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第二十一話 さいきょう

絶対の力を感じた。全てを動かせる万能の力。その力には際限は無く、僕の理解ではその力はどのルールにも縛られず、自分の望むままの意思の下で行使されるものであり、人間の持てる能力を遥かに凌駕するものだと確信していた。




自分の未来と、そして人間の過去を見た気がした。繰り返される生命の螺旋の先。突端から超越した僕から見た人類史。そこには間違いなく地球に生きる生命の活動があった。




人間って結局なんなんだろうか。僕はどうしたいのか。どうすべきかだとか、どうあるべきかだとか、他人の意思によらない、僕の人生で、生きる指針、矜持めいた生きる方向性。




欲望のまま生きることが人間らしくある、それが世の中なのだろうと思う。あれがしたいとか、これがしたい、それが欲しい、逆にやりたくないだとか。




僕には特にそれがない。代わりに他人の幸せを望んでみたりすることが多い。






第二十一話 最強






結局、どんな力を持とうと、それが最強であっとしても、特に使うあてなんか、ありはしなかった。




「妙な感じだ」




大きいだとか、力強いだとか、神懸かり的な強者は、俗に言う世界征服やらをやり始める。壮大なストーリーのラスボスは大抵そんな大きな目標に向かって行動している。今ならなんだか、それはよく分かるような気がした。




なんでもできるってことは、なんでもできないってことに似ている。人生に、生きる上で、他に並び立つものが無いってことは、それはとんでもなく、辛いことだ。万能でいるということは、たった一人ぼっちの永遠を生きるということに間違いは無く、そこに困難や障壁など存在せず、あるのはただただ、ひたすら空しい薄くて早い時間だけが過ぎ去ってくのだろう。そうやって人間の持つ常識や規則、マナーや人間の持つ文化、果ては文明までも忘れてくのだろう。




超然として君臨し、ただただ見るだけになってくのだろう。見守るだけ。誰の味方もせず、誰かに力を与えるまでもなく、ひたすらに、ただただ存在するだけ。




それが僕の未来のように思える。人間という種を超越した神、その末路。




誰に願うまでもなく、誰に祈るまでもなく、ありったけの困難を。人生にとって大切なことは、ほどほどの不幸と、それを乗り越えるほどほどの能力。特に敵は必要だ。敵は明確な行動を自分自身に教えてくれる。




「そんなに手こずることが好きなら、一人でやってみる?」




それもいいかもしれない。今の僕には人間の持つ能力の上限を超えた力を手にしている。加えて固有の力も。僕には僕という存在を完璧に支配できる自信がある。今、例え僕の防御力を突破する攻撃を加えられたとしても、自分の肉体を修復し、在るべき存在そのものへと復元することだって可能だろう。要は巻き戻すこと。端的に言ってしまえば人間ビデオだ。逆に魔力の充填も早いだろう。攻撃への転化には防ぎようもないほどの攻撃力を乗せることだってできるだろう。




「そうするよ」




我が半身、ヴァミリヲンドラゴンの力ではなく、僕が、僕だけの力で、僕の壁を乗り越える。それは道理に適ってるようように思える。




音もなく、風も無いこの夜空から、舞い降りた。殺戮の場になるのか。それとも。






指定された場所は荒野、土とむき出しの岩山の盆地。周囲には小高い巨岩が立ち並んでいた。どこかもの悲しく、それは夜の墓地を想起させた。周りからは雑多な感情、覚悟の念、強い意志の力を感じた。






「驚いたな。君はヴァミリヲンドラゴンの能力を駆使し、制御しているようにも見える。ドラゴンとの一体化、いわゆる同期も完了しているようだし、君には驚かされるな」




ジルトニアの門番。米国国務長官の使徒、そんな御世辞を言われても、嬉しくなかった。彼からは好戦的な意思を感じた。元より裏切っていたのだと分かって、人間の腹の中には一体何匹の狸が入っているんだろうかと考えさせられた。




