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第四十三話 就職

マッキーの力があれば、今この瞬間から全人類は不老不死となり、ホモサピエンスという生命の輪を破壊した、究極の生命として生きる事ができるだろう。それを望みさえすれば。もしくは、何もしないというのも手の一つだ。どの組織にも、どの企業にも肩入れしない、完全な中立。沈黙の監視者。この先何千年何万年という歴史の中で、人類の推移を見守る事になる。もしくは、マッキーが好きに生きたいようなら私はそれを否定しない。あらゆる享楽、愉悦、残酷、非道、全て追求する時間も資源もたっぷりこの地球には存在してる。ははは。望む通りに生きればいいものなのだ。第一、それは君に限った事ではない。この地球上に生きる万人の権利だ。私はマッキーをサポートするよ、友人としてね。この組織をどう動かすのもまた、マッキー次第だ。これまでは非常に利己的でかつ、メンバーの地位と資産を増やす事をメインとする凡俗な組織だったからね。どう生きたいんだい?グランドマスターよ。


そんな事を言われた。控え室で、僕はおじいちゃんに問いただしたのだ。老人ホームのパーティではなかったではないかと。


「第一、どうして僕なんですか?面識はあの場所だけでしょ」


「実力を持つ者は、その能力を最大限行使する必要がある。この地球にはマッキーが必要で、そしてマッキーもまた、我々の力が必要なのだと判断したからだよ」


控え室のドアが叩かれた。そして開けられた。鍵はさっき掛けたんだけど。


「グランドマスター。これが現在の我々の組織と概要、結果と試算、資本、そして制約になります」


広辞苑の厚さ3倍ぐらいの黒くて大きい本をテーブルに置かれた。


「全てはここに記載されております」


秘書らしい女性がそう言った。この人、人間じゃない。なんというか、精巧に出来た人形のような。美しさの中に、歪な機械が存在してる。見た目は人間なのに。


「私が内容を書いたロードマップだ。グランドマスターはこれらを一読する必要がある。しかし、私の時より大分厚さが増えたね」


そう言ってはははと豪快に笑った。


「現在の研究は私も聞いていない。見たところ、ホムンクルスの研究までやってるのか。あれは私が禁じたはずだが」


強い口調でおじいちゃんは言った。


「・・・」


ホムンクルス。彼女はそれなのか。まさか。


「マッキーも気付いたようだね。土人形に魂を込めるなど。生命を冒涜してる。マッキーはどう思うかね?命の生成についてだ」


これは、深い話だ。僕を試すように聞いてきてる。


「命の道徳なんてものは、結局のところ、産み出す人間次第じゃないかって思います。そういうのは不妊治療に役立てられますし、誰かの心を癒すためには、必要な事なのかもしれない。ただ、非道徳かつ、非人道的な扱いは僕は容認できません。厳粛にその生産過程と研究所、それに携わる研究員とも、お話しますよ。失敗だったらすぐ処分なんてバカな事をやってる場所は、僕にも他の誰にとっても不要だ」


「グッド。良い答えだ。私も付き合うよ。ちなみに君の名前はなにかな?」


おじいちゃんは言った。名前なんてものに興味があるらしい。あっ。こういうところか。って!!!なんでこういうことになってんだ!!!


「現在、そのような生産ラインの見込みは立っておりません。私をそのような俗物レベルの人形と同系列で見られるのは、宜しくありませんね。一ついっておきましょう。デイヴィ。あなたはもう、グランドマスターではない。序列から大きく外れたのです。この場で私に始末されても、文句は言えないのですよ?」


そんな怖い事を言ってる。しかも、あ。オーラを出してるし。なかなかのオーラだ。


「私は名前を聞いたのだがね。どうやら君は私を知らないようだ。いいかね?私の、名前は。デイヴィ・ジョーンだ」


静かにおじいちゃんは言った。なにこの空気。


「ちょ、ちょっと!!!いい加減にしてよ!!ケンカはやめてよ!はい!はいはい!はいおしまい!!二人とも立派な大人なんでしょ!?プライドが高いのはいいかもしれないけど、今回の場合はおじいちゃんだよ!煽られてもスルーしてくださいよ!」


「この年になって説教を食らうとはね。はははっ。おもしろいね。うん。良い時間だ。ふふ、ははは。すまいね。現実に戻ってから、少し嬉しくなってね。すまなかったよ。つい、以前と同様に無礼な者を始末してた頃のままだった」


「・・・私の名前はエーリス。グランドマスターの秘書の任についております。なんなりとご命令くださいませ。但し、私も理事会の一人ですので、拒否権を持っている事をお忘れなきよう、お願い致します」


