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第四十二話 突発

食事が終わって、少し外に出た。僕以外の人間、つまり誰かと真面目にちょっと変なことや日常では不要な贅沢な話をしてしまったあたり、なんだか。嬉しくなった。


僕という全存在、僕という運命、僕という人間が、どこまでいけるのだろうか。僕は空間をぶち抜き、スフィンクスの上に立った。更にジャンプし沖縄の海底古代遺跡へ、更に人の気配を辿って有人衛星に、地球のへそであるオーストラリアのでっかい岩に座って、風にあたった。僕という存在が、ヴァミリヲンドラゴンに出会うまで生命は幾年の時を断ち、何回の想いが生まれ、どれほどのドラマが成立したことだろうか。


ふと。願いが聞こえた気がした。遥か遠く。とてもとても遠い。ここじゃない、場所。僕の真上。


月までジャンプし、その重力を堪能した。あまりぱっとしなかった。それになんだか怖い。圧倒的地平線の広野に、大気の無い世界から青い地球を見た。神秘的とか感動的だとか、エモーショナルな感情が僕の心を揺れ動かして、映画なら重厚感あるサウンドで場を盛り上げるだろう。でも、僕の感性はノーだった。なんだか寂しすぎるし、圧迫感すらある。マナが無いにも等しいし、とても。寂しく感じた。


ふと。気配がした。ナニカの気配がある。僕の立つ下。なにか気配がする。


「まさかね」


地面に手を置いた。その時理解できた。この月という天体は、人工物なのだと。しかも。そんなに古くない。一億年も立ってない。むしろ、ここ何千年か?少し興味が沸いた。ヴァミリヲンドラゴンが僕の魂を侵食してると王子は言ったが、それは正しくもあり、それは不正解でもある。真実は、双方に向かって交わりつつあるということだ。だから、僕個人のパワーも人ならざる力を出力できるし、酸素が無くても、体内に蓄えた魔力で補える。そしてヴァミリヲンドラゴンの意識も僕の意識に混ざってるのだ。一番大切な事は、この出来事に、僕たち二人は同意しているということだ。まぁ元々ヴァミリヲンドラゴンの力がなければ死んでた身なんだけど。


「行ってみるか」


だから。ヴァミリヲンドラゴンらしく、冒険もしたくなる。


「よし」


やっぱり。空洞がある。それも巨大な空洞だ。むしろ。この地表はバリアーの一種か。偽装工作なのだろうか。とりあえず、中までぶっ飛びジャンプした。


「・・・」


絶句するような世界が広がってた。それは、一つの世界の終焉。暗黒に見るその世界は、黒々とした灰が積もった廃墟郡。上空3000メートルから見る、瓦礫の世界。


「マジか・・・」


気配のする方へ頭を向けると、彼方から空間上に穴が出現し、そこから巨大な戦艦が入ってくるところだった。


異次元、いや、でもこれは、間違いなく、侵攻を受けてる。どうしようもなく、体が騒ぎ立てる。声が聞こえる。確かに、声無き声が聞こえるのだ。心を落ち着かせて、僕はゆっくりと息を吐く。落ち着け。心と体は、この現状に終止符を打てと言っている。でも。僕が例えここで介入したとしても、それは内政干渉というやつじゃないのか?当事者じゃない僕がぱっと出てきていい問題ではないような気もする。


「ーーーー」


サイレンが鳴った。無音状態から突如として、耳をつんざくような危険な音。ヤバイ。なんだかヤバイ。そんなことを思ってると、僕に向かって何千という球が発射されるのを見た。さっき出現した戦艦。それがミニガン、バルカン砲のように僕を殺しにかかってきていた。


「ふうん」


全部止めた。今僕が視認する全てと繋がった。物事の全て、過去未来、空間を越えて因果と因果は繋がってる。だから弾丸は慣性の法則で間違いなく武器として成立している。だから、速度というものを断ち切ってしまえばいい。僕がそう認識するだけで、僕の環境は支配下。でも。まぁ精々僕の視覚が限界いっぱいというところだろう。この能力が広がって例えば地球全部を覆ってしまえば、それこそ因果を操れる神様になれるだろう。


