第十一話「町という名の花」
こんにちは、オロボ46です。
今回は「にの村」の続きです。
それでは、どうぞ。
「ふうううう・・・・・・」
坂崎と常連客は一緒に大浴場の風呂へと浸かった。
「やっぱりここの風呂は気持ちいいなあ・・・・・・」
「そうですのう・・・・・・」
二人のやり取りの中でも坂崎は手首を見続けていた。
その手首の傷あとは、不幸なきっかけでついたとしか思えなかった。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもありませんじゃ」
「・・・・・・もしかして、これのことですか?」
常連客は手首を上げた。
「コレハ・・・・・・チョットコケチャッテネ・・・・・・」
女の子に聞かれて、化け物の少女は右手の手を見て言った。
その右手には包帯が巻かれていた。
「へえ~、ちょうちょさん、以外とおっちょこちょいなんだね~」
蜘蛛の化け物に指がちぎれかけるほど噛まれました。
なんて五歳の女の子に向かって言えるはずがないだろう。
「それにしても、いい湯だね~」
「ウン、ソウダネ・・・・・・」
二人は風呂に浸かりながら会話をしていた。
それも、昔ながらのゴエモン風呂で。
「ソウイエバ、私タチノ服ッテドウヤッテ洗濯スルノ?」
「うん、お婆ちゃんが洗濯するよ」
「エ!?」
ゴソゴソ
その時、外で何かが動いている音がした。
化け物の少女が窓から覗くと、饅頭の化け物が玄関に頭(?)を突っ込んでいた。
「マサカ・・・・・・食ベテイルンジャ・・・・・・」
玄関には二人の着ていた服が置いてあった。
「うん、お婆ちゃんの口はね、
お洋服をきれいにしてくれるんだよ」
「・・・・・・ベタベエタニナッテナイ?」
「ううん、ちゃんとさらさらで、いい香りがするんだよ」
化け物の少女は見なかったことにした。
ガラン
自販機の取りだし口に牛乳瓶が落ちた。
常連客はそれを手に取り、腰に手をあてて飲んだ。
坂崎も一緒に牛乳瓶の中身を飲んでいた。
「ぶっはー!!やっぱり風呂上がりはザクロ牛乳じゃなあ!!」
「ふううう!!この味噌牛乳もなかなか行けるんですよ!!」
二人は風呂上がりの一杯を満喫していた。
しかし、坂崎はザクロ牛乳を飲みながらであっても、
常連客の傷痕について考えていた。
「これは、ちょっとしたことでついてしまったんですよ。
まあ、詳しい事情はちょっと言えないんですが・・・・・・」
あの時、常連客はそう言って誤魔化した。
坂崎は心を詠める。しかし、常連客の心だけはなぜか詠む勇気がなかった。
あの常連客の過去に、何か知ってはいけないような気持ちになったからだ。
「あ、見てくださいよ、あれ」
常連客は味噌牛乳を片手に窓を見ていた。
窓には暗闇の空と満月が写っていた・・・・・・
「このぬいぐるみ、モフモフしてる~」
女の子は化け物の少女が普段持ち歩いている
ウサギのような耳が生えた猫のぬいぐるみを触っていた。
化け物の少女はその様子を見てとても和んだ。
(ソレニシテモ・・・・・・)
化け物の少女は自分の着ているローブの匂いを嗅いだ。
ほのかなバラの匂いがする。
(イイ匂イダケド・・・・・・)
やっぱり風呂場で見たあの光景が頭から離れなかった。
「気分ハドウダイ?」
窓から饅頭の化け物が話しかけた。
「あ!お婆ちゃん!!あのね、あたし、チョウチョさんと一緒にお風呂に入ったよ!」
「オヤマア、ソウカイ。・・・・・・ア、
ソウイエバ、オ前サンノ名前ヲマダ聞イテナカッタネ」
「ア・・・・・・エット・・・・・・実ハ・・・・・・」
化け物の少女は名前がまだないことを説明した。
「それならあたしが名前を考えてあげる!ねえ、いいでしょ?」
「ウン・・・・・・イイケド・・・・・・」
「やった!!それじゃあね・・・・・・えっと・・・・・・」
その時、窓から一匹の蝶がヒラヒラと入ってきた。
その蝶は、化け物の少女には見覚えがあった。
「きれいですのう・・・・・・」
「はい・・・・・・、月を見ているとあのころを思い出すんですよ」
二人は満月の月を見上げていた。
その時、常連客が涙を流しているのが見えた。
それを坂崎が心配した時だった。
常連客の心が、坂崎の精神にぶつかって来たのである。
会社への入社、重ねてゆく出生、
大切な者との出会い、結婚、息子の誕生、そして社長の座を手にする・・・・・・
ここまでは順風満帆な人生だった。
しかし、別の会社との競争、敗北、会社の倒産、妻との離婚、息子の家出・・・・・・
常連客がすべてを失った日にも、夜空には満月が登っていた・・・・・・。
「あの、大丈夫ですか?」
常連客に心配しされて初めて、坂崎は自分が膝をついていたことに気づいた。
「ネコウサギ・・・・・・アゲハ・・・・・・?」
「うん!あの蝶、オナガアゲハ、て言うんでしょ?
だから、チョウチョさんはネコっぽくてウサギっぽいお人形を持っているから
ネコウサギアゲハ!!」
女の子は窓の外へと去っていくオナガアゲハを見て言った。
「チョット・・・・・・長イカナ・・・・・・」
化け物の少女は遠慮がちに言った。
「オ前サン、旅ヲシテイルンダロウ?ソレナラ『タビアゲハ』ハドウダイ?」
饅頭の化け物が提案をする。
「あ!何かよくわからないけどそれがいい!タビアゲハさん!この名前でいいでしょ?」
二人が決めてくれた名前を聞いて、化け物の少女は改めて自分の姿を見た。
真っ黒で、目がなくて、触覚が生えている。
名前を決めてくれて、初めて気づいた。
(私ハ・・・・・・チョウチョナンダ・・・・・・)
花から花へ移り行く黒い蝶を思い浮かべた。
(私モ・・・・・・町トイウ名ノ花ヲ渡り歩いてイル・・・・・・)
化け物の少女はこの名前に強い親近感を抱いた。
翌日
にの駅に止まっている電車に乗る人々。
坂崎たちもその中に紛れていた。
坂崎は電車に乗った時から決意した。
(いつかは・・・・・・本当のことを話さなければ・・・・・・
この子に・・・・・・そして、できればあの常連客にも・・・・・・)
坂崎は隣の少女を見た。
少女の着ているローブから、ほのかなバラの匂いがした。
「お嬢さんも風呂に入ったようじゃな」
坂崎は少女の心を詠んだ。
「ウン、マアネ・・・・・・」
少女は少し照れた。風呂に入ったことで照れているのではなかった。
「ネエ、坂崎サン・・・・・・
私ノコト、コレカラ『タビアゲハ』、テ呼んでクレル?」
少女・・・・・・いや、タビアゲハがそう言った時、
電車は次の町に向かって走り始めた。
いかがでしたか?
ついに名前がネコウサ・・・・・・タビアゲハに決まりましたね。
坂崎さんに秘密があることも明らかになりつつありますが、
次回もお楽しみに!




