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第21話 第一部隊と盗品回収

「おい、小僧! 盗賊のアジトはまだか!」


 後ろを走る荷馬車から不機嫌そうな叫び声が聞こえた。

 声の主は第一部隊のパウル隊長。その脂ぎった顔と態度は不機嫌さを隠そうともしていなかった。


 まったく何てヤツだ。

 盗賊を討伐した功労者である俺たちの上前を跳ねようとするだけでなく、案内をする俺たちに、埃っぽいだの道が悪いだのと、思いだしたように八つ当たりをしていた。


「まだ先です、あと一時間はかかります」


 攻撃魔術を撃ち込みたくなる衝動を抑えてにこやかに愛想よく返事をすると、何やら悪態を吐いて座り直す。

 俺たちは二台の荷馬車で盗賊のアジトを目指して街道を進んでいた。目的は盗賊のアジトに残してきたという設定にした盗品を回収するためである。


 先導するのはロッテが操る馬車で荷台には俺とユリアーナが乗っている。後続の荷馬車にはパウル隊長を筆頭に第一部隊の騎士たちが十人。

 小隊二つ分だ。


 その人数と騎士たちの顔つきから不穏な未来を想像してしまう。


「盗品を積み込む手間や魔物に襲われる危険性を考えたとしても過剰な人員よねー。もしかして私たちを始末することも視野に入れてたりして」


「ありませんよね? 騎士団が善良な住民を襲うとかありませんよね?」


 ユリアーナが楽しそうに口にした不穏な予想にロッテが泣きそうな顔で反応した。


「あるんじゃない?」


「いやいや、ないでしょ」


「仮に襲われても、たっくんの創った魔道具があるから大丈夫よ。ロッテちゃん単独でも十分に撃退できるから」


「その魔道具ですが、使いこなす自信が微塵(みじん)もないんですけど」


 ロッテの反応が可愛らしかったので、つい、黙って見ていたがそろそろ助け舟を出すか。


「騎士団の小隊二つくらいに負けはしないさ」


「シュラさんが強いのは知っています。でも、あたしが言いたいのはそう言うことでは無くですねー」


「問題ない。騎士団と戦うことになってもロッテのことは俺が守る」


「え?」


 ロッテの背筋が急に伸びた。


「お前を傷付けようなんて輩は俺がぶちのめす」


「シュラさんったらー」


 身体をくねらせて嬉しそうに振り向いたロッテだったが、後続の馬車を視界に収めた途端その表情が一変する。


「違います! そうじゃありません! 騎士団と戦わない方向でお願いします」


 いま、一瞬、騎士団のことを忘れたな。


「俺としてもあの連中と戦うのは本意じゃないからな。まあ、できるだけ戦闘は避けるようにするよ」


 第二部隊のコンラート隊長からの提案もあるし、できれば第一騎士団と争うことなく盗品をお引き取り願いたい。


「約束ですよ」


「約束する」


 安堵したロッテの心をユリアーナが再び乱す。


「そうは言っても、あちらさん次第なのよねー」


 今まさに罠に掛かろうとしている、憐れな獲物を見るような視線が後続の馬車に向けられる。ユリアーナの視線に釣られ、俺も騎士たちが搭乗する馬車に視線を向けた。


「随分と入念に剣の手入れをしているな」


「さっきは防具のチェックをしていたわ」


「いやー、いやー」


 ロッテが天を仰ぎながら首を横に振る。

 それでも馬車は街道を外れることなく盗賊のアジトへと向かって進んで行った。


 ◇


 途中、魔物や盗賊に襲われることなく荷馬車は予定通り盗賊のアジトへ到着した。


「ここがそうなのか?」


「はい、ここが先日お引渡しした盗賊たちのアジトです」


 パウル隊長にそう答え、俺とユリアーナ、ロッテの三人が真っ先に洞窟へと足を踏み入れる。半数の五人を荷馬車付近に見張りとしてのこし、パウル隊長以下、五人の騎士がそれに続いた。

 洞窟を少し進み、居住区として使っていたスペースに入った途端、若い騎士たちが感心したように声を上げる。


「洞窟をアジトにしていると聞いていたから、獣や魔物のように不衛生なところを予想していましたが、意外と綺麗に使っていたんだな」


「椅子やテーブルも結構いいものを使っているぞ」


「こりゃ盗品の方も期待できそうだな」


 何とも浅ましい騎士たちだ。

 内心呆れるが、それを表にださないように注意してパウル隊長に話しかける。


「この部屋に残りの盗品があります」


 錬金工房に収納した盗品の半分近くを元々盗品が置かれていた部屋へと戻し、その部屋の扉を開けた。

 扉の向こうに見える盗品の数々に騎士たちが歓声を上げる中、パウル隊長が忌々しげに俺とユリアーナを見た。


「残した盗品がこれというと事は、お前たち二人の異空間収納にはもっと価値のある盗品があるんだろうな」


「私たち兄妹は商人ですから」


 当然、価値のある品を優先して取得すると暗に答える。


「ふん、まあいい。よし、運び出せ」


 パウル隊長が指示すると五人の騎士たちが一斉に盗品運び出しに掛かかった。

 次いで俺たちに向かって言う。


「何をしている。お前たちも手伝わんか!」


「あら? 案内だけの約束ですよね?」


「な……!」


 予想はしていたが案の定のやり取りだ。


 当たり前のように手伝いを要求するパウル隊長と『喧嘩なら買うわよ』という態度のユリアーナ。

 ユリアーナはもちろん、絶句するパウル隊長も引く気がなさそうだ。


「え? そんな……、お手伝いしましょうよ、シュラさん」


 狼狽えたロッテが両手を胸の前で組み、まるで祈るような姿勢で俺を見た。


「パウル隊長、妹は契約や約束事に厳しいんですよ。妹の分も俺がお手伝いしますからここは穏便にお願いできませんか?」


「あたしも、あたしもお手伝いします。一生懸命働きますよ!」


 勢い込んで協力的な姿勢をアピールするロッテに気付かれないよう、俺はパウル隊長に金貨の数枚の入った革袋を握らせる。


「街に戻ってからの荷下ろしも手伝わせて頂きます」


「そうだな、子どもに手伝わせるのも風聞が悪いか。よし、街に戻ってからも頼んだぞ」


「はい、お役に立たせて頂きます」


 よし、これで無事に街まで帰れそうだ。


 盗品を街まで持ち帰ったところで第二部隊がなだれ込んでパウル隊長以下、関係者が一網打尽となる。こいつの茫然自失とした表情を特等席で拝めるとなれば荷物を運ぶくらい苦でもない。

 俺はパウル隊長を陥れる計画を反芻しながら盗品を荷馬車へ積み込む作業を進めた。

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