「挨拶に行くか」


戦艦の指令室まで飛ぶと、そこには人間がいた。いや、人間じゃない。これ。翼が生えてる。


「・・・」


「威嚇も無しに殺しにかかるのって、なんかダメじゃないですか?僕がこれを消してもそっちは文句言えませんよ?」


「・・・」


大きな指令室には四人のヒトがいた。おじさんだったりおねえさんだったり。その姿は、まるで天使だった。


「まぁいいです。責任者どこにいます?英語なら少し話せますけど、できれば日本語ができる方がいいですね」


「・・・エンゲリィ」


「はい?わっかんないなぁ。とりあえず責任者居ないんですか?」


「通じるか?応答せよ。皆手を出すな」


頭から、声が聞こえた。テレパシーの一種だ。これで意思疏通ができるな。


「ええ。通じてますよ」


おっと、声に出しても相手が理解できるとは分からないな。同じ要領で同じ出力で出先から発信してみる。テレパシーか。きっと。僕も大昔に使ったことがあるんじゃないかな。人間の頃ではなかったことにすら遡るのかもしれないけど。


「私が艦長だ。この船はお前のようなドリフターに用はない。即刻立ち去れ」


わかりやすい、なるほど。言葉というよりも、もっと直接的な、まるで思いそのものが頭に伝わるようだ。


「一応、僕は地球から来たんですけどね。ここって月じゃないですか?一応、地球の人間は友好的に月の人にも接するようにすると思うんです」


「地球からか。ふん。そうか。いずれそちらもこうなる。よく見ておけ。これがハルマゲドンだ」


「ハルマゲドン。日本語でお願いします」


なんだよ。業界用語で言えば頭良さそうに見えるアレか?


「根絶作戦だ。人類もやがてこうなる。神は仰られた。審判の時だと」


マジかよ。これ、が。そうなのか。まぁいい。ならさっさと済ませよう。やるべきごとは決まっていて、こうなるべくして、こうなったのだ。


「なるほど。よく理解しましたよ。だから攻撃を中止してくれません?まだ攻撃してるって事はまだ生き残ってる人もいるってことですよね?今から神を殺しにいきますから」


「冗談ではすまされないぞ」


その衣装が、あまりに不釣り合いだった。僕の知る軍服ではない。むしろ神官といった方が正しい服装だ。なるほど。そっちこそ冗談じゃないらしい。


「ええ。冗談じゃないですよ。案内してくれます?」


「不要だ。無用なのだよ」


ぴしり。空間に衝撃が走った。感覚で分かった。なにかが、来てる。大きな穴がここから10キロほど離れた上空に、大艦隊がやってきてる。その中でも、ここからですらオーラを感じれる人物がいた。その人物へ飛んだ。


「人間風情がここに立ち入るとはな」


そんな感情が頭に入ってきた。


「私は・・・」


「名乗らなくてもいいですよ」


それは僕にとって価値の無い事だ。


「僕が知る必要はないことだから。僕の用件は責任者と会わせてもらいという事。あなたの上司はどこです?」


一番偉い奴を、倒す。これが僕が初めて受けた願いの一つ。


「・・・」


僕は神官姿から少し変わった妙なデザインの頭巾を剥ぎとり、頭に手を置き、僕に必要な記憶を読んだ。こいつらは天使らしい。神の軍勢というわけだ。


「なるほど」


天界へ行く方法とやらが必要で、それはこの艦隊が出現しつつある穴を逆行すればいいようだ。


「貴様・・・」


激しい激昂、殺意、強い使命感、それらを感じるが、やっぱり僕にとってそれらに価値は無い。


「今すぐ攻撃を中止させてください」


この船の指揮者は僕に向かって腰の剣を引き抜き僕の首に当てた。


「あなたと僕とじゃ、次元が違うんですよ。でも、蟻と違ってあなたには判断能力があるでしょう?この先僕が死ねば、また続ければいいだけの話だ。全て終わるまで一時間もかかると思います?」


