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SKIT 01 うぉんてっど!マツキシノノメ!

Realのヘッドマウント装置を装着していた男性の外傷が時間を逆行するように再生するところから、その映像は始まった。そしてその男性に向けて拳銃の引き金が引かれたところで矢口は顔をしかめて鈍い声を発した。


「以上が肉体の復元作用だ。Realによる能力作用、Realシステムを起動し発動している状態に限り、外部からのあらゆる攻撃を受け付けない。本体の外傷はおろか、血痕、衣類の傷すらも再生している。これが一般的な意味合いでの再生というのであればな。Realシステムもほぼ同様、コンセントを引き抜き電力を供給を絶てども、未知の手段、未知のエネルギーによって動き続ける」



文部科学省地下機密区域、セキュリティクリアランスAにて。


「これは……」


矢口外交官はおもわず不明瞭なつぶやきを発したところ、映像は実験映像らしき男性の外傷が逆再生のように復元していくところで一時停止された。


「プログラムへの被験者は強盗犯だが?」


「い、いえ……これは、どこで?」


矢口はおもわず口元を手で覆った。作りものではない本物ではあったが、あまりにも現実的ではない映像に、気分を害した。矢口の信じていた森羅万象世界、完璧な調和をもたらす絶対的な科学世界を盲信している矢口ではないが、これはあまりにも現実世界だと信じていたルールから外れていた現象が起こっていた。そして、これは日常にも起こり得る現象なのだという直感が、矢口を畏れさせた。


「防衛省の特殊災害対策室から。奴等にも今回の事案ケースは手に余るようだ。なにせこのReal装置は全世界に何千万と動いているわけだからな」


そうして佐藤は笑った。防災研究課課長、これが老獪な初老に見える佐藤の名刺で出せる身分だった。


「これが我が国で流通してるなんて……」


「安全遊戯協会など戦後からある負の遺産に過ぎんよ、警視総監が作り出した天下り先でも、こうもここまでチェックを入れる事は無い」


「スーパーナチュラルに類するものですよね……?確か文部科学省にセクションが三つ。防衛省にセクションが二つ。非公式に一つ対策室が講じられていたはずですが……」


一介の外務省に勤める佐藤は自らに当たった白羽の矢に、暗に疑問を呈した。


「君の驚いた顔を見ると、この映像を先に見せておいて良かったと思うよ。……現在政府が講ずるべき案件は零」


そして佐藤課長は親指を立て、人差し指から順番に立てていった。


「アレらは主に有事かつ災害時にアクティブになる。社会的自由および生命の緊急避難にあたる非常事態のきわだ。今回Realシステムにおける死亡事故は確認されていない。一つ、結果を識別すること。二つ、原因を特定すること。三つ、結果を沈静すること。四つ、結果を予防すること。今回のケースはどれとも該当していない。結果の予防の際にギャンブルは冒せない。既にこれらは沈静された状態にあるのだからな。さて。次の資料を見ていただこう。それと、煙草、吸っていいぞ?」


「禁煙してますので…」


矢口は思った。自らの禁煙の過程に、Real内での燻製煙なのだという事実を、この男は知っていての発言だったのだと。つまり、矢口のRealの活動をこの男は知っているのかもしれないという事だ。だとしたら、諜報員数名を動かせたという事実が鼻についた。


「なぜ、外務省職員である私にこういった映像を見せるのか。疑問があるのですが?」


「君から、その類の質問を受けて初めて次のステップに進めるというものだよ。次の資料デルタをモニターに写してくれ」


モニターには横文字で書かれたロドイック社製の羊皮紙が一枚写された。最後の文字列の隅に赤の蝋。即ち、超機密にあたる文書。ちなみに矢口には機密を扱う権限が未だ与えられていない。


「君もよく知ってる通り、特別要請書だよ」


「文面で見るのはこれが初めてですけどね」


「君もよく知ってる通り、戦後の密約の一つに特別要請書という命令紛いの指令が米国から通達されるわけだ。過去の例を取ると、いずれもそれらは、核搭載の潜水艦、及び航空機の日本領海領土内の暗黙だったわけだ。これが通例だった。それが先日未明にこの具合だ」


