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第二十二話 むてき

「ラフィアさんも!ミルフィーさんも!見ていましたか!?僕の力をォッ!!圧倒的な力、僕だけの力!この世界は僕と繋がった!僕の意思通りだ!これがずっと続くんですよォッ!永遠に!十年二十年なんか人間の尺度では考えられないくらいまで!!気がァ遠くなりそうですよォ~!!」



一瞬、僕の中の魔力が暴発した。これまでの戦闘応酬の最中からの急ピッチのダウン。平静状態のクールダウンはいささか難しいものがあった。体からほとばしる魔力を逃がすため、僕は全魔力を右腕に込めて空へと放った。銀色の空。美しいクリスマスカラー。



「ラフィアさん!ドラゴンの力を経て、どうやら僕は力にあてられちゃったみたいですよ!こんな気分は初めてだ!人生ってこんなに清々しく心地よいものだったなんてありえません!ねぇラフィアさん!ははは!この世界の生命という生命を稲妻で断ち切ろうか!ははは・・・」



ふと、変な景色を見た。もう幾100キロは離れてるぐらいの距離。平野を、楽しそうに駆け回る4人のパーティ。



「空の色が変わったのも気づかないぐらい、夢中なんだな」



急に心が醒めた。僕の真下、阿呆顔で雁首を並べているこの世界の強者達と、それから少し向こうで、僕の態度にドン引きしているラフィアさんとミルフィーさんと、小さい男の子のヴァミリヲンドラゴンのヒトの雛形があった。



「さくっと終わらせるか。時間をかけるようなものじゃない。所詮この世界は仮初めのモノ。実際に死んじゃうわけじゃない。彼らはレベル100に満たない。うん」



銀色の大空が広がる世界、そのものが僕のテリトリー。支配領域。人間の力は素晴らしいものだ。更にドラゴンとの力が混じると、これほどまでに規模が広がる。ヴァミリヲンドラゴンとの合体状態では地球二個分ぐらいは覆えそうだ。単独の人間でもこれだけの奇跡が生まれるのだ。僕ですらこれだ。人間の力は偉大で、素晴らしく、美しいように思える。



「どうやって殺そうか。そうだ。どうやって死にたいですか!?リクエストは受け付けますよォ!?」



僕は、優しいから。



「あっ。ログアウトしようとするの禁止です」



ログアウトしかけた男を単純な斬撃でもって真っ二つにたた斬った。


「残りはえっとーいくらぐらいでそちらは壊滅ですかねー!」


ジルトニアの門番がしぶとく生き残ってる。左腕が千切れてるのであと一押しといったところだろう。意外にもマクダレンさんも生き残っている。恐怖の象徴へと形態を変えたときも、彼は僕の猛攻を避けきっていた。普通の人間の可動速度を大きく越えたものだったようにも思える。多分、かなりのレベルなのだろう。80や90ぐらいの、アイテムでのバフ掛け。同じくそれ以上の身体能力を持った狼男。これは多分、ヒトだけじゃない。現実世界においての、人と何かの掛け合わせか。遺伝の上での話、きっと彼はマジで狼男なのだろう。よくよく冷静に考えてみると、なるほど。なるほど。微妙にイケメンなのが腹立たしい。それと細身の黒服。この人は結構ボロボロだ。しかしそれでも生き残ってる辺り、評価ができる。可能ならばこの人には苦痛を与えずに即座に死滅させてあげようと思う。それから、妙なオーラを纏うじいさんが二人。オーラというよりも、全く魔力の純度が事なり色も明確に視覚可されてる妙な使い手。一人の下半身は蛇のようだし、もう一人は、本を持って詠唱を書き綴ってる男。



別に彼らに差異は無い。等しく敗北し、僕にPKされる事が決定されてる。



「シノノメ・マツキ!貴方!」


ラフィアさんがドラゴンの翼でもって、駆けつけた。近くまで。あまり近くに寄らないで欲しいものだ。もう命に届く距離。


「PKK行為ですよ。やってきたのは、彼らだ。実験なんて嘘っぱち。僕を殺すための準備をしてたんですよ?どう思いますか?ねぇ!!冗談じゃないでしょう?そう思いませんか?」



「それは貴方があまりにも人とはかけ離れてるから。・・・・・・文明を壊せる力は、一個人が持つべきではない。と。思うから」



「ラフィアさんは確かこの世界での最大手の宗教ギルドに所属されてましたよね。それはつまり個人が集団に力を寄与して、社会に還元しようとかいう考えなんですか?そのギルドが、最も強い力を所持することになるとは思わないんですか?」



