第七話 過激なパーティポーポ
「ドウェイン・カラルの話を覚えてるか?俺はよく覚えてるね。今では化学の生成工場そいつの共同経営パートーナーだって話だ。全くもって人生というのは奇特ってやつさ。そいつがあと半年経ったら父親になるってところもな。ドウィンの野郎との一番の思い出は最悪だった。今でもたまにゲロを吐きたくなるくらいだ。あれは中学三年ぐらいの夏、チームオーストが、これはうちの地元の野球チームなんだが、彼らが優勝した夏だった。俺らの間じゃチームオーストの凱旋パレード中にエースのジミーが酔ってローストワーグ高校の時計塔をぶち抜いたってのは伝説になってる。中でも伝説ってのは、的は図書館の上の時計塔だってところだ。地上からでも最低20メートルはあるとても高い場所、それも時計の針だなんて滅茶苦茶的が小さいわけだ。しかも撃った弾は口径の大きいリボルバー。誰だってそうだが、酔った勢いってのはなるべく景気が良いものにしたいわけだよな、音の反響がかなりやばかったって宿直の先生も言ってた。鳴った爆音は全部で六発。リボルバーだぜ?きっと野球のエースじゃきゃ、肩が外れるような連続した発砲音だったらしい。五発が針をぶち抜いてたって伝説だ。夜、それも感覚だけでやれるなんてすげーなんてもんじゃねーだよ?おっと、ドウェインの話だったな。すごい話がそれちまったが、まぁいい。ドウェインの野郎との思い出は爆弾を作って遊ぶってことだったんだ。お前らも知ってるからいいだろうけど、この話を初めて聞くやつはラッキーだ。きっと更に面白いイベントが自分で作れて遊べるんだからな。爆弾っていったって、ハリウッドみたいな激しいC4爆弾だとかRPGとかじゃあない。一般家庭で作れる爆弾だ。威力は大した事はない。エミリー・パーナーの左手首を吹っ飛ばしたぐらいだ。命に影響を与える程度じゃない。もちろん作った爆弾に鉄くずだとかネジだとかを入れて殺傷力を高めると話は別だがな。えーっとつまり何が言いたいかっていうとだ。ああ。もう結論は言ったか。つまりエミリーの、カワイイの方のだ。エミリーの左手首を吹っ飛ばしたってとこだ。始めは廃車だとか川原だとかでやってたが、段々とエスカレートしてきてな。遂には学校の中で爆破ごっこでアソビはじめたわけだ。花壇だとかロッカーだとか、ゴミ箱なんかをな。あの当時はまだテロ法がなかった。緩かったせいもあったんだ。だからだよ。んで、犯人探しが集まったんだ。学校側で。当然だよな。まぁ俺らもそれは計算内だったわけだ。どう転んだってそうなる。それでドウェインは今度はイラつく先生連中にまさにお目見えさせようってことで、職員室のロッカーを爆破してみせた。それと校長室の……おっと、ちなみに言っておくが、俺は校長好きだったぜ、割とな。生徒の事を分かってるって感じもしてたし、なにより露骨に区別しない。俺は西部訛りがあったせいかまぁ多少は可愛がられたし。けどそれは割りとカースト下なオタクでもブラックでもホワイトでも、イエローでも、な。好感が持てたんだ、だから爆破は校長の机横の花瓶じゃなくってゴミ箱にしておいた。俺から進言したんだよ、ドウェインの奴にな。先生ってのもいろいろいるよな。だが、俺は先生ってやつは嫌いなんだよ。まともな奴はいない。少なくとも、尊敬できるセンコーなんて俺は知らない。性犯罪とロリコンとちょっと勘違いして間違って育っちゃった大人みたいな奴しかいないだろ?まぁいいよ。俺はこの点で議論なんてするつもりはないからな。少なくともクズ確定だ。なわけで躊躇せずにやってのけたわけだ。んでな。俺達は放課後、爆弾の授業をしたわけだ。つまり、皆もやってみたい、作ってみたいって言うわけだ。当然だよな。ゲームより遥かに刺激的だろ?文字通りぶっ飛ぶぐらいには。それで放課後作ってた際、エミリーのお嬢様が、その箸より重いもの持ったことありませんっていう感じのエミリーがトチって爆破しちまったわけだ。結果として最悪。最悪だったんだ。つまり最悪な夏になるって思うよな?結果として警察が来て、俺らは退学、そして少年院送り、悪くて刑務所ってな。