第十四話「行ってらっしゃい」
こんにちは、オロボ46です。
今回で坂崎さんのお話は終了です。
それでは、どうぞ。
「坂崎サン、何シテイタノ?」
タビアゲハに聞かれた坂崎はうつ向きながらも答えた。
「まあ、いろいろとあってのう・・・・・・」
坂崎は路地裏で三つ首の化け物と話した内容は言わなかった。
『へは市』の空は、オレンジ色に染まっている。
「そういえば、タビアゲハ、
へは市の港には言ったかのう?」
「ウウン、マダ行ッテナイケド・・・・・・」
「そうか。それならちょうどいい。一緒に行くか。」
二人は、港へ向かって歩き出した。
「ふう、かなり歩いたのう。」
坂崎は息を切らして言った。
二人が港に着いたのは、もう周りが暗くなったころだった。
「イロンナ船ガ・・・・・・イッパイ・・・・・・」
タビアゲハは港に並んだ船を見て言った。
「タビアゲハ、ちょっとすまんがこれを背負ってみてくれんかのう」
そう言って、坂崎は背中に背負っていた黄色いバックパックをタビアゲハに渡した。
「エ・・・・・・?デモ、コレ・・・・・・坂崎サンノ・・・・・・」
「いいから背負ってみるんじゃ」
タビアゲハは疑問に思いながらも、バックパックを背負った。
「・・・・・・重いかのう?」
「ウウン、チョウドイイケド・・・・・・」
「そうか・・・・・・それならよかったわい」
「ネエ、坂崎サン、ドウイウコト・・・・・・?」
タビアゲハは坂崎が何をしようとしているのかが解らなかった。
坂崎は海を見つめてため息をつき、再び口を開いた。
「タビアゲハ・・・・・・この老いぼれの話を、聞いてくれんかのう?」
タビアゲハは、静かに頷いた。坂崎は微笑み、そして語り始めた。
わしが若いころ、初めてその会社は建てられた。
わしはそこの社長として勤めてきた。
しかし、不況で会社は倒産の危機に見舞われたんじゃ。
わしは、職を失いたくなかった。
そこでわしはある手段を使った。
あまりにも卑怯な手段じゃったが、なんとか会社は立ち直った。
そして、わしは二度とこのようなことを
起こさないために、部下に厳しくした。
労働時間を大幅に伸ばし、その分の休憩時間を奪った。
給料も安く、残業代もなし。
給料をあげろと少し呟いた者は次第に周りから遠ざけさせ、
辞めたいと言った者はネチネチと説得する。
人権を無視した言葉を使ってな。
そんな会社だから、当然過労死する者もでてきた。
わしは金と権力を駆使してこの事実を隠した。
さらに、ライバル会社に対しても卑劣な手段を使った。
会社の根もない悪い噂を流したり、重要な社員をこちらに引き抜いたり・・・・・・
わしの会社の為に、いくつもの会社が犠牲になった・・・・・・
・・・・・・何言っているのか解らない?
すまないのう・・・・・・つい興奮してしもうたわい・・・・・・
要するに、社長でありながら社員や他人を
人間らしい扱いをしていなかったわけじゃ。
そのお陰で、わしの会社は大企業として
世界に名前を知られるようになった。
わしは、人の価値より会社を優勢することで
幸せを掴むことができると信じていた・・・・・・
孫娘の死までは・・・・・・。
わしの孫娘は、わしがリストラさせた元社員に刺されて死んだ。
わしがその元社員に恨みを抱きながら話を聞こうとした時、
初めてあの能力・・・・・・心を詠む能力が使えるようになった。
そしてわしは初めてその元社員の心を知った。
話を聞けずに立ち去った後も、
わしは他人の様々な心を詠んてしまい、
自分がしてきたことが間違っていたことにようやく気がついた。
そしてわしは社長を続けることができなくなり、
息子に会社を譲り、旅にでた。
わしは、のんきに旅をした。とにかく今までのことを忘れたかったからじゃ。
しかし・・・・・・うあ市で、わしはある化け物に出会った。
そう、タビアゲハ・・・・・・あの時はお嬢さんと呼んでいたのう。
そしてわしはお嬢さんを旅に誘った。
あの時のわしは化け物病は感染するものではないという噂を
小耳に挟んでいただけで、感染するという考えが少し残っていた。
わしは、自分の姿が化け物になることを望んでいたのかもしれないのう。
しかし、きこ市の人形店の青年の心を詠んだとき、感染しないものだと確信した。
青年がどこからか手に入れたその知識には、合理性があったからじゃ。
