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第3話 神界の事故と女神の降臨

「見て、街道よ」


 耳元でユリアーナの軽やかな声が響いた。

 彼女が指さす先、樹々の間から明らかに森や草原とは違う、乾いたむき出しの地面がわずかに見えた。


 あと十数分も歩けば到着する距離だ。


「最初はどうなることかと思ったが、日が暮れる前に森を抜けられるな」


 移動を開始する直前、飛行能力で上空から周囲を確認したユリアーナとの会話が蘇る。


 ――――地上から百メートル程の高さで、フワフワと浮いているユリアーナが言う。


「町も村も見えないわねー」


「もっと高く飛べないのか!」


 地上から彼女に向けて声を張り上げた。


「低レベルの飛行能力、って言ったでしょ。これが限界なの」


「山小屋とか街道も見えないのか」


「ちょっと! のぞかない、って約束したでしょ」


「微妙に見えないから安心しろ」


 本当だ。


 風でスカートが揺れるが膝の上あたりまでしか見えない。

 想像は掻き立てられるが充分セーフの範囲だ。


「本当でしょうね?」


 ゆっくりと降下してきた彼女が疑わしげな眼差しを向けた。


「俺だって、のぞき見で神罰なんか下されたくないからな」


 彼女は『まあいいわ』、と軽く流すと、


「取り敢えず樹々がまばらになっている南を目指しましょう」


 迷いなく言い切った。

 それが数時間前のことだ。


「随分と時間がかかったな」


 赤く染まりだした西の空を見る。


「身体強化を使わなかったら、今日中にたどり着けなかったでしょうね」


「終始発動させっぱなしっていうは、精神的にも疲れるんだな」


 俺は肉体の疲労感だけでなく、精神的な疲れがあることを訴えた。


「精神的な疲労感は魔法障壁を展開しているからよ」


 道中、俺は魔力による身体強化と同時に、魔力で身体全体を覆う練習も並行して行っていた。

 それが魔法障壁だ。


 魔法障壁は魔法攻撃と物理攻撃の両方に対してダメージを軽減する効果がある。

 一般的には戦闘時に展開するものなのだが、今回は訓練を兼ねて身体強化と一緒に終始発動させて移動していた。


「ユリアーナは随分と楽そうだな」


 俺と同じ目の高さでフワフワと空中を漂う彼女に言うと、


「低レベルとは言っても飛行魔法は結構疲れるのよ」


 涼しげな表情で返した。

 街道を視界に捉えたことで安堵した俺は、傍らをフワフワと飛行するユリアーナに、気になっていたことを聞く。


「神界で起きた事故って何があったんだ?」


 百余個もの力のある神界の石、神聖石。

 それがこの異世界に散らばってしまう原因となった事故。女神であるユリアーナが降臨することになった原因について聞いた。


「とても不幸な事故よ」


 遠い目をしたが、直前、目が泳いだ。

 何か隠している、と俺の直感が告げる。


「話したくないなら無理には聞かないけどさ、二人でこの世界を修復するんだし、その、ユリアーナが降臨することになった背景とか、俺も知っておいた方がいいかな、と思ったんだ」