どうなったと思う?泣き喚いてたエミリーは翌日学校にきちんと着たんだ。それも左手首をつけて。つけてって言い方だと人形だとか着せ替え出来る変身ロボットを思い出すが、まさしく俺の場合はそれを思い起こしたんだよ。だってぶっ飛んだ左手首が綺麗になってすまし顔で登校してくるもんだからさ。んで当然ドウェインと一緒になって聞いたわけだよ。どうしたんだよそれって。そしたら、もう大丈夫だから気にしないでってだけ言われたよ。流石に頭の良かったドウェインはそこからイタズラをピタリと止めたね。あのいかれた悪戯児童は、それっきり。俺もそれからは流石にこりてバスケに熱中したよ。おかげで奨学金で良い学校に入れた。天才だったドウェインはイギリスの大学へ行った。オクスフォードで化け学の研究をやっていた。奴について言えば、そう、ガキの話だったな。後半年でドウェインも父親になる。半年経ったらエミリーも同時に母親になるんだ。それから俺に奴は言ってきたんだよ。子供にもそういうのは遺伝するんだろうかって。電話してきやがったんだ。だから俺は言い返してやったよ。化け学の博士はお前なんだから、俺より遥かに分かるだろうって。そしたら奴は言うんだ。世の中には、分からない事だらけなんだって。エミリーについて言えば、ホラ、そっちに居るよ。あそこの気取ったブロンドだ」
第七話
クリスタルで出来た一際巨大な建物。塔やモノリスとすら言えるビル、葬式という名の名目であるパーティの地下へと足を踏み入れた。
人生というのは人との出会いだと思う。自分とはまったく違う価値観を、或いは家庭を、生き様を持った人間と地球という星で暮らしてゆくのだ。ドラマも起きたって不思議じゃないし、問題なんてしょうっちゅうだ。
僕は、大音量でエイフェックスツインのクラブミュージックがかかった薄暗いパーティピーポーひしめく一室に入るなんて、まるで予想すらしてなかった。
「よぉ。こんちは!俺の彼女が日本人のモノが気になっててな。パコらせてくんね?七分でイカせる自信アリアリだぜ」
金髪でおっぱいのでっかいカワイイ女の子が僕に手を振ってる。
「…ノー。ノー!サンキュー」
何故か英語で答えてしまった。軽い口調で言ったつもりではあるのだけれども、相当ドモってるんだと思う。かなりビビってしまった。なんという世界に足を踏み込んでしまったのだろうか。
「マジか?ああ。そっちか。わりけど、俺そっちじゃねぇから。手間取らせて悪かったな。吸っとく?」
明らかに手巻きされたおそらく現実世界なら違法であろうアイテムが僕の手のひらに入っていった。
「ハッパよりクールだぜ。ハイになっちゃおうぜ。日本人。イエェア!!」
そう言って僕の手へ握手すると肩をぶつけて拳を合わせた。
過激なパーティポーポー
意味がよく分からなかった。こんな狭いライヴハウスみたいな暗室で、色とりどりのレーザー光線行き交う中、爆音で流れるクラブミュージックに、ドレッドヘアのヤンチャ顔でタトゥーの入ったDJがノリノリで曲を流してる。人々は踊り狂ってるし、わけのわからないファッションだったり、そもそも人間じゃないタイプのプレイヤーだっているし、飲み食いしてるし、隅っこの方で言えば明らかにアウトだと思う。多分どれくらいアウトかっていうと、もう終わっちゃうくらうアウトだと思う。そんな中、とりあえず空気だけ味わってみた。とりあえず肩だけリズムに乗ってみて、とりあえずこのムードに合わせてますよ的な態度は取っておいた。肝心のお爺さんはイカレてるらしく美女二人の間で談笑してる始末だ。ミルフィーはというと、これ幸いというところで、食べ物を食い散らかしてる。僕はとりあえず水だけ、水だけ飲んでる。そもそも。学校には友達居るけど、学校が終わってから一緒に遊ぶ友達が居ないタイプのボッチ人間としては、こういう場所はすこぶる居心地が悪い。かなりのレベルが要求される場所ではないかって思っちゃう。多分ソロでメイド喫茶へ突っ込む事が出来る度胸が無いと、ここじゃあ上手に立ち回れないだろう。なんて思ってると。さっき話しかけられたわけだ。