「私は集団に所属しているだけ。行動の制限なんてない!自由に、ただ」



「PKK行為をされてるんですよね。それこそこの世界の本質をねじ曲げてる。ドラゴンなんて出されたら一般のプレイヤーは死ぬしかないじゃないですか!」



「なにイキってんの!?すべての力が許される。ここはそういう世界でしょう!?」



「僕はもっと純粋なんですよ。ドラゴンの力、引いてはその力の行使者は、もうただの一般プレイヤーなんかじゃない。人類を代表するプレイヤーだって思います。だってそれぐらいドラゴンの力は度を越えてる。ここらで僕の出した結論を教えましょう。僕は、この世界、引いては現実世界の全て、つまり、地球。これを守り、幸福の先、更なる進化の先へ促すようにその人生を使うべきでは?」




「なに言ってんノ・・・アンタ・・・」



「僕はね。ラフィアさん。この世界は救われるためにあるのだと思うんですよ。僕のヴァミリヲンドラゴンには全知全能の力も持ってる。過去と未来が分かるような、望む未来を造れるような能力です。端的に言って、地球には悲しみが多すぎます。もっと悲しみを減らすべきだ」



「それこそ一個人が考えるモンじゃないでしょーが!それは人類が数百年数千年かけて導き出す解答でしょ。アンタが適当に考えた、ぼくの考えたさいきょうのせかいへいわ、だとかを実行するとか言わないでくれる!?反吐が出そうだわ!!ガキでチュウニ病で、世間知らずで、ティーンエイジャー。女性も知らない童貞でしょどーせ!!ろくなヤツじゃないわ!」



「ひどい言われようだ。傷つくじゃないか。僕はもう無力じゃない。なぜなら。本質を分かってないよラフィアさんは」



「ふうん。どうぞ?」



「いいかな。僕は絶対の力を持ってる。人は愚かだ。現に僕に攻撃をしかけてきたバカだ。人類の最高戦力が僕の足元にも及びもしない!!いいかな。絶対の力を持つもの。つまり、神。神なんだ。自分がどう思おうとも、僕の振る舞い、人生は、神の力を宿している。つまり、神。絶対の力を持つものが、神。神なら、神らしく振る舞うのが真なる神ってもんでしょ!!僕は、誰かが死にかけたり、事故で死ぬのなんて、イヤだ」



「人生ってそんなもんでしょ。人の世の中ってそういうもんでしょ。理解できなくっても、大丈夫。あと十年ぐらいで、そんな台詞言えなくなるから」



「その間、誰かが死んで、誰かが笑う。大勢。冗談じゃない。神の力を持つものは、それに相応しい行動が必要だ。それが自然だ。僕はもう、ただの人間じゃない。無力なんかじゃない!ホーリーマッキーなんだよ!!」



「言いたい事は分かった。つまり、私がえっと、ホーリーマッキーを倒せば、神じゃない、ただの雑魚、一般ピーポーだってことを理解してくれるわけね?」



笑った。そうか。そういうことか。僕は望んでるのか。心の底で。望んでたような。こうなることを。



「そうだね。なるほど。いいね。でもさ。無理だよ。君のドラゴンと僕のドラゴン。話にならないよ。ヴァミリヲンドラゴンのレベルを考えてごらんよ?ただの小学生だって理解に早いよ?1000を越えるレベルに、無敵の能力の数々。ドラゴンの種、その中でも最高峰の銘柄だ。ヴァミリヲン。つまり、ドラゴン1000万匹分のドラゴンということ。ドラゴンの中の王様だ。少し力を出すだけで、ラフィアさんのドラゴンを殺してしまうだろうね。やりたくないです。正直言って。特に女性とは。一方的な試合なんかは特に」



「そろそろ話を聞くのも飽きてきたから」



「ヴァミリヲンドラゴン!」



ヴァミリヲンドラゴンは、僕の号令と共に、僕の体の中へとダイヴする。凄い。やっぱり合体状態は別格だ。力がみなぎる。溢れる。



「僕本来の力も回復できた・・・人間ビデオっていうんだ。例えドラゴンの魔力が枯渇しても、僕自身の能力で巻き戻せる。僕はあんたみたいな大人とは違う。僕は!僕自信で未来を切り開いてく!!人も地球も丸ごと救ってくッ!!」



