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魔王と話してみた

 魔王に案内された部屋は、とても豪華だった。

 大きく、長い机が中心に置いてあり、その上にはきれいな花が飾られていた。

 部屋の所々に、何かの動物の頭が飾られていた。

 色は赤と黒で統一されていて、綺麗な部屋だった。

 イメージとしては、死体とかがごろごろと転がっていたり、物が壊れていたりするのかと思ったが、正反対だった。

 俺の部屋より断然片付いている。

 魔王が席に着き、俺らも続いて席に着く。


「早速だが、話をしてもかまわないかね?」

「ああ、いいぞ」


 俺は緊張で渇いた喉を潤すため、出された飲み物を手に取る。


「タイチ! 飲んではだめだ!」


 そう言って、俺が手にしたカップを叩き落とす。


「おいクレア、何するんだよ」

「魔王軍が出したものだぞ。何が入ってるかわからないだろ」

「おいバカ。魔王の目の前で言うことはないだろ」


 俺は魔王が激昂したんじゃないかと、おそるおそる表情をうかがった。

 だが、その表情は柔らかかった。


「大丈夫だ。我も最初から信じてもらえるとは思ってない。だが、信じてほしい。我らは決して汝らと争う気がないことを」


 魔王の眼はまっすぐで、それに刺されそうな気分になった。

 上に立つ者の力の差を見せつけられているようだ。

 そして、すぐに部下が新しいものを持ってきた。


「タイチ……」

「大丈夫だよ。クレアは心配しすぎだ」

「わかっているのか。タイチは勇者なのだぞ。この国の…グランヴァニアの最後の希望なのだぞ」

「わかってるよ」


 俺を信頼し、尊敬してくれてる上での発言なのだろう。

 たしかに過剰になるのも、わからなくはない。


「…わかった。せめてプリンの魔法で確かめさせてくれ。この際だ、はっきりと言おう。私は魔王を信頼していない。だから、こちらはそのつもりで臨むぞ」

「それでかまわんよ」

「プリン、頼む」


 具現化させた杖を握ると、プリンは大きく手を広げる。


「かしこまりました~ いきますよ~ 超級魔法—鑑定—」


 紫色をした光が俺たちのカップに入っていく。

 その光は、液体に混ざり溶けていく。


「……………………」


 数秒の沈黙が流れる。

 なんとなく気まずい。


「は~い、わかりました~ これは飲んでも大丈夫で~す」


 ぱんぱかぱーんと言わんばかりに、嬉しそうに両手を掲げた。

 その言葉と同時に、シューは一気に飲み干す。

 お前、喉渇いてたのか。


「……すまなかった」


 結果として、因縁をつけてしまったクレアは納得してない様子だったが、魔王に謝罪を入れた。


「かまわん。それでは本筋に入ろう。我から汝らに頼みが3つほどある」

「3つか。とりあえず聞かせてくれ」

「1つ目は更生の余地のない悪人への襲撃の黙認だ」


 これが最大の問題なのではないだろうか。

 構成の余地がないというのが、なんとも曖昧なのだ。

 こちらとしては、人間を簡単に殺したくはない。

 かと言って、そういった人間を野放しにするのは、やはりよくない。


「選定基準はどうするんだ?」

「それは我がやる」

「具体的にはどうやってやるんだ?」

「我には魂の色を見ることができる。その色で見極める」

「それだと、貴様が自由に選べてしまうではないか」


 クレアの言うこともわかる。

 信じていないわけではないが、こちらはただ指示に従うだけってのも違う気がする。


「そうだな……それなら、こちらが法で裁いたものの中から魔王が選ぶってのはどうだ」

「わかった。それがお互いの妥協点らしいな」

「それじゃあ、二つ目も言ってくれ」

「悪魔種一掃までの不干渉を約束してほしい。いくら我といっても、さすがに時間がかかる。その間、こちらを攻めたりしないことを約束してほしい」

「攻めたりはしないが、定期的に進捗を報告してほしい」

「わかった。連絡係を送ろう」


 2つ目も決まる。

 最初は魔王と話し合いなんて無理だと思っていたが、そんなことはなかった。

 先入観は持ってはいけないといい教訓になった。


「3つ目は、次期魔王との和解、そして共生だ」

「ちょっと待て。悪魔種は滅ぶんじゃないのか?」

「正確には滅びないのだ。人間がいる限りな」

「人間がいる限り……」


 その言葉が胸に残る。

 悪の象徴とされていた悪魔、その元凶が人間。

 ならば、人さえも存在することを許されないのではないだろうか。


「安心しろ」

「え?」

「我は知っている。良き人間がたくさんいることもな」


 そう言った魔王の表情は柔らかく、温かみを感じられた。


「我が行うことは一旦の終焉。だが、いつかまた増えていく。そのために一人だけ魔界に残そうと思っている」

「それは誰なんだ?」

「娘だ」

「…………娘!?」


 部屋中に驚きの声が上がる。


「娘って……家族がいるのか?」