わしは、それでもお嬢さんと共に旅を続けた。
そして、わしに夢を奪われた者たちとも再開した。
せす市の廃墟にいた化け物、彼女はわしの会社の元社員だった。
彼女には責任を押し付け、ノイローゼまで追い込んだ。
彼女がわしの事を覚えいなかったのは、
もう仕事のことを考えたくなかったからじゃな・・・・・・
にの村で、お嬢さんがタビアゲハという名前を貰った時、
わしは宿の常連客と出会った。
その常連客はわしのライバル会社の元社長であり、
わしにその会社を潰された者じゃ。
彼は元々顔を見ていなくて気づかなかったが、
彼の心を詠み、気づいた。
わしがタビアゲハに過去の事を話そうと決意したのはその時じゃった。
そして、この町でわしの元部下の従兄弟と出会った。
彼は行方不明となった従兄弟を探しにこの町を訪れたのじゃ。
その後、タビアゲハと一緒にいた化け物と出会った。
その化け物が元社員ということはすぐに解った。
彼はわしを探し続けて人間を殺し続けていた。
しかし、彼はわしを殺そうとしなかった。
彼はタビアゲハの影響を受けたんじゃな・・・・・・
彼はわしにいったのじゃ。
「先にあいつに言うことはないのか」とな・・・・・・
坂崎は一息ついて、再び口を開いた。
「今日、わしの今までの悪事が世間に漏れたのじゃ。
特に最初の卑怯な手段がいけなかったのじゃろう。
警察も動き出すほどだからのう・・・・・・」
「坂崎サン、捕マッチャウノ?」
「わからん、ただ、どうせわしはこの年じゃ。
いつまでもお前さんと一緒に旅はできないんじゃ。
だから、この機会にわしから最後の頼みを聞いてほしいんじゃが、
聞いてくれるか?」
タビアゲハはまた、静かに頷いた。
「そのリュックと共に、この日本を飛び出して、世界を見て廻ってくれ。
この港に、ロシア行きの貿易船がある。
あの船にこっそり忍びこんで、船蔵という倉庫に身を隠すんじゃ。
船が出港し、目的地に止まったらそのまま見つからないように
外に出るんじゃ。わかったか?」
「ウン・・・・・・」
「よし、それじゃあ、行ってくるんじゃ・・・・・・
いや、ちょっと待つんじゃ。
わいが旅ができるようになったら、
すぐにお前さんに追いつく。さっきの化け物からの伝言じゃ。
さ、もう行ってくるんじゃ」
「ネエ、坂崎サン・・・・・・」
「・・・・・・どうしたんじゃ?」
タビアゲハは少しうつむいた後、目のない顔で笑顔を作り、
その笑顔を坂崎に見せた。
「・・・・・・イッテキマス」
「・・・・・・行ってらっしゃい。」
タビアゲハは、貿易船に向かって歩いて行った。
坂崎が道を歩いていると、人影が2つ、こちらに向かっているのが見えた。
その人影の1つは懐中電灯を持っていており、
その光を坂崎に向けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうして、こうばったりと会うものだろうか。
目的の化け物を探してパトロールしているだけなのにな」
「まあ、ちょうどよかったですわい。
そちらに出向いている途中でしたからのう」
その人影は、警視庁化け物処理係の背の高い男とぽっちゃり男だった。
「俺たちもニュースを聞いてびびったぜ。
まさかあんたがあの社長だったなんてな」
「やっぱりびっくりしましたかのう?」
「・・・・・・あいつは・・・・・・どうしたんですか?」
「・・・・・・彼女は・・・・・・・・・・・・」
その時、船の汽笛が聞こえてきた。
海を見ると、貿易船が進み出したのが見えた。
(やっぱり、わしは・・・・・・
彼女と孫娘を重ねていたそうじゃのう・・・・・・)
坂崎は心の中でそう呟いた後、口を開いた。
「ありがとう、タビアゲハ」
三人は、貿易船を見つめていた・・・・・・
船の船蔵の中で、タビアゲハは坂崎から受け付いたバックパックに、
お気に入りのぬいぐるみを入れた。
そして、そのバックパックを抱き締めて体を震わせた。
別れの時のあの笑顔は悲しみを隠そうとした笑顔だった。
タビアゲハは、泣こうとしていた。
しかし、どんなに震えても涙は一滴も出なかった。
化け物の体は、涙が出ないのだろうか。
それでもタビアゲハは、ただひたすら震えていた。
窓からは、星空がタビアゲハを見つめるように輝いていた。
いかがでしたか?
第一部までのあとがきも書いてみたので、よければ見てくださいね。




