第一七話 起承
脳の並列稼働による事実上の際限無き天国、人間の次なる移住先が電子上のヴァーチャナルなものへと進化するのは急務だった。なにせ金持ちは老人に多いからね。誰もが死を怖がるものだ。当然ながら上流社会に属している者ほど、宗教とは程遠い場所にいるのだから。彼らは数字しかみない。そして彼らの興味は常に彼ら自身を満たし続ける事実にだけ注がれる。
実験は中止された。実験体収集の名目で宇宙人によるアブダクションを政府は広報していたが、規則性の有る被験者には気の毒に思った。
このゲームは、どこから来たのかわからない。
政府上層部にはこのゲームを歓待していない者はいない。そりゃそうだ。もちろんね。人類が求めていたのが、急にやってきて、手のひらに落ちたのだから。死の超越は政府の急務だった。各国の金持ち共が暇潰しに戦争を始める前にこれがやってきて、正直なところ、ラッキーだった。幸運を信じないが、いや、信じてなかったが、考えが変わったよ。
上層部はゲームの解析に取りかかったが、外部上の解析は不明。一切が。未知の物資で使用された未知のテクノロジーによる既知のゲーム。これが結論だった。
上層部は次の段階へと進んだ。いや、名目上の話だ。お偉い方なんて定例会議すら放っておいてゲームに熱中していたが。そりゃそうだろ。空を飛びたくないか?マーベルのスーパーマンだってデスクの飾りじゃなくなった。知人の製薬会社にはゲームデーと称して社を挙げてのゲーム攻略に臨んでいたくらいだった。
その結果がご覧の有り様だよ。
持てるものの、上限は、今になって考えると惨憺たる結果だった。
笑ってしまうだろう。彼らはルールを知り、ルールを作り、ルールの達人で、だからこそゲームを支配していた。ゲームの達人じゃない。彼らはそれをよく知らなかった。彼らは自分を万能だと思ってた。彼らは自分を神だと思ってた。結局彼らは、子供と同じだったんだ。
持たざる者が力を持つ時代がやってきた。金持ちは彼らの力を利用していたが、持たざる者は知っていたんだ。真実をね。つまり、金に見る価値を。紙束で、硬貨で、電子上の数字であることに。
それでも熱狂はとどまることを知らない。どうしてか。人間の欲望には際限がない。そして人間の時間は有限だ。財力を駆使して欲望を果たそうとするだろう。それがとどのつまり、現状に至った。
化学者である我々はこれを歓迎している。だって変化するってワクワクするだろ?
プレイヤーキラーが力を持った。彼らの時代になったんだ。つまり、俺達の時代になったんだ。
第十八話 起承
「この世界にもルールがあります~。ピースフィールドである町や村といった公共施設には原則PKはおろか魔法だって使えません~。ですが、ルールにも原則はあるもので、上空50メートル以降はピースフィールドの適用がされておらずPKだって通れますし魔法も使えたりします~。初期の村の掘削の件は初耳ですが、もちろんこれは地下の場合においても適用されるでしょう~。つまり、私達がよく知らないプレイヤーの邸宅に招かれていたも、それがどれほど危険なことなのかは知ってますよ~」
ミルフィーは即座に答えた。僕もそう思う。けど。
「君達が受け取った小切手が有効か、試してみればいい。旦那様のサインだ。よく知らないといったが、国務長官だ、名前ぐらいは知ってるだろ?頼むから知らないなんて言わないでくれよ。俺の立つ瀬が無くなるぜ」
「高確率で罠が待ち構えてるでしょうね~」
ミルフィーは僕にそんなことを言った。
「行くよ。さっきの話も理解できた」
