スキット 対名うてプレイヤーキラー
長らく殺してきた。これまでの数々の功績、築き上げてきた名声、手に入れた無二の宝物。おそらく人々にとって価値の有るもの、それら一切がまるで無。
忘我の瞬間。現実の自分、責任、或いは外の世界、自分の内面。あるべきイメージの世界観。あるべき思想、持ち得る自分自信で決めた人生の指針、矜持すらも。
殺しの時には全てが無。お前も。そうだろ?
「よくもってんな。強いよお前」
そんな言葉を吐き出された。頭から爪先まで黒一辺倒の黒魔術師、話には聞いていた。イカれたプレイヤーキラーで兎に角、強い。しかも単身最強のギルドの一つ指に数えられるトワイライトに乗り込み、破壊の限りを尽くして、それでなお生き残っているというある種の伝説。一言呟くだけで、死ねと言われるだけで特級の攻撃魔法を加えるというウィザード。知ってはいたが、正直のところ、これほどとは。軽量の鎧は特級のはずで最高の品が、一撃を加えられただけでおよそ15%の損害を与えられた。あと5発もマトモに直撃すれば末端価格二千万の鎧のパー。持ち得る最高の装備で闘う対プレイヤーキラー戦。赤文字プレイヤーキラーの死はキャラクターデータのデリート。それに付随する一切が消滅する。アイテムも、レベルも、資産も、全てが消える。所有権が無くなる。
誰が賞金首一億以上同士の戦いをやる?何のために?目的は?酔狂か?ノリか?狂ってるのか?
「おかまいなしなんだな。お前は、誰だろうと殺すのか」
目の前の敵は簡潔に答える。
「それが?」
死んだらどうするなんて考えないのか。このゲームが人生に与えた影響の一切を、お前は考えないのか。
「俺の懸賞金は二億を越えてる。それでもやるのか?」
にべもなく。
「だから?」
黒魔術師の分際で、中距離からの攻撃魔法に加えて、俺の間合いまで詰め、全霊を込めた殴打の一撃で殴りつける。ミドルレンジという中距離戦闘職どころではない、遠距離魔法、それもこそこそ遠くから攻撃するのが定石の黒魔術師が、こんなにも近く、目と鼻の先で。
「チッ」
大太刀で防御するも、次の一手が打ち込めない。単純に、可動速度の問題じゃない。場馴れした読みにも長けた、これなら必ず勝てるという戦闘応酬を強いられる。いや、これは違うか。俺の知る黒魔術師のスタイルを根本から否定するような、戦いの技術を生み出している、俺の知らない黒魔術師。
「クっ」
俺よりも格上のPKと戦闘するなどという、想定がまるでなされていなかった。これまでの俺は、確実に勝つという戦いだけを選んで殺してきた。100%勝てるという算段の基、行動に移る。プレイヤーキラーギルドというギルド単位での動きに、敗北は許されない。メンバー一人一人の命を預かっている。普通のプレイヤーの死亡とはワケが違う。吊り橋を叩いて渡るという作業。周到に用意した舞台で舞うバレリーナのように、決まりに沿って、動くだけ。人間は、常に一緒くただ。それが恐怖を伴うと、途端に単純さを増し人形に変貌する。俺はプリマにはなれなかった。しかしここではまるで違う。俺は監督であり演者であり、オーディエンスの一人。断末魔の叫びはスタンディングオーベーションの喝采だった。俺にとってこれらのチームプレイは共同作業以上で、それは、俺にとって。持ち得るべき、家族だった。
「クソッタレがあああああああ!!さっさと死ねよおおおおおお」
敵の攻撃をそのまま敵に返すカウンター魔法、モッキンバードはコイツには効かなかった。自身を中心とした円状にオーラを広げてそれを維持し続ける。ヴェノムは範囲内の敵を戦闘不能にし、かつ俺が意識を乗っ取れる魔法であるが、コイツには効かなかった。
純粋な剣さばきの単純な攻防がバカみたいなほどに、おざなりにされていたのは、自分でも苦々しいとは思っている。痛感するよ。この百戦錬磨のクレイジーなブラックウィザードは、どんな敵とも戦ってきた、そして殺してきたという、自信がある。それはもはや一つの武術、戦闘法とすらもいえるだろう。
「ちょこまかと、さっさと終われよ!!」
それでも、食い下がる。少し戦ってみて分かった。コイツは、真の強者だ。噂以上の実力。笑えるほど、強い。
「ハァハァ」
ヴェノムの能力の一つに、アイテムを使用できる特性がある。最高位のアイテム使用禁止以外の条件で、俺がマーキングした結びつけた場所、狭い一室への扉を接続する事が可能になる。マーキングしておいた、今現在マーキングしている場所は、プレイヤーキラー達御用達、無法地帯ドゥルーガの酒場。スタークラスがたむろしている、星七つのバー、オムレット。一旦ヴェノムでそこに行き、暇してる連中を集め、パーティで攻めるか。俺と、たしか名前はトモ、か。トモとのタイマンでは俺が敗れる。このままでは、俺の体力が全て削られる。
「おい!どこ行った!?オイ!!!」
簡易ポータルを抜け、扉を開く。ドゥルーガの酒場。オムレットは会員制で、ルールが特に厳しい。しかし、ここのマスターは俺に借りがある。
「そのドアから入ってくるとはな」
アメリカの田舎町のバーを模した趣味の悪い内装。店内を見渡すと、良いプレイヤーキラーが集っていた。
「狩りに協力して欲しい。成功報酬は1000万、今まさに戦ってる」
一同は俺の話に興味を示し、そして了解を得る。ゲートを通って改めてトモと対峙する。
まさか、裏切られるとは。
スキット 対名うてのプレイヤーキラー
昔の話だ。私は家族を持つことが夢だった。当たり前のように、恋に落ち、結婚し、子供をもうけて、大きな家に住まうのだろうと。
当たり前の話だった。私の回りには、常にそうであって、テレビの中のような劇的なドラマはありえなかった。そして実際、そうだった。とりたててドラマチックな事など、何一つとして無かった。本当にそうだった。あるとき、偶然にも私は自身の臓器の一つが不全で、私は子供を持つ事ができない事を知った。劇的なことだろうが、当時としてはそう劇的にも思えなかった。よくある一つの悲しい話でまとめられるのが、私に悲しみをもたらした。
当時発売したゲーム、REALが無ければどうしていただろうか。見当もつかない。当時の私は荒れていた。今以上に残虐で、見境が無かった。殺すことが目的でゲームプレイを楽しむ事は、今振り返っても正常とは言い難いだろう。殺し方や死体蹴りの問題かもしれないが。今でこそ、節度を持ったゲームプレイを心がけ、ギルドメンバーには最低限のネチケットを強制しているが。
ギルドを持ち、それを家族を見立てた時、私の心に、光が差した。殺す事を、もっと純粋に楽しむ余裕が生まれたと思う。
気付けば、資産が膨れ上がり、私はこれが天職なのだと知った。そして、この世界、私たちが住んでいる世界が別の世界に繋がっていることも知った。あるとき、別のプレイヤーキラーのギルドマスターが私に贈り物をした。気持ち悪いネーミングのギルド趣旨だったが、このゲームを深く学びたいというのが目的だった。そして贈り物は全ての病を取り除く、魔法そのもの。そしてそれは現実だった。私の家族を持ちたいという夢の続きは、既に踏破されていた。今も続いている。家族とは、大きくなるものだ。