「ドラゴンには優劣があるって知ってる?雄より雌の方が強いし勝てない。それはこの現実世界でも同じこと。夢見る少年に現実ってものを教えてあげましょうかしら。安心なさい。教員免許は持ってるから」



力という力を蓄えて、攻撃しようとした。先ずは軽いジャブでもと思った。



「速いッ」



「反応良しっと」



ハンマー。ハンマーで、僕の顔面をぶち抜かれるところだった。そのハンマーに込められた魔力が、なによりヤバイぐらいの密度で、爆発しそうなイメージ、当たると多分、終わる。そう直感した。すれすれで避けきれたけど、ドラゴン、ただのドラゴンのはずだ。レベルは100以下のはずだ。それが、どうしてここまで!?



「ドラゴンにはレベルなんてあってないようなもの。感情や意思によっての振り幅が広い。それこそ、自乗から倍までね。男は大体そう」



「ふふん」



投げつけられたハンマーを、僕自身が魔力で強化した拳でもって破壊した。



「それレアリティレジェンドなんだけど、まぁいっか。・・・メンドっちぃね」


「もっと強い言葉を使わないと分からないかな!?ラフィアさんじゃ僕に敗北は与えられないってこと!そのドラゴンも大切な生命だ!数多有る生命の尊い灯を、消したくないんだよ!」


「こういう場面で一番能率的な攻撃ってのがあるのよね」


ラフィアさんは手のひらを僕に向けた。みるみるうちに、その手はドラゴンの頭になり、腕は首になり、口を大きく開いて、喉からは禍々しく圧倒的密度で濃縮された魔力が放たれた。


「人間もこの世界には跋扈してるけど、脳も筋肉も骨格も、見た目は大差無い。絵本みたいに大きなドラゴンみたいな人間なんんて居ないし、スーパーサイヤ人みたいな人間も居ない。だけども人間社会では、格差が存在してるでしょ?一人一人使用できるインフラも違うし、毎朝望む窓ガラスの風景も、通勤時間の差だってある。眠る時間もそう。でも人間は皆すべからくレベル1」


攻撃が、破滅的過ぎた。防ぎきれなかった。僕の腹にぽっかりと穴が開いている。


「一人一人何が違うか。つまりね。叡知ってところだと私は思ってる。脳の力や腕力なんかの、自分一人じゃできっこない部分が見えてくる。30代が見えてくるとね。いろいろんなところを思うわけ」


認識を変えるべきだ。これ、もう僕を殺せる領域に侵犯してる。


「ドラゴンの能力、相性、連携、訓練、実践、そして私の人生を生きる力が加わると、こういう結果が生まれるわけだ。これがドラゴンとの合体、ドラゴン変化の第三形態ってところかしら」


目の前で飛んでいる女性は対等だ。フェミニストを気取るまでもなく。


「ラッキーパンチで調子にのらないで欲しいな」


腹の傷はすぐに再生できる。しかし、吹き飛んだ僕の胎内の魔力、魂は、大きくが飛散していった。目で見て対応してちゃ間に合わない。次にアレが来たら感覚的に避けなければ終わる。この世界はゲームじゃない。半端じゃない初見殺しの連続だ。越えられる障害しかありえないなんて間抜けな事を考えてて死なないレベルじゃない。これはもう、戦争だよ。殺される前に、殺すしかない。


「ヴァミリヲンドラゴン、もっと出力を上げて」


「いいの?僕とマッキーの境界線が崩れるよ?」


「別に個に拘るなんて無いよ。ホーリーマッキーが世界を救って、ホーリーマッキーが最強で最高でしたで物語は終わるのなら、過程なんてどうでもいいさ。ここでたった一人のドラゴンの使い手、ドラゴンマスターを倒せないようじゃ、どの道神は殺せない。だからもっと力がいるんだ」


力が全身にみなぎってきた。なんだ。さっきの倍はオーラが駆け巡るぞ。


「いくぞ」


猛攻だ。ラフィアさんの傍まできて、その頭蓋を粉砕すべく、右のストレートを繰り出す瞬間、ラフィアさんは消えた。


「ナ!?」


「なってないね。ドラゴンの使い方がまるでダメ。ルーキー。あらゆる意味で、新人君の域を出てない。ドラゴンなのに、殴りに来るの?わざわざ敵に近寄って?しかも、そのレベルのスピードで」


後ろを、取られた。


「ク」


裏拳で頭を殴ったところも、余力を持って避けられた。スピードが違う。可動速度が違う。意識が刻む時間が違う。僕の方が、圧倒的なレベルを保有しているにも関わらず!