このゲームと現実のリンクは痛いほど、というよりも痛いくらい分かった。彼の言っている事も理解できた。まさか日本から遠く離れたアメリカでそんな事態になってるとは。
「できればもうちょっと早目が良かったね。大統領となら電話するぐらいの時間を作ってあげたよ」
こいつは、死だ。今の現状は死の淵なのだと感じる。対応を誤れば、本当に枕を使って殺されるだろう。彼の言ったことは真実だ。紛れもない、現実なんだ。僕はもう、現実から逃げない。そんな男になったつもりだ。
僕の言ったことを聞くと、ジルトニアの門番と名乗った男は大きな口を開けて笑った。かなり笑ってる。多分本気で笑ってる。
「おもしれぇ。おもしろいよ、シノノメ君。自衛隊と合同演習の際思ったことだが、連中にはユーモアがないってな。だが考えを変えたよ。そうだ、その意気だ。マーベルみたいなノリで人生を生きるんだ。マトモにストレートに理解してると、おかしくなっちまう世の中だ。それぐらいでいい」
そして僕に向かって真っ直ぐに。
「俺達の世界ではな」
と言われた。今居るステージはもう別の場所だ。一般庶民の一高校生はもう終わった。ここからは、強者のステージ。
「さて。お前面白いやつだな。お前がガチャってからずっと寝てなかったから正直頭がボケてたけど、今はスッキリしたよ」
そうして、ついてこいと言われて、僕達二人は彼の後へついていった。
「あー。腹が減ってるなら少し待つけど、疲労度とか大丈夫か?マジでな。じゃないと詰むぜ。ゲームでいう、ここから先はストーリーが進むからセーブ推奨とかいうやつだ。旦那様が首を長くして待ってるが、なぁに、少しぐらいは構わないさ。一時間後にアラビアの油田開発機構の談合、二時間後にEU新通貨の会議だ。どっちもそんなに死人は出ない」
本気だ、真剣な、オーラ?だろうか。体内に巡る魔力が見えた。僕の頭のスイッチがどこかで切り替わった。今も戦い。今は臨戦態勢になってる。
「最悪の場合は逃げてください~。私はかなり強いですがマーキング等の準攻撃は防ぎようがありませんから~」
僕達は進んでく。半透明の石畳が闇色に染まってく中、毒々しい夕日が迫る。緊張は胃にやってきて、頭はどこか痺れたようだ。でも。死が差し迫ってるような。戦いのような。未知の巨大な動物の胎内へと進んでくような。でも。
心のどこか奥底で、ずっとコレを望んでたような。
「着いたぜ。ここだ。一応説明しておくと、ジルトニアと呼ばれる邸宅だ。一見して分かる通り、城だな。設計はイタリアの技師が、図式は未公開の秘匿されたガウディーのマップだ。五階建て、部屋数は一般公開上では100。地下二階との事だが、工事途中を合わせて地下12階まで存在している。今現在邸宅に居る客人は、英国の公爵や東欧の王族まで様々だ。最低限の・・・いや、一応言っておくか。礼節は守ってくれ。日本人に言ってるんじゃないからな。ミルフィー嬢ちゃんに言っている。さっきから殺気立たせるの止めてくれないか?そんな好戦的オーラ出されたら家へは入れれない。一つ間違いなく言えることは、俺達は敵じゃない」
「ドゥルーガへ誘い込んどいてよく言えますね~」
「端的だな。地位や名誉になびかない辺り関心するが、仕事はやりにくくなってる。俺の仕事は連絡であり連携だ。そして幸せを運ぶキューピッドだ。一致団結すればお互いハッピーになれる」
「強迫しておいてよく言えますね~」
「強い言葉を使わないと、現状を認識できないだろ?少なくとも俺はそうだったね」
「一応、最低限度の礼節は守りますよ~」
「頼むぜ。一応全員ミルフィー嬢ちゃんの事は知ってるとは思うけど」