「・・・船を下ろす」


「ありがとうございます」


この大艦隊の穴を逆流する。次元の壁を無理矢理こじ開ける。ただのジャンプじゃかなわない。散歩気分じゃびくともしない。やっぱり、意思には力強さが必要だ。渾身の一撃で、目の前の空間に穴を開けた。そこから飛んだ。飛ぶ前に指令室に置いてある紅茶を手に取った。


「ふえぇ」


目の前に、かなり大きな宮殿めいた建物があった。思わず息を飲んだ。美しい。びっくりするぐらい綺麗な建物。材質は僕の知らない物質か魔法生成物でコーティングされてるのだろう、対魔力結界としてびっしりと、まるでダイヤモンドがこの建造物全てを覆っているように感じる。


「まぁダイヤぐらい問題は無いんだけどね」


落下してゆく中、僕は先ほどの指令室から失敬した紅茶を一口飲んで、翼を出して停止した。肉体の背骨からもう二つ大きな骨を出し、筋肉を合わせ、マナを通らせるパイプを編み込み、皮膚を張る。肉体の再生と変化は僕にとってもう慣れっこだった。


「紅茶は美味しい」


ここのボスを倒せば、ここが僕の家になるのか。紅茶産業で財を成せそうだ。王子あたり高く買い取ってくれるかも。


「そこまでだ」


「引き返せ。人間、多目に見るのはそこまでだ。ここより先は聖なる領域。踏み込む事は許されん」


天使が四人、僕を囲んだ。オーラを出して威圧するも、それでも逃げないあたり、なかなかの兵士だ。


「負けると分かっていて戦う相手とは、戦わない。あなた達のボスを連れてきてください。それと、さっき紅茶もらったんですけど、あの指令室に置いてある紅茶、とても美味しかった。もう一杯もらえます?」


なんて喋ってる途中で魔法が飛んでくるし、剣まで投げられた。オーラだけで弾けるけど、喋ってる途中に攻撃するのは、なかなかにして兵士らしい。どうやらこの人達はそこそこ強いらしい。


「・・・」


「もっと強い人を連れてくるべきですよ。言っておきますけど、僕だって結構待ってるんですよ?この建物ごと消滅させてもいい。でも。それじゃ負けた方は納得しないと思いますから」


「待っていろ」


言われなくても待つつもりだけど、紅茶絶対持ってきてくれないよね。


「ん?」


ペガサスなんて動物初めて見たけど、多分ペガサスのような動物に乗って、誰かが宮殿からやってきた。


「こんにちは」


「こんにちは」


かなり友好的で社交的な人が来た!ちょっと嬉しくなって、いろいろ聞こうとしたら。


「そしてさようなら」


「うっそだろぉ・・・」


最悪の儀礼。目線が合った瞬間に天使はビーム状の魔法を僕の心臓めがけて打ってきた。思わず避けてしまった。


「ごめんごめん。実力を見せつけるためにわざと攻撃を食らうつもりだったんだけど、ちょっと驚いて」


だってこんな奴初めてなんだもん。


「恥ずかしい限りです・・・」


背後を取って、首をもごうとされたから、肘で相手の腹を軽く打った。


「まぁ戦いだ。手加減はしますけど、死んでも、その因果に納得してくださいね」


ぶっ飛ばした相手は王宮を覆う障壁をぶち抜いて宮殿の壁にめり込んだ。それでもすぐに立ち上がって、ふらふらになりながらも僕を睨み付けるあたり、結構僕の思う以上に、タフネスは結構ありそうだ。


「じゃこの人の上司をお願いします」


僕を囲んでいた天使の一人が、僕にティーカップを差し出してくれた。


「ありがとうございます」


うん。美味しい。こういう気遣いができる人もいれば、ああいう不意打ちをやってのける人もいる。まぁ戦いなら何でもオーケー。ルールなんて無い。ただ強者には品格が必要だ。そして弱者に、敗北するだけの納得を与えてあげるのが勤めだろう。理不尽な暴力や突発的な不運ではない、どうしてこうなるのか。どうしてそうなるのか。少なくとも、それが、僕のスタイルだ。当然だよね。初対面の人には、敬語で接しないと。


