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第6話 盗賊襲撃

「さて、それじゃあ収納するか」


 ユリアーナと二人、扉の隙間から中の様子をうかがいながらターゲットを定める。


「いい気分で酔いつぶれているヤツラからだ」


「まずは酔いつぶれている連中からね」


 俺とユリアーナのつぶやきが重なり、互いの視線が交錯した。

 静かにうなずいて再び視線を部屋へと戻す。


 部屋の隅で酔いつぶれている五人の男を収納したところでユリアーナが残念そうにつぶやく。


「気付かないものね」


「これからじゃないのか?」


 落胆している彼女にそう言って、次のターゲットに狙いを定める。

 たったいま収納した男を探して、辺りをキョロキョロと見回している女だ。


 そんな女に一人の男が近付く。

 かなり酔っているらしく足元が覚束ないようだ。


「アランに逃げられたのか? 代わりに俺が相手してやってもいいぜ」


「何であんたなんかと! お呼びじゃないんだよ!」


 半ば足をもつれさせて倒れ込んできた男を女が軽く突き飛ばす。

 その瞬間を待って女を収納した。


「あれ?」


 男はあたりを見回すと、隣で抱き合っている男女に聞く。


「なあ、ドロシーを知らねえか?」


「知らねぇよ! アランと奥にでもしけ込んだんじゃねえのか?」


「ドロシーがあんたなんか相手にする訳ないじゃん」


 男女の声と続く笑い声が重なった。


「てめえら!」


 酔った男が立ち上がろうとして、再び尻もちを突いた。そのタイミングで男を笑い者にしていた男女を収納する。

 これで八人目。部屋にはあと十二人。


「消えた! 消えちまった!」


「何を寝ぼけてんだ?」


「そうとう酔っぱらってんな、こいつ」


 周りの男たちがからかいだした。


「酔ってないって。いや、酔っているけど、そこまで酔っちゃいねえよ!」


 抗弁するが取り合う者はいない。


「うるせえぞ!」


「少し外で頭を冷やしてきたらどうだい?」


「外の見張りと交代してこい!」


「人数が減ってる! 周りを見ろよ、何かおかしいって!」


 異変に気付いたのがお前で良かった。


「さっさと外に行きやがれ!」


 大柄な男に一喝されるとよろめきながら扉へと近付いてきた。扉を開けると足をもつれさせて倒れ込む。だが、男が地面に激突することはなかった。

 その直前に錬金工房へ収納したからだ。


 これで九人目。部屋にはあと十一人。


「おい、随分と奥にしけ込んでねえか?」


「確かに、おかしいぜ……」


「男だけでしけ込んだりしねえよな……」


 バカ騒ぎしていた連中の笑い声が消えた。


「さすがに半数近くが消えれば気付くか」


「男ばかり収納したのがまずかったかしら。もう少し女も収納していれば、奥にしけ込んだと思ってもらえたかもね」


 それでも予定に変更はない。


「誰だ? 隠れてねえで出てきやがれ!」


 そう叫んだ男が辺りに注意を払いながら、立てかけてある剣へと手を伸ばした。


 次の瞬間、男の手が空を切る。

 男は剣があるはずの空間を振り向くと、驚いた表情を浮かべて動きを止めた。


 残念だったな、剣は錬金工房の中だよ。


 俺は目に付く範囲の武器と連中が装備している武器を次々と収納する。


「武器がねえ!」


「俺の剣もだ!」


 あちらこちらで、驚きの声が上がった。


「ちょっと、ナイフもないよ」


 女が自分の腰の辺り探って顔を蒼ざめさせる。


「武器庫だ! 奥に武器を取りに行くぞ!」


 駆けだした男を大勢の眼前で収納する。

 短い悲鳴が上がり、


「消えた!」


「何で消えたんだよ!」


「魔術なのか?」


「騎士団が魔術師を連れてきたのかも……」


 理解を越えた攻撃が自分たちに向けられていると知り、盗賊たちの顔に怯えと恐怖が浮かぶ。


「逃げろ! ここはヤバい!」


 盗賊たちがこちらに向かって駆けだした。恐怖の形相を浮かべた数人の男女が一目散に向かってくる。