素晴らしいお城なのだろう。と言えるような古城の外観を持つ邸宅だけど、今はそれが不気味に思う。それが僕の心象であり心証なんだろうけど。鈍い金属音を立てて、門が開いていった。
「平均100億」
門番が言った。
「この邸宅に客として呼ばれる資産の数だ。若くして二人は彼へのコネクションを手に入れた訳だ」
「羨ましくなさそうですね~」
「・・・」
家に入る前に、チラリとお城を振り替えってそして僕に向き直って小声で。
「君の方が価値があるからね」
そう言われた。そして一歩、門の中へと進んでいった。屋敷へ入るための扉には二人の美しい女性とハンサムな男性がついていた。彼らが扉を開いて、僕達は中へと進んでいった。
「わ」
広々としたメインホールからは僕史上最大のリッチ空間を感じ取った。これまでもいろんな場所へと行ったけど、こんな無駄に広大なメインホールは見たことがなかった。体育館の半分ぐらいの広さがそのまま遊んでる。
「すんすん」
匂い。とっても良い上品な匂いが漂ってる。匂い?かな。目では無色だけど、もしかしたら自白ガスかもしれない。なんて思ってしまうほど、僕の頭はピリピリしてる。客人がいるんだから、そんなわけはないし、むしろなんだかとってもリラックスできるような。とっても良い匂いだ。
「・・・」
こちらへどうぞと促されてから、廊下を抜け、執務室に辿り着いた。ここで待っていてくれと言われた。この執務室。どうにも好きになれない。小学校の頃の説教を受けた学校の校長室に似ている。星条旗のついたデスクには、羽ペンとノートが備え付けられている。
「?」
僕達を背にして、壁に対面するように一人の女性が座っていた。
「彼女はスーザン。記録係だ。この邸宅での公的会話は全て記録している」
「意味は無いが、価値はある。こう見えても国務長官という椅子に座っていてね。仕事柄この場所で会議を開く事はとても多い。公正さは必要だからね」
椅子がクルリと向き直ると、そこには老年の男性が座っていた。快活そうな目の彫りが深い青色の目を持つ男性だ。確かにオーラが見える。銀色だ。針のようなオーラ。好戦的というよりも、活動的な印象を受けた。
「はじめまして。ジェームズ・タイベリアス・カークだ。以降はカークと呼んでくれ。出来ればカーク艦長と呼んでくれ」
「えっと、あの」
「自己紹介は結構だ。マーヴェイのところのミルフィー君と東雲末樹君だな。私は君達の事を知っている。特に東雲君の事は先ほど述べ30ページにおける報告書を読んだよ。興味深いのは君がドラゴンを引き当てた24時間だ。中でも最も興味深いのは・・・まぁいい」
ミルフィーさんの方をちらっと見てから話を進めた。報告書。24時間。監視?僕は監視を受けていたのか!?
「しかしいずれも重要ではない。君がどんな事をしようが、我々は重要視をしていない。関知もしない。それは今後も同じ事だ」
分かってる。僕が何をしたのか。この男は知ってる・・・!そしてそれを見せた上で、なにもしないと言ってきてる。
「人間の価値は何が出来るかで決定される。私が知りたいのは常にそこだ。君は私に対してどんな価値をもたらしてくれるのか。その一点に尽きる。そして疑問を解消するためには試みが必要だ。そう、試みが必要なんだ。そして試みには失敗が付き物だということも私はよくよく知っている。だから私には忍耐もある。お分かりか?」
「・・・」
この男は、僕に、協力しなければ全部ばらすぞって言ってるんじゃないか?
威圧感。この邸宅、この部屋、この椅子、そしてこの言葉、甘かった。その全てがこの男の所有物であり、その全てがこの男の味方なんだ。甘かった。しかし、どうする?
