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第29話 真実の鏡

 結果から言えば、真実の鏡の効果は絶大だった。

 大粒サファイアをあしらったブレスレットの所有権を主張する五つの家族や関係者がいたのだが、彼らの偽りを瞬く間に暴き真実を白日の下にさらけ出した。


 慌てたのは偽りを暴かれた者たち。


『――――姉さんのブレスレットじゃないのは一目で分かった。だが、違うと言い切れるのは作った職人とプレゼントした俺くらいのものだ。姉さん一家が盗賊に殺されて一切合切奪われたのは事実なんだ。少しくらい取り返したからって何だってんだ。悪いのは盗賊たちだ! 盗賊をのさばらせておいた領主や代官だ!』


 サファイアの腕輪の所有権を主張した最後の一人、街でも五指に入るライザー商会の若旦那、カール・ライザーの本音を真実の鏡が語った。

 辺りが水を打ったように静まり返る。


 先に嘘を暴かれた四人の関係者だけでなく、手伝いのために同席した数人の神官たちもこの結果に驚きを隠せずにいた。

 当然だろう。


 一つの盗品に五人の関係者が名乗りを上げ、四人はそれが嘘であることが暴かれた。残る一人が本物だ、と誰もが思ったはずだ。

 ところが蓋を開けてみれば全員が嘘吐きである。


「フランツ・ライザーさん。この真実の鏡が語った内容に間違いはありませんね?」


 茫然とする当人に俺はこれまでの四人の関係者と同じように聞いた。


「違う! 何かの間違いだ!」


 ここまでの四人と同様の反応だ。


「まさかライザー商会の若旦那様まで嘘を吐くなんて……」


 ささやいたのはロッテだけだったが、同席した神官たちの誰もが嘘吐きの五人に対して冷ややかな視線を向けていた。

 今回、名乗りをあげた五人は、何れも有力者であり富裕層である。普段はお上品にしている連中が金目当てで嘘を吐き、それを暴かれるという大恥をかいたのだ。


 このことが外に漏れれば、退屈した住民たちの格好の話題となるのは間違いないだろう。

 首を横に振りながら後退るライザーに言う。


「この鏡に映った貴方が語ったことこそ真実だ、とあなた自身が一番よく知っているはずですよ」


「違う! 違うんだ! これは、俺が姉さんに贈ったブレスレットだ! 嘘じゃない! 信じてくれ!」


 いまにも泣きそうな顔をしていたカールだったが、突然、怒涛の自己弁護を始め、神官たちに向かって必死の形相で訴える。


「私が真面目な商人なのは皆さんご存知ですよね? それに我が家は裕福だ。こんな安物のブレスレットのために嘘なんか吐くものか!」


 これに呼応して先の四人の関係者が口々に自分たちも騙されたのだと、嵌められたのだと訴え出した。


「このインチキ魔道具を信じるなんてどうかしていたんだ。そうだ、これはインチキだ! この魔道具が真実の鏡だなんてバカげている!」


「これは陰謀だ! 我々を陥れようとしているんだ!」


「おい、小僧! いったいどういう心算つもりだ!」


 矛先がこちらに向いた。


「この真実の鏡が偽物だとでも言うのですか?」


 俺のセリフに下級貴族の執事だと名乗った男が真っ先に反応した。


「何が真実の鏡だ! とんだペテンの鏡じゃないか! こんなものを使って我々を陥れようとするなど、許されると思うなよ!」


「では、今度は街中で試してみましょうか? そうですね、住民の皆さんにわざと嘘を吐いてもらって、それが嘘であることを暴けるかを試してみましょう」


 俺の提案に騒ぎだした四人が一斉に口を閉ざした。

 周囲の者たちに聞こえないよう、黙りこくる彼らにささやく。


「真実の鏡が本物であることはロッシュ代官様が証明してくださるでしょう。ここで騒ぎ立てても恥の上塗りにしかなりませんよ。まして、このことが外に漏れでもしたら……」


 最後までは語らずに下級貴族の肩を叩くと、力が抜けたかのようにドサリと椅子に腰を下ろした。


 さて、静かになったようだな。

 力なくうな垂れる嘘吐きの四人に向け、くだんのブレスレットを掲げて満面の笑みで告げる。


「こちらの盗品ですが、いまのところ所有者が不明です。そこで、皆さんのうちのどなたかに買い取って頂きます」


「買い取るだと?」


 卸問屋おろしどんやの主人が怪訝な表情で聞き返した。


「はい、この場で競売にかけさせて頂きます。競売で所有者が決まれば、少なくともどなたかがブレスレットを持ち帰ることが出来ます。このままだと全員が手ぶらで帰ることになってしまいます。そうなるとあらぬ噂が流れないとも限りません」


「そんなもの、全員が見間違えたといえばすむだろう」


 下級貴族の執事が力なく反論した。


 分かってないな。

 そのあらぬ噂を俺が流すと言っているんだよ。


「所有権を名乗り出た五人が嘘を吐いた、というの噂が流れるとお困りになりませんか?」


「競売に参加しよう」


 大手商会の商会長が真っ先に理解し、続いて、卸問屋の主人、農場主、ライザー商会の若旦那と続く。


「私もだ」


「すぐに始めようじゃないか」


「不本意ですが私も参加します」


 彼らの反応を見てようやく自分たちの置かれた状況に気付いた下級貴族の執事が、こちらを睨みながらも理解を示してくれた。


「落札価格の下限と上限を私が提示いたしますので、皆さん、この場で紙に金額をお書きください」


「一番高額を提示した者が落札だな?」


 と商会長。

 俺は商会長にその通りであると伝え、


「皆様にお支払い頂いた金額の八割を教会に、残りの二割を孤児院に落札された方の名義で寄付をさせて頂きます」


 と付け加えた。


 恥をかかずにすむだけでなく『慈善活動をした』、という好い評判が買えるのだ。あながち悪い取引でもないだろう。

 それに、落札価格の下限は相場よりも少し安い程度にするつもりだ。


 嘘吐き連中とは言っても、肉親や関係者が盗賊の被害者であることに変わりはない。その被害者の関係者を相手に、あまりアコギなことをするのはさすがに良心がとがめるからな。

 何事も加減は大切だ。


 俺はその場で競売を始めるのだった。

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