スキット エピローグの開幕
正義の味方の理事会への召集には異例の速度で開始された。議題内容は全人類の不老不死を今現在直ちに行うべきか否かというものだ。提議したのは僕で、力を行使するのは自由であるけども、行使した反面としてのマイナスがあるという事をよくよく分かっていたからだ。
「今回の会議責任者として、グランドマスター参謀のデイヴィ・ジョーンが勤めさせて頂く。グランドマスターの意向として発言の自由と責任の放棄が認められている。今回の会議には決定権は無く、参考資料程度に留めておくとのことだ。私からのお願いだが、強い発言は控えるよう言っておく」
立体的ホログラムの技術はまるでその場に召集されたかのように、ぎっしりと円卓状のテーブルに並んでいた。ある人は自宅で、ある人は職場で、それぞれが別の場所にいても、それぞれが実力者。支配者階級に位置する人物。
「先に最初の投票を始める。イエスかノーか。或いは、今回は無投票も有効票として数える。いずれも過半数に達するまで会議は終わらない。では早速始めてくれ。1分の思考時間の後、始めるものとする」
デイヴィが言った後、黄色い羊のお面を被った人が席を立った。
「そもそも、この馬鹿げた議題が必要か?できないし、いずれもノーだ」
「それを有識者の共通認識として確認するための作業だ。ロイジー君。ちなみにグランドマスターならそれは可能らしい。私もそれは可能だと思っている。他に何かあるか?」
「複数の未踏破調査チームが、天界と月内部の調査を希望している。いずれも」
「本件とは関わりが無いな。それに、そんなレベルの事を今更言うのか?私の居ない半世紀、君たちはなにをしていたんだ?膨大な資産と人員と莫大な年数をマッキーは1日でやってくれたんだぞ。恥を知りたまえ」
デイヴィが一喝したので、手を挙げた。
「いずれも調査チームを送る事はしません。なぜなら、彼らは彼らで独立しているし、現段階ではそんな交流への余裕は見受けられません。それに、月面内部でのハルマゲドンが発生している事を皆さんご存じだったらしいですね。どうして援護をしなかったのか。どうして立ち向かわなかったのか。国交や交流すら結んでいない文明に対して、今後も同様の意見が続くでしょう」
返答にまた誰かが立ち上がった。
「直ちに実行可能な手段とは?」
「人類に制限としてかかっているリミッターを外します。僕にはそれが、今この場でも可能です」
「さて。投票は終わったようだな。結果を見てみよう。13、4、白紙が3、ほう。賛成に四つも手があがったのか。興味深いな。賛成票の発言を見てみよう」
ドイツの首相が立った。
「人類の悲願であり、生命の昇華。段階を追って、死を克服する事が望ましいが、いずれにせよ、賛成だ」
「バカな!!問題の本質を見ろ!これは生命への冒涜だ!死は享受されなければならず、個人の永続など、それこそ人類破滅へのカウントダウンだ。いや、それ以上に、地球という惑星が老化していく。プログラムを書き換え、生命を調整するなど、誰もその権利を有していない!」
フランスの大地主が更に続ける。
「人間では無くなる、その発案はそもそもどうしてだ?馬鹿げてる!どうしてこんなくだらん非生産性の話題で会議が開かれなければらない!」
「死にゆく人類を救済できる力があるのに、見殺しにするようでね。共通認識を確認しておきたかったんです。あと50年後、どれだけの同じ人がこのテーブルに席を並んでいるか。なんてね」
「では、私からも議題を挙げようか。生命の冒涜であると、不老不死はあってはならないと考えるか。否か。では投票を。ふむ。早いな。7割が賛成している。では、残り3割でそれを人類に配ってまわってはいけない理由を言ってくれ」
「人類には早すぎる。ヒエラルキーを根本的に覆すものだ。社会の不成立という国家を脅かす恐怖のアイディアに過ぎない。その力は、むしろ、実力者、支配者階級に限るべきではないか」