「君はどうやら人間を越えたらしいな」


「え?あっはい」


後ろから声が聞こえた。変にキャラ立った天使が立ってた。


「先制は差し上げますよ。避けませんので全力でどうぞ」


そこそこ強そうだが、大なり小なり力の差があっても、天使とは似たり寄ったり。


「名前を名乗らせても貰えないのかね?」


「ええ。どうせ覚える気無いですから」


「いいのかい?君の目の前には誰しも知ってる神話の相手。殺される敵の名前ぐらい、知っておきたいとは思わないのか?」


「別に。特には」


「そうか」


オーラが膨れる。この質。


「はッ!」


「!」


ヤバイと感じた。このままじゃ死ぬと思った。だからつい、殴ってしまった。


「すいません。前言撤回です。あなたは僕の予想を越える強さだった。でも、戦いだから、文句はつけませんよ」


うーーん。かなり強い部類だ。この人レベルがあと1万人ぐらいいたら、僕は結構劣勢かもしれない。


「すいません、この人ってどんだけ強い方ですか?上から何番目ぐらいですかね」


「え、えと、熾天使の方だから・・・あの、その・・・」


要領を得ない答えだ。質問を変えた方がいいな。


「その熾天使は100人いますか?」


「いえ、そんなには」


「ありがとうございます。なら突入した方が早いかもですね・・・」


あとちょっとだけ待ってみようか。


「戦いがしたい愚か者がいるらしいな」


剣の一刀の威圧を込められた鋭い魔力が飛んできた。


「お前達、全員下がれ。ここは私が終わらせよう」


ちょっと豪華になった神官、女性だ。うわぁ。やだなぁ。女性相手に殴ったりしたくない。


「135から315を行き来してるな。変動タイプか。珍しいな」


なんか数字を言われた。


「ありがとうございます」


とりあえず、社交辞令として言っておく。どんな意図でもって言われたかも分からない。


「なに、礼などいらんさ。それはお前の強さの基準だ。ちなみに私は400を越えている。お前も戦いが好きそうだな。実は私もだ。父には言わんが、戦いこそ、全て」


「はい」


レベルの事か。135から315付近を変動してる。納得がいった。確かに、ヴァミリヲンドラゴンとのシンクロ率を体感で表すとそれぐらいになるのか。わずかに流れるシンクロ現象が、僕に力を与えた結果のレベル。ふむふむ。確かにそれぐらいかもしれない。


「だから、先に言っておく。オーラを出せ。そのままじゃすぐに終わる。人の身では、決して勝てんぞ?」


「へぇ。天使にもあなたみたいな人もいるんですね。じゃ、僕も一段階力を引き上げます」


力を爆発させる。全身を魂を、ヴァミリヲンドラゴンのオーラに浸しきる。仮面を剥ぎ取る。人間ではない。ドラゴンヘッドに。


「素晴らしい・・・」


感嘆を述べられた。かなり嬉しい。


「サービスで先に一発殴らせてあげますよ?」


「いや、それは止めておいた方がいい」


剣を引き抜かれた。燃える剣だった。


「永遠に燃え続ける炎。一断ちでも食らえば、体を炎が食らい続ける」


「あなたもサービス精神たっぷりですね」


「退屈して・・・ふふん。本心を言おう。この際、この非常時、言ってしまってもかわまんだろう。ふふ。力を行使したかったのだ!!」


その降り上がった剣を、振り下ろす前に掴み、砕いた。


「ナっ・・・」


そして心臓めがけて拳を放った。相応の威力を込めて。


「僕の能力を教えましょうか。大抵なんでもできる。です」


吹っ飛ばした宮殿に穴ができ、魔力障壁のようなバリヤみたいなものがバチバチと音を立てて消えていった。


「へぇ」


大きな翼を更に羽ばたかせた。まだ終わってないのか。笑ってるような顔が、妙に美しい。


「光栄に思うがいい。お前はヒトの身でありながら、我に最大出力を解き放たせた」


オーラが変質し、紫に色づき、爆発的に質、量が跳ね上がってる。


「やべぇこいつ僕より強い!!」


「投石の刑だァァァあああ!!!」


火の玉が、まるで雨のように僕めがけて襲ってくる。一体どれほどの量だ?