「ほう。ふん。まさか君を作った奴はロバートではないか?」


「その通りだ」


おじいちゃんにはすっごい冷たい言い方に変えてきてる。なんか怖いよ。これが社会かー。大変だー。おっかないよ、お母さん。


「なるほど。そうか。成功したのか。ははは。未来を見ているのも、私が願った未来との比較で、採点してるようで悪くない。そうかエーリス。無礼な態度を許してくれ」


「ふん。まぁいい。この件は忘れておいてやるよ。グランドマスター。先に言っておきますが、我々は階級制度の組織を成しております。トップはもちろん、お一人、東雲末樹様のみ。グランドマスターを頂点に、次に理事会、委員会、そこから下はございますが、グランドマスターはこれから生涯会う事はないでしょう」


「えーえっえーと。やっぱグランドマスターになるのやめるとか、ナシ?」


「・・・」


沈黙で問いに答えられた気がした。


「ごめんごめん、半分冗談です。まぁ、えーっと。秘密組織のトップになっちゃったわけだし、まぁ。折角だから僕なりに頑張らせてもらいますよ。これから宜しくお願いしますね。エーリスさん」


「はい。グランドマスター」


「マッキーでいいですよ」


「では、私もエーリスでいいです。私の生存時間はマッキーの隣に座ってるデイヴィよりも長いので、多少の知恵は持ち合わせております。なんなりと、ご命令ください」


「では、コーヒーを頼むよ。エスプレッソで、アラビカ100%、ウインナで、もちろんね。マッキーはどうする?」


エーリスは、拳銃を懐から抜き出して、おじいちゃんめがけて発砲した。僕は弾丸をキャッチした。


「もう!!!どんだけだよ!!」


僕は弾丸をゴミ箱にポイ投げすると、凄まじい爆発音と共にゴミ箱が爆発した。


「マッキー・・・あなた、本当に、強いですね・・・」


「人間よりちょっと強いだけです。次からは僕の前では僕の許可を取ってから発砲してください!!まったく!世界を影で動かす闇の組織のトップなんですよね!?全く・・・。おじいちゃんも、殺されるところだったんですよ!?」


「その時はその時だよ、マッキー。私はいつ死んでも良い。今の人生はオマケさ。最高のね。これ以上願うべくもない。確かに、今の攻撃はマッキーじゃなければ私は死んでたな。素晴らしい攻撃力の術式だ。誉めておくよ、エーリス」


「ふん。わかりましたよマッキー。次からは、マッキーの許可を取って、始末しましょう」


ひっどいドロドロ。そんなに権力にこだわるのか。死をかけるほどに、価値があるものなのか。この人たちのプライドは、どんだけ高いんだよって。


「ロードマップには制約がございます。強大な封が施されてあり、今現在の所有者、つまり、マッキーの他、誰にも読めませ・・・」


エーリスは途中で言葉を止めた。普通におじいちゃんがでっかい本を取って、関心しながらほうほうと頷いている。


「ふーーん。かなり粛清が必要と見た。マッキー。私は1日あれば1万人はかたいよ?」


「どんだけ物騒な事云っちゃってんですか!!!なんだよ粛清って!もう!!」


「マッキーが必要でしたら、私が執行しましょう。私なら、半日で根絶やしにできるでしょう。ただ、特級クラスは時間がかかりますでしょうね」


やべーだろコイツら!!なんだよ一万人とかねだやしとかって!!虐殺する気満々じゃないか!!


「なし!なしなし!とりあえず、僕が就任したんだ。ヤバイ実験とかそういう部署であっても、とりあえず、恩赦ってことで、本気でヤバイ研究所とか、非人道的な人間がいたら、それはその都度僕が直々に断罪する!」


「マッキー。殺すべき相手は殺すときにやったおいたほうがいい。人間、無理なものは、無理せず、意思に従うべきなのだよ。私はいつでも相談に乗るよ?」


「おじいちゃんはもう黙っててください!いいですか?そもそも、この組織は、誰も知らない、この上位組織の人員しか知らされない組織名は、正義の味方って名前なんですよね!?とてもそうには思えませんよ!!」


憤慨した。誰も言わない、言ってはならない、この影の組織の名前は、正義の味方という意味の言葉の中学二年生も驚愕のネーミングだったのだ。


「お言葉ですがマッキー。この組織は単に世界支配を目論んでいるわけではありません。ちゃんと保護、管理しているのです。まぁ人数が多い地域は、多少減らす努力もしますが」