 先頭の男が扉に手を駆けようとしたところで、扉ごと室内へと蹴り戻した。


「ウギャッ」


 先頭の男がおかしな悲鳴を上げ、後続の二人を巻き込む形で扉と一緒になって床の上を二度、三度と跳ねた。

 部屋のなかに一瞬の静寂が訪れたが、それを一際大柄な男の怒声が破る。


「誰だ、てめえら!」


 目に見えぬ敵が可視化できたことで警戒心が吹き飛んだようだ。

 盗賊の一人が鬼のような形相で睨み付ける。


「あれかな美少女とひ弱そうな少年が相手だと分かった途端に強気ね」


 ユリアーナに対する抗議のセリフを飲み込んで俺は名乗りを上げる。


神薙修羅(かんなぎしゅら)


「たっくん? 唐突に何を言いだすの?」


「この世界での俺の名だ」


「頭、大丈夫?」


 可哀そうな人を見る目で俺を見るな。


「神薙とは神を薙ぐこと。修羅とは最強の鬼。俺は神をも斬り裂く最強の鬼となる! 改めて名乗ろう! 断罪者、神薙修羅だ!」


「色々と間違っているけど突っ込まないであげる」


 ユリアーナは俺を気遣うようにささやくと盗賊たちに向きなおった。


「あたしのことは気にしないで。悪人に名乗る名前は持ち合わせてないから」


「ゴチャゴチャとうるせー!」


「武器も持たずに俺たちと戦う気か? 奥に武器があるんだろ? 取ってこいよ。それくらいの時間は待ってやるぜ」


 背筋に電流が走るような錯覚を覚えた。

 自分らしくない言葉遣いに、えも言われぬ快感が襲う。


 隙を見つけたつもりなのだろう、三人の男女が奥へと駆けだした。彼らが通路の陰に差しかかる直前に錬金工房で収納する。

 これでいくら待っても奥から武器を持って戻る者はいない。


「奥から二人来るわよ」


 ユリアーナの警告にうなずきながら、飛んでくる投げナイフを収納する。


「やった! え……?」


 仕留めたと思ったか?

 女の顔から笑みが消え、顔を蒼ざめさせる。


「お前の投げたナイフは銀のナイフか? それとも金のナイフか?」


 馬車の中にあった銀食器と金貨を加工して作成したナイフを左手に出現させた。


「通じるわけないでしょ」


「ちょっとした冗談だよ」


 ナイフを上に放り投げるような動作をして再び錬金工房へと収納する。

 同時にナイフを投げた女も収納したが、部屋にいた全員が俺の手の動きに気を取られていて女が消えたことにすぐには気付かなかった。


「奥から二人、直ぐに姿を現すわ」


「問題ない」


 男たちが姿を現した直後に収納した。


「助けてくれ。金も武器も全部差しだす。命だけは助けてくれ」


 盗賊の一人が涙を流してその場に平伏すると、他の五人も同じように平伏して抵抗の意思がないことを示した。


 ここに至ってようやくかよ。


 怯えて涙を流す盗賊たちに、ユリアーナが冷ややかな口調で聞く。


「あなたたち、隊商か行商人を襲ったでしょ? 生き残りはいるの?」


 その質問に残りの女たちが悲鳴で答えて奥へ向かって走りだした。


 悲鳴を上げる女だからと言って容赦はしない。

 通路に差しかかったところで、まとめて三人の姿と悲鳴が消える。


「もう一度聞くわ。生き残りはいるの?」


「行商人の仲間なのか?」


「荷物は返す。全部返す」


「助けてくれ、助けてくれ」


 涙を流して懇願する男たちにユリアーナが三度(みたび)問う。


「生き残りはいるの?」


 三人の肩がビクンッと跳ねた。


「……いねえ。全員、殺しちまった」


「殺すつもりはなかったんだ。本当だ」


 同時だった。

 二人が地面に伏すのと、鬼の形相で一人の盗賊がユリアーナに飛びかかるのとが。


 泣き叫ぶ二人と飛びかかってきた盗賊を収納する。

 部屋のなかに静寂が訪れた。


「これで全員か?」


「少なくとも魔力感知には何も引っかからないわ」


「それじゃ、盗賊たちが貯め込んだ盗品を頂くとしよう」


 俺たちはアジトの奥へと歩を進めた。

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