第十話「お風呂に入ろう!」
こんにちは、オロボ46です。
今回は「にの村」という村のお話です。
それでは、どうぞ。
薄暗い夜、森の中に一つの駅があった。
その駅の名は「にの駅」。
普段人のこないこの駅に、一台の電車が止まった。
「この前電車が運行休止になって
なかなか乗れなかったと思ったら今日は故障かのう・・・・・・」
坂崎は呟きながら電車を降りた。
化け物の少女は止まっている電車を気にしながら降りた。
電車は『にの村』の駅の前で故障しており、
乗客たちは次々と駅のホームへと降りて行く。
ちなみに、今回は化け物が原因ではないのでご安心を。
「コレカラドウスルノ?」
化け物の少女が坂崎に聞く。
「ひとまずこの村の宿に泊まるしかないのう。
しかし、にの駅か・・・・・・あまり聞いたことないのう・・・・・・」
その時、二人の間を一匹の黒い蝶が横切った。
少女はその蝶の美しさに思わず見とれてしまった。
(アノチョウチョ、キレイ・・・・・・)
「あれはオナガアゲハじゃな。」
「オナカアゲハ?オ腹スイテイルノカナ・・・・・・」
「オナガアゲハじゃ。しかし、久しぶりに見るのう・・・・・・」
オナガアゲハは宙を舞い、暗闇に消えて行った。
宿の前で、二人は別れた。理由は言うまでもないだろう。
化け物の少女は宿の裏で眠りにつこうとしていた。
「ねえ、ねえ、」
子供の声で少女はすぐに目覚めた。
「お姉ちゃん、こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ?」
目の前に5歳ぐらいの女の子がいた。手には懐中電灯を持っている。
戸惑う化け物の少女に女の子は顔を覗きこむように見つめながら言った。
「ねえ、顔見せてよ。暗い感じでちょっと怖いし・・・・・・」
化け物の少女は坂崎や『せす市』の少年のように化け物を恐れない人間だと思った。
「顔ミタラモット怖イカモシレナイケド・・・・・・」
「いいから見せてよ」
そう言って女の子は化け物の少女の着ているローブのフードをとった。
「あ、ちょうちょさんだ。」
女の子は化け物の少女の触覚を見て言った。
「君モ私ノコトヲ怖く思ワナインダ・・・・・・」
「うん、怖くないよ!
ねえちょうちょさん、あたしの家に来て!」
「エ!?」
「いいから速く来て!こっちだよ!」
そう言って女の子は暗闇の奥へと走って行った。
「ふうううう・・・・・・」
坂崎は大浴場で風呂に浸かっていた。
長旅の疲れが一度に流れ落ちていく。
「昨日は慌てていて風呂に入る時間がなかったからのう・・・・・・」
坂崎は一人湯船に浸かりながら呟いた。
宿泊先のホテルや宿の浴場で自分以外誰もいない、
貸し切り状態になっていたら泳ぎたいと思う方もいるのではないだろうか。
(こういうとき、若いころはよく泳いだものだがのう・・・・・・)
坂崎は若いころの自分を思い出した。
最近サーフィンをやったばかりだからだろうか、
坂崎の中で何かが沸き上がった。
「たまにはいいじゃろう・・・・・・」
坂崎はスタートラインにたった。
ガラッ
別の客が入ってきて、泳ごうとしていた坂崎は顔を赤くした。
「モウ少シ・・・・・・待ッテ・・・・・・」
化け物の少女は女の子の後を追いかけていた。
「あそこだよ!」
女の子が指差した先に古い家があった。
「ここがあたしの家だよ!」
「カナリボロボロダケド・・・・・・」
その家のボロさは、ある有名な映画の家を想像していただくと分かりやすいだろう。
(マルデオ化ケ屋敷ミタイ・・・・・・)
そう思ったとき、化け物の少女は何かがこちらに向かってくるのを感じた。
その何かは化け物の少女たちの目の前に現れた。
姿を例えるならば、非常に巨大な白い饅頭といったところだろうか。
「お婆ちゃーん!!」
女の子は饅頭の化け物に向かって言った。
すると饅頭の化け物が横に切れ込みが入ったかと思うと、大きく開いた。
どうやら口だったようだ。
「オ客サンカイ?トリアエズ、家ニ上ガッテオイデ」
「なるほど、ここにいらっしゃたのは初めてですか」
「そういうあなたは前に来たことは初めてですかのう?」
「はい、毎年この時期になったらここにくるんですよ。いわば第二の故郷です」
坂崎は常連客に背中を洗ってもらいながら互いに会話していた。
常連客は坂崎よりも年下だったが、かなり近い年齢だった。
「しかし、さっきの姿勢はなかなか筋が通っていましたな!」
「いやあ、お恥ずかしい・・・・・・」
「いえいえ、私も若いころはクロールで泳いだことがありますよ」
「ほう、クロールですか!わしが若いころはバタフライでした。
おっと、そろそろ変わりますぞ。」
二人は180度回転し、坂崎が常連客の背中を洗い始めた。
二人はすっかり意気投合していた。
「そういえばここの村の噂、知っていますか?」
「いえ、この村自体来たことがなかったもんでのう・・・・・・」
「ここの村には、守り神がいるという噂ですよ」
「ほう・・・・・・守り神ですか・・・・・・」
「何でも、親を失った子供の面倒を見るらしいんです」
「なるほど・・・・・・ん?」
坂崎はその時、常連客の手首が見えた。
その手首には無数の傷あとがあった・・・・・・
「・・・・・・」
化け物の少女は家の和室で座っていた。
「ねえ、ちょうちょさん!ちょうちょさん!」
女の子が部屋に入ってきた。
「お風呂沸いたよ!」
「エ?オ風呂?」
「ちょうちょさん、その服ちょっと匂うからってお婆ちゃんが言った」
(匂ウ・・・・・・?)
"そういえば、お嬢さんの"それ"もいつか洗わないといけないのう・・・・・・"
化け物の少女は坂崎の言葉を思い出した。
「ね!だから一緒に入ろう!」
そう言って女の子は風呂場へと急いだ。
宿の大浴場で常連客と湯船に浸かる坂崎と、
古い家の風呂場へと向かう女の子を追いかける化け物の少女。
こんな田舎であっても、やはり一話では終わらせてくれないようだ。
いかがでしたか?
・・・・・・よく考えたら、大浴場で平泳ぎはできても
クロールやバタフライとかできるものでしょうか?(そこの浅さ的に)
まあ、あくまでもクロール風とかバタフライ風とかで
実際の泳ぎを大浴場用にアレンジしたものと思えばいいか。
次回もお楽しみに!