真っ黒い顔をした人が言った。
「では質問を変えよう。自分こそ不老不死に相応しいと考えるもの。賛成か否か。ふむ、満場一致で賛成か。どう思うマッキー。これが人間の傲慢というやつだ。ちなみに2票の白紙が救いだね」
「宗教上の理由からだ。皆も本当はそうだろ?」
真っ白な法衣に身を包んだ人が言った。ふむふむなるほど。
「では、更に議題を。病気を持った人、或いはこれから起こる悲劇を止めるべきか。賛成か否かをお願いします」
第二段階に進んだ。救うべき命はあるべきか、どうか。
「病気への克服の渇望は人類史に他ならない。それは犠牲とは言わん。自然の摂理に他ならない」
アメリカの副大統領が言った。彼には裏切られたが、まぁ忘れているという事にしている。デイヴィは粛清すべきだと言ったが、神様ってのは寛大であるべきらしい。一番上ならもっとそうであるべきだと言ったらにっこりして納得してくれたようだった。
「いや。放っておくわけにはいかん。少しずつ解禁していくべきだ」
「違う。それすら許されんことだ。強大な細菌兵器でも使われてみろ。人類は一撃で絶滅しかねん」
「そもそも、どこを病気として区分けするか。議論のふるい分けも必要であり、傲慢な考え方だ。ブラックジャックから引用すると、他人の死をどうこうしようとする権利が医者にあるのか。その言葉の真意は、医者は治す仕事としているが、結局彼らの仕事は、治すか治せないかであり、治せないものに対してのある種の納得を求めているものだ。私が医者だから言うが、治せないものに対して、誰かが責任を負う必要は全く無いものだとしている」
「身内ならどうする?私の妻が病気なら、魂を売り払うぞ」
「デイヴィならどうする?」
白熱した議論にデイヴィおじいちゃんへ注目が集まった。
「同じ意見だ。もし、彼女が死んだ直後にその選択を迫られたら、私は何もかもを捨てるだろう。しかし実際はそうしなかった。人間とは、もっと高いステージにあるものなのだ。生きている以上、犠牲は避けられなん。妻や子供が死んでも尚も、達成しなければならない理想があるのだ」
「分かりました。では、人類への医療行為は、社会規模ではしないと。そういう決定をします」
僕はそう答えた。しかし。
「ゲームの中からの影響は既に社会中枢まで色濃くなってきている。中でもシュートの勢力は目に余る勢いだ。なんとか言ったらどうかね?新興勢力のミスターグランドマスター。特別参謀よ」
「それは当然だろ。全国の老人ホームを元々展開してたから早かったよ。それに、本物の兵士をベッドで死なせちゃかわいそうだ。多くは痴呆も劇的に改善したし、生産性もアクティブになった。プレイヤーの質も普通のプレイヤーよりも何倍も高い。当たり前の人的リソースを使ったまでだし、家族にはなによりも喜ばれた。病院の患者や精神疾病の有効活用もそうだな。けど、マッキーには及ばないから安心しろよ」
「最大勢力の言う台詞らしいな。しかし、ゲームでのクラッキングは問題になってるぞ」
「クリーンだよ。逆に粗末なものをやらないだけマシさ。タバコのどれほど有害だと?おたくらの作ったルールでどれだけの犠牲が出てると?うちではヤクは30からだ。それは内外でも守らせてるし、最悪のオランダでも適用される」
「そもそも、オランダはもう少し規制できんのか!」
「ヤク中で何が悪いんだ!!」
ここでデイヴがベルを鳴らした。
「答えは分かった。どうだい?参考になったかな?」
「ゲーム汚染と呼ばれている現象も認めているなら、僕もその意見を聞きます」
「では閉館!」
「・・・」
「それでエーリス。マッキーはどうした?」
「今日は非番だ。おそらくデートになるだろう」
「ほう。それはいい」
「今メッセージが届きました。結婚を決めたようです」
「ほう。最高だな。私も昔は・・・」
「その話を詳しく聞かせろ」
「・・・君は誰だね?小学生が出席してたとは」
「お前が知る必要は無い」




