょ」


 俺とユリアーナに続いて、


「やっぱり悪いことする人たちって儲かるんですね」


 リーゼロッテがあんぐりと口を開けた。


「それじゃ、片付けるか」


 俺は一人で部屋の中に入ると『異空間収納』に収納する要領で、盗品の数々を収納して回る。それと同時に収納した品物を錬金工房内で鑑定と選別を続ける。


「へ?」


 おかしな声を上げて固まっているリーゼロッテに聞く。


「異空間収納を見るのは初めてか?」


「えーと……、見たことはあります、けど……」


 何か失敗したかと思いユリアーナに視線で問うが、彼女も思い当たる節が無いらしく小さく首を振る。


「収納量が多いのは内緒にしておいてくれると助かる」


「それもありますが……」


「気付いたことは言ってくれ。俺もユリアーナも世間に疎いんだ」


 俺とユリアーナは異国の大商人の子どもで腹違いの兄妹という設定だ。

 さらに、正妻の息子である長兄と折り合いが悪く、父親が若くして病死したのをきっかけに、ろくに世間のことを知らないまま家を出る羽目になったとしてある。


「早いんです。ともかく、収納するスピードがあり得ないくらい早いんです」


 彼女が言うには異空間収納で対象物を出し入れするのに普通は一分ほどかかるらしい。


「そうなの? 知らなかったわー。あたしたち家族の間ではこれが普通だったのよー」


「ははは……、凄いご家族ですねー……」


 室内の盗品を全て錬金工房に収納し、必死にごまかすユリアーナと反応に困るリーゼロッテに声をかける。


「二人ともこっちに来て座らないか?」


 錬金工房からたったいま出した椅子を二人に勧め、同様にたったいま出したテーブルの上に作成し終えたばかりの装飾品を並べる。


「これが闇属性の指輪だ」


「早速試してみましょう」


 ユリアーナはそう言うと、闇属性の魔石を組み込んだ二つの指輪、『睡眠の指輪』と『麻痺の指輪』を装着して虚空を見つめたまま動きを止めた。


「どうした?」


「成功ね」


 口元に笑みを浮かべて二つの指輪を外すユリアーナに聞く。


「今、何かしたのか?」


「魔法を発動させたの」


 発動させた魔法は、睡眠の魔法と麻痺の魔法。

 何もない空間に向けて発動させたので見た目には変化が生じないが、魔力感知ができる彼女だからこそ魔法が発動したことを確認できた。


「盗賊が装備していたブレスレットと同様の機能ね」


「そのブレスレットを参考にして作成したんだから当然だろ」


「たっくんが作ったから、永遠に眠り続けたり、死ぬまで麻痺したままだったりと、実用性を無視した方向で高性能なんじゃないかと心配したのよ」


「何の話をしているんですか?」


 ユリアーナが『杞憂だったようね』とほほ笑む。

 心配なのは理解できるが、もう少しオブラートに包んだ発言ができないものだろうか。


 リーゼロッテが笑顔を引きつらせているだろ。


 釈然とせずにいると、ユリアーナは次の指輪へと手を伸ばした。


「これは?」


「火の指輪だ」


 これも盗賊が所持していた指輪を参考に作成した。

 この周辺の国々では中層階級の住民たちの間で、標準的に利用されている魔道具だと盗賊たちから説明を受けている。


 ユリアーナの手のひらから数センチメートルのところに、ロウソクの炎くらいの火が浮かび上がった。

 彼女が軽く手を振ると地面にぶつかって消えた。


 魔道具で魔法を発動させる様子を驚くでもなく見ているリーゼロッテに聞く。


「リーゼロッテは魔法が使えるのか?」


「いえ、使えません」


「そんな君に朗報だ。この指輪をはめるだけで、誰でも属性魔法が使えるようになる」


 テーブルの上から白金(プラチナ)の指輪を手に取り、彼女の指にはめた。


「あたし、お金なんて持ってません!」


「お金は要らない。対価は知識。知らない事を色々と教えて欲しい」


 湧きあがった(よこしま)な想像を頭の片隅に追いやる。


「え!」


「ちょっと!」


 怯えた表情でリーゼロッテが手を引っ込め、ユリアーナが怒りの形相でテーブルを叩くのが同時だった。


「どうした?」


 この反応は、まさか……。


「いたいけな少女に何を要求するつもりだったの?」


 立ち上ったユリアーナが、椅子の上で震えているリーゼロッテを抱きかかえた。


「誤解しないでくれ、やましい気持ちもなければ、下心もない。本当だ」


 一瞬だけよぎったが口にはだしていないからセーフだ。


「いま、もの凄くいやらしそうな顔をしていたわよ」


「御代官様を思いだしました」


 悪徳代官と一緒かよ! 酷い言われようだな。


「誤解だ。その指輪の説明を聞いてリーゼロッテが驚く顔を想像しただけだ」


「本当でしょうね?」


「女神様に誓う」


 左手を上げてドラマで見た宣誓のポーズをした。


「いいわ、信用しましょう」


「疑ってしまってごめんなさい! あたし、神経質になっていたみたいです。許してください!」


 まだ疑惑を捨てきれていない眼差しのユリアーナとは対照的に、リーゼロッテは心底反省したようで何度も謝罪の言葉を口にした。


「それじゃ、俺の信用が回復したところで話を再開しよう」


 リーゼロッテを真正面から見据える。


「その指輪には地・水・火・風、四種類の属性魔法が付与されている」


「四つ魔法が使えるんですか!」


「四つじゃない。四種類の属性魔法が使えるようになる。一般に出回っている魔道具のように固定されて魔法が使えるんじゃなく、属性魔法の才能を持って生まれた人のように、訓練次第で幾つもの魔法が使えるようになる」