「人類は誕生しては絶滅し、生まれては死ぬ。我々の世代はやがて終わる。ところ東雲君。死海文書という言葉を聞いたことはないかな?」
「え」
いきなり話が変わって思わず反応できなかった。死海文書。
「聞いたこと」
あ。確か。そうだ。オカルト特番でやってた。確か未来の予言が綴られた書物で、大昔の古い書物がヨーロッパの死海で発見されたものじゃなかったか。
「あります」
「今世紀中に人類は絶滅すると書いていれば、君は信じるか?」
「えっと・・・」
マジかよって思う。なんで、こんな話に。でも。
「多分信じると思います」
「根拠は?」
僕も超常現象を信じてるどころか、僕自身がそうだからだ。でも、ここにはミルフィーがいる。
「それはカーク艦長ご自身が知っていると思います」
「なるほど。では更に聞くが、月にも人類が存在し、彼らの科学技術は我々人類の発展レベルを大きく超越し、そんな彼らが今、絶滅の危機に迫ってると聞くと信じるか?」
「国務長官」
門番が少し強めな口調で喋りだした。
「事務次官は黙ってろ!私が話をしてるんだ」
「はい・・・」
「えーっと」
なんだ。なんなんだこの話。
「そうなんですか?」
「そうだと言ったら信じるか?」
「半信半疑だけど、多分信じると思います」
「そうか。このゲームは現実の世界で、魂だけがこの場所に存在していると聞いても、信じるか?」
「はい」
カーク艦長は僕の目を見て大きく頷いた。
「なるほど。分かった。彼は信頼できる。門番、後は任せたよ」
「はい」
「それでは失礼する。今期臨時予算案についての会議中でね。君への支払いも勝ち取っておく」
そうしてカーク艦長はログアウトしていった。
「っふー。さて。それじゃ、簡単に話をしておくか。さっき俺も30分後はベルリン行きの機内で会議が決まってな。かなり余計な事も話したな。スーザン!悪いが機密事項の部分だけ黒塗りにしておいてくれ。えーっとセキュリティレベルは2だな。本当は4だが、3以上になると、部外者の記憶改竄等の処置が必要になってくるんだ。ここには後見人と証人も兼ねてミルフィー嬢ちゃんもいるからな。よし!!始めよう。ここには旦那様が居ないから俺が座っちゃおうか。・・・うん。良い椅子だ。早い話が、俺がこの椅子に座るまでの間に人類絶滅が濃厚ってとこなんだ」
そして冑を脱いで、机に置いた。凄い、傷だらけの顔でオマケにタトゥーが入りまくってる。完全世紀末な顔になってる。これは、ヤバイ。おっかない。
「リラックスされてるところ申し訳ないですけど、冑を脱がないで頂けますか~」
「おっと悪いね。男からは評判は良いけど、女性からは最悪って言われてるのを忘れてたよ。まぁ。つまり、そういう事だ。正直あまり俺から説明はしたくないんだよ。あまりにも突拍子の無い話で。もうすぐ死にますよって話を延々されてて気持ち良いものじゃないからな。しかし、マジだ。マジなんだよ。阻止や回避はまず無理だ。だから今、その対応策を検討してる。君はその筆頭になった。国務長官は信頼すると言った。俺も信頼しよう」
「はい」
頭が理解に追い付いてない。こうなるって予想もできなかった。でも、心のどこかで、これを。こういうシチュエーションを望んでいたような。そんな気がする。
「ちなみにさっきから何か言おうとしてるミルフィー嬢ちゃんには悪いが付き合ってもらう。国際法上に則って未成年の後見人ってやつだ。臨時補佐。適役だっただけで無理なら別の人間を立てるが、どうする?世界の危機を救う任務に立ち会えるんだ。これやらずに死ねねーよなって思うけど」
「ヒマだから別にいーですよーって言いたいところですけど~上司と相談してみます~」
「早めにな。さっき金一封とは別に公的な書類で出すし、ドルじゃ嫌ならユーロでもいいし、円でもいい。無期限の臨時職員になってもらうが、必要な証書は全部こっちでやらせてもらう。一筆書いてもらうのは現実からの速達を待ってくれ。了承してくれるか?」