「そんな不思議なことではないだろう。我とて元は人。家族ぐらい持つ」


 そうか、元が一緒なら同じような暮らしをしていてもなんらおかしくないのか。

 偏見を持ってはいけないといい教訓になった。


「娘には日頃から話をしている。まだ受け入れられていない節もあるが、そこは話をして受け入れてもらう。我らが亡き後、娘は一人になる。汝らには娘と共生してもらいたい」


 まさか、魔王から娘の面倒のお願いをされるとは、思ってもいなかった。


「娘はおそらく汝らと近い年齢だと思う。だから、その、きっとうまくいくと思うぞ」


 たどたどしく話す魔王に、さっきまでの威厳さがなくなっていく。

 これは、もしかして…


「もしかして、娘のこと溺愛してるな?」


 俺は隙ありと、魔王をからかってみる。


「そ、そ、そんなことはないぞ。みなと同じだろう」

「魔王様は娘であるガーネット様を溺愛しております」

「貴様……」


 今まで黙っていた羊のような見た目の家臣が魔王の秘密を暴露する。


「先日もガーネット様が一緒に入浴するのを拒まれたと嘆いておりました」

「お、おい…それは……」


 俺たちの口角は徐々に上がっていく。

 こんな怖そうな見た目をしているのに、娘を溺愛とは。

 人間の悩めるお父さんと全く一緒じゃないか。


「あははははは」

「な、なにがおかしい」

「いや、俺たちはちょっと考えすぎてたなって。魔王だからって身構えすぎてた。魔王もただのお父さんなんだな」

「……バレてしまっては仕方ない。あれを持ってこい」


 魔王は家臣に命じると、席を立ちこちらに近づいてきた。

 すぐに、家臣があるものを持ってきた。


「これを見てくれ」


 そう言って開かれた本のようなものには、可愛らしい女の子の写真がたくさん貼られていた。


「アルバムか……」

「そうだ。これは娘の写真を保存したアルバムだ」


 魔王は娘の幼少期のころから現在までの写真を解説付きで紹介してくれた。

 ただ、現在になるにつれ、娘がこちらを見ていないのが気になった。


「どうだ、可愛いだろ」

「ああ、可愛いな」

「汝は見る目があるな」


 俺が言ったことはお世辞ではない。

 長く伸びた黒い髪は綺麗で、赤い眼はとても美しかった。

 人ならざる者。

 その美しさは、俺の持つ言葉では表現できなかった。


「娘は幼いころに母親を亡くしている。だから我がいなくなれば、独りになってしまう。だからこそ、汝らの力が必要なんだ。娘をよろしく頼む」


 そう言って、深々と頭を下げる。


「あんたはそれでいいのか?」

「いいわけがないだろ…」

「なら——」

「それでも我はやらなくてはならない。我は魔界の王、魔王だ。私情を優先して行動するわけにはいかない。我はこの世界の未来が、娘たちの世界を平和にしなくてはならない」


 苦渋の決断だっただろう。

 家族との別れを、簡単に受け入れられるわけないよな。

 魔王の意思はきっと彼女が継いでくれるだろう。

 ならば、俺は彼の願いを継いでもいいんじゃないか。

 俺は仲間の顔を見る。

 最初、疑っていたみんなも今は受け入れている。

 俺を含めて、全員誤解が解けたのだろう。

 「魔王」という固有名詞に囚われすぎていた。

 国の平和な未来を望むいい王であり、なにより娘を溺愛するただの父親じゃないか。


「勇者、御堂太一、魔王の願い聞き遂げた。必ず、人間界そして魔界、二つの世界を平和にしよう」

「恩に着る」


 魔王はもう一度、深く頭を下げた。


「我の名は、サターン・アレキサンドライトだ。よろしく頼む」


 そう言って、右手を出してきた。


「こちらこそ」


 握り返した手は、さっきよりもきつくきつく交わされた。

 その手はゴツゴツと硬かったが、温かみのある優しい手だった。


「それなんだ?」


 俺はずっと気になっていた、魔王の手にはまっている赤い宝石のついた指輪を指さす。


「ああ、これは王の証でな。代々これをつけることになっている。我にはあまり似合っていなくてな。正直外したいんだが、これを取ると魔王としての力が発揮できなくなるからな」

「そうなのか。それが魔力源になってるとはな」

「魔王様はその力がなくても十分にお強いですよ」


 家臣は真剣な表情で言った。

 これはお世辞でもなんでもないんだろう。

 魔王たるもの、やはり一筋縄ではいかないんだろう。

 戦わずにすんで、ほんとよかった。

 こんなにいい人らと傷付けあわなくてよかった。


「それじゃ頼むぞ、タイチ」

「ああ、サターン」


 二人は拳を重ね合い、照れくさそうに笑った。

 そして、俺たちは部屋を後にしようとした。

 ——その時


「くたばれ魔王!!!!!!!!」


 突然の怒号に俺たちは慌てて振り向く。

 俺たちの目に映ったのは、大きな刃で貫かれたサターンの姿だった。

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