「ありがとう」


 愛らしい笑みを浮かべた。

 だが、それだけだ。肝心の事故については何一つ触れない。


「それで何があったんだ?」


 穏やかな笑みを貼り付けて再び問う。

 俺とユリアーナの間にしばしの沈黙が流れた。


 耐えきれずに沈黙を破ったのはユリアーナ。

 作り笑いを浮かべて言う。


「女神としては神界の恥をさらしたくないのよ」


「さっきから話を逸らそうとしているだろ?」


「どうしても話さないとだめ?」


 足を止めたユリアーナが頬を染めて上目遣いで見つめる。


「その視線にはごまかされないからな。話さないなら協力はしない」


「召喚されたばかりの俺じゃないからな。少なくとも錬金工房のスキルがあれば、ユリアーナを頼らなくてもこの世界で生きていける」


 不安はあるが強気で言い切った。


「卑怯者……」


 涙を浮かべてか弱い美少女を演じても、譲れないものは譲れない。


「こればっかりは引かないからな」


 そもそも神界で起きた事故だけでなく、この異世界に散らばった神聖石を探す方法も気になる。

 問題を解決する後者の疑問を先にクリアにすべきなのかもしれないが、これまでのユリアーナの言動と抑えきれない俺の好奇心とが前者を優先させた。


「しょうがないわね、二人だけの秘密よ」


 観念したようにそう口にすると、


「ある日、お茶をしながら神聖石を磨いていたの――――」


 神界の事故について語りだした。

 テーブルに並べられた百八個の神聖石。


 それを半分近く磨き終わったところで睡魔に耐え切れなくなった彼女が椅子から転がり落ちるときに誤ってテーブルをひっくり返した。

 結果、百余個の神聖石を下界、つまりこの異世界に落としてしまった。


「――――少しでも被害を抑えようと手を伸ばしたんだけど、残念ながらこの手に掴むことができたのはほんのわずか」


 黒いレースのハンカチで涙を拭くふりをした。


 原因はお前かよ。

 話の途中で何となく予想は付いたが、予想通りの落ちだった。

 そりゃ、言いたくはないよな。


「それで俺を召喚して自分自身もこの異世界に降臨したということか」


「逆よ。あたしが先にこの世界に落ちて……。降臨してから――」


「ちょっと待て!」


 彼女の言葉を遮って確認する。


「この世界に落ちて、って言ったのよな?」


「降臨、よ」


 無理があるぞ。

 引きつったその表情でごまかすのは無理だ。


「先にユリアーナが落ちたんだよな」


「そうよ! 落ちたのよ! あたしが神聖石もろとも落ちたのよ!」


 逆切れされた。


「でもね、落下中にかろうじて幾つかの神聖石を掴むことができたのよ。多少でも被害を未然に防いだのは間違いないんだから」


「それで、俺はどうやって召喚されたんだ?」


 必死で自分の功績を訴える彼女に新たに湧きあがった疑問を問う。


「掴んだ神聖石の力を使って、たっくんを召喚したの」


「最後の力を振り絞って、と言うのはそう言うことか」


 どうやら俺は彼女にとっての切り札らしい。


「なけなしの希望よ」


 違った……。


 涙は疑わしいが、落ち込んでいるのは間違いなさそうだ。

 あまり追い詰めても可哀想だし、この世界に散った神聖石を探す手段を確認するのは次の機会にしよう。


 ◇


 程なく街道に到着した俺たちは路面の様子を確認すると、幾つもの馬蹄の跡と(わだち)がすぐに目に付いた。


「割と新しい轍が幾つもあるから、頻繁に使われている街道みたいだな」


「轍も結構深いし、隊商か行商が最近通ったのかもしれないわね」


 そのことから、ユリアーナはそう離れていないところに、ある程度の大きさの街があると推測した。


「今夜はあの辺りで野営しましょう」


 街道から百メートル程離れたところにある平地を指さした。


 野営の準備は容易に整った。

 食用目的のイノシシや鳥はもちろん、道中、目に付いた巨木や岩など幾つも収納していた。


 それらを素材に錬金工房で椅子とテーブル、ベッドを作成。

 並行してかまどを作成して夕食の準備をする。

 

 それが二時間ほど前のこと。

 食事を終えて人心地ついたところで、俺はゴブリンが持っていた碁石程の大きさの石をテーブルに置いた。


「鑑定で『闇属性の魔石』とでた」


 正確には錬金工房の能力の一つで、収納したモノを鑑定することができる。

 利用用途を聞こうとする矢先、


「闇魔法の魔道具が作れるわ」


 ユリアーナが先回りするように答えた。


「例えば?」


「剣に毒の魔法を付与すれば、斬り付けた敵を毒状態にできる」


 剣に毒を塗れば良くないか?


「毒だけなのか?」


「魔石の質や大きさにもよるけど、この大きさなら毒の他に、麻痺や睡眠も可能かもね」


 あまり魅力は感じられないが、錬金工房の実験にはなるか。


「昼間収納したゴブリンなんだけど、スキルを持っている個体が三匹いた。火魔法を持った個体。頑強を持った個体。そして狙撃と頑強を持った個体だ」


「頑強は先天的なスキルね。魔法と狙撃はどちらも後天的なスキルよ」


「ちょっと待ってくれ。魔法は生まれ持った才能やスキルじゃなく、後から習得できるのか?」


「できるわよ。ただし、『魔法の才』がないと習得に時間もかかるし、たとえ習得しても発動効果はたかが知れているわね――――」


『魔法の才』があれば魔法全般の習得や効果に影響があり、『火魔法の才』などの個別の魔法に対する才能は対象となる魔法以外には効果がないのだという。


 つまり、先天的な魔法の才能がなくても魔法は習得できるが才能のある者には遠く及ばない。


「――――一般的に生活魔法と呼ばれている、魔力さえあれば使える魔法がそれね。魔術師と呼ばれる人たちは、何らかの魔法の才を持って生まれた人たちよ」


 戦うのに不十分でも魔法が使えると言うだけで俺には十分に魅力的だ。

 あとで魔法を教えて欲しいと頼もうとする矢先、


「そこで発達したのが魔道具。魔力さえあれば何の訓練もなしで使えるわ」


 身も蓋もないことを言った。

 魔道具か……。


 俺が考え込んでいるとユリアーナはさらに続けた。


「しかも、強力な魔道具ならスキル所持者と遜色ない魔法を使うことも可能よ。ただし、強力な魔道具は簡単には作れないから希少で高額だけどね」


 つまり、強力な魔道具を自作すれば解決するわけだ。

 湧きあがる高揚感を抑えて話題を戻す。


「ゴブリンが持っていたスキルな……。錬金工房のスキルで剥ぎ取ることができた」


「え……?」


「剥ぎ取ったスキルは素材として保管できる」


「なに言ってんの? そんなことできる訳ないでしょ……」


 薄々予想はしていた。


 生きた魔物からスキルを奪って他のアイテムや生物に付与しなおす。

 やはり、普通はではないらしい。


「他のゴブリンに付与しなおすこともできた」


 俺は剥ぎ取ったスキルを既に他のゴブリンに付与したことを告げた。


「もしそれが本当だとしたら、とんでもない能力ね。怪物を作りだすことが出来てしまうわ」


 ユリアーナの表情が強ばる。


 彼女が何を心配しているのか直感的に分かった。

 力を求めて力におぼれる、心の弱い者の未来。


「怪物を作ることは出来るかもしれないけど、俺自身が怪物になることは出来ないんだ。付与できるのは錬金工房の中だけで、俺自身は錬金工房の中に入れないからね」


『残念』と少しおどけて微笑む。


「本当残念ね。最強の助手を手に入れ損ねたわ」


 彼女が胸を撫で下ろした。

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