「はい~」
僕よりミルフィーさんの方が乗り気だ。
「僕も構いませんよ」
こうなることを、ずっと望んでた気がしてならない。
「良し、話を次に進める。この世界でのレベル100にはレジェンドルールが適用される。ミルフィー嬢ちゃんは知ってるよな?」
「はい~」
「なにそれ?」
「レジェンドルールは、レベル100以降の死は、本物の死に直結する。自動的に生き返ったりしない」
「え。それは・・・」
かなりヤバイ。
「ま。ここも現実の一つだからな。他にもレジェンドルールってのはあるんだけど、直接関係あるのはこれだけだ。完璧な受肉とか言われてもわけわかんないだろ?」
「どういうことですか~?」
「おっと。つまり。怖いように聞こえるが、俺達は元々誰かの創造物だったわけだ。造られた存在だ。それが有機物で機械的だったりするわけだ。倫理的な議論はおいてくれよ。だから、その誰かのルールに縛られてるわけだ。悪いことすると堕落するし、良い事をすると昇天する。このルールから独立する。完璧な独立、らしい。そういうレジェンドルールは存在するけど、実証も確認すらされてないからよくわからない。それがどうなるのかわからない。レベル100以降の死は、完全な消滅ってことだ。魂も霊もありませんって話。俺は例にも漏れずにキリスト教徒だが、これをじいちゃんばあちゃんが聞いたら卒倒するよな。マッキー大丈夫か?」
「特に問題はないよ」
そう、なにも問題はない。天国で楽しようなんて思っちゃいない。ハーレムにも興味はない。生まれ変わって何かをするのであれば、僕は今やりたいし、今やるべきだと思う。死んだ後の事なんて怖すぎて考えたくもない。コンビニの100円チョコピーナッツと牛乳、それに音楽があれば、事足りる。
「良し。話の肝だ。占い師によれば、この世界と現実世界を結びつけるゲートがどこにあるはずなんだ」
「占い師?」
すんごいほんわかとした言葉が出てきて思わず聞き返した。
「ああ。この世界にも居るし、現実世界にもいる。国防総省にも六人居たぜ、前は」
突然スーザンさんの咳払いが聞こえた。
「悪い!黒塗りにしておいてくれ。セキュリティクリアランスは。はぁ・・・。2だ。そうそう。この世界の占い師は本当に強力でな。マッキー達の事も占い師に聞いて分かったことなんだ。マッキーにはえーっと。そういえば子細を本人から聞いてなかったな。どういうものなのか、説明してくれ」
「えーっと」
僕はミルフィーを見た。するとミルフィーが小さな手を横に出した。
「ここから先は現実での書類を通してからにしませんか~?」
「どうして?」
「信用できないからです~。ここが国務長官の邸宅だとしても、それが、本当に彼だけの考えに基づいての行動じゃないとも言えませんから~」
「なるほど。旦那様がもしかしたら別の思惑があって君達を公的に利用しているかもしれないと。いや、分かるし当然の疑問だ。俺も軍の特殊部隊に居たから分かる。本来なら時間をかけて説明も証明もしていくのがセオリーだろうし通例だ。でも今回は時間も人手も足りてない。この任務はレベル6、超機密の部分だ。人間を雇うにしろ精査に一年がかりの条件付きだ。あー、スーザン黒塗りを頼む。レベルと精査日数だ。いいか。今だって人が死んでる。こんな事言いたくないが、どこにだって足を引っ張る出世やら自己満足しか考えてない人間がいるもんだ。この時間でも、この動きを作り出すまで、東雲君を調査し、厳正な占いにかけ、監視し、プライベートはともなく、他の組織からの干渉を防いだ。文書通達、実働員、妨害工作の発見、及び排除、今回の件だけでもこれだ。世界滅亡の危機を迎えた今、俺達の一秒を作るのにどれだけの血が流れてると思う?国や組織の思惑が、現状維持で満場一致のはずがないだろ?