「う」


気づけば右腕を丸ごともっていかれてた。攻撃方法すらわからない。どのタイミングで攻撃されたすら。


「こうなる気がしてたんだ。私の人生についていれば、もう少しマシな終わり方になったのにね」


手のひらを向けられた。避け。体が、動かない。


「ッ!!!」


冗談じゃ、無い。ここで終わるなんて、許されない。


「ハァハァ・・・!僕は無敵だァ!!最強だッッッ!!誰にも負けたりなんかしないッッ!!」


「頭がドラゴンのまま人の雛形を保ってる・・・ナチュラルに第四形態か」


「無敵ダッッ!!死んだりなんかするものかァァァ!!僕はァァァ!!」


殴った。当たった。ヒットした。攻撃が成功した瞬間、ラフィアさんの体はバラバラに雲散霧消していった。が。そこから更に瞬時に復元されていった。


「ワンパンでこれかよ、反則だっちゅーのォォ!」


手のひらを向けられた。ドラゴンの無慈悲の咆哮。しかし、僕はこれを片手で防いだ。それがどういうものか、どれぐらいの破壊力か、もう僕は身を持って理解している。


「おっと、ログアウトはダメだよ!!!」


ログアウトしているプレイヤーに向けてラフィアさんと同じ技を使った。腕の部分的ドラゴン変化。


「カッカカ」


隙を見せた途端にラフィアさんの拳での猛攻が始まった。やっぱり殴ってるじゃないか!しかも、痛いぞ!!


「ググ」


ラフィアさんの猛攻を避けたり防いだりで精一杯、反撃の余裕すらない。一旦距離を取るべきだ。


「ハァ・・・ハァ・・・スピードはそちらが上のところを認めておくよ。僕より上だ。誇っていい。しかし、魔力の部分はどうだろうか。内包するマナは、きっと1000倍ぐらいか、わからんね!」


雷。銀色の雷。


神鳴かみなり!!」


無数の雷鳴の槍が地表に突き刺さる。僕の支配領域、全てが僕の攻撃可能な範囲領域。


「くら。えっ!?」


僕とラフィアさんの間に、小さいチビッコの女の子が、いた。


「シノノメ・マツキ。お前は先ほどから多くのRealルールを逸脱した行為を行っている。レベルレジェンドの大多数へのハラスメント行為だ」


「なに言ってんだ??どけよ!!!」


頭に血が上ってるところだったか。僕の全精力を傾けた特大魔法を発射する時に、横やりを入れやがって。僕じゃなかったら間違いなく言葉じゃなくて、殺してたぞ。


「ゲームマスター権限の注意勧告の無視、排除するぞ?」


「やってみろよ!!これが終わったら話でもなんでも」


腹に、パンチされた。と思う。意識の外から、気がつけば命中していた。僕はぶっ飛んだ。訳もわからず。何キロも。何10キロも。


「くそったれがァァァ!!!!」


人間ビデオ、発動。僕という存在そのものの巻き戻し。内包していた魔力を巻き戻す!


「ゲームマスターか。ゲームマスターかよ!!ふっざけんな!」


翼を羽ばたかせて、ジャンプ。空間をぶち抜いて、先の場所へとぶっ飛んだ。


「勝負はまだ」


ついちゃいない。そう言おうとした瞬間、目の前にゲームマスターを名乗るシマシマのオパンツガールは人差し指で僕を指した。動かない。動けない。


「ちょっと待ちなさいよ!」


ラフィアさんが叫んだ。ゲームマスターは人差し指を向ける指の形を変えた。それがまるで銃を打つような人差し指の向け方をすると。


「シノノメ!」


誰かに腕を引っ張られた。ドラゴン?これは、新手!黒色の眼に真っ白なドラゴン。それは僕を引っ張ってぐんぐん上昇し戦線を離脱していってゆく。冗談じゃない。しかし、体が動かない。


「おもしろい奴が死んでくのは、忍びないものだ。ゲームマスターにすら歯向かってく姿勢は評価したよ。満点だ」


「なにもんだ・・・よ」


赤。ドラゴンに乗っているプレイヤーの文字の色は、赤。


エクスターミネーション ギルドマスター シャーメルマーク スーパースター 懸賞金 100000000 五本指のギルド、最悪の薬指 通称 大太刀のシャーメルマーク LV99



第二十二話 無敵

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