「…」


「シノノメ・マツキという男性の捜索に助力を請う。これだ。たったこれだけ。これが、核戦争のトリガーに匹敵する人物というわけだ」


「シノノメ・マツキ………最重要指名手配半かテロリスト…でしょうか…」


矢口は一瞬考えてはっとなった。


「悟ったようだな。君もRealプレイヤーだったな。では理解が早いだろう」


「シークレット賞に当選した男……ですね。攻略ニュース、くわらばニュースで見ました」


多忙でなかなか時間が割けないRealプレイヤーには嬉しい正確なニュースを伝えてくれるニュースアプリだった。ガセの無い早い正確な情報と分析と総評は、ゲームプレイヤーとして重宝していた。


「………確かに資産価値は非常に高いと思われますが」


佐藤は笑った。


「ドバイの金融王がまとをつけたそうだ。彼女は三等のレイニングドラゴンのゴーレムにも金額を上乗せしたよ。二億に続いて油田の一角、およそ年間五千万の利潤を生み出す金の卵をつけてな。私は七等のフライングホールの機械だったがな」


「私ならすぐに手放しますよ。いろいろ危ないですからね」


「本当にそうか?」


意味ありげに佐藤は矢口の顔を捉えて真っ直ぐに見た。


「………いえ。手放しませんね」


矢口の言葉を聞いて、佐藤は胸ポケットから葉巻を一本取り出すと、オイルライターで火をつけ、一服した。


「ふぅ。洒落にしては笑えん。これは『我々』のシナリオに無いものなのだ」


そうしてその老いた眉間に更に深い皺を寄せた。


「ふぅ」


そして口笛を軽く吹いた。そうして少しばかりの沈黙の後、葉巻をシガレットフォルダーに入れた。


「すまんね。この年になるとどうも、感情が先走る。これはランクが違ってね。ステージが二つほど違うんだよ」


「は……」


矢口は真剣な顔をつくって言った。


「私に何をさせたいんでしょうか?」


「……Realにおける事案の対策局を近々公設する。Real特別事象対策局だ。私はその局長に。君にもポストを与えよう」


「…」


「マツキ・シノノメが運転免許を持つ成人男性なら話は早いだろう。決着は40分以内に終える。例えそれが小笠原諸島にいてもな。問題は彼が未成年だった場合、この人物が存在しない場合、彼が人間じゃない場合、この三つか」


「未成年だった場合は?」


この質問には、矢口の最大の懸念大に含んだものだった。


「我々は公僕で、益するは国民だ。手荒な真似はせんよ。それとも、どうやって探すのかを聞いたのか?」


「いずれもです」


「………この室内は非公式なモノも多くある。沖ノ島で発見されている未知のアイテム、未知の情報もそうだ。君にあらゆる使用権限を与えよう。目的はシノノメ・マツキの捕獲だ」


佐藤の言葉の後、仕舞い込んでいたシガレットケースからアラーム音が三度鳴った。


「早くもエシュロンが作動したか。米国はゴッドモードに入ったようだ。全人類か彼らの目となり耳となった。時間はあまり無いぞ。君なら、交渉も含めてあらゆる手段が使えるはずだ」


「時間稼ぎも含めて……ですよね?」


「その通りだ。千里眼、だったか」


「ええ」


「法力、理力、念、オーラ、霊力、そういったものを有効に使えると聞いたが?」


「その質問に答えるセキュリティクリアランスの基準に達していません」


「期待しているよ」


そういって佐藤は一瞬にして消え去った。


「立体ホログラム……」


矢口は笑った。争いの無い世界を作り上げる。そんな綺麗ごとばかりの世の中では、とびっきりの問題にはなかなか出会わないものだからだ。


英雄殺ヒーローキラーにロマノフ王朝最期の炭火のダイヤ、シトロメロポリタン博物館から紛失された銀色の三重弾丸、つまり殺せってことね」


矢口は一息吹くと、部屋から出て行き、建物から出るとケータイをかけた。この携帯電話、実に十三年前、高校の頃からお気に入りである。


「マスターに予約を取ってほしいんだけど?…………お願いね」


眼鏡を取るとちょっとだけ美人になる系女子 外務管 矢口理子



「マツキィ・シノノメェはま~~だ見つからないデスかぁ?」



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