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魔王と対面してみた

 このあとは、魔王討伐に向けて息をつく間もなく動き回った。

 パーティーの剣となり盾となってくれた才色兼備の頼りになる、『女剣士クレア』。

 素早い動きが得意で、偵察や侵入をしてくれた、無口で謎多き男、『盗賊シュー』。

 すさまじい威力の魔法を操り、すさまじい大きさの乳を持つ、『魔導士プリン』。

 歌と演奏で活気を付けてくれる戦いと音楽を愛する男、『吟遊詩人トルテ』。

 強いものがいると聞けば、噂程度の信憑性がない話でも、仲間にするために東奔西走した。

 この他にも回復班や遠征時の調理班などたくさんの仲間を集めた。

 移動はこの世界ご自慢の馬車だった。

 もちろんト○ネコ、お前は馬車番だ。

 だがこの手のことは、ドラゴンレスキュー、略してDRで似たようなことを、何度もやっていたため、それほど苦ではなかった。

 強いて言うなら、パーティーの協調性のなさに苦労させられた。

 勇者である俺は、一応リーダーらしくみなをまとめなければならなかった。

 ほんと思い出しただけでも、あいつらの協調性のなさはため息が出てくる。

 クレアは最初のほうは俺のことを信頼してくれなかったし、プリンはありえないようなドジを連発する。

 トルテは好き勝手演奏し、シューに関してはそもそも意思の疎通が取れなかった。

 だが、俺はたくさんの苦難を乗り越え、この世界に来てから二年の月日をかけて、なんとか魔王が住む、魔界の魔王城に辿り着くことができた。

――今ここですべての決着をつける。

 俺は重い扉を力強く開く。


「よく来た勇者とその仲間よ、我は魔王サターン。我は汝らに休戦を提案する」


 扉の向こうで俺らを待ち構えていたのは、悪魔らしい鋭い角と刺々しい尾を生やし、漆黒の鎧とマントを身に着け、禍々しいオーラを纏った魔王だった。

 そして魔王は早々に俺たちに言い放った。

 ニヤッと笑った口からは鋭い牙が見え、目は冷酷で鋭かった。

 そんな魔王に、一瞬慄くが力強く一歩前進し、こちらも睨み付ける。


「お前の言うことに耳を傾けるわけがないだろ! ここでお前をぶっ倒す!」


 俺たち勇者が魔王の提案に乗るわけがない。

 キュウセン…… よくわからないがどうせ卑怯なものに決まっている。

 キュウセン……きゅうせん……休戦……


「休戦!?」


 魔王が言った提案の意味を、ようやく理解した俺は、驚きを隠せず素っ頓狂な声を上げる。


「いや、俺たちはお前を倒しに来たんだけど……」

「それはわかっている。だが汝らと話がしたい」

「話ってなんだ……?」

「我らが人間を襲う理由だ」


 悪魔が人間を襲う理由。

 そういえば、そんなこと考えたこともなかった。

 悪魔は悪。

 魔王は敵。

 そういった固定概念でずっと戦っていた。

 もしかしたら、正当な理由があったのではないか。


「教えてくれ」


 俺は深く深呼吸をしてから、仲間たちを見渡して意思を固める。


「我ら悪魔は元をたどれば汝らと同じ人間なのだ」

「………………!?」


 思いもしなかった、その言葉に俺たちは衝撃を受ける。


「悪の心に満ちた人間は没後、悪魔として生まれ変わるのだ」


 知ろうともしていなかった、悪魔のルーツが、魔王によって語られた。


「だが我らは悪に染まった種。そもそも存在してはならない。そのため我は決意をした。『悪魔種の絶滅』を」

「………………!?」


 俺たちに再び衝撃が走った。勇者ではなく、魔王が悪魔の絶滅を実行しようとしている。

 仲間割れなのか、なんなのか、俺たちは混乱するばかりで、事態を把握することができない。


「我とその家臣の力なら悪魔種の絶滅もたやすいだろう。もちろん臣民たちの協力を得て成し遂げることだがな。だが悪魔は無限に増え続ける。我亡き後の新たな魔王が我と同じ考えを持ってくれるとは到底思えぬ。そこで悪の心に満ちた人間の悪魔への転生を意図的に早めようというのが我の考えだ。だから汝らにはもう少し待ってほしい。もう少しすれば我ら悪魔は消え、なおかつ悪い人間も消える。汝らにとって悪い話ではないだろう」


 魔王の必死の説得を聞くも、俺たちは素直に、首を縦に振ることはできない。

 たしかに、魔王の考えが実行され、完遂したころには俺たちが目指すよりも、遥かに平和な世界が待っているだろう。

 だが、悪の心に染まっているとはいえ同じ人間だ。

 そいつらを殺すのを黙認できるわけがない。

 そいつらには挽回するチャンスを与えてもいいのではないだろうか。


「悪魔に転生するほど悪に染まった人間は、汝らの声など聞く耳を持たないだろう」


 俺の考えを先に否定する。

 言ってしまえば、向こうは悪のカリスマ。

 そういうことに関しては、詳しいはずだ。

 それに色々考えた上での案があれなのだろう。

 仲間たちはだれも言葉を口にしない。

 こういう時に、リルを連れてくればよかったと思う。

 どんな時でも、相談に乗ってくれたのはリルだった。

 辛いこと、悲しいことを乗り越えられたのは、あいつのおかげでもある。

 だが、今回はこれまでとは比較にならないほどの危険があると考えたため、非戦闘力のリルには留守番をしてもらっている。

 今回ばかりはどうやら自分で決めなくてはいけないらしい。


「……わかった。休戦だ」

「恩に着る」


 パーティーメンバーは驚いた顔を見せたが、すぐに納得してくれた。

 なんだかんだ、信頼できるやつらである。


「ほんとうにありがとう」


 そう言って魔王は右手を差し出す。

 勇者と魔王の友好の握手など前代未聞だろう。

 某国家と某国家の和解並に奇跡的な絵面である。

 そんなくだらないことを考えていると、自然と笑みがこぼれる。

 まさか、血ではなく笑みが溢れる戦場になるとは思ってもいなかった。

 そして、俺も右手を差し出す。

 二人の手が重なり合った。


「詳しい話を聞かせてくれ。ただ俺たちは全てを助ける手段を模索する」


 俺は魔王に頼んだ。

 本当に世界を救う方法を模索するために。


「ああ、わかった。ついてこい」


 俺たちは不安と、そして希望を抱きながら魔王の大きな背中についていった。

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