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第13話 アンデッド・オーガ

 突然、吐き気に襲われた。

 生きたオーガの腹を割いて内臓をむさぼり食うアンデッド・オーガから、思わず目を逸らしてその場にしゃがみ込む。


 オーガの断末魔の咆哮が耳朶(じだ)を打つ。

 喉の奥まで戻りかけた胃の内容物が鼻孔を刺激する。


 リバースしそうになるのを寸前のところで堪えていると、傍らから平然とした口調の声が聞こえた。

 会話の主はロッテとユリアーナ。


「オーガも食べられたくないから必死ですねー」


「アンデッド・オーガが追い付いたら冒険者も食べられるんじゃないかしら?」


「お腹が空いているみたいだし、大きい肉に向かうと思います」


「冒険者たちはそうは思ってないみたいよ」


 ユリアーナの視線が食事中のアンデッド・オーガから、強行突破しようとするオーガと交戦中の冒険者へと移った。


「後衛担当の方の視線がアンデッド・オーガに向いてるような気がします」


 どうやら俺が一番グロ耐性に欠けるみたいだ。

 無理もないか。


 召喚前から含めて、生死を賭けた戦いどころか、断末魔の声すら聞いたことがない。

 己の平穏だった半生を振り返っていると、顔色を豹変させたユリアーナが突然俺に話しかけた。


「たっくん、見つけたわ!」


 見つけた? 何を見つけたんだ……?


「まさか……」


「あのアンデッド・オーガが二つ目の神聖石の持ち主よ」


 ユリアーナの射抜くような視線がアンデッド・オーガに向けられる。

 傍らのロッテが息を飲んで口をつぐんだ。


「アンデッド・オーガを先に叩く」


「願ってもない選択よ」


 俺も同じ選択をしておいて何だが……、神聖石が最優先のユリアーナらしい、清々しいくらいに冒険者たちの損害を鑑みない答えだ。


「アンデッド・オーガという脅威が排除されれば、冒険者や騎士団もオーガの撃退に集中できる。それに、オーガたちも逃げ道ができれば森へ逃げ帰るかもしれないだろ」


 一応、それらしい言い訳をして話を続ける。


「錬金工房の能力を悟られないような戦い方をするつもりだが、それでも目撃者からできるだけ離れた場所で戦いたい」


「冒険者たちにはオーガの対応に追われてもらいましょう」


 言葉を選べよ、女神様。


「ユリアーナは光魔法で怪我を負った冒険者たちの回復を頼む」


「任せて。そう簡単に防衛ラインを崩壊させたりしないわ」


「ロッテはユリアーナの護衛だ」


「はい!」


「アンデッド・オーガは俺が派手に倒す」


「派手に?」


 ユリアーナの顔に不安の表情が浮かんだ。


「派手に倒せば俺たちの強さが証明できる。不正騎士や悪代官でも強いヤツにそうそう無茶な要求をしてこないんじゃないのか?」


「やってみる価値はあるわね」


 納得するユリアーナの傍らで、ロッテが頬を染めて瞳を潤ませる。


「シュラさん、あたしのために……」


 ロッテのためというのもあるが……、頬を染めて身体をくねらせるのはやめようか。

 不審そうな顔をした騎士団員が近付いてくるだろ。


「何も心配するな。すべて俺に任せておけ」


「はい」


 今度は自分の両肩を抱きかかえたまま身体をよじりだした。


「お前ら、そこで何をしている!」


 騎士の声が響いた。


 声の方を振り返ると年配の騎士が歩いてくるところだった。


「光魔法を使える魔術師が不足していると聞いたので駆け付けました」


 俺たちが旅の商人であることと、妹であるユリアーナが光魔法の使い手であることを年配の騎士に告げた。


「光魔法が使える魔術師は歓迎だが、子どもを最前線に行かせる訳にはいかない。騎士団の後方で待機していなさい」


『おじさんたちが守るから安心して回復に専念できるよ』と人の良さそうな笑顔で、騎士団が築いたバリケードのさらに後方にある幕舎を示した。


 ありがとうございます、騎士さん。

 そして、ごめんなさい。


「教会に運ばれてきた瀕死の冒険者に頼まれたんです。『最前線の怪我人を少しでも救って欲しい』って」


「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だ。戦うのは我々大人に任せなさい」


 だめだ、人が良すぎる。

 そして話が通じなさすぎる。


「いま、俺たちがあそこに行けば前線は維持できます」


 七体のオーガ相手に次第に押され気味になってきた冒険者たちの防衛ラインを親指で示した。

 騎士が言葉に詰まる。


「それに俺たちは冒険者ギルドに派遣されて来た訳じゃありません。純粋に街を守りたいから、大切な人を守るために立ち上がったんです。どこで戦うかは俺たちに選択権があるはずです」