「それ結構ヤバイ事言ってるよね!?」


僕はおじいちゃんからロードマップを取り上げて適当なページを見た。


「えーっと。試しにこのページはっと・・・。えーっと?英語で書かれてるし。えーっと。えーっと。人類撲滅計画・・・あーえーっとぉ・・・」


うわぁ。


「なんかこれスゴいこと書いてあるんですけど・・・。第四次世界大戦とか書かれちゃってるんですけど・・・」


「はい。目下進行中、進捗状況は上々です」


「はい。それ中止ね。次のページは・・・。えっ。火星地球化計画。概要は、えっと。えーっと。既に五割が完了・・・」


「はい。今週中には、総人口2万人に到達する見込みです」


んーーー。んー?んーーー??・・・んー。


「えーっと次は・・・。ゴジラ監視報告書・・・。覚醒には未だ至らず・・・。えーっと」


「どちらかといえば、次のページあたりが興味深いかと思います」


「えーと。アラビア王子暗殺計画。うん。これも今すぐ中止して」


「かしこまりました」


「んー?核ミサイル保有数及び精度、発射コード。電波書き換え装置、ん。タイムマシンとか作ってんですか・・・」


「へぇ。それは関心だな。素晴らしい。が。人類には、少し早いかな」


「要注意団体一覧、最重要監視団体、財団を名乗る正体不明の組織には未知のアイテムを多数所有し行使した形跡有り。時空転移装置の破壊を完遂、えっと彼らはその目的を知らず、また研究所一切を終了させることに成功」


「大変でしたよ。お相手もかなり強かった」


しみじみ言われてもなぁ。皆殺しにしたんだろうけど。


「あ」


こ、これは・・・。


「過去訪れたエイリアンによる宝物庫の中には、アイスクリームがあり、絶品だった・・・」


「ほう。アイスクリームには私も目がなくてね」


「あれ?これ場所が黒塗りされてる。僕にはこれも興味があるなぁ。これどこなんですか?」


「拒否権を行使します」


んー?んー。ん~~。んー。


「はい。次はっともう最後のページとりあえずいっちゃおうか。えーっと」


東雲末樹暗殺計画。・・・あ。これ僕がここに呼ばれてた時間に永久凍結って書いてある。


「うーーん。ヤバイのばっかだよ!!!」


「ええ」


「私の時代は良かったよ。あの頃は本人だけだった。今では家族もろとも、家ごとだなんてね。劣化してるな。折角人間に選択権を与えることに同意したから、マーヴェイに殺されてあげたのに。これなら私が人間を支配してた方が、よっぽど幸福な世界になっていたね」


「人間管理社会の計画は一応今も続いている、まぁ事実上の凍結だけどな」


声のトーンを冷たくしてエーリスは言った。ほんっと、エーリスさんおじいちゃん嫌ってるな。


「それもまた、未来、だな。まあ。一応、世界平和は実現してる。赤点ではないところが救いだ」


「一応、私は秘書権限でマッキーの私生活まで干渉します。そういった同意がありましたら、ロードマップの最初のページ、そこにサインを。本当なら、そこにサインしなければ、この本の中身の内容を見ることはできないんですけどね・・・。順序が逆になりましたが、お願いします。血のサインで」


「すいません、ボールペンで書いちゃいました・・・」


「えーっと。できれば、ローマ字で書かれて頂きたかったのですが」


「マッキーは死なんだろう。未来永劫、人類とともにあるなら、そのサインには意味などないさ。それで最後だからね」


事も無げにおじいちゃんは言った。なにげにスゴいこと言ってのけてますよね、あなた。そして、そうなんだ僕。なんか今さら結構ヤバイよ。


「マッキーの価値観、思考を少し考えましたが、これから大変ですよ。マッキー。あらゆる組織に、あらゆる人物に、あなたの理想で説得しなければならない」


「いっそのこと、地球上の人類の記憶を改竄したらどうだね?そっちの方が楽だろう?」


「んー考えときます」


可能だろうけど、どうだろうな。うーん。


「えっえーっと。あの、マッキー。一つよろしいでしょうか」


畏まってそう言われた。


「はい?なんですか」


「神を、本当に倒したんですか?」


「はい、そうですよ」


「やはり、かなり。強かったんでしょうね」


「普通でしたよ」


「普通・・・ですか」


「うん。普通だったね」


強い殺気を感じた。


「今僕を殺せば、神より強いだなんて理屈は無しにしてくださいね。その勇気は素晴らしいと思いますけど」


「・・・」


エーリスさんの顔が、赤くなった。マジで殺す気満々でしたね!


「こ、これから、頑張っていきましょう」


「ですね」


僕はどうやら、とんでもないところに就職してしまったようだ。

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