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第二十九話 リアップ

霞が関トンネルの別ルート、そこから地下へ地下へと降りてゆく。一直線に。


「現在地底世界アガルタ、昔から言われてるお伽噺の世界。そこを俺らは攻略してた。もう七分ぐらいか。千病の特効薬カゼグスリが採取できる。世界的な言い方だとダンジョンとも言われる別世界には、学者の言ういわゆる、時間の矢ってやつの進む方向が過去よりになっててな。あっちの一年のこっちの一ヶ月ぐらいになってるんだ。深度にもよるけどな。だから多忙なエグゼクティブはこぞって資本を出しあった。七つ星ホテル竜宮城、ここで王子が待ってる」


「ネットとパソコンがあれば事足りる」


「ただし、アガルタでのReal接続は不可になる。接続する際は、一回抜けて地球でやんなきゃだめだ」


「じゃあどうして僕はわざわざ、Real内部で王子に会うのに行くんですか?この人の移送優先ってことですか?」


「一般人がアガルタに行くのに手間がかかるんだよ。バンピーが行けるところじゃ無いからね。そもそも。血液検査、精神鑑定、完全除染、あっちの検査をパスした人間だけが入れる。こっちの世界のも持ち込んじゃイケナイってのはガラパゴスみたいに線引きすることが重要なんだぜ」


「それって往来は自由なんですか?」


佐伯さんが尋ねた。


「ここは行き来に制限や条件なんかは無いから安心だ」


「そろそろゲートに到着します」


ドライバーの一声で、長い長いオレンジ色のトンネルを抜けた。


トンネルを抜けるとそこは雪国であった。川端康成の雪国の序文はあまりにも有名だけども、トンネルを抜けた先、窓ガラスの先は木々で覆われたジャングル。そんな景色が目の前に飛び込んだ。地下。360度のパノラマ。道路が一本、天から地上に向けて走ってる。


「っていうかなんで太陽があんの!?」


ぎらぎらに輝いてさんさんしてるお日様が地下にも関わらず存在していた。太陽じゃけない。大気すらある。


「最有力候補が、この世界は俺たちの世界とは違うってところ。ゲートを潜れば、そこは別世界なんだ。ちなみにここは、幾つかの分岐点を袂に分けた太古の世界。恐竜以前の世界だな」


「宇宙人とかいないんですか?」


「おいおい佐伯さん。それ聞くのかい。師匠に話を振ってくれ。俺に権限は無いんだ」


「おるよ。おそらく昔の神隠しに遇った人々だろう。友好的とは言えないが敵対関係ではない、と願っておるが」


終着点にはジャングルのど真ん中に街があった。超高層ビルもどうやってここで造ったかは不明だけど建ててある。道路の果て、街の入り口には外国みたいに、本物の機関銃を肩から垂らした武装兵がいた。


「うわ。メンツが濃いですね。ゲストはどちらですか?」


女性の武装兵が僕達に尋ねてきた。末道さんは清水を車から出してつき出した。


「こいつだ。特級で頼む」


「ちょっと末道さん!そんな化け物拘束着無しで私らに投げないでくださいよ!!」


「押した方がいい。早めに両親にも騙して会わせろ。ラッキカラーはブロンド。それから彼氏は心底マニュキアが嫌い。明日はクロワッサンよりメロンパンの方が良い。デートスポットは明日教えてやる」


「この子は私が責任を持ってお預かり致します。検査と簡単な問診がありますので、中の医務局へどうぞ」


凄い変わり身だ。占い師でもやってれば良かったんじゃないか。っていうか怖いよ!


「あっ清水さん私は!?私は!?」


清水は佐伯さんに向かって軽く頭を振った。


「泣き落とししかない」


ぽつり一言言いやがった。なんだよ泣き落としって!


「やっぱりそーかぁ。ありがとー」


やっぱりなのか!?


「こちらへ頼む」


頭領に肩を叩かれたついでに耳元で言われた。


「万一の事を考え、ここでは全てパスしたこととする。佐伯、佐伯殿はここにおいて、先ずは会いに行かれよ。そして、この無線を」


「無線なら通信できるってことですね」


「王子は直接下界の者とは携わらない。しかし、ここからは東雲殿の判断で動かれて頂きたい。拙者が用意するのは、場、のみ。そこから先は拙者の出先は東雲殿次第でござるよ」


やけに怖い顔して言われた。敵になるかもってことか。


「冗談じゃないですよ。大きい借りです。とっても。ありがとうございます」


イヤホンを耳につけた。教えてもらったダイヤルにセットした。


「シノノメ・マツキか?」


たどたどしいが、やけにイントネーションに力のこもった日本語の声がした。


「はい」


「こちらゾルデア近衛兵隊長ゾルティアだ。陛下のお言葉を伝える。聞き漏らすな」


「あっはい」


ズルデア?ズルディア?英語じゃないナチュラルなフロウが出てきて正直脳みそが処理出来なかったけど問題無いだろう。


「メッセージを送った。先にこちらの要求をあらかじめ伝えておく。絶対的な忠誠。これが不可欠だ。代わり、朕の隣に置いておこう」


「・・・」


「以上になる。メッセージはRealに接続すれば分かる。質問はあるか?」


「ないです」


「おいおい!!折角超絶VIPが下手に出てお願いしますってやってんだから、そこはジェームズボンドみたいに一言気の利いた皮肉って奴を言っておかないと一生後悔することになるぞ!!!主人公ならぶっこんどけよッッ!!!」