「素晴らしい…素晴らしい…」




僕を観察するように観ている連中に目を滑らせた。計八名。中には執事であるマクダレンさんもいた。




「国務長官、いやカーク艦長って呼んだほう良かったですか。居ないんですね」




「カークなら…来れない。大丈夫だ。直に会えるさ」




老執事のマクダレンが言った。直観が働いた。なるほど。そういうことか。




「それじゃ、メンバーを紹介させてもらう。先ずはワールド…」




「結構だよ」




僕は言った。




「どうせ皆殺しにするんだ。名乗る事に価値なんてあると思う?」




僕の言葉の次には、緊張が走り、空気が変わった。剥き出しの悪意、敵意、そして後悔の念が更に強く渦巻いた。




「どうして俺達を殺すんだ?」




門番風情がよく言う。それも特殊機関仕込みの図太い顔なのだろうか。




「あっち。それとこっち。合計で31名のプレイヤーがそれぞれ隠れている。加えて、岩に偽装した攻撃性アイテムの設置、3名のプレイヤーに加えて、思考の念。僕を排除したがってる感じがひしひしと伝わるよ」




そして。




「ヴァミリヲンドラゴン、出てきて、ミルフィーさんとラフィアさんがそろそろ来るから、チャットでもしてて時間を稼いでてよ」




大きな巨龍は僕の背中から光を模して、大空で巨躯を魅せつけ羽ばたいた。




「ヴァミリヲンドラゴンの手は借りない。僕だけで十分だ。いつでもいいよ?いつでもどこでもだれとでもやるのは、最強を名乗る者の務めだからね」




そして、手首から上だけ動かし煽った。




「人類に君臨せし人の強者よ。その持てる力で討取ってみせよ」




そして笑顔で更に続けた。




「こんなサービス滅多にしないんだからね」




「ま、待ってくれ…!!どういう事だ?私は何も聞いてないぞ!!」




麦わら帽子を被り、脇には釣り竿、腰のベルトにルアーを幾つも付けている老釣り人が叫ぶように言った。




「評議会の決定は保留になったはずだ!私を差し置いての決定なぞ到底許されるものではない!始祖がお亡くなりになられて以来、評議会の決定は絶対!多数決の大原則を崩すなど我々は許されんぞ!!」




「多数決の大原則は始祖の代価案に過ぎん。偉大なる指導者はもう直に復活をなされる。我々は我々のガンを切り取るのだよ。最上天の結界、発動。ゴルフレーニア。パルフィルク・ストンの捕食を許可する」






「勝手に話を進めないでくれる?」




岩に偽装した狼男の鋭い爪が、パルフィルク・ストンと呼ばれた男の喉笛に突き刺さる前に、狼男の腕を手に取った。




「アイテム使用不可能の結界を張られたようだけど、どれくらいが有効射程かわかんないけど、まぁ1キロは無いよね」




彼の手を握手するように掴んで、そのまま体を持ち上げて、ぶん投げた。軽く1キロは超えるぐらいの勢いをつけて。




「あはは。ハハ。はははっははは!!」




どうしようもないほどの力が満ち溢れてくるのを感じる。力、魔力か?わけのわからない力が、つま先から頭のてっぺんまで熱を帯びて充満してく。背中から白い翼が生えた。完璧に人を超越したその象徴。昇天。天使化。聖なる意思にのみ生を委ねた結果の発露。ドラゴンの祝福があったとはいえ、やはり僕の力は、攻撃するものではかった。転化して暴力に流用すれば武器になりえる、聖人か。つまらない人生の末路でも、生来の持ち味を孵化させられば、人間はここまで進化できるものなのだ。素晴らしく思う。最高に素晴らしい。


「ホーリーマッキーのここに完成だッ!!」


さて、どうやって煽ってやろうか。世界にお披露目しちゃおうか。そんなことを考えた瞬間。僕は一瞬で蒸発した。


「悪いが結果は決まってる事なのだよ。子供の悪ふざけに付き合う程、我々は暇ではないのだ」


「魔力による攻撃魔法には幾つか種類がある。今回は300名を越えるプレイヤーで連携した連結タイプの攻撃魔法だ。小さい町ならそれだけで潰れるほどの魔法でいう最大級だよ。我々には人間の行動意思に深く根差している資本を所持している。多くの人間は我々の味方であり、素晴らしい協力者であり、なによりの武器なのだよ。小さいキッズが粋がってどうこうできるレベルじゃない。多国籍企業のパワーとは、個人の力ではどうしようもないほどなんだ。しかし俺個人では評価するよ。君は間違いなくこの半世紀最も我々の最重要人物だったとね」