 付与したのは盗賊たちから剥奪した地・水・火・風の属性魔法のスキル。


 ユリアーナの表情が強ばり、驚愕した様子で真っすぐに俺を見ている。

 対して、リーゼロッテは平常運転だ。


「えーと、よく分かりません」


 この世界に存在しない性能の魔道具なので、すぐには理解できないのも無理はない。


「スキルを剥奪する能力はもちろん、剥奪したスキルを付与する能力も知らないわ」


 いつの間にか俺の隣に移動してたユリアーナがリーゼロッテに聞こえないようにささやいた。


「俺の錬金工房だからこそ作れる魔道具だ」


 不安がないとは言わない。だが、それを大きく上回る好奇心と期待とで胸が高鳴っていた。

 それはユリアーナも同様のようだ。


 指輪を見つめる瞳が輝き、口元には妖しい笑みが浮かんでいる。


「魔道具は属性魔石を使って、その属性ごとに何か一つの魔法が使えるようになるものだ。だが、この魔道具は特別なものだ――――」


 俺はリーゼロッテに理解できるよう説明を始めた。


「――――持っていることも秘密にしないといけないような魔道具だと理解してくれ」


「……シュラさんは神器が作れるんですねー」

 

 抑揚のない語調だ。

 それに目の焦点があっていない。


 いまなら何を言っても疑問の声をあげることなく受け入れてくれそうだ。

 ユリアーナに視線を向けると、同意するように小さくうなずいた。


「そんな便利な指輪があと二つある」


 ユリアーナに指輪を差しだす。


「あたしは――」


 彼女の言葉を遮って言う。


「元々の力を頼らずに訓練次第で強力な属性魔法が使えるようになるかもしれないだろ?」


「意図は分かったわ」


 ユリアーナが指輪をはめた。

 これで属性魔法のスキルがない俺とリーゼロッテは魔道具の力を借りて属性魔法が使えるようになる。ユリアーナは失われた女神の力に頼らずに、訓練次第で強力な属性魔法が使えるようになるかもしれない。


「でも、よく同じ形のものが三つもあったわね」


「形状を変えた。元の持ち主の関係者が現れて、盗賊に奪われた品だなんて騒がれても嫌だからな」


 犯罪組織が盗んだ宝石を加工しなおして足がつかないようにするのと同じだ


「この世界じゃ、盗賊が奪った品の所有権が討伐者に移るのは普通のことよ」


「俺の気分の問題だ」


 ユリアーナの『小心者ね』との言葉を聞かなかったことにして話題を変える。


「そんなことよりも、試してみなくていいのか?」


 ――――結果。


「実際に目の当たりにしてもまだ信じられないわ……」


「予想通りだ」


 口では平静を装っているが、俺も内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。


 対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。

 リーゼロッテに至っては殻を閉ざしたようにブツブツとなにかつぶやいて自分の世界に入り込んでいた。


「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」


 錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。

 事実、魔道具を使用するまで、ユリアーナでさえ予想していなかったのがその表情と口調から分かる。


 指輪に付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つの属性魔法のスキル。

 属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。


「この指輪が常識から外れているってことは俺だって想像がつく。だから、指輪とは別にこんな魔道具も作ってみたんだ」


 銀製の幅広のブレスレットをリーゼロッテに渡して意見を求めた。


「え? あたしですか?」


「この地域でどう思われるか、意見を聞かせて欲しい」


 主に一般的な魔道具として通用するかどうかが知りたい。

 手にしたブレスレットの説明を始めた。


 幅広のブレスレットには横に四つ、縦に三つ、合計十二個すべてが異なる形状のシンボルを刻んである。それぞれのシンボルに触れて魔力を流すことで、四つの属性魔法から三つずつの魔法、合計十二個の攻撃や防御の魔法が使える魔道具だと告げた。


 盗品の中にも水と火がだせる魔道具があったのだから、それほど非常識な魔道具ではないはずだ。


「えーと……、これに近い魔道具の噂を聞いたことがあります」


「噂?」


「騎士団の団長が先王から頂戴した宝剣で、火球と水刃と岩弾が使えるそうです」


 そう言うと幼い子がイヤイヤをするように首を横に振りながら、ブレスレットの魔道具を無言で俺に差し戻す。


 宝剣だと?

 この程度でもヤバい品物らしい。


「助かるよ、俺もユリアーナも魔道具に疎くってさ」


「本当、助かるわー」


「これからもこの調子で教えてくれると嬉しいな」


「こんなのがまだあるんですか?」


 俺とユリアーナとは違った種類の乾いた笑いが彼女の口から漏れた。

 さて、次は武器と防具に移ろうと思ったんだが……。


「この際だから、失敗はこの場で全て済ませてしまおうと思うがどうだろう?」


「賛成よ」


 決まりだ。

 俺は素材の許す範囲であれこれと作成することにした。

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