末道さんがそんなヤバイアドバイスを外野から飛ばしてきた。生まれて初めて喋る王族ってやつだ。しかもなんかメッチャ偉そうなヤツだ。確かになにか、ナニカ一言言っておかなければ後悔するかもしれない。そんな気がしてきた。


「いや、一つだけあります」


「言ってみろ」


1サッポロミソラーメンって袋メン最高ですよね。

2ポテチのコンソメ味って買われてるの見てないですよね。

3王族になったらハーゲンダッツ毎日食べ放題になるってホントですか。

4刺身が大好物なんですけど、外人って生の魚食わないとか多いみたいですけど、そんなのだったら一緒に組みたくないですよね。


ダメだ。

ダメだ。全部食べ物系極振りになってる。こういう土壇場での機転やインスピレーションなんて出てこないし、うまいことやれたためしが無い系の主人公なんだ。どうしようか。自分でも4を考えただけでも上出来な気がする。なにか、なにか武器は無いものか・・・。


「ええっと」


「どうした。もう20秒も経過している。米国の大統領なら切ってるぞ」


「待とうよそれぐらい!!」


「・・・」


やばい。やばいやばい。マジでガチな状態で余裕のある面白い一言なんて出てくるわけが無い!


「・・・」


わかった。わかった。わかったよ。もう本気出す。僕はブラピだ。ブラピなんだ。ブラピだったらこんなことを言っちゃうんだ。


「・・・」


僕はブラピだ。ブラピだ。ブラピなんだ。今!!この瞬間!ここ!ここ大事ッッ!


「今日はパンケーキを作るんだ。ハチミツとバタージャムが入ったやつ。君も一緒にどうだい?」


「調理師のスキルをお持ちとはやりますね。いいですね。陛下にも伝えておきますが、お約束はできかねます」


「かまわないさ」


「それでは、お待ちしております」


「アティー」


通話が切れた後、僕は両手を顔を覆った。そして、なぜこうなったかをちょっとだけ考える、どうしてだ、どうして僕はRealでパンケーキを作ることになってしまったんだ。責任者を問いただす必要がある。責任者はどこのどいつだ。


「末道さああああん!!!」


居ない。その代わりに、すっごい笑顔をした佐伯さんがいた。


「そういう少年ハート。大切だよ」


「~~~~~~~ッッッ!!」


「それじゃ、一足先に温泉浴びてくから。頑張ってね~」


「はぃ」


根がまだ。中学から卒業してない。そして佐伯さんもそれを理解してるところが、僕の現状を更に嘆くことにつながった。


頭領が車に乗ってる。そして、目の前に繁る鬱蒼とした密林をみた。不思議とここは汗が引いてる。湿度が低いのだろう。街の周囲は高い塀で囲まれ、街の出入り口は広い野原になってる。心が、落ち着く。


「クールになったよ」


今僕は、とりあえず、とりあえず、やってやった。やってやったんだ。この成功を、小さい一歩を、一先ず称えようではないか。こうやって人間は大人になってゆくのだ。でも。いきすぎるとゲスになるから、もうこういうのはちょっといいかな。


「少年、そろそろ行くぞ。私と頭領が車中の護衛だ」


よく見ると、この人、ティーシャツ長袖だ。チラリと手首からうっすらタトゥーが見えている。ああ。この人は温泉が入れないんだ。ふん。うちのお父さんもお母さんも海外のバンドマンらしく入れてた。温泉入れないのに。銭湯いけないのに。印象悪いのに。よくわからんよ、本当。


「さて」


車に乗り込んだ。後一歩。僕達の命の保証まで、あと少し。死にそうなったり、死にかけたりする予定を消すための必要な作業。


「出発します」


今度は地上へと車が向かってく。飛行機が飛び上がってく感覚がして、正直少し怖かった。時速160キロでぐんぐん上る。もう街があんなに小さく。耳がおかしくなる、唾を飲み込む。ヘッドセットを頭に被る。


「地上へ戻りました」


Real装置を起動させる。落ちてゆくより、向かってゆく感覚。例えるなら、もし例えるなら、産道を辿る赤子のような感覚。


「お。戻ったか。マッキー」


ミルフィーと同じ小人でモフモフタイプのかわいいやつが、1メートルを越える大きい太刀を装備している。黒マントがカッコイイ、ギルドマスター。シャーメルマーク。


「ごめん、今急いでるんだ」


メッセージを読もうとしたとき、言われた。


「時期国王との一件だろ?」


「どうして知ってるんですか?」


「接触してきたからな。いいさ。いいってこい。ただ。借りがあるのを忘れるなよ」


「それは分かってますよ。何人か何十人かのPKになると思いますけど」


「ギルド一つ潰すのを手伝ってくれるだけでいい。それでお前は抜けていいぞ」


結構、あっさりと僕を手放すんだな。ヤバイ連中って結構もっと抜けるのはできないとか言ってきそうとか思ってた。


「分かりました」


「期待してるよ」


「連絡してください」










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