のんびり税金だけ納めてれば血を見ないなんて神話の類いさ。災厄や危機はその日突然訪れる。兆候もサインも一切無しだ。脳梗塞みたいにその日ある日ぽっくりと。それで終わる。苦痛は無いかもしれない。だがそれでいいわけないだろう。でも。ミルフィー嬢ちゃんサイドの気持ちも理解できる。痛いぐらいな。だから、ここまでやれるって部分だけでいい。ここから先はダメだってところは無理せずやるな。その判断は各自に任せる。俺は星条旗のために血の一片まで捧げる公務員だが、そうじゃないのも理解してる。だから判断は各自に任せるよ。シノノメ君もミルフィー嬢ちゃんによくよく相談してみてくれ。こういうのは第三者が正確な判断をつけてもらえる事が多い。そして必要なことだからな。話を戻すと。できない事があれば言ってくれ。こっちもやらない。だが、この現状は、二人を縛り付け、規定し、ある程度の強制をもたらす結果に繋がってる。その判断も二人が決めてくれ。メッセージを二人に送っておく。カウンセリングが必須だから。やらないならそれで結構だが。物騒な話になったが、事態はひっぱくしてる事を強く言っておく。どうにもなりそうにないんだ。現状。対抗手段すら無い状態だ。もう終わる。終わるだろう。俺はいい。俺はな、いつ死んだって構わない。ただ、子供がな。いいや、いい、えーっと。どんな話だったか」
「分かりました~。とりあえず公的書類を待ちながら業務にあたらせてもらいます~」
「助かるね。俺としてはこの世界でシノノメ君に幸運が舞い込んでたのは奇跡でも魔法でもないと思ってるんだ。俺はシノノメ君をただの未成年だとは思わない。その価値の有る人間だって扱う」
「はい」
「話を戻そう。ゲートを見つけることが大切だ。それさえあれば、君の、ドラゴンだろ?」
「はい」
「ドラゴンでなんとかできる。技能調査を行いたいが、これからできるか?」
「緊急ですから頑張ります」
「助かるね。専門家を複数呼ぶよ。一つ言っておく。国務長官と俺の結論だが、そのドラゴンは君を選んだと結論付けてる。守護獣や召喚獣の類いだ。君以外に扱えないと。そう結論を下した。しかし、だ。しかし中には君以外にも使用できる、君から奪おうとする輩も出てくるだろう。いいか。これは重要なことだから割れないでほしい。もし、君がそれを奪われたら、そして奪った者がそれを使えなかったら。人類は終わりだ。だから。盗まれるな、最善の注意を払ってくれ。俺からの話は以上だ。この作戦には人手が足りない。そもそもこの話ができる職員もそう居ないからだ。おっと時間か。それは待ってもらうとして、最後に、ラッキーマンが君で良かったよ。それじゃ」
そういって、門番はログアウトしていった。
「行っちゃった。なんか凄い話になっちゃったね・・・」
「私はこうなるかもしれない~なんて想像してましたけど、随分対応が早かったですね~」
「想像できてたの!?」
「はい~。これが現実って知ってますから~」
「そうなんだ・・・」
「お帰りの際はこちらからどうぞ。また、旦那様から書類を預かっておりますので、そちらもどうぞ」
相変わらず壁に向かってのスーザンさんから言われた。おそらく、その公的な書類。つまり、世界を救うために必要な書類というやつだろう。
「マッキー顔笑ってますね~。そんなに嬉しいことですか~?」
「そう?」
僕自身全然普通なのに。
「ですよ~」
部屋を後にした。廊下を進んだところで。
「う」
全身血塗れの女が、僕たちを見つめていた。長い髪から、赤い血が滴っていた。
「アークストリート広場、カフェテラスの一番奥。彼女が待ってるから」
そう言うと、ドアを開いて去っていこうとした。
「彼女って誰ですか?」
「必要だから。だって貴方・・・また死ぬから」
そしてドアが閉まった。
「ミルフィーも見えたよね」
「幽霊初めてみました~!!」