パコってなんだよ。パコって。もしかしてファックのことか?喋ってた奴の口調と言葉が若干合ってなかったようだけど。ファックのことか?つまり。つまりだ。つまり、そういう事だ。正直言って僕が好奇心丸出しのスケベ大好きとりあえずやってみたいお年頃みたいな盛りのサル同然だったなら、僕はもう、戻れない遥か彼方までぶっ飛んでたであろうということだ。幸いな事にそれを僕は理性で回避。自分の頭脳明晰さを褒め称えたい。多分ノーベル賞ものだろうことは自負するレベルだ。危なかった。本当に危なかった。まさか、ここでとりあえず気晴らしファックなんていう、よくある海外ドラマみたいなノリに流されてたら、間違いなく僕の冒険はここで終了していたことだろう。危ない。本当に危なかった。セーフ。セーフだ。
「これヤバイですね~。マッキーはこういうとこ好きなんですか~?」
ミルフィーは言った。姿形は見えないけども、確かにミルフィーの声が爆音のミュージックの中、かすかに聞こえた。っと思う。多分。いや、確かにそう聞こえた。
「日本にはこういうところはあんまりないし、行かないよ!パーティの習慣だってないのに!」
ありえない。ヤバ過ぎる。日本じゃ新宿ぐらいなものか。銀座に日本一大きなクラブがあるってはテレビで言ってたっけ。
「お飲み物はいかがですか~?」
人ごみに押されて、パーティという葬式が執り行われるであろうフロア中央までやってきてしまった。しかも、飲み物をすすめてくるバニーガールは激エロ過ぎて絶筆に尽くし難い。丸裸よりエッロい。一秒見たところで目を逸らして、あと二秒見てたら間違いなく勃起していたところだった。
「ここって未成年によくないね…」
「ですか~?そうですよね~?」
ミルフィーは明らかに通常の喋りではなく、多分に酔ってるって思う。タダ酒だから飲みまくるっていう根性は評価するよ。でも僕はこんなパーティ会場では持ち前の意地汚さというか、あるんだから全部残さず平らげないと!精神は発揮できない。っていうかそもそもなんだか食欲が全く無い。あるにはあるけど、なんか食べ物見ると変な気分の悪さを感じてしまう。唯一口にできるのが水っていうのがありがたいって思う。
もし、僕が相当飲んだ後のふらっふらの状態でパコがどーこーの世界がふりかかったら、僕はその火の粉を避けれるだろうか?酔いはかなり早く効きが良い方だ。高校一年の頃に比較的仲が良かった友人と夏休みに遊んだ際、ワインをノリで一本ラッパ飲みしたら半分もいかないところで、ゲロを出した。チューハイなら一本で顔が真っ赤になるのも確認してる。今思えば、高校一年の頃は結構なんだかんだで、上手くやってったって思う。
「…」
変な事を思い出したな。左尻ポケットを軽く触る。入ってる。間違いなくまだ入ってる。曰く、ハッパよりクールな品物らしい。ハッパっていうと、マリファナかな?それとも大麻か。いずれもアメリカでは合法な場所もあって、ヨーロッパじゃオーケーなとこも多いんだっけか。
「…」
やってみようかって思う。もちろん、実体験のドラッグトリップは未経験だ。そういうのは良くないし、実際ダメだって思う。どれぐらいダメかっていうとギャンブルにハマるくらい駄目だと思う。何かに対して逃げたら、未来を上手に創り出せない。そう思う。
「…なにやってんだよ、こんなところで。…僕は」
「ハイ」
声のする方を見ると、ピンク色の浅黒いダークエルフのアバターがいた。後方2メートルでデイヴィのお爺さんが親指を立ててる。そういう差し金はよくないと思うよ。
「ハイ」
僕も同じような挨拶で返す。見た目は可愛い。それだけでドギマギしてるのは、僕の経験不足なせいだろうか。それとも、このアバターのファッションドレスが薄くて頑張って眼力を研ぎ澄ませば乳輪が見えそうなのだからだろうか。いずれにせよ、薄暗さと爆音が、痺れるような脳の陶酔を助長させ、僕をバカにさせる。
「マッキー楽しんでる?」
「ええ。おかげさまで。楽しんでます…」
おそらく満点に近い返し。僕がブラッド・ピットになれるのもそう遠い未来じゃないと思える。
