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第14話 オーガ、撃退

 派手な攻撃魔法とオーガを瞬殺した事実に、住民たちだけでなく、冒険者と騎士団もが驚き言葉を失った。

 驚いて思考停止した反応も嫌いじゃない。


 そんなことを思いながら仕留めたオーガへ視線を向ける。

 焼けただれたアンデッド・オーガの顎がケロイド状の皮膚と共に崩れ落ちた。


 焼死体から放たれる焦げた肉の臭いと、鼻を突くような異臭が辺りに漂う。

 アンデッド・オーガの焼死体から目を背けると、今度は内臓の大半を食い荒らされたオーガの死体が目に飛び込んできた。


 ここにいちゃダメだ。

 吐く、このままここにいたら間違いなくリバースする。


 冒険者たちと交戦中のオーガへ視線を巡らせると、バリケードを乗り越える寸前だったオーガが、頭部を炎に包まれて転がり落ちるところだった。


 心臓も数本の槍で貫かれており、絶命間近であることが知れる。

 最前線を突破しようとしていたオーガたちが、警戒するようにバリケードからわずかに距離をとった。


 さらに、最後方にいた二体のオーガが大きく後退する。

 撤退するつもりか?


 見逃すつもりはないがバリケードから離れてくれたのは好都合だった。

 オーガと冒険者が直線状に並ぶのを避けるため、俺はオーガたちの側面へと回り込む。


「加勢する! 爆風に気を付けてくれ!」


「待て、待ってくれ!」


「伏せろ! 伏せるんだ!」


 俺の声が届いたのか、攻撃魔法を撃ちだそうと左手を突きだした動作に反応したのかは分からないが、冒険者たちが一斉にバリケードの内側に身を隠した。


 狙いは最後尾にいる二体のオーガと、バリケードに取り付こうとしている五体のオーガとの間。

 放つ魔法は爆裂系の火魔法。


「隠れろ! 坊やの攻撃魔法が来るぞ!」


「オーガよりも小僧の攻撃魔法を警戒しろ!」


 そこの二人、顔を覚えたからな。

 全員が隠れるのを待ってから攻撃するつもりだったが、その気持ちが大きく揺らぐ。


 とそのとき、冒険者たちの後方で頭を抱えて逃げ惑うロッテの姿が目の端に映った。

 続いて目に飛び込んできたのはユリアーナ。


 ロッテに駆け寄った彼女がロッテの手を引いて、さらに後方へと避難しようとしている。

 護衛役が逆転しているぞ!


 やむを得ないか……。


 火球の魔法を待機させたまま、風魔法を使って密度の異なる多層構造の空気の壁をユリアーナとロッテを守るように出現させる。

 刹那、照準したポイントに威力を抑えた数発の火球を高速で撃ちだした。


 火球は着弾と同時に爆発し、轟音と土煙を辺りにまき散らす。

 爆風と飛び散った細かな岩石は、空気の壁に阻まれてユリアーナとロッテには届かなかった。


 二人の無事を確認して胸を撫で下ろす。


 俺は後方にいた二体のオーガが爆風で吹き飛ばされそうになったところを収納し、所有していたスキルを瞬時に剥がして再び元の場所へと吐きだした。


 それと同時に今度は殺傷力の高い火魔法と土魔法の複合攻撃魔法を放つ。

 炎をまとわせ、高温に熱したソフトボール大の鉱石の塊を弾丸としてオーガへと撃ちこんだ。


 炎をまとった鉱石の弾丸は、本来なら魔力とスキルで『硬化』されるはずのオーガの皮膚を容易く貫き、硬質な骨を砕いて致命傷を負わせる。

『回復』や『再生』といった生き延びるためのスキルを失ったオーガはそのまま絶命した。


 よし、イメージ通りだ。

 辺りが静まり返る。


 オーガの咆哮(ほうこう)も、人々の悲鳴も、戦いの喧騒も消えた。

 音が消えたと思った次の瞬間、防壁の向こう側から歓声が上がった。


「立て続けにオーガをヤッちまたぞ!」


「どこの誰だ?」


「スゲー攻撃魔法だったぞ!」


「あんな攻撃魔法、初めて見た!」


 驚きと称賛の声が飛び交う。

 まだ四体のオーガを残しているというのに、集まった住民たちが歓喜に湧き返る。


 触発されたように防衛ラインの冒険者たちまでもが歓声を上げた。


「勝てるぞ!」


「あと四体だ! ヤッちまえ!」


「おい、お前ら! 坊やに負けてる場合じゃねえぞ!」


「このままじゃ、見せ場を全部持ってかれちまう」


 なかには、上空に向けて火球を撃ちあげる者までいる。

 おいおい、大丈夫か?


 爆風で転がされているが、まだ四体のオーガが残っているんだぞ。

 内心でそう思いながらも、つい、口元が綻んでしまう。


 いいねー、この感じ。

 やる気が(みなぎ)ってくるじゃないか。


「ふはははは」


 だめだ、笑いが零れてしまう。


 もっとだ!

 もっと驚け! 驚愕しろ!

 もっとだ!

 もっと称賛しろ! 俺を(たた)えろ!


 口にはだせないな。

 人々が歓声を上げ、驚きの声が上がるのを待った。


 地面に転がったオーガ四体をそっちのけで冒険者や住民たちが沸き返り、俺のボルテージは天井知らずに上がる。

 冒険者たちが迎撃しないなら都合がいい、残るオーガ四体のスキルもこちらで頂くとしよう。


 たったいま入手したスキルも役立ちそうなものが目に付く。

『回復』『再生』『強靭』『怪力』『硬化』……、アンデッド・オーガから剥奪したのとは異なるスキル。

 戦闘後の錬金術が楽しみになる。


 それじゃ、残るオーガ四体のスキルを奪うことにしよう。


「広域の攻撃魔法を放つ!」


 冒険者たちに警告を発する。

 三度目ともなると慣れたもので、手際よく全員が身を隠した。


 慣れるのは俺も一緒である。

 反応の遅れたロッテと彼女を庇うユリアーナの二人を、再び多重構造の空気の壁で守りながら攻撃魔法を放った。


 オーガと冒険者たちの間に炎の壁が燃え上がり、爆風が土煙を巻き上げる。

 どちらも殺傷能力の低いこけ脅しの魔法。

 その陰で錬金工房にオーガを収納し、スキルと魔力を剥奪して吐きだす。


 手慣れた手順。

 先程と同じように冒険者たちの視界を奪っている間に四体のオーガに止めとなる攻撃魔法を撃ちこんだ。


 束の間の静寂。

 土煙が晴れて視界が戻るとオーガの死体が人々の目にさらされる。


 途端、空気を震わせるほどの歓声が上がった。

 防壁の内と外とで歓声が上がりる。


「あんなスゲー魔法初めて見た!」


「スゲーぞ、あの小僧」


「坊や! 凄かったぞ!」


「あんた、いったい何者なんだ?」


 歓声に続いて俺を讃える声援がそこかしこから上がる。

 俺は腹の底から湧き上がる歓喜を抑えて、ユリアーナとロッテの二人と合流するため、バリケードの向こう側へと向かった。

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[一言] 力に溺れる危険な主人公。
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