「グ」


一つ一つ、拳で対応していくしかない。


「ぃオッ!」


加えて天使本人が圧倒的速度で僕に斬りかかってくる。


「断頭か投石か!!!」


笑ってやがる。やむを得ない。僕も更に出力を上げて対応するが、さっきから何発も食らってる。ダメージが入ってる。僕にダメージを与える攻撃、それも無数と言っていいぐらいまで。しかし、これほどの規模の魔法。凌ぎきってやる。そうは続かないはずだ!


「続かないはずだ・・・だと?」


ピタリ。投擲が停止し、天使が動きを止める。こいつ、頭の中の思考も読めるのか!


「なぁに、1日は持つ。どうした?降参か?それは駄目だぞ。最後の最後まで、人間らしく足掻いて見せろ!!」


猛攻が更に加速して襲ってくる、拳がぼろぼろだ。翼が既に形を成していない。


「ハァハァ・・・」


僕はどうやらここまでらしい。勝てない。


「ふむ」


また動きが止まった。


「久しぶりに楽しめた。最高の気分だよ。あと一つでお前は落ちるな。さて、お前という存在に少しモノを言っておきたくなってな。苦しいだろうが、少し我慢しろ。お前は先ほど尋ねたな。天界の戦力を。・・・残念なお知らせだ。お前が倒そうとしてる神は、我など比較にできん程に強大だ。つまり、いずれにせよ、お前の攻撃は、価値など無かったということだ」


「知ってるさ。そうだろうと思ってたし。僕のわがままだ。そりゃそうだ。僕という人間の力だけじゃ多分倒せそうにないってね。これまでの人生もそうだったように、望み通りに叶うなんてのもあるわけじゃない」


「ふふ。しかし、残念なのは、これからお前の首を胴体から切り離さなければならんことだ。お前のような奴は、きっとこれからも出てこないだろう。それが少し名残惜しくもある。下にさせる事を続けたが、お前は間違いなく強者だった。故に兵士として最大限の礼を尽くそう。・・・・・・ハルマゲドン」


瞬間、周囲が夜になった。地面に座ってた。丘の上に立っている。満月の下に照らされてるのはススキの大平原。風が心地よく波打ってる。安堵の感情が芽生えた直後、地鳴りが聞こえた。地平線の向こうから、大地が隆起し、まるで津波のように僕めがけて襲ってきてる。大地が、僕を飲み込もうと。こんな大技、あるのか。どれほどの規模か。まるで大陸を飲み込もうするかのような、なんという破壊規模、これの対象はヒトではないだろう。人間の種を初めとした生命の輪そのものであったり、文明や文化その存在の大いなる功績であったり、果ては隕石の衝突に匹敵するであろう威力。そこに僕が立っているのは光栄な事なのだろう。嬉しい限りだ。こんな必殺技、なかなかにして拝めない。


「ん」


分かってた。僕は分かってた。だから驚かない。


「また一人でやってるよ~」


「僕一人で、どこまでもやってみたかったんだ」


ヴァミリヲンドラゴンがこのフィールドをぶち破ってやってきた。以前と同様に、やっぱり、変わらない。そして、僕の身体めがけて飛んだ。


「この感覚、うん。わるくない」


「ちょっと付き合ってもらうよ」


「それが見たかったんだ。それが、生きるってことなんだね」


満たされる感覚がある。何も変わらない。変わるわけがない。ちょっとレベルが上がっただけ。


「対抗呪文」


人差し指に、このフィールドマジックに集った魔力の術式を模した。その小さな炎をふっと息で消し飛ばした。


「ヴぁ、バカな・・・・・・」


生まれて初めてやったであろう驚愕の表情を天使はやってのけた。僕を覆う全ての魔力の攻撃性が、術式が、魔力が、消えていった。


「ここまでが僕のわがまま。そしてこれが、真の僕。自分の限界も知れたし、人間としての僕がどれだけ頑張れるのか分かったから、もう十分に納得。僕の負けでいい。体も心も十分にほぐれた。もう場所も大体わかってしまうし、もう行くよ。もし、まだやりたかったら付き合うよ。すぐに終わらせるからここで待ってればいい。できれば僕はそれを望むよ。きっとその方が、これからのあなたの人生のかてになるからね」



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