「そう。よかったら、ホラ…」
そう言われて手を引っ張られて一緒に軽く踊ってる感じに引っ張られた。ここの部分だけ切り取ってしまうと、僕は海外ドラマに出てくるイケイケのアジア人キャラその人だろう。つまり、今の僕はイケてた。こんな事するなんて思ってなかったし、こういう体験も初めてだったので、顔面が人類の歴史に刻まれるぐらい不自然に歪んでるんじゃないかってのが若干気になった。…多分引きつってる笑みを浮かべてる。
「シャーロット。マッキーって呼んでも?」
「え。ええ。オーケー。シャーロット」
「アッハ世界が廻る~~」
それから十分ほどドキドキしながら軽い小刻みでリズムに乗せてお手手つないでダンスをした。多分シャーロットはラリってるって思えるぐらいだ。瞳孔が開いてるし呼吸が荒い、手から伝わる心拍数も相当なものだったし、なにより手がホット過ぎる。
「ホラ。アリシア交代~~」
「シンヴァルさん、シャーロットお願いします」
「え。えっと…」
シャーロットさんがどうやら潰れたみたいで次はアリシアと呼ばれる目がぱっちりとした色白の僕ぐらいの背丈のアバターが僕と踊ってくれるらしい。
「食べるの嫌いなんですか?」
不意にそんな事を言われた。お手手はつないでる状態で、先ほど状態になったところで。
「先ほどから見てたけど、あんまり食べてないみたいで」
なるほど。やっぱり僕のキャラクターを見抜かれたみたいだ。やはり浮いてるのだろう。なんかスイマセンな感じだ。
「う。えっと。なんかさ。あんまり食欲無いみたいでさ。食べ物は好きだよ。もちろん」
この空気と、そしてなにより僕と同じぐらいっぽい外見で、ノリは不思議と敬語を置き去りにした。
「そうなんだ」
「食べる事は好きだよ。でも。なんかね」
「なんかって?」
「変な話だけど、もう少しだけさ、我慢できそうなんだ」
「変な意味。どういう事?我慢できそうって?」
「食べることは、なんだか尊いものって気がしちゃって。まだ僕は食べる必要が無いし、今食べちゃったら、なんていうか、食べ物に対して悪いっていうか……。可能なら、気持ちよく食べたいでしょ?でも、今の僕は何かを補うというよりさ、なんか言葉にしづらいけど、食べる必要が無いというか、何かで補給する必要が無いっていうか、何かを殺したり、奪ったりして、胃袋を満たす事が、なんだかとんでもなく後味の悪い気がしちゃってね…変な意味で」
「え??つまり、それはどういうこと?」
なんだか怒ってるみたいだ。僕だってよくわからない。よくわからないけど、よくわからないなりに言葉はつらつらと不思議と出てくる。
「完璧な状態ってあるでしょ?それってつまり、何かを補う事が不要な状態でさ。つまり、僕が僕という存在で完結してる」
頭が、ぼうっとしてきた。
「ぼくはぼくというものなんだ。ほかのなにかなんていらないし、食べたくない。息をするのも。ただ、在るだけなんだ。そういうのに、なりたかったでしょ?」
「っ!?それは違う。食は生きる喜びでしょ」
「たいへんなんだね」
「貴方、バカにしてる?」
頭がはっとなった。
「いや。違う!違うよ。でも。今は食べたくないんだ。節制は美徳って意味だよ」
何を言ってるのか僕自身よくわかってなかった。多分、場に酔ってる。
「私は料理人。立派な免許状だって持ってる」
アリシアの顔が怒ってる。
「食べる事が嫌いなタイプとは、少しだって居たくない。オーケー?」
「えっあ」
そう言って、手を離して人ごみに消えていった。なんか今、僕はフラグ一つへし折った気がする。
「なんだよ……僕みたいな考えとかあってもいいじゃないか。それに、今日に限ってはそういう気分なのに」
けど、滅多に無い体験で、こういうイベントで挫かれてしまうって、僕ってやっぱりっていうかつくづく縁が無いんだなぁって思ってしまう。それか、純粋にレベルが足りないのか。場数をこなせばもう少し相手を喜ばせることができるのか。それもなんだか違う気がする。前提が違うのだ。僕にこういうところは似合わないのだ。そもそも!