そんな言葉を、耳ではなく、どこかで聞いたり感じたりした。意識の外から、不意をつかれた。僕が予想していた以上に、敵は用心深く、狡猾で、なにより、つまり、強かった。


「フ。フ。ハハハ。ハハ」


恐怖を。これらの敵に、恐怖を与えたい。


「終わってねぇ!ヴァミリヲンドラゴンはラフィアと駄弁ってる!こいつ単体で竜さえ屠る最高レベルの一撃に耐えやがった!」


「ロイド君に再びお世話になるな。もう一度だ。10分で集めろ。先のよりもっとをな!」


人類の過去を感じた。それは僕の体躯を形作る。恐怖を体現するのだ。死を与えるその存在に。


「トカゲ・・・?」


頭は幾つもの髑髏で多い、体はゴキブリのような硬く黒い表皮を、手足にはムカデのような数。


「形態変化か、私の知る限りここまでのやつはヒムラーとデイヴィーしかいない。おい、ジャッカルとマーヴェイは今青空の下で釣りに行ってるぞ」


「このメンツでなんとか10分持たせれば良いわけか。発砲の許可をする。第一陣前へ!」


「フフ。フ。フフッフ」


手足が100本あると便利だ。敵の攻撃を防いだり、敵を握りつぶしたり、叩きのめしたりできる。


「レベル急速上昇!200を突破してる!皆!出し惜しむな!レジェンダリーの使用から優先させろ!」


ただただ、手を長くして、それを払うだけ。それだけでプレイヤーは潰れたり壊れたり死にかけたりする。10分だったか。もう一度あれを出されても、意味は無い。なぜならもう分かってるからだ。不意打ちだったからこそ効果的だったのだ。次にあの規模の攻撃がきたとしても、避けたり、防いだり、対策が取れる。


「仕方がない。ドークドミナスの転送を用意しろ」


頭、それも目や口耳を攻撃されても、ダメージはほぼ無かった。集団戦なんてこんなものかと思えるほどに。殺意と悪意を向けられても、それが子供、まるで幼児と大人の戦いのようだ。さっさと終わらせるべきだろう。こんなふざけた戦いは。一応、お偉いさん達とは最後にゲームのシナリオでありがちな、問答みたいな感じのことをやって殺そうかと思ったけど、もうサックリと殺してしまったほうがいいかもしれない。このレベルの武力に、僕が本気を出すのも忍びないものだ。



ドークドミナス Lv166


全身が蜂で出来た蜂モンスター。女王蜂であるドークドミナスが死滅しない限り、ドークLv99を発生させ続ける。単体でのレベルは166になるが、複数になると跳ね上がり、5体のドークドミナスではLv300を越える。ドークドミナスは希に王蜂ドークLv150、女王ドークドミナスLv166を発生させる。使徒であるドークの一刺しで死亡した死体はドークドミナスの支配下に置かれる。ドークの自爆で破壊された死体は霧状の毒に変わる。霧状の毒フィールドではドークドミナスのLvは200に到達する。




「フ。フフ。フフ」


面倒なので、体という体に眼球を発生させて殲滅させていたところ、妙なものを見た。上空から何体もの頭が蜂の象やら芋虫やら猪やらの奇妙なモンスターが降下してきた。


「まだ使用されたことが無いレジェンドなんだが・・・手乗りの砦、発動。巨大な閉所が連続するフィールドマジックだ」


閃光が走り、僕はお城の礼拝堂らしき一室にいた。目の前20メートル先には先ほどの形状的に蜂型のモンスターのようなものが、何体もひしめいていた。そして紫状の濃霧が発生していた。よくよく見てると。こいつらは共食いをしていた。瞬間、人間程もある無数の蜂が僕に寄ってきて、蜂達は僕の堅い体躯を貫通する一指しを加えて、内部から爆破させた。20メートルを越える僕ですら、流石に連続攻撃にはダメージが響いた。


「流石に神様ごっこで遊んでてもいられないか」


自分自身の形状、フォルムをヒトの雛形に戻し、離れてから一体ずつ僕の体に刺さっていた槍でもって、突き刺し倒していった。最後の一匹を倒しきると、壁を壊して外へ出た。後ろを見上げると大きな絵になる立派なお城だった。


「もったいないなぁ。君たちは、もうちょっと媚びへつらうべきだったんだよ」


翼をはためかせて、飛び立たせ、お偉いさん方が並んでる巨岩へ向かって言った。


「流石にさぁ」


一撃、大きな稲妻にも似た巨大な特大魔法を余力を持って避けきって言った。


「そろそろ負けるかもとかいう気がしてきました?」



彼らの後方に、ラフィアさんとミルフィーさんがいるのに気がついた。ラフィアさんが僕を裏切っているのと同時に。まぁいい。ドラゴンライダーは、世界で一人で十分だ。唯一無二の存在であるべきだよ。

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