「ギルドの依頼じゃなかったのか……」


 適当にカマをかけてみたが、騎士の顔を見る限り正解だったようだ。

 もう一押しというきもするが……。


 時間が惜しい。

 さっさと、騎士との問答を切り上げるとしよう。


 大人に対して失礼とは思いますが……。

 ごめんなさい、親切な騎士さん。


 口調と態度をダークヒーローモードに切り替える。


「あんたは知らないだろうが、俺は一流の魔術師だ。俺ならアンデッド・オーガを倒せる」


「違いますよ! シュラさんは超一流の魔術師です! いいえ、あたしの中では英雄です!」


 何か言おうとした騎士が、口を開いたままで固まった。


「分かっているじゃないかロッテ」


「へへへー」


 嬉しそうにするロッテから騎士へと視線を戻す。


「聞いての通りだ。超一流の魔術師である、この神薙修羅がいまからアンデッド・オーガを倒してくる! お前たちは安心してオーガの殲滅(せんめつ)に専念しろ」


「あたしたちのことは見なかったことにしてね」


「騎士様、そういうことで、ひとつよろしくお願いします」


 何も言わずにたたずむ騎士にそう言い残して、俺たち三人は防壁を越えた。


 ◇


「俺はアンデッド・オーガを叩く!」


「頼んだわよ」


「任せてください!」


 ユリアーナとロッテの返事を置き去りにして一気に加速した。

 オーガの内臓を食っていたアンデッド・オーガが俺の接近に気付いて食事を中断して立ち上がる。


 錬金工房に取り込めば瞬殺なのにな。

 そう内心でつぶやいて、広範囲に広がる炎の壁となる火球を十数発撃ちだす。


 イメージ通りの結果が眼前に広がる。

 俺とアンデッド・オーガとの間に、見上げるほどの高さがある炎の壁が広がり、騎士団や冒険者たちの視界からアンデッド・オーガを隠した。


「何だ、あの魔法は!」


「スゲーッ!」


「アンデッド・オーガを丸焼きにしたのか?」


 背後から上がる冒険者たちの驚きの声が聞こえるなか、大音量の爆音が鳴り響くような爆裂球の魔法を撃ちだす。


 爆音が空気を震わせ土煙を巻き上げる。

 背後で冒険者たちの悲鳴が上がった。


 振り返ると、耳を塞ぎ地面に伏せている者がほとんどだった。

 驚いたのはオーガたちも同様で、座り込んだり地に伏したりと差はあったが、七匹すべてが炎の壁を茫然と見上げていた。


 これで準備は整った。


 俺は全身に魔力障壁をまとって炎の壁へと突っ込む。

 背後で悲鳴と驚きの声が上がった。


「突っ込むぞ、あの小僧!」


「自殺行為だ!」


 爆発音と爆風に耐えた者たちの声を背に炎の壁を抜けると、爆風に耐えかねて転がったアンデッド・オーガが立ち上がろうとしていた。


「腐ってる割には元気そうじゃねえか」


「グガァー!」


 咆哮を上げて立ち上がったアンデッド・オーガと目が合った。


「お前の目に俺はどう映っている? 敵か? 獲物か? 或いは天敵か?」


 己のセリフにボルテージが上がる。


 再び咆哮を上げようとした瞬間、俺はアンデッド・オーガを収納した。


 ――解析。


 瞬時にアンデッド・オーガの所有する魔力量やスキルの情報が流れ込んでくる。神聖石がどこにあるのかも即座に判明した。


 先ずは神聖石だ。

 続いて、『再生』『毒耐性』『麻痺耐性』『石化耐性』『睡眠耐性』『魅了耐性』『暗視』……、と幾つもの初見のスキルを剥奪し、最後に魔力を剥奪した。


「素材として十分に優秀だったぜ」


 錬金工房から吐きだしたアンデッド・オーガへ向け、通常よりも多くの魔力を注ぎ込んで熱量を上げた火球を撃ちだす。


 その腐りきった身体が燃え上がった。

 炎のなかで苦しそうにのたうち回りながら、悲鳴のような寂しげな咆哮を上げる。


 背後の炎の壁が収まった頃にはアンデッド・オーガは焼死体に変わり果てていた。

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