「アッハッハ景気はどうだい?」
振り向いたところで、誰かにあごを掴まれた。
「どうだい?ホラ!がぶっといきなッ!!」
パーティに誘ってくれたおばさんっぽい喋り方の翠のドレス着た人から無理やりワインを口に突っ込まれ流し込まれた。胃が熱くなってくる。
「ぅぃ…」
「アハハ!豪快にいかなきゃね!若いんだから!こんなところに突っ立ってかないで、口説いてきな!!」
「ぅま……」
体と意識がヒートアップ、心が沸き立つ。アルコールじゃない、もっと違う何かを体に流し込まれたようだ。妖しい照明と爆音、それに変な飲み物で、軽い眩暈と、動悸がした。
「マッキー?」
「宿題!宿題やんなきゃ……宿…」
変なところで頭が廻ってきた。そういえば、明日っていうか今日、もう今日か。学校、だから、そろそろ、そろそろ…。
「フィーヴァータイムはまだだろ?楽しんでいけよ!上物だぜ!」
そういって先ほど彼女とパコらせたかった男が、イキナリ僕の鼻へ何かを突っ込んだ。そこで僕の意識はプッツリと切れた。
第七話 過激なパーティポーポー
「…」
目の前に知らない天井があった。
「…」
「知らない天井だ…」
とりあえず人生で声に出して言ってみたい台詞第十一位をコンプリートしてから、僕の隣に知らない人が居る事に気づいた。
「あっ。気づかれたんですね…大丈夫ですか?」
ちょっと恥ずかしかったけど、どうやらヱヴァファンじゃないらしい。セーフだ。
「あっ……はい…。大丈夫です、すいません、なんか、倒れちゃったみたいで」
上半身を起こした。不思議と体から疲れが吹っ飛んでる。それに眠気も。むしろ、熟睡したような清清しい気持ちになっている。
「なんか、気分が良いですよ、すいませんお手数かけちゃって」
「いえ。あの……うちの家族みんなああなんで…つき合わせちゃってすみません…」
「いや、こっちこそですよ!みんな楽しくパーティしてらっしゃるのに、僕なんかノリの悪いようなことしちゃって。ムード下げちゃってたら申し訳ないです……」
「いえいえ……こちらこそ…ですよ…はい…」
「…」
変な感じがした。とびきり変な感じ。なぜなら、僕と今目の前のカワイイ子は、目と目が合ってる。
「…」
見つめ合ってる状態。なんか知らないけども、一言だって声を出せない。不思議な感じだ。
「マッキーさん、不思議な感じがしますね…」
「え。あ。あの。えっと、シノノメ・マツキが名前でさ。マッキーって愛称なんだ。そう呼んでくれて構わないし、あの、マッキーでいいから。その…」
滅茶苦茶カワイイ。同じクラスの佐伯さんレベル。ちょっと喋ったらその日一日は丸ごとハッピーライフに過ごせそうな感じ。
「あっ。そうなんですか。すいません…。なんか変に気を使わせてしまって……はい…」
「い。いや!ぜんぜんそんな事ないですから。あの、ありがとうございます…」
上半身を起こす。綺麗なブロンドがウェーブして首までかかってる、色白というよりは、若干アルビノっていうのだろうか。病的な白さに、太陽の照りに焼かれた肌、さっき見つめあったパッチリとした目つきが、変に魅力的だ。なにか。変な感じがする。
「…」
心を穏やかにして、心臓に力を入れる感覚を続け、目に体内のエネルギーを注ぎ込む感覚。こうすることで、慣れるとその人の持つマナ、オーラと呼ばれる体内エネルギーの循環が見えるらしい。今僕がやってみても、特に何かが見えるわけじゃなかった。見えなかったけど、不思議感覚は更に増した。
「…」
「大丈夫ですか~?」
ドアが開いてミルフィーが入ってきた。
「大丈夫です」
「心配かけちゃ駄目なんですよ~」
そんな事を言うミルフィーの右手には高そうなブランデーの瓶が握り締められている。かわいらしいお人形さんがおかしなアルコールを持ってるようで、僕はこれから密かにミルフィーの事をテッドって呼ぼうかって一瞬思った。もふもふのくま人形のアバターだったら間違いなかった。
「あっ。あの、お時間とか、大丈夫でしょうか……もう夜も更けてる頃ですし…」
もう夜が更ける頃合、なのか。マズイ。どれくらい寝てたのか。
「ですよ~。今日本時間で大体六時ぐらいじゃないですか~?明日はお休みなんですか~?ログインしたらっ!メールは見てくださいよ~!最低絶対なんですよ~いいですね~?」
六時ヤバイ。ヤバイけど、ログアウトしたくない。したくないけど。学校だ。学校じゃん!っていうかもうそんな時間なのか。起きれてセーフだ。ヤバいとこだった。まだなんとか宿題を忘れたってレベルか。
「あっあの、ここでログアウトしても大丈夫ですか?そろそろ学校で」
「大丈夫ですよ。ここは客間として使用してますので……はい」
「すいません、それじゃそろそろログアウトします。またです!今日はありがとうございました!」
そうして、僕の長い長いネットゲームのVR世界、その第一日目がものの見事に終了した。
長い一日だったと思う。でも、希望が持てる一日だった。これからが、なんだかとっても楽しみだ。
「はぁ……」
むくりと、我が家の自室のベッドで起き上がった。
「最高だったなぁ…」
千葉県 市川市 市川 東雲末樹 自宅にて AM6.20
電車の中でRealに登録しておいたミルフィーさんから僕宛てのメッセージ箱からメールを拾った。
「全部英